満を持しての世界初演「ダンスの系譜学」&若手中心の「DaBYコレクティブダンスプロジェクト」
──ダンス系の演目では、昨年延期となった「ダンスの系譜学」が10月に行われます。日本を代表する女性ダンスアーティストの安藤洋子さん、酒井はなさん、中村恩恵さんが、それぞれ原点となる世界的振付家の作品の上演と今日的な“継承 / 再構築”に取り組まれる公演で、例えば、バレエダンサーの酒井さんは、演出家の岡田利規さんと「瀕死の白鳥」を解体した作品を創作するなど、新たな挑戦に取り組まれています。1年半越し、満を持しての開催となりますね。
藤井 「ダンスの系譜学」は、ダンス公演担当プロデューサーの唐津絵理がコンセプト・構成・プロデュースを手がける企画です。唐津がアーティスティックディレクターを務める横浜のダンスハウス・Dance Base Yokohama(以下DaBY)でクリエーションを行ったあと、7・8・9月にトライアウト公演を行い、それを経て愛知で世界初演を行います。
──DaBY関連では、12月の「DaBYコレクティブダンスプロジェクト」で、DaBYと愛知県芸術劇場が協働する形で鈴木竜さんの新作ほかを上演します。
藤井 鈴木竜さんは「ダンス・セレクション2019」にも出ていただいた振付家・ダンサーで、DaBYのアソシエイトコレオグラファーでもあります。今回のプロジェクトでは、三十代の鈴木さんと、二十代後半の若手アーティストを中心に、フラットに意見交換をしながら創っていくそうです。愛知県芸術劇場では、アーティストが腰を据えて滞在制作するにも日程が限られてしまいますが、DaBYはレジデンススタジオなので、クリエーションを横浜、発表は愛知で、という形で手を取り合っていければ。
山本 協働と言えば、捩子ぴじんさん演出の「シティⅢ」のときは、京都芸術センターさんにご協力いただき、京都で作って、愛知で上演しました。また並行したプロジェクトとして、京都芸術センターでも「シティ I・II・III」の連続上演が行われ、それぞれの場所の特性を生かしたコラボになったと思います。
藤井 そうですね。県外だけでなく愛知県内にもさまざまなスタジオや施設があるので、今後も連携を取りながら継続的な関係を築いていきたいと考えています。
──ダンス演目では、2022年2月に行われる平原慎太郎さん率いるOrganWorks「眠りの王国」がトリを務めます。
藤井 平原さんがダンサーとして参加しているC/Ompanyや、OrganWorksとしても、これまで愛知県芸術劇場で公演していただきましたが、今回は2018年以来の登場になるんですよね。ギリシャ悲劇がテーマになるとのことで、見応えある作品を期待しています。
360°の映像空間で聴くピアノ演奏&2年ぶりの「サウンドパフォーマンス・プラットフォーム」
──10月には、オランダ・アムステルダム在住のピアニスト / 美術家・向井山朋子さんによる「KUMANO」(仮)が行われます。劇場サイトでは“360°の映像空間で聴くピアノ演奏”というキャッチコピーが付けられていますね。
藤井 向井山さんは昨年5月から7月にかけて、オランダで1月に1本ずつ、「A Live」というオンラインコンサートを開催されました。これは従来のコンサートの形態が難しくなったコロナ禍において、新たなプラットフォームでの作品発表の形を探ることを目的に行われた試みです。7月には閉館後のゴッホ美術館から演奏を配信されました。今回の「ミニセレ」では、熊野の山中がモチーフになる予定です。向井山さんは和歌山県新宮市のご出身で、新宮の自然の中にピアノを持ち込んで、演奏する映像を撮影し、その映像をバックにさらに劇場で演奏を披露するという構想をされています。
──「ミニセレ2021」のラストを飾るのは、音の新たな表現に挑む実験的な企画「サウンドパフォーマンス・プラットフォーム2022」です。藤井さんご担当の恒例企画ですが、2年ぶりの開催になりますね。
藤井 2020年度は一度お休みしました。今回もゲスト2組と公募アーティスト3〜4組の作品を上演予定です。8月から10月まで公募アーティストを募集して、11月にはゲストも含めて発表します。審査員は、名古屋のオルタナティブスペース・パルルを運営している新見永治さん、イベントスペース・K.D japonのオーナー森田太朗さん、京都で「外」というライブハウスの運営も行っている、バンド・空間現代の野口順哉さんという、おなじみの方々にお願いします。「サウンドパフォーマンス・プラットフォーム」は、音に関連していれば、どんなタイプの作品でも応募できるので、音楽演奏にはとどまらない“+α”の要素がある作品が集まることを期待しています。
新しい価値観を発見できる、ほかでは味わえない体験を劇場で
──2021年度の「ミニセレ」も多様な演目がラインナップされていて楽しみです。
藤井 ジャンル横断的な演目が多いので、1作品と言わず、2つ3つと観ていただくと、より面白くなると思います。多角的な観点から、思いもよらない舞台芸術の魅力、新しい価値観を発見してもらえるのではないかと。
山本 「ミニセレ2020」のラインナップ作品で昨年末に上演した、地点×空間現代の「グッド・バイ」(参照:太宰治の“明るい絶望”は今や最高のフィクション?地点×空間現代「グッド・バイ」開幕)は、バンドの生演奏があったので、久しぶりにライブハウス並みの音や振動を感じられて、「リアルな空間だからこそ体感できるものもあるよね!」って、お客さんたちと気持ちを共有できた気がしました。劇場という場所の価値を改めて見つめ直した1年だったので、今後も劇場の在り方を考え続けていきたいです。
藤井 コロナ禍で引き続き大変な状況ではありますが、舞台の幕が上がったり、音楽があったり、踊りがあったり、照明が素晴らしかったり、その空間や時間ごと、「やっぱりリアルな公演っていいな」と改めて思いましたよね。劇場ってほかでは味わえない体験ができる場所なんだと再認識して。「ミニセレ」を通じて、劇場の魅力を可能な限り知っていただけるよう、思案していきたいと思います。
愛知県芸術劇場「ミニセレ2021」ラインナップ
- ヌトミック+細井美裕「波のような人」 マルチチャンネルスピーカーと俳優のための演劇作品
- 2021年4月27日(火)・28日(水)
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原案:フランツ・カフカ「変身」
作・演出・音楽:額田大志
サウンドデザイン:細井美裕
出演:長沼航、原田つむぎ、深澤しほ
音の出演:岩渕貞太
- 公演紹介
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作曲家・演出家の額田大志が率いるヌトミックと、サウンドアーティストの細井美裕がコラボレートする演劇作品。“⾳に変⾝した⾝体”が語る、⼈間の進化と退化を巡る不条理劇が展開する。4月28日13:00開演回の終演後には、バックステージツアー(要予約)を開催予定。
- 「八木美知依・
箏 の世界 古から未来へと伝統楽器を導く」 - 2021年5月22日(土)
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21絃箏、17絃箏、エレクトロニクス、歌:八木美知依
コントラバス、チェロ:須川崇志(ゲスト)
- 公演紹介
伝統音楽の枠を超えた音楽を追求している“ハイパー箏奏者”の八木美知依が、自作曲を中心とした独奏、先鋭ジャズ・ベーシスト / チェロ奏者の須川崇志とのデュオを聴かせるリサイタル。従来の13絃箏よりも音域の広い21絃箏と、深みのある低音が魅力的な17絃箏を自在に操り、拡張奏法や歌、エレクトロニクスも取り入れ、即興を含むスリリングな演奏で箏という楽器のイメージを覆す。
- マレビトの会「グッドモーニング」
- 2021年9月18日(土)・19日(日)
作・演出:松田正隆
- 公演紹介
松田正隆が2019年のドイツ滞在時に書き下ろした長編新作。2020年の愛知でのクリエーションワークショップを経て上演される。
- TRIAD DANCE PROJECT 安藤洋子×酒井はな×中村恩恵「ダンスの系譜学」
- 2021年10月1日(金)〜3日(日)
- 振付の原点
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ミハイル・フォーキン振付「瀕死の白鳥」
出演:酒井はな、四家卯大(チェロ)
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イリ・キリアン振付「BLACK BIRD」よりソロ
出演:中村恩恵
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ウィリアム・フォーサイス振付「Study #3」よりデュオ
出演:安藤洋子、島地保武
- 振付の継承 / 再構築
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「『瀕死の白鳥』その死の真相」
演出・振付:岡田利規
出演:酒井はな、四家卯大(チェロ)
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「BLACK ROOM」(世界初演)
振付・出演:中村恩恵
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「新作」
振付:安藤洋子
出演:安藤洋子、木ノ内乃々、山口泰侑
- 公演紹介
国際的に活躍するダンス・アーティスト安藤洋子、酒井はな、中村恩恵が、それぞれの原点、転機となったオリジナル作品と“継承 / 再構築”をテーマとした作品を披露。2020年の公演延期を経て満を持して世界初演される。
- 向井山朋子「KUMANO」(仮)
- 2021年10月22日(金)・23日(土)
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出演:向井山朋子
- 公演紹介
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オランダ・アムステルダムを拠点に活動するピアニスト / アーティストの向井山朋子による新作。360°の映像空間でピアノ演奏を披露する予定。
- 第19回AAF戯曲賞 受賞記念公演「ねー」
- 2021年11月21日(日)~23日(火・祝)
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作:小野晃太朗
演出:今井朋彦
- 公演紹介
第19回AAF戯曲賞で大賞を受賞した小野晃太朗作「ねー」を、俳優・演出家の今井朋彦演出で立ち上げる。
- 「DaBYコレクティブダンスプロジェクト ~愛知県芸術劇場×Dance Base Yokohama『never thought it would』」(仮)ほか、新作
- 2021年12月上旬
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演出・振付・ダンス:鈴木竜
ダンス:池ヶ谷奏 ほか
- 公演紹介
愛知県芸術劇場 シニアプロデューサーの唐津絵理がアーティスティックディレクターを務めるダンスハウス・Dance Base Yokohama(DaBY)と愛知県芸術劇場がタッグを組んで行うダンス公演。DaBYアソシエイトコレオグラファーの鈴木竜が、若手クリエイターたちと共に創作した新作ほかを上演予定。
- OrganWorks「眠りの王国」
- 2022年2月4日(金)〜6日(日)
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振付・出演:平原慎太郎
出演:佐藤琢哉、高橋真帆、渡辺はるか ほか
- 公演紹介
平原慎太郎率いる日本を代表するコンテンポラリー・ダンスカンパニーがギリシア悲劇に挑む。
- 「サウンドパフォーマンス・プラットフォーム2022」
- 2022年2月27日(日)
- 公演紹介
コンサートではこぼれ落ちてしまうような多様な音の作品や、セリフ・映像・身体表現を伴う作品など、ひとくくりにはできない実験的なサウンドパフォーマンスを一挙紹介する企画。毎回、公募で選ばれたアーティストに加えゲストアーティストも登場する。