昭和30年代に博多名物・明太子を作り上げ、世に広めた夫婦の物語「めんたいぴりり」が、博多座に帰ってくる。今回上演されるのは新たなエピソードを描く「未来永劫編」だ。本特集では、舞台版1作目以来、4年ぶりに夫婦役を演じる博多華丸と酒井美紀、そして脚本・演出を手がける東憲司の座談会を実施。熱気に満ちた稽古を終え、気合い充分な3人が語り始めると、“博多っ子”の華丸と東からは郷土愛について、酒井からも福岡にまつわるエピソードが飛び出した。平成が終わろうとしている時代の変わり目に、本作を通して未来につないでいきたい思いとは? また特集の後半では、エネルギッシュな稽古場のレポートを掲載する。
取材・文 / 川口聡 撮影 / 朝岡英輔
流れに身を任せて演じる
──「めんたいぴりり」は、第二次世界大戦後の日本で明太子作りに奮闘する夫婦の姿を描いたシリーズで、日本で初めて明太子を製造・販売した“ふくや”の創業者・川原俊夫さんの実話をもとにしています。華丸さんは、川原さんをモデルにした海野俊之役を、ドラマ・舞台・映画と、これまでに4度演じられました。俊之をどんな人物と捉えていますか?
博多華丸 本当に器の大きな人で、自分にはないものがたくさんあります。「こんな“おじさん”になれればいいな」と、演じるたびに思わせてくれる人ですね。先日、武田鉄矢さんから「川の流れに逆らわないようにしなさい」と、人生のアドバイスをいただいたので、役作りにあれこれ悩むより、流れに身を任せて演じようと思っています。
──酒井さんは、2015年の舞台「めんたいぴりり~博多座版~」以来、4年ぶりに華丸さんと夫婦役を演じられます。
酒井美紀 前回の舞台から、4年も経ったことに驚いていますが、華丸さんとまたご一緒できて、うれしかです(笑)。私は「めんたいぴりり」の物語が大好きで、前回も「こんな夫婦、いいな」と、憧れを抱きながら演じていました。今回はさらにパワーアップさせた作品にしたいです。
──酒井さん演じる千代子は、たくましくて懐の深い“ザ・博多のおかみさん”という役どころですよね。
酒井 夫に自分の意見をはっきり言うし、よく叱っているけど、それも愛だなと。夫が明太子作りに夢中になって、大変な思いをさせられますが、夫婦で一緒に“おいしい明太子を作ってみんなを幸せにする”という夢に向かう姿は素敵だなと思います。
華丸 前回の舞台よりも夫婦仲はいいかもしれませんね。
酒井 確かにそうかも。
華丸 今回は夫婦がおじいちゃん、おばあちゃんになった時代のシーンもあって、喧嘩している場面は少なめなんです。
──東さんはドラマ版と映画版で脚本家として「めんたいぴりり」に関わってこられました。今回は、脚本に加えて演出も手がけられますね。
東憲司 華丸さん、酒井さんとご一緒できることが非常に光栄です。僕は舞台の作劇と演出が本業なので、そもそも「めんたいぴりり」のドラマや映画の脚本を書いたことのほうがイレギュラーだったんですよね。足掛け6年続いてきたシリーズなので、プレッシャーも大きいです。
博多名物・明太子は“大先輩”
──本作の陰の主役とも言える明太子は、福岡を代表する名産品です。福岡県出身の華丸さん、東さんにとって明太子はどのような存在なのでしょう?
華丸 擬人化するなら“大先輩”ですよね。上京したのも僕より早いですし(笑)。これを言うと東京の方は驚かれるんですが、実は明太子って福岡でも日常的に食卓に並ぶものではないんです。“庶民の味”と言うより、どちらかと言えばお土産だったりご贈答用で。家の冷蔵庫にあったら、とっても喜びます。
東 僕は、東京に出てから明太子が博多のものだと知ったんですよね。
酒井 へえ、意外ですね! 私も明太子は大好きですが、もともと韓国・釜山のお惣菜だったというルーツは「めんたいぴりり」を通じて初めて知りました。
華丸 私も釜山のお惣菜だったことは知らなかったです。
酒井 明太子がこれだけ日本全国に広まったのは、創業者の川原俊夫さんが特許を取らず、製法を独占しなかったおかげなんですよね。その懐の深さに感動して、川原さんのエピソードをよく人に話しています。
福岡県民の郷土愛は全国屈指
──「めんたいぴりり」シリーズの物語の舞台は、博多・中洲市場にある食料品店・ふくやをモデルとした“ふくのや”で、住人たちのセリフはオール博多弁です。また博多を代表する祭・博多祇園山笠も、地元民の魂を象徴する存在として登場します。そんな“メイド・イン・福岡”にこだわり続けてきた本シリーズですが、それぞれ福岡の魅力を教えていただけますでしょうか?
華丸 福岡の人って、福岡に来た人を“おもてなし”して喜ばせることが好きなんですよね。そこに関しては、滝川クリステルさんよりも先でした!
一同 (笑)。
華丸 福岡の人は福岡を褒められることが好きですし、郷土に誇りを持っている。高校野球でも一番地元を応援してるのは、福岡なんじゃないかなと思うくらいで。郷土愛は全国屈指だと思います。
──そんな福岡人の郷土愛を象徴するかのように、“与えた恩は水に流せ、受けた恩は石に刻め”をモットーとし、バカが付くほどのお人好しを貫いた俊之ですが、華丸さんご自身の“福岡県民気質”に通じる部分はあるのでしょうか?
華丸 あると思いますね。私は15年間、福岡よしもとで活動してきて、さまざまな人にお世話になったので、東京で仕事をがんばることで恩返しになればいいなと。片足はずっと福岡に置いているつもりで、たまたま東京に遠征しているという気持ちでやっております。
東 僕も福岡から東京に出て以来、急にライオンズや明太子が好きになったり、福岡出身の松田聖子さんを好きになったりしました(笑)。今では中洲の街のにぎにぎしい雰囲気も好きだし、博多駅のお土産売り場を見て回るのは至福のときです。
酒井 福岡の方々は確かに地元愛が強いですよね。お仕事で初めて福岡を訪れたとき、お昼ご飯がお弁当だとつまらないからということで、中洲の商店街に行って、ウニや海産物を買って食べた思い出があります。私は静岡出身ですが、お仕事で全国津々浦々行かせていただいた中でも、博多はすごく好きで、住んでみたい街ですね。
──俊之は明太子の“のぼせもん”、千代子は西鉄ライオンズの“のぼせもん”です。“のぼせもん”とは博多弁で“夢中になっている人”という意味ですが、皆さんは現在、何に“のぼせて”いらっしゃいますでしょうか?
酒井 私は蜂蜜にハマってます。
華丸 喉にいい! 私も毎朝、蜂蜜舐めてますよ。
酒井 いいですよね。スプーン1杯でも食べておくと免疫力が上がります。
東 僕は1年前ぐらいに荒川の近くに引っ越したので、時間があるときに荒川沿いをママチャリでサイクリングするのが楽しみです。川辺を歩いてる高校生のカップルを「うらやましいなあ」と眺めたり(笑)。人がのぼせてる姿をあったかい目で見ています(笑)。
華丸 私は大河ドラマの「いだてん」を毎週楽しみにしています。主人公が熊本出身ということで、やはり九州の人が活躍する話は励みになりますし、先人のご活躍をもとにした物語という意味では「めんたいぴりり」に通じる部分がありますから。あと、この舞台が終わったらゴルフがしたいですね。稽古中に小道具のほうきを使ってスイングしてます(笑)。
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男前の華丸さんと、可愛らしい酒井さん
- 「めんたいぴりり~博多座版~未来永劫編」
- 2019年3月30日(土)~4月21日(日)
福岡県 博多座
- スタッフ / キャスト
-
原案:川原健
企画原案・監修:江口カン
脚本・演出:東憲司
出演:博多華丸、酒井美紀
大空ゆうひ、相島一之、川原和久、藤吉久美子
原西孝幸(FUJIWARA)・ワッキー(ペナルティ) ※Wキャスト、斉藤優(パラシュート部隊)、ゴリけん
瀬口寛之、福場俊策、井上佳子、酒匂美代子
博多大吉 ※映像出演
小松政夫 ほか ※初出時、曜日表記に誤りがありました。訂正してお詫びいたします。
- 「めんたいぴりり~未来永劫編」
- 2019年9月22日(日)~29日(日)
東京都 明治座
- スタッフ / キャスト
-
原案:川原健
企画原案・監修:江口カン
脚本・演出:東憲司
出演:博多華丸、酒井美紀
大空ゆうひ、川原和久、藤吉久美子
原西孝幸(FUJIWARA)・ワッキー(ペナルティ) ※Wキャスト、斉藤優(パラシュート部隊)、ゴリけん
瀬口寛之、福場俊策、井上佳子、酒匂美代子
博多大吉 ※映像出演
小松政夫 ほか
- 博多華丸(ハカタハナマル)
- 1970年、福岡県生まれ。90年に博多大吉と漫才コンビ・博多華丸・大吉を結成。ピンで「R-1ぐらんぷり2006」、コンビでは「THE MANZAI 2014」にて優勝。2018年4月からは大吉と共にNHK総合「あさイチ」のキャスターを務めている。俳優としては、NHK大河ドラマ「真田丸」、TBS「THE GOOD WIFE / グッドワイフ」などに出演。13年に放送されたドラマ「めんたいぴりり」、15年の「めんたいぴりり2」では海野俊之役で好評を博した。15年の舞台版「めんたいぴりり~博多座版~」にて初舞台を踏み、17年の「熱血!ブラバン少女。」では2度目の博多座登場となった。
- 酒井美紀(サカイミキ)
- 1978年、静岡県生まれ。93年にシングル「永遠に好きと言えない」で歌手デビューし、95年に岩井俊二監督「Love Letter」でスクリーンデビュー。映画「Love Letter」、映画「ひめゆりの塔」で第19回日本アカデミー賞新人俳優賞、映画「誘拐」で第21回日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞した。96年からのテレビドラマ「白線流し」シリーズほか、数多くのドラマ・映画に出演。98年の「本郷菊富士ホテル」で初舞台を踏み、2015年の舞台版「めんたいぴりり」では海野千代子役を好演した。
- 東憲司(ヒガシケンジ)
- 1964年、福岡県生まれ。劇団桟敷童子の代表で劇作・演出・美術を務める。自身が生まれ育った炭鉱町や山間の集落をモチーフに、舞台美術にこだわった骨太な群像劇を手がけ、東宝、流山児★事務所、文学座、演劇集団 円、トム・プロジェクト、こまつ座などの外部舞台にも多数参加している。2012年に第47回紀伊國屋演劇賞 個人賞、第20回読売演劇大賞 優秀演出家賞、第16回鶴屋南北戯曲賞をトリプル受賞。また初めて手がけたテレビドラマの脚本「めんたいぴりり」が第30回ATP賞 奨励賞、第51回ギャラクシー賞 奨励賞、平成26年日本民間放送連盟賞 テレビドラマ番組部門 優秀賞などに輝く。18年3月には自身初の小説「めんたいぴりり」が刊行された。
2019年9月24日更新