心のロードムービー
──初演から5年。再演で大きく変更される点はあるんでしょうか?
三浦 キャストが一部変わっていますが、脚本はほとんど変更していないですね。初演に出ていたロロのメンバーや田中佑弥さん、多賀麻美さんは今回も同じ役柄です。今読み返してみると、モチーフが最近の作品である「BGM」ともすごくつながってるなと思いましたね。
曽我部 どっちもドライブの話だもんね。
三浦 そうですね。あと“忘れること”とか時間の扱い方もつながってはいるんですけど、印象としては似ていないなと思いました。あと「父母姉僕弟君」では登場人物がみんな喧嘩してるんですが、最近ではそういうぶつかり合いみたいなものを描いてないなという発見があって、新鮮でしたね。
──「父母姉僕弟君」も「BGM」も、思い出の場所を目指してドライブするロードムービーのような物語ですが、作品としては異なる印象を受けます。どこに変化が表れているんでしょうか?
曽我部 「BGM」はハッピーエンドでもバッドエンドでもない、わかりやすくない終わり方がよかったですよね。でも、「父母姉僕弟君」は違います。
三浦 以前はすべてのエピソードを、ラストで強引にでも畳まなきゃいけないなと思っていたんです。なので「父母姉僕弟君」も、ぐちゃぐちゃになりながら終わらせてますね(笑)。ただそのあと「いつ高」シリーズをやったことが大きいんですが、あれは連作だったので、無理に物語を終わらせなくてもいいやと思えるようになった。それが「BGM」にもつながっています。
伊賀 確かに。「父母姉僕弟君」の終わり方は「さらば!」って感じするもんね(笑)。ところで、この2作に限らずロロは乗り物が多くない?
三浦 学生の頃は旅行なんて全然好きじゃなかったんですけど、ドライブしたり旅する作品がすごく多いんですね。なぜなのかはわからないんですけど。
曽我部 僕も割とサニーデイ(・サービス)の楽曲だと車に乗ってるシチュエーションが多いんだけど、実は免許ずっと持ってなかったし(笑)、旅もそこまで。だから、心の旅なんだろうね。自分がいる場所に納得がいかなくて、新しいところを探している。そういうロードムービーですよね。
三浦 「BGM」は確かにロードムービー的でしたけど、僕にとっては「父母姉僕弟君」のほうが、自分の観てきた“ロードムービー”に近いというか。ウェスタンな感じがあったり、変なやつが追いかけてきたり。しかも伊賀さんの衣装を観たら、ビジュアルとしても“そうそう、こういう感じ!”になってうれしかったです。
曽我部 アメリカンだよね。劇に出てくる車も左ハンドルだから(笑)。
記憶は自分の外側にある
──そもそも、なぜ今回「父母姉僕弟君」を再演することになったのでしょうか? 三浦さんにとってこの作品はどういう意味を持っていますか?
三浦 9月に上演した「BGM」と来年1月に予定している本公演がどちらも“旅”の作品で、どうせなら“旅”3部作にしようと思って本作の再演を決めました。この作品を書いたのは2012年で、震災直後でした。震災と津波によって、僕が小学3年生まで住んでいた宮城県の女川はほとんどなくなってしまったんですよね。震災後、女川に戻ってかつて住んでいたアパートから海まで歩いてみたんですが、津波で流されてしまった場所を見ても何も思い出せなかった。その時に、記憶は自分の内側じゃなくて外側にあると気付いたんです。そのことを最初に扱ったのが「父母姉僕弟君」でした。僕自身忘れていたんですが、最初のシーンは女川を歩いていたときに思いついたものなんですよ。
──なるほど。それ以降の作品でも、震災については意識されてきたんでしょうか?
三浦 震災のことをずっと描いてきたわけではありませんが、モチーフとしては繰り返し出てきています。でも、それに対してケリをつけたいなと思ったのが「BGM」という作品でした。だから、「父母姉僕弟君」には具体的な地名が出てきませんが、「BGM」には具体的な地名を出しています。
曽我部 確かに「BGM」は震災に言及する作品としてすごくよかったですよね。この描き方しかないなと思った。
三浦 “忘れる/忘れない”みたいなモチーフにはそういう意識が表れていますね。だから、そうした震災への気持ちの始まりが今回の作品にあるなと再認識したんです。そういう意味でも発見がとても多くて、このタイミングで再演できるのはすごくよかったですね。初演のときを思い返してみると、当時は自信がなかったから何とかして面白くしなきゃいけないと思って無理に情報を足していたんですよ。でも、今読んだら面白いと思えた。だから、今回は変に足すわけじゃなくて、この物語をしっかりと立ち上げて観客に届けていきたいと思っています。
- キティエンターテインメント・プレゼンツロロ「父母姉僕弟君」
2017年11月2日(木)~12日(日)
東京都 シアターサンモール-
脚本・演出:三浦直之
音楽:曽我部恵一
衣装:伊賀大介
出演:
亀島一徳、篠崎大悟、島田桃子、望月綾乃、森本華、緒方壮哉、北村恵、多賀麻美、田中佑弥、松本亮
- 三浦直之(ミウラナオユキ)
- 1987年宮城県出身。2009年にロロを旗揚げし、以降全作品の脚本・演出を担当。マンガ、アニメ、小説、音楽、映画などさまざまなジャンルのカルチャーをパッチワークのようにつなぎ合わせ、さまざまな“出会い”の瞬間を物語化する。13年に初監督作品「ダンスナンバー 時をかける少女」を手がけ、MOOSIC LAB 2013 準グランプリほか3冠を受賞。15年には「ハンサムな大悟」が第60回岸田國士戯曲賞最終候補作に選ばれた。さらに同年、「ロロが高校生に捧げる新シリーズ」と銘打ち「いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三高等学校」、通称「いつ高」シリーズを始動。高校演劇のフォーマットにのっとって作られた連作群像劇として劇団とは異なる展開を見せている。なお本作「父母姉僕弟君」は初演時、佐藤佐吉賞優秀作品賞を受賞している。
- 曽我部恵一(ソカベケイイチ)
- 1971年生まれ、香川県出身。1990年代からサニーデイ・サービスの中心人物として活躍し、バンド解散後の2001年からソロアーティストとしての活動を開始する。精力的なライブ活動と作品リリースを続け、客演やプロデュースワークなども多数。現在はソロのほか、再結成したサニーデイ・サービスなどで活動を展開し、フォーキーでポップなサウンドとパワフルなロックナンバーが多くの音楽ファンから愛され続けている。2004年からは自主レーベル「ROSE RECORDS」を設立し、自身の作品を含むさまざまなアイテムをリリース。2017年は、夏に初の単行本「青春狂走曲」を刊行、12月25日には、6月にストリーミング配信のみで発表されたサニーデイ・サービスの最新アルバム「Popcorn Ballads」を、CDおよびアナログ盤でリリースすることが決定している。
- 伊賀大介(イガダイスケ)
- 1977年東京・西新宿出身。96年より熊谷隆志氏に師事後、99年、22歳でスタイリストとしての活動を開始。「お呼びとあらば即参上」をモットーに、雑誌、広告、音楽家、映画、演劇、文筆業などもこなす。舞台では、小林賢太郎、宮藤官九郎、岩松了ら、さまざまな演出家の作品に携わっている。