骨太なテーマを扱いながらもポップでキラキラした作風を特徴とし、演劇ファンのみならずポップカルチャー愛好家の心を掴んできた劇団ロロ。彼らの初期作品「父母姉僕弟君」が、音楽・曽我部恵一、衣装・伊賀大介という強力な味方を携えて11月に再演される。一体、ロロの何が曽我部と伊賀の心を動かしたのだろうか? ロロ主宰・三浦直之を交えた3人のトークからは、三浦が演劇を通じて描こうとする世界の有りようが浮かんできた。
取材・文 / 石神俊大 撮影 / 金井尭子
曽我部さんの曲で高校時代を思い出す
──「父母姉僕弟君」は、2012年に初演されたロロの初期作品です。曽我部さんと伊賀さんは以前からロロをご存知だったんですか?
伊賀大介 僕は2014年の「朝日を抱きしめてトゥナイト」から観ています。チラシが可愛かったし、演劇をよく観ている友達からもオススメされて。
三浦直之 伊賀さんは昨年「あなたがいなかった頃の物語と、いなくなってからの物語」を上演したときに楽屋に来てくださったんです。そのとき「風呂上がりの夜空に」というマンガを「三浦くん絶対好きだと思うから」と教えてくれて。読んだらほんとにオールタイムベストくらいの好きなマンガだったんですよね。
曽我部恵一 僕は昨年「いつ高」シリーズ(高校演劇のフォーマットに合わせて作られる三浦による群像劇シリーズ)を観に行こうと思ったんだけど、気付いたときにはすでに終わってしまっていて(笑)。
三浦 実は、「いつ高」で曽我部さんの曲を使用させていただいていて、Twitterで曽我部さんが言及してくださったのを覚えています。でも、曽我部さんとお会いするのは今回が初めて。僕自身は一方的に高校生の頃から曽我部さんの曲を聴いていたんですけど。
伊賀 どの辺のアルバムを聴いてたの?
三浦 最初はサニーデイ・サービスじゃなくて曽我部さんのソロを聴いてました。「瞬間と永遠」(2003年リリース)と言うアルバム。友達の家に行ったときに曽我部さんの曲が流れていて、それから「東京」(1996年リリース)を自分で買って聴いてましたね。音楽的な文脈も全然わからなかったから、ほんとにたまたま聴いていたという感じです。
曽我部 いい出会いだね。高校生のときって大体何年くらい?
三浦 高校3年生のときに曽我部恵一BAND(2005年結成)が出てきたんですよ。
曽我部 じゃあその頃「東京」はもうだいぶ古いアルバムだよね。ありがとうございます(笑)。
三浦 今聴いても高校の頃を思い出しますよ。「キラキラ!」というアルバムが出たとき(2008年)に、同じタイトルのマンガを描いていた安達哲にハマりだしたので、自分の中でリンクする感じもあって。
伊賀 安達哲はみんな通るよね。「キラキラ!」と「バカ姉弟」と「さくらの唄」だもんね。
三浦 「風呂上がりの夜空に」もそうですが、80年代くらいにヤンマガ(週刊ヤングマガジン)をリアルタイムで読みたかったな、みたいなあこがれがあるんですよね(笑)。伊賀さんのことは、雑誌で映画やマンガを紹介されてたのを読んで存在を知ったんですよ。知らない映画について書かれてるから悔しかった(笑)。「おしゃれな人が俺の知らない映画とか知ってる!」って。伊賀さんの衣装の仕事について知ったのは大学に入ってからだったと思います。
恋も人も時間も、すべてが平等な空間を描く
──妻を亡くした男が奇妙なキャラクターと出会いながら妻との思い出の地を目指す「父母姉僕弟君」は、ロロの過去作の中でも評価の高い作品です。ロロはさまざまな出会いと別れをポップに描くことで知られていますが、曽我部さんと伊賀さんはロロのどこに魅力を感じられたんでしょうか?
曽我部 僕は演劇をあまり観たことなかったんですが、映画でも音楽でもない、こんな素晴らしい表現方法があるんだなと感動したんですよね。何がよかったのかずっと考えているものの、言葉にできないままなのですが……。
伊賀 ロロは楽しそうだよね。横断歩道で、向かい側に立ってる男女のグループがすごく楽しそうにしてると、ムカつくときとうれしくなるときがあるじゃないですか(笑)。ロロはうれしくなるときの楽しさ。楽しそうにしているのを見るだけで人生が肯定されるというか、世の中捨てたもんじゃないなと思える瞬間がある。ちゃんと言語化はできていないんですが、“なんかいいな”と思いますね。
曽我部 作品のテーマとかあるんですか?
三浦 あらゆる関係性や男女の恋、人間と人間以外とか、すべてが同じ地平に立てるといいなと思っています。それは過去や現在みたいな時間についても同じことで。すべてが平等に存在できる場所を書きたいんですよね。
曽我部 “泣ける”ところに安易にいかないところもいいですよね。僕自身、感動とは少し違う体験を求めてるし。ロロはなんだかわからない気持ちをしっかり描こうとしているなと感じました。よくわからないんだけど、もがきながら捕まえに行くのがいいと思うんです。そういう感じが今回の作品にもあってすごくグッときましたね。
三浦 最近はストレートに言葉を書かずに周りにある空気みたいなものをすくい取りたいと思っていて。空気感をどれだけ舞台上に立ち上げられるかなとはずっと考えてますね。あとは、自分で言うのもなんですけど、ロロのメンバーがそろう瞬間が好きなんですよね。いい俳優たちだなと(笑)。
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三浦作品にはキラキラした孤独感がある
- キティエンターテインメント・プレゼンツロロ「父母姉僕弟君」
2017年11月2日(木)~12日(日)
東京都 シアターサンモール-
脚本・演出:三浦直之
音楽:曽我部恵一
衣装:伊賀大介
出演:
亀島一徳、篠崎大悟、島田桃子、望月綾乃、森本華、緒方壮哉、北村恵、多賀麻美、田中佑弥、松本亮
- 三浦直之(ミウラナオユキ)
- 1987年宮城県出身。2009年にロロを旗揚げし、以降全作品の脚本・演出を担当。マンガ、アニメ、小説、音楽、映画などさまざまなジャンルのカルチャーをパッチワークのようにつなぎ合わせ、さまざまな“出会い”の瞬間を物語化する。13年に初監督作品「ダンスナンバー 時をかける少女」を手がけ、MOOSIC LAB 2013 準グランプリほか3冠を受賞。15年には「ハンサムな大悟」が第60回岸田國士戯曲賞最終候補作に選ばれた。さらに同年、「ロロが高校生に捧げる新シリーズ」と銘打ち「いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三高等学校」、通称「いつ高」シリーズを始動。高校演劇のフォーマットにのっとって作られた連作群像劇として劇団とは異なる展開を見せている。なお本作「父母姉僕弟君」は初演時、佐藤佐吉賞優秀作品賞を受賞している。
- 曽我部恵一(ソカベケイイチ)
- 1971年生まれ、香川県出身。1990年代からサニーデイ・サービスの中心人物として活躍し、バンド解散後の2001年からソロアーティストとしての活動を開始する。精力的なライブ活動と作品リリースを続け、客演やプロデュースワークなども多数。現在はソロのほか、再結成したサニーデイ・サービスなどで活動を展開し、フォーキーでポップなサウンドとパワフルなロックナンバーが多くの音楽ファンから愛され続けている。2004年からは自主レーベル「ROSE RECORDS」を設立し、自身の作品を含むさまざまなアイテムをリリース。2017年は、夏に初の単行本「青春狂走曲」を刊行、12月25日には、6月にストリーミング配信のみで発表されたサニーデイ・サービスの最新アルバム「Popcorn Ballads」を、CDおよびアナログ盤でリリースすることが決定している。
- 伊賀大介(イガダイスケ)
- 1977年東京・西新宿出身。96年より熊谷隆志氏に師事後、99年、22歳でスタイリストとしての活動を開始。「お呼びとあらば即参上」をモットーに、雑誌、広告、音楽家、映画、演劇、文筆業などもこなす。舞台では、小林賢太郎、宮藤官九郎、岩松了ら、さまざまな演出家の作品に携わっている。