ロロ「父母姉僕弟君」三浦直之×曽我部恵一×伊賀大介|音楽から情景が、衣装から人物が立ち上がる

三浦作品にはキラキラした孤独感がある

──今回、曽我部さんは劇中に使われる音楽として、インスト含め書き下ろしの楽曲を5曲提供されると伺いました。三浦さんはどうして曽我部さんに依頼されたんですか?

三浦 9月に上演した「BGM」のときに音楽をお願いした江本祐介さんが同世代だったので、次は上の世代の人とやってみたくて、曽我部さんにお願いしました。今回曽我部さんが作ってくださった曲が本当に素晴らしくて。この作品の景色が言葉で散りばめられているんです。曽我部さんって言葉で景色を立ち上げるのが素晴らしいなといつも思っているんですが、この曲を聴くことでそれまでの芝居の景色が立ち上がればいいなと。

曽我部恵一

曽我部 みんなで歌うシーンが、家族みたいなんだよね。疑似家族というか。本当は1人ひとり孤独だけど、家族的な何かをいつも求めていると自分も思っていて。それぞれは孤独な景色を見ているけどそれをみんなで歌うとこういう感じになるのかなと。三浦さんの作品には孤独感があるんだけど、それが重かったり文学的じゃないところがいいなと思いますね。キラキラしてる孤独感というか。

伊賀 今回のように台本がある作品では、曽我部さんは詞が先なんですか? 曲が先?

曽我部 今回はどちらかというと歌詞です。稽古を見ていて、今のまますべて肯定する歌にしたいなと思ったのでこういう歌詞になりましたね。

伊賀 普段の曲はどっちが多いんですか?

曽我部 今は半々くらいですね。こういう感覚を歌いたいなあというのがあって。例えば“熱い諦め”みたいなものがあったとしたら、どんなコードやテンポがよいか色付けしていく感じですね。感覚を音楽にしたいなと思って。

伊賀 曽我部さんの曲って、どこか懐かしいんですよね。

曽我部 それは大事な感覚かも。“既聴感”というか。子供の頃こういうの聴いたなとか、ああいう空気の匂いしたなみたいな。

妄想から衣装が浮かび上がる

──伊賀さんは演劇に限らず宮藤官九郎さんや大根仁さんが監督を務めるドラマや映画など、さまざまな作品の衣装を手がけていますよね。今回の衣装はどういうふうに決まったんでしょうか?

三浦 初演の映像と今回の稽古を伊賀さんに観ていただきました。すぐにラフを上げてくださって、そのときに例として映画の名前も挙げてくださったんですよね。「トゥルー・ロマンス」とか。

衣装の打ち合わせをする三浦直之(左)、伊賀大介。

伊賀 「トゥルー・ロマンス」と「ワイルド・アット・ハート」の合いの子、とかね。そこにちょっと「ヤングガン」が入ってるみたいな(笑)。

三浦 「こういう女が逃避行するよね」みたいなキャラクターがビジュアルとして立ち上がってくるのが面白かったです。

伊賀 「父母姉僕弟君」の登場人物は、それぞれキャラが立ってるからね(笑)。いつも僕、脚本読むときは固有名詞を探しちゃうんですけど、今回は固有名詞以外のところが面白くて。チラシに書いてある挨拶みたいに、誰でも使える言葉というか。固有名詞って説明しやすいんだけど、危ないんですよ。自分のイメージと作家のイメージは本当は違うかもしれなくて、実はそれが面白いのに、固有名詞があるとすぐに検索して理解した気になっちゃうから。でも今回は固有名詞じゃないところを追って読めたのがすごく面白かったです。

──これまでのロロの衣装も、作品のテーマに合わせて毎回大きく変わっている印象を受けます。三浦さんはいつも衣装スタッフと話し合いながら決めていくんですか?

三浦 これまでは完全にお任せしてますね。作品のイメージをお伝えして、ビジュアルにして打ち返してもらうみたいな。服と音楽が自分の2大コンプレックスなので(笑)。だから今回もお二人と話していて、なんか変なこと言ってないかなとか気になるくらいで……。

伊賀 でも、俺たちだって脚本がなかったら何もできないから(笑)。

曽我部 やっぱり脚本を読み込むのは大事なの?

伊賀大介

伊賀 僕はけっこう脚本を読みながら、この人はこういう生活をしてるのかな?とかってそこに妄想を乗っけていく感じです。脚本に色を付けて絵を描いていく感じというか。でもそれって「ああ、伊賀くんてこの作品をこう捉えてるんだ」と思われることなので、すごく緊張します(笑)。

曽我部 イメージに合わせて服を作ったりもするんでしょ? すごいなあ。

伊賀 作ることもありますし、リメイクもありますね。スタイリングには2パターンあって、「俺の持ってる服と同じだ!」と思われていい作品と、ダメな作品があるんですよ。例えば日常的な作品で登場人物がユニクロのシャツを着てたら“自分たちの話だ”と思えるかもしれないけど、すごいファンタジーだったら貧乏くさく見えてしまうかもしれない。最適解を探す感じですね。今回はもちろん後者です。

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心のロードムービー

キティエンターテインメント・プレゼンツロロ「父母姉僕弟君」
キティエンターテインメント・プレゼンツ「父母姉僕弟君」

撮影:八木咲

2017年11月2日(木)~12日(日)
東京都 シアターサンモール

脚本・演出:三浦直之

音楽:曽我部恵一

衣装:伊賀大介

出演:
亀島一徳、篠崎大悟、島田桃子、望月綾乃、森本華、緒方壮哉、北村恵、多賀麻美、田中佑弥、松本亮

三浦直之(ミウラナオユキ)
1987年宮城県出身。2009年にロロを旗揚げし、以降全作品の脚本・演出を担当。マンガ、アニメ、小説、音楽、映画などさまざまなジャンルのカルチャーをパッチワークのようにつなぎ合わせ、さまざまな“出会い”の瞬間を物語化する。13年に初監督作品「ダンスナンバー 時をかける少女」を手がけ、MOOSIC LAB 2013 準グランプリほか3冠を受賞。15年には「ハンサムな大悟」が第60回岸田國士戯曲賞最終候補作に選ばれた。さらに同年、「ロロが高校生に捧げる新シリーズ」と銘打ち「いつだって可笑しいほど誰もが誰か愛し愛されて第三高等学校」、通称「いつ高」シリーズを始動。高校演劇のフォーマットにのっとって作られた連作群像劇として劇団とは異なる展開を見せている。なお本作「父母姉僕弟君」は初演時、佐藤佐吉賞優秀作品賞を受賞している。
曽我部恵一(ソカベケイイチ)
1971年生まれ、香川県出身。1990年代からサニーデイ・サービスの中心人物として活躍し、バンド解散後の2001年からソロアーティストとしての活動を開始する。精力的なライブ活動と作品リリースを続け、客演やプロデュースワークなども多数。現在はソロのほか、再結成したサニーデイ・サービスなどで活動を展開し、フォーキーでポップなサウンドとパワフルなロックナンバーが多くの音楽ファンから愛され続けている。2004年からは自主レーベル「ROSE RECORDS」を設立し、自身の作品を含むさまざまなアイテムをリリース。2017年は、夏に初の単行本「青春狂走曲」を刊行、12月25日には、6月にストリーミング配信のみで発表されたサニーデイ・サービスの最新アルバム「Popcorn Ballads」を、CDおよびアナログ盤でリリースすることが決定している。
伊賀大介(イガダイスケ)
1977年東京・西新宿出身。96年より熊谷隆志氏に師事後、99年、22歳でスタイリストとしての活動を開始。「お呼びとあらば即参上」をモットーに、雑誌、広告、音楽家、映画、演劇、文筆業などもこなす。舞台では、小林賢太郎、宮藤官九郎、岩松了ら、さまざまな演出家の作品に携わっている。