時代を超えて愛される、やじきたの魅力
──しりあがりさんが「真夜中の弥次さん喜多さん」などで「やじきた」を描かれているように、「東海道中膝栗毛」はいろんな人の手で、さまざまな表現がされてきていますが、どうしてこんなに長い間、人を引きつけることができるのでしょうか。
しりあがり 最初の話に戻るけど、まず、物語の作りが自由なんですよね。だから、「アラビアン・ナイト」とか「西遊記」に比べて、「やじきた」のほうが、さらに全体的な、お話の縛りが小さい。もともと、お伊勢さんに行っても行かなくてもいいようなところがあるじゃないですか。だから、作りやすいんじゃないかな。今回もそうだけど、男が2人いりゃいいわけです(笑)。そういう意味では、すごく作りやすいと思うんですよ。それでなおかつ、いい加減に終わっても、宿場が変わるなり、舞台が変わることで、また次へ行けちゃうんですよ。だから、1つひとつの物語の重要度は、そこまで高くはなくなる。
──なるほど、容れ物として優れている。なんでも詰め込めるし、どこで斬っても大丈夫、ということなんですね。
しりあがり そうそう。便利ですよね。
五月女 いろんな作りようがありそうですよね。1話完結でできちゃうし。
しりあがり でも、今回の「歌舞伎座捕物帖」までくると、ホントわかんないね。
五月女 さらにどうすればいいのか……やじきたが女子になっちゃうとまずい?
──女子のコンビ……なんかギスギスしそうじゃないですか?(笑)
しりあがり 歌舞伎以外にも若い俳優さんたちがやられている「やじきた」もあるんですよね。今度3回目ですけど(編集注:「おん・すてーじ『真夜中の弥次さん喜多さん』」、今夏続編が上演)。
──そちらも女性に人気ですよね。
五月女 ええー! そんなことになってるんですね。
しりあがり さっきのリアリズムの話じゃないけど、どんどん、現実の果たす役割が小さくなってきてる気がする(笑)。
五月女 うーん、現実いらないかも、ってなってますよね(笑)。まさに、逃避のために舞台があるのかもしれない。
しりあがり と言って、フィクションも、行き過ぎるとまたそこから揺り戻すんだけどね。
五月女 年を取ってくると、あんまり現実をそのまま見せられるようなお芝居を観たりすると、2、3日立ち直れなくなったり、ドーンと落ち込んでしまうこともあります。だから、なるべく楽しくなるのが観たいですね(笑)。
──つかの間、現実を忘れて没入できる強さがある作品はホントにいいですね。
しりあがり 確かに。今回の「歌舞伎座捕物帖」も、“異世界感”が強いよね。
五月女 連れて行かれましたね。
しりあがり 下北沢で舞台を観る、とかってなると、出てる人を知ってたりしちゃうからなー(笑)。異世界とはほど遠い。
五月女 (笑)。子供ができてから、お芝居もけっこう観せてるんですけど、子供向けではあるけど、なるべく一流って思えるものを観せたいなって思っていて。やっぱり歌舞伎も一流の中の一流だから、観せたいなあとは思うんですけど、なかなか敷居が高かったり、子供が長時間座ってるのが我慢できるかなあとか思ったりするんです。でも、「歌舞伎座捕物帖」みたいなものがあると、観せやすいですね。
──そうですよね。それに、今回「四の切」が劇中劇として挿入されたように、古典の名場面も観られたりすると、現代ふうのハチャメチャなお芝居と古典と、両方楽しめるお得感がありますよね。
しりあがり その上、シネマ歌舞伎だと、さらに気楽に観られていいかもしれないですよね。映画を観ると、また舞台で観たくなるもんね。
第3弾!? こんなやじきたが観たい!
しりあがり 今回が第2弾で、第3弾も観たいよね。あるとすると、今度はどこに行くんだろう?
五月女 観たいです! どこですかね? 富士山にも行ったし、ベガスにも行ったし(笑)。
──宇宙とか、どうでしょう?(笑)
しりあがり 宇宙はいいじゃん、大道具いらないし(笑)。
──無重力空間だから(笑)。
しりあがり しかし、ずーっと宙乗りだったりして(笑)。
五月女 でも、宇宙まで行っちゃったら、その先は難しいですね。
しりあがり そうだね、だとしたらまだちょっと早いかな。そうだ、来年とかそろそろ、オリンピックを絡めるとかね。
五月女 いいですねえ。
しりあがり ギリシャに行ってみるとか……いろいろ言うと、今度はやるほうがやりにくくなっちゃうな(笑)。
──(笑)。ありがとうございました!
- シネマ歌舞伎
「東海道中膝栗毛 歌舞伎座捕物帖」 - 2018年6月9日(土)より全国公開
-
- あらすじ
- お伊勢参りの道中で一文無しとなってしまった弥次さん喜多さんは、歌舞伎座でのアルバイトを再開。が、翌日から人気演目「義経千本桜」の上演を控えた歌舞伎座で、殺人事件が発生する。果たして弥次さん喜多さんは、無事犯人を捕らえることができるのか? 原作者・十返舎一九も想像しなかったであろう、殺人・推理・宙乗りと、愉快痛快なシネマ歌舞伎、最新作だ。
-
- 原作:十返舎一九
- 構成:杉原邦生
- 脚本:戸部和久
- 脚本・演出:市川猿之助
- 配役
-
- 弥次郎兵衛:市川染五郎(現・松本幸四郎)
- 喜多八:市川猿之助
- 大道具伊兵衛:中村勘九郎
- 女医羽笠:中村七之助
- 座元釜桐座衛門:市川中車
- 天照大神:市川笑也
- 瀬之川伊之助:坂東巳之助
- 中山新五郎:坂東新悟
- 玩具の左七:大谷廣太郎
- 芳沢綾人:中村隼人
- 女房お蝶:中村児太郎
- 舞台番虎吉:中村虎之介
- 伊之助妹お園:片岡千之助
- 伊月梵太郎:松本金太郎(現・市川染五郎)
- 五代政之助:市川團子
- 瀬之川亀松:中村鶴松
- 芳沢小歌:市川弘太郎
- 瀬之川如燕:市川寿猿
- 芳沢菖之助:澤村宗之助
- 芳沢琴五衛門:松本錦吾
- 若竹緑左衛門:市川笑三郎
- 同心古原仁三郎:市川猿弥
- 同心戸板雅楽之助:片岡亀蔵
- 鷲鼻少掾:市川門之助
- 関為三郎:坂東竹三郎
- しりあがり寿(シリアガリコトブキ)
- 1958年静岡県生まれ。85年に「エレキな春」でマンガ家としてデビュー。主な作品に「流星課長」「ヒゲのOL薮内笹子」「地球防衛家のヒトビト」「コイソモレ先生」「方舟」など。2000年に「時事おやじ2000」「ゆるゆるオヤジ」にて第46回文藝春秋漫画賞を、01年に「弥次喜多 in DEEP」にて第5回手塚治虫文化賞マンガ優秀賞を受賞、14年に紫綬褒章を受章。しりあがりの事務所・有限会社さるやまハゲの助が主催する「さるハゲロックフェスティバル」は18年に10周年を迎えた。また18年には流山児★事務所に初戯曲「オケハザマ」を書き下ろした。
- 五月女ケイ子(ソオトメケイコ)
- 1974年山口県生まれ。イラストレーター、コラムニスト。2000年にテレビ番組「宝島の地図」のコーナー「新しい単位」でイラストを担当し、注目を集める。主な作品に「愛・バカ博」「五月女ケイ子のレッツ!!古事記」「淑女の身の上相談」「新しい単位」「バカリズムのエロリズム論」「でんぱ組.incの妄想大百科」「金メダル男」など。03年にはシティボーイズミックス PRESENTS「NOTA~恙無き限界ワルツ~」に出演。以降、フライヤーデザインを手がける男子はだまってなさいよ!や「吾妻橋ダンスクロッシングvol.2」などにも出演。活動の場を広げている。