しりあがり寿×五月女ケイ子が語るシネマ歌舞伎「東海道中膝栗毛 歌舞伎座捕物帖」|現実と虚構のレイヤーごと楽しめ!やじきた in シネマ歌舞伎

個性豊かなキャラクター

──「歌舞伎座捕物帖」には濃いキャラクターが勢ぞろいですが、気になった登場人物はいましたか?

しりあがり 俺はね、市川染五郎さんと市川團子さん。染五郎さんが割とゆったりしているのに対して、團子さんはパリッとしてる感じで。それぞれすげえなあ、って思ったなあ。

左から五月女ケイ子、しりあがり寿。

五月女 歌舞伎声というか、よく通る声で、すごくお上手でしたよね。

しりあがり 染五郎さんと團子さん、この2人、これから何十年もライバルなわけだよね……こういう関係って、なかなかないよね。あと10年、20年経ってこの2人が「やじきた」をやるようになったら面白いよね。

五月女 いいですねえ! ぜひ観たい。

しりあがり 五月女さんは、誰か気になったキャラクターいました?

五月女 綾人役の中村隼人さんは、人気があるのかな。イケメンな感じがしました。

──隼人さん、とっても人気があります。

五月女 やっぱり。

しりあがり 俺もこの人は気になりましたね。目が行きました。

「東海道中膝栗毛 歌舞伎座捕物帖」より。奥より中村児太郎、坂東新悟。

五月女 そう、二枚目な感じ。それと、新五郎役の坂東新悟さんが、ちょっとディーン・フジオカな感じ(一同爆笑)。あと、この虎吉役の中村虎之介さんもかわいい感じで、人気ありそう。

しりあがり まだ若くて、守ってあげたいというか、母性本能をくすぐる感じだよね。

「東海道中膝栗毛 歌舞伎座捕物帖」より。左から市川猿弥、市川中車、片岡亀蔵。

──あとは釜桐左衛門役の市川中車さんも、普段のご自身のキャラクターも取り込んだような役で面白かったですね。

五月女 壁紙とか、小道具も凝っていましたね。実は、初めは誰だろうと思って観ていたのですが、「カマキリ」と聞いて中車さんだと気付きました(笑)。

マンガと歌舞伎の意外な共通点

しりあがり お話として、推理とか謎解きってものすごく強いじゃないですか。今まで、歌舞伎でそういったものはなかっただろうから、歌舞伎はまたすごいものを手に入れた感じだね。

五月女 確かに。

──小説などでも、捕物帳は古典の人気ジャンルですよね。今回、歌舞伎だし弥次喜多だし捕物だし、と、スペック満載です。

五月女 てんこ盛りですね。

しりあがり なんなんだろうね(笑)。これだけいろいろと合わせたのは、やっぱりほかに知らない。

五月女ケイ子

五月女 私、前作は観られなかったんですけど、ラスベガスに行ったりするんですよね。

しりあがり そうそう、外国人に扮した中村獅童さんが、ラスベガスの劇場支配人役だったの。それで、弥次さん喜多さんが、お伊勢さんを目指す途中で、富士山の辺りで海に入っちゃって、クジラの潮に吹き飛ばされて、着いたのがラスベガスだったんだよ。

五月女 クジラの潮に飛ばされて!?

しりあがり そう。帰りもね、アメリカで噴水に飛ばされて日本に戻ってきた。

五月女 ホントなんでもありですね!(笑)

しりあがり 今回また、パワーアップしてるもんなあ。

──お祭感がありますよね。

五月女 ほんと、お祭だった。

左から五月女ケイ子、しりあがり寿。

しりあがり 歌舞伎のすごいのはさ、“わちゃわちゃ”だろうとなんだろうと、“型”ができているから、わちゃわちゃのときはこんな感じとか、真剣にやるときはこんな感じとか、体ごとその世界のベースができてる。

五月女 (笑)。私からしたら、型があるのが新鮮です。わかりやすいし、どんな役でもできちゃうから、便利ですよね。

しりあがり 型があるというのは、マンガも似てますよね。「ここにこういう線を足せば“悲しんでる”という意味になる」とか、マンガ的な記号がたくさんある。そういうのって、実は、歴史がないと成立しないんだよね。マンガも歌舞伎も、「こうしたらこう見えた」っていうのは、観る人との約束ですからね。観る人がそこまで育っていないと、型を破ったところで意味がないので、ある程度歴史がないと型も破れないというか。作る方、演じるほうと読者・観客の共同作業なんですよね。

──そう考えると、マンガも歌舞伎もとても高度な文化ですね。

リアリズムかフィクションか

五月女 次は、生でも観たくなりました。

しりあがり ここまで来たら、観たいよね。僕らくらいの年代だと、まだリアリズムかフィクションかの葛藤があった時代で、お芝居的なものを排除しようとしていた風潮がある時代もあったんだよね。だから、お芝居的なものの典型である歌舞伎から遠ざかったところもあったと思うんだけど……。

五月女 そういうの、ありました! 私の学生時代もまさに。すごい昔ですが(笑)。

しりあがり 歌舞伎も、伝統芸能だから歴史があって、そういう時代も経ているわけだもんね。

五月女 その頃は、歌舞伎とは違って、私たちはリアリズムを大事にしようみたいな風潮はありましたよね。

しりあがり でももう、どっちがリアルかなんて、どうでもよくなるよね。言ってみりゃ嘘だからね。嘘を上手についてる、ってことじゃない。だから僕、アニメより特撮が好きだったの。アニメって、もうそもそも嘘じゃない? 一方で、特撮って、「ゴジラ」でもなんでも、リアリズムを追求するじゃない。今は、リアリズムとか、「ホントはどうなの?」ってところは、関係ないよね。

五月女ケイ子

五月女 そうかもしれないですね。私もリアリズムを気にしていた時期はありましたけど、今や子供と「メリー・ポピンズ」の舞台を観に行って、一緒に楽しんだりしています(笑)。お芝居や、舞台特有の嘘というか、生でしか観られないっていうのはやっぱり特別で、表現がリアルなのかどうかを考えることも大切なんですけど、今はフィクションやファンタジーを何も考えずに楽しめる……のも、年取ったからですかね。

しりあがり そうそう、歌舞伎も、いろいろ経て、「やっぱり面白いな」ってなるよね。

五月女 型の考え方も、今になってすごく面白いと思えます。

──年を取るにつれて、歌舞伎の魅力がわかるようになってきたということでしょうか。

しりあがり いろんなものに寛容になってきた(笑)。実際、どんなにリアリズムを重視した芝居があったって、嘘なんだもん。それに比べたらさ、歌舞伎ももちろん“ホント”じゃないけど、親子・血縁の関係や実際の人間関係がベースになっているお芝居が見え隠れしてるのを見ると、そっちのほうがむしろ、本当なんじゃないか、って気もしてくるよね。

五月女 そうかもしれない。嘘をホントに演じている、っていうね。

しりあがり寿

しりあがり そうだよね。だって世の中がそうだもんね。そのものだけを見るわけじゃなくて、その背後にあるお話を、どうしても見ちゃうもんね。

五月女 背景が簡単に見えてきちゃう時代だから、それ込みで確認しなきゃいけなくなりますよね。

しりあがり ラーメン屋でも絶対、汚いラーメン屋のほうがおいしいのは不思議だよね(一同爆笑)。ラーメンだけ見てりゃいいのにさ、頑固おやじが作ろうと作るまいと関係ないのにね。要するに、背後のお話がどうしても被ってきちゃう。

──確かに、現実の背後に見えているレイヤーも、全部込みで楽しめるっていう意味では、歌舞伎って、今すごく象徴的なものになっているのかもしれません。

しりあがり ここから、さらに先に行こうとなるとすごいことになると思う。

五月女 どこに行きますか?(笑)

しりあがり 「シネマ歌舞伎」で、舞台を超えてまた別のメディアに乗っているから、ある意味、そこで1つジャンプしてるよね。さあ、これからどうなるか。

シネマ歌舞伎
「東海道中膝栗毛 歌舞伎座捕物帖こびきちょうなぞときばなし
2018年6月9日(土)より全国公開
シネマ歌舞伎「東海道中膝栗毛 歌舞伎座捕物帖」
あらすじ
お伊勢参りの道中で一文無しとなってしまった弥次さん喜多さんは、歌舞伎座でのアルバイトを再開。が、翌日から人気演目「義経千本桜」の上演を控えた歌舞伎座で、殺人事件が発生する。果たして弥次さん喜多さんは、無事犯人を捕らえることができるのか? 原作者・十返舎一九も想像しなかったであろう、殺人・推理・宙乗りと、愉快痛快なシネマ歌舞伎、最新作だ。
  • 原作:十返舎一九
  • 構成:杉原邦生
  • 脚本:戸部和久
  • 脚本・演出:市川猿之助
配役
  • 弥次郎兵衛:市川染五郎(現・松本幸四郎)
  • 喜多八:市川猿之助
  • 大道具伊兵衛:中村勘九郎
  • 女医羽笠:中村七之助
  • 座元釜桐座衛門:市川中車
  • 天照大神:市川笑也
  • 瀬之川伊之助:坂東巳之助
  • 中山新五郎:坂東新悟
  • 玩具の左七:大谷廣太郎
  • 芳沢綾人:中村隼人
  • 女房お蝶:中村児太郎
  • 舞台番虎吉:中村虎之介
  • 伊之助妹お園:片岡千之助
  • 伊月梵太郎:松本金太郎(現・市川染五郎)
  • 五代政之助:市川團子
  • 瀬之川亀松:中村鶴松
  • 芳沢小歌:市川弘太郎
  • 瀬之川如燕:市川寿猿
  • 芳沢菖之助:澤村宗之助
  • 芳沢琴五衛門:松本錦吾
  • 若竹緑左衛門:市川笑三郎
  • 同心古原仁三郎:市川猿弥
  • 同心戸板雅楽之助:片岡亀蔵
  • 鷲鼻少掾:市川門之助
  • 関為三郎:坂東竹三郎
しりあがり寿(シリアガリコトブキ)
1958年静岡県生まれ。85年に「エレキな春」でマンガ家としてデビュー。主な作品に「流星課長」「ヒゲのOL薮内笹子」「地球防衛家のヒトビト」「コイソモレ先生」「方舟」など。2000年に「時事おやじ2000」「ゆるゆるオヤジ」にて第46回文藝春秋漫画賞を、01年に「弥次喜多 in DEEP」にて第5回手塚治虫文化賞マンガ優秀賞を受賞、14年に紫綬褒章を受章。しりあがりの事務所・有限会社さるやまハゲの助が主催する「さるハゲロックフェスティバル」は18年に10周年を迎えた。また18年には流山児★事務所に初戯曲「オケハザマ」を書き下ろした。
五月女ケイ子(ソオトメケイコ)
1974年山口県生まれ。イラストレーター、コラムニスト。2000年にテレビ番組「宝島の地図」のコーナー「新しい単位」でイラストを担当し、注目を集める。主な作品に「愛・バカ博」「五月女ケイ子のレッツ!!古事記」「淑女の身の上相談」「新しい単位」「バカリズムのエロリズム論」「でんぱ組.incの妄想大百科」「金メダル男」など。03年にはシティボーイズミックス PRESENTS「NOTA~恙無き限界ワルツ~」に出演。以降、フライヤーデザインを手がける男子はだまってなさいよ!や「吾妻橋ダンスクロッシングvol.2」などにも出演。活動の場を広げている。