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しりあがり寿×五月女ケイ子が語るシネマ歌舞伎「東海道中膝栗毛 歌舞伎座捕物帖」|現実と虚構のレイヤーごと楽しめ!やじきた in シネマ歌舞伎

2016年に上演された「東海道中膝栗毛」は、お伊勢さんを目指す弥次さん喜多さんコンビが、さまざまな宿場で大騒ぎした挙げ句、なんの因果かラスベガスにまで行ってしまうという、破天荒な物語とド派手な演出が話題となった。本シリーズの第2弾は、なんと捕物帳。前作に引き続き、松本幸四郎扮する弥次さん、市川猿之助扮する喜多さんの名物コンビが、歌舞伎座で起きた殺人事件の推理に奔走する「東海道中膝栗毛 歌舞伎座捕物帖(こびきちょうなぞときばなし)」だ。6月9日より、本作が舞台を飛び出し全国の映画館で上映されるのを記念して、ステージナタリーでは、マンガ家・しりあがり寿と、イラストレーター・五月女ケイ子の対談を敢行した。老若男女を魅了し続ける独特な世界観で表現を続ける2人は、「東海道中膝栗毛 歌舞伎座捕物帖」をどのように観たのだろうか。なお本特集の最後には、「歌舞伎座捕物帖」の作品世界を描いた、2人のイラストも掲載されているので、ぜひ最後まで読んでほしい。

取材・文 / 的場容子 撮影 / 三浦一喜

歌舞伎の入り口に立って

──お二人は、普段から歌舞伎はよくご覧になるのでしょうか?

左から五月女ケイ子、しりあがり寿。

しりあがり寿 実は、あんまり観てないんです。通算でも3、4回くらいかな。

五月女ケイ子 私も同じくらいなんですが、たまたま1カ月くらい前に友達に誘われて、珍しく歌舞伎を観に行ったんです。

──じゃあ、歌舞伎づいていますね(笑)。

五月女 そうなんです! それを観に行った日に、今回の対談のお話をいただいたこともあって。

しりあがり 歌舞伎とご縁があるね(笑)。

五月女 そう、興味を持ち始めています。

なんでもあり! 現実と虚構のレイヤーを楽しむ

──前作のシネマ歌舞伎「東海道中膝栗毛」(2017年)では、しりあがりさんはパンフレットにイラストを寄せられていますが、今回、シリーズ2作目をご覧になって、いかがでしたか?

「東海道中膝栗毛 歌舞伎座捕物帖」より。左から市川染五郎(現・松本幸四郎)、市川猿之助。

しりあがり 率直に言って、「すげえ、ここまでやっていいんだな!」と。こう言っちゃなんだけど、そもそも「やじきた」ってなんだろうと思うと、根本としては、弥次さん喜多さんがお伊勢さんに行く間にいろんなエピソードがある話ですよね。でも、今回こういうふうに捕物帳となって、(もともとの設定から)残ってるのは弥次さん喜多さんだけじゃん、って(笑)。

五月女 私も、そうなんじゃないかな、って(笑)。原作の「東海道中膝栗毛」は、しりあがりさんの「真夜中の弥次さん喜多さん」で知ってるくらいで、読んだときに「すごいな!」と思ったんですけど、あれは原作に忠実なんですよね。

しりあがり けっこう忠実ですよ。一応「お伊勢さんに行く」っていう目標があるしね。今回の「歌舞伎座捕物帖」は、「いや、遠くまで来たなあ」という感じ(笑)。普通、例えば「アラビアン・ナイト」だったら、シェヘラザードが王様に殺されないようにお話を続けるとか、「西遊記」だったら、天竺にお経を取りに行くっていうのが大きな話としてあるじゃん。でも、今回はそれもないわけだから、歌舞伎はすごいな、って思いましたね。

──懐の深さ、でしょうか。

しりあがり うん。「なんでもあり」って言うと言い方は悪いけど、それだけ新しいことに積極的なんだな、というのは感じました。

五月女ケイ子

五月女 私も、この言い方がいいかはわからないけど、笑いどころに関して言うと、“歌舞伎の吉本新喜劇”みたいなところもありましたよね。女方に扮した伊之助(坂東巳之助)が、きれいななりをして大声で怒鳴り散らしたり、年配の役者・為三郎(坂東竹三郎)が、きれいな女方の役である静御前を50年ぶりにやったり。歌舞伎を知り尽くしている猿之助さんだからこそできる演出のように思いました。歌舞伎の観せ方を知ってるからこそできる芝居やギャグが、たくさん盛り込まれていたと思います。

──きっと歌舞伎ファンにはグッとくるような演出だし、それ以外の人でも楽しめる仕掛けが満載ですよね。

歌舞伎だからできる“メタ芝居”

──今回、歌舞伎座で行われる興行そのものが舞台ということで、劇中劇の要素もあり、普段はなかなか見られない、舞台のリアルな裏側や仕掛けが見られたりするのもポイントでした。

五月女 舞台裏って、あんなふうになってるんですね。歌舞伎俳優さんって、改めてすごいなと思いました。舞台裏であんなに走って滑って……着物とか乱れないんですかね。プロですよね(笑)。

「東海道中膝栗毛 歌舞伎座捕物帖」より。劇中劇「義経千本桜」の稽古中に第1の殺人が発生した場面。

しりあがり 劇中劇というと、第1弾の「東海道中膝栗毛」も入り組んだ設定だったけど、入れ子構造が今回さらに複雑になっていましたね。歌舞伎の歴史も、“一家”の歴史も入っているわけで。松本幸四郎さんと息子の市川染五郎さん、市川猿之助さんと甥っ子の市川團子さん、そして團子さんのお父さんである市川中車さん。それでまた、中村勘九郎さんと七之助さんの兄弟も登場するし……劇中の役柄の関係はもちろん、実際の家族構成も含めてどこを斬っても楽しめる。

五月女 知らない人が観ても、歌舞伎ってこういうことになってるんだってわかるようなエッセンスが感じられますよね。家族なのに名字が違ったりとか、稽古する風景だとか……いろいろ、勉強になりました(笑)。

しりあがり寿

しりあがり テーマ自体が歌舞伎の一家同士のことだったりするもんね。ある意味、歌舞伎ってすっごく開かれてるんだと感じたなあ。普通なら、作品はその虚構の世界の中だけで完結していて、それ以上のことはないわけだけど、歌舞伎だと、外野の話がみんな取り込まれて作品の中ににじみ出ているもんね。もう、外に対して開かれすぎてないか?ってくらい。舞台の上だけで収まっている感じがしない。

五月女 前に私が観た古典だと、例えばろうそくの火だけで花道から退場する様子を見せるとか、演目によって昔から見どころが決まっていて、舞台の中にある伝統を楽しむというところがあるけど、今回の「歌舞伎座捕物帖」は、もっと自由で、いろんなものを壊しにかかっていますよね。歌舞伎でも、伝統と革新の両方があるんですかね。

しりあがり スーパー歌舞伎なんかもあるもんね。あとは、宮藤官九郎さん演出の「大江戸りびんぐでっど」(2009年)っていうゾンビものもすごかったよね。僕も道具幕のイラストで参加したんだけど。

五月女 それも歌舞伎座で上演されたんですか?

しりあがり そう。それこそ(中村)勘三郎さんや七之助さん、染五郎さん(現・松本幸四郎)たちが出演して。あれも面白かったね。

シネマ歌舞伎
「東海道中膝栗毛 歌舞伎座捕物帖こびきちょうなぞときばなし
2018年6月9日(土)より全国公開
シネマ歌舞伎「東海道中膝栗毛 歌舞伎座捕物帖」
あらすじ
お伊勢参りの道中で一文無しとなってしまった弥次さん喜多さんは、歌舞伎座でのアルバイトを再開。が、翌日から人気演目「義経千本桜」の上演を控えた歌舞伎座で、殺人事件が発生する。果たして弥次さん喜多さんは、無事犯人を捕らえることができるのか? 原作者・十返舎一九も想像しなかったであろう、殺人・推理・宙乗りと、愉快痛快なシネマ歌舞伎、最新作だ。
  • 原作:十返舎一九
  • 構成:杉原邦生
  • 脚本:戸部和久
  • 脚本・演出:市川猿之助
配役
  • 弥次郎兵衛:市川染五郎(現・松本幸四郎)
  • 喜多八:市川猿之助
  • 大道具伊兵衛:中村勘九郎
  • 女医羽笠:中村七之助
  • 座元釜桐座衛門:市川中車
  • 天照大神:市川笑也
  • 瀬之川伊之助:坂東巳之助
  • 中山新五郎:坂東新悟
  • 玩具の左七:大谷廣太郎
  • 芳沢綾人:中村隼人
  • 女房お蝶:中村児太郎
  • 舞台番虎吉:中村虎之介
  • 伊之助妹お園:片岡千之助
  • 伊月梵太郎:松本金太郎(現・市川染五郎)
  • 五代政之助:市川團子
  • 瀬之川亀松:中村鶴松
  • 芳沢小歌:市川弘太郎
  • 瀬之川如燕:市川寿猿
  • 芳沢菖之助:澤村宗之助
  • 芳沢琴五衛門:松本錦吾
  • 若竹緑左衛門:市川笑三郎
  • 同心古原仁三郎:市川猿弥
  • 同心戸板雅楽之助:片岡亀蔵
  • 鷲鼻少掾:市川門之助
  • 関為三郎:坂東竹三郎
しりあがり寿(シリアガリコトブキ)
1958年静岡県生まれ。85年に「エレキな春」でマンガ家としてデビュー。主な作品に「流星課長」「ヒゲのOL薮内笹子」「地球防衛家のヒトビト」「コイソモレ先生」「方舟」など。2000年に「時事おやじ2000」「ゆるゆるオヤジ」にて第46回文藝春秋漫画賞を、01年に「弥次喜多 in DEEP」にて第5回手塚治虫文化賞マンガ優秀賞を受賞、14年に紫綬褒章を受章。しりあがりの事務所・有限会社さるやまハゲの助が主催する「さるハゲロックフェスティバル」は18年に10周年を迎えた。また18年には流山児★事務所に初戯曲「オケハザマ」を書き下ろした。
五月女ケイ子(ソオトメケイコ)
1974年山口県生まれ。イラストレーター、コラムニスト。2000年にテレビ番組「宝島の地図」のコーナー「新しい単位」でイラストを担当し、注目を集める。主な作品に「愛・バカ博」「五月女ケイ子のレッツ!!古事記」「淑女の身の上相談」「新しい単位」「バカリズムのエロリズム論」「でんぱ組.incの妄想大百科」「金メダル男」など。03年にはシティボーイズミックス PRESENTS「NOTA~恙無き限界ワルツ~」に出演。以降、フライヤーデザインを手がける男子はだまってなさいよ!や「吾妻橋ダンスクロッシングvol.2」などにも出演。活動の場を広げている。