木戸口歌穂がソロライブ開催、海外クリエイターとの対談から紐解く“New Musical Theatre”の魅力

木戸口歌穂のソロライブ「Kaho sings New Musical Theatre」が、9月16日に東京・eplus LIVING ROOM CAFE&DININGで開催される。

木戸口は兵庫県在住のアーティスト。アメリカ・ニューヨークの若手クリエイターが作る“New Musical Theatre”に魅せられ、2015年から自身のYouTubeチャンネルで歌唱動画を配信している。その後、自ら海外のクリエイターとコンタクトを取り、交流を深めてきた。中でも「盗まれた雷撃 パーシー・ジャクソン ミュージカル」の楽曲を手がけるロブ・ロキーキと親交が深く、2019年に開催された木戸口の初ライブ「Who is Kaho?」には彼がゲストとして参加した。

ステージナタリーでは、「Kaho sings New Musical Theatre」の開催を記念して、木戸口とロキーキにインタビューを実施。ミュージカルという絆で結ばれた2人に、“New Musical Theatre”の魅力を聞いた。

取材・文 / 大滝知里通訳 / 黒田麻理恵

始まりは54 Belowへの憧れ

──木戸口さんはアメリカ・ニューヨークにある54 Belowというキャバレーに立つことを夢見て活動を始められたそうですが、54 Belowの何にそれほど惹かれたのでしょうか?

木戸口歌穂 以前から私はよくYouTubeを観ていたんですが、実は私が最初に出会った動画は、54 Belowのものではなかったんです。そのうち、とあるミュージカルライターが54 Belowで活動している様子をたくさんアップしているのを知って、そこから54 Belowの関連動画を観始めました。すごく良い雰囲気だし、歌っている人たちも楽しそうにしていて、良いエネルギーに満ちているのを映像から感じることができたんです。彼らの様子にこちらも楽しくなって、どんどん“好き”が増えていって、大好きになってしまって(笑)。「私もその空気感を肌で感じたい! 54 Belowで歌ったら“生きてる”と感じられるだろうな」って思いました。

2019年に開催された「Who is Kaho?」より、木戸口歌穂。

2019年に開催された「Who is Kaho?」より、木戸口歌穂。

──もともと歌はお好きだったんですか?

木戸口 そうですね。ミュージカルに出会う前から歌うことは好きでした。

──ニューヨークで活動するロキーキさんにお聞きしたいのですが、54 Belowは現地のシアターゴアーにとって、どのような場所なのでしょう?

ロブ・ロキーキ 54 Belowはキャバレーのような場所で、コンサートやイベントが行われています。もちろんブロードウェイ級の作品の歌手やパフォーマーがパフォーマンスを披露しているんですが、今は、新しい作品ができるハブ(中核)としても知られていますね。54 Belowのクリエイティブ / プログラミングディレクターを務めるミュージカルプロデューサーのジェニファー・アシュリー・テッパーが新しいミュージカル作品を好きで、次第に僕たちのようなミュージカルのクリエイターが集まって、作品を披露する場になったんです。こぢんまりとして、家族のように思える、とても素敵な場所ですよ。

2019年に開催された「Who is Kaho?」より、ロブ・ロキーキ。

2019年に開催された「Who is Kaho?」より、ロブ・ロキーキ。

──敷居が高い空間ではないんですね。

ロキーキ ウェルカムな場所だから、演劇やミュージカルが大好きな舞台ファンも来れば、実際に活動している作家も来る。ニューヨークの演劇全般を好きな人も訪れるので、年齢層もバラバラだし、いろいろな人が多様に集まれる場所です。

──そんな54 Belowを目指して活動を始めた木戸口さんは、ご自身の歌唱動画をYouTubeで次々に公開するようになりました。同時に、海外のクリエイターに自ら連絡を取りますが、なぜ「海外のクリエイターとつながらなければならない」と感じたのでしょうか?

木戸口 彼らの曲を聴いたときに、「私はこれが好き!」って感じたんですよ。最初は英語も全然わからないから、何を言っている歌詞なのか、よくわからなかった。でも、全身が「好き!」って言うように、音楽が私にフィットしたんです。そこから「歌いたい」という気持ちに変わっていって。クリエイターたちに「その曲が好き」とか「あなたが書いているほかの作品も好き」って言いたいけど、私は気持ちや思いを言葉にすることが苦手なんです。だから思いを伝えるために、自分で歌って動画を撮って、YouTubeにアップしたものを送るようになりました。言葉では伝えられへんけど、歌っている姿で知ってもらいたかったし、これからも曲を書き続けてほしかったので。それに、歌うことを通して自分の中で初めての感情が湧き上がったり、自分自身を知ることができたりした気がして。感謝の気持ちを伝えたくて送った!っていう感じ(笑)。

──すごい行動力だなと思いました。木戸口さんが“フィットした”楽曲はNew Musical Theatre(編集注:主にニューヨークを拠点に活動するクリエイターによって制作された現代ミュージカルを指す)に限定されますか?

木戸口 最初に好きになったのがミュージカル「レント」でした。もともとは「レント」もNew Musical Theatreのような感じだったので、New Musical Theatreの曲なのかな。でも、New Musical Theatreの曲に好きな感情がバーン!となりました。

──ロキーキさんとは、ご自身の動画を送る過程で出会ったのですか?

木戸口 「レント」のあとに、作詞作曲家で脚本家であるジョー・アイコニスの「Broadway, Here I Come!」という曲をYouTubeで見つけて。それがきっかけでハマっていったところがあるんですが、彼は仲間たちと組んで、“Iconis&Family”としてコンサートをしているんです。その中の1人にロブがいて。そこからロブの書いたミュージカルや曲を知っていきました。

孤独の中、海の向こうから“愛”が届いた

──ロキーキさんは、2019年に東京で開催された木戸口さんの初めてとなるコンサート「Who is Kaho?」にゲストで参加しています。木戸口さんの活動や、海外のクリエイターに自らコンタクトを取るガッツをどのように感じましたか?

ロキーキ まず、2000年代にポップスやロック的なサウンドをミュージカルに取り戻そうというムーブメントがあって、僕やジョーはその中でがんばっていたんですが、たとえて言うなら「レント」以来となる本格的なロック調の楽曲・アレンジメントをミュージカルで使ってみるという活動をしていたんですね。僕らは当時はまだ新しいYouTubeを介して楽曲を発表していたんです。と言うのも、伝統的な手法では広まるのに時間もかかるし、間に入る人間もたくさんいる。でも、YouTubeならすぐに曲を出すことができたし、オンラインで自分たちの存在をすぐに示すことができたから。作曲家の仕事というのはけっこう孤独で、誰が本当に聴いてくれているのかわからないんです。小さなプロダクションや商業的ではない活動では特に孤独を感じます。歌穂のように僕たちに連絡をしてくれる人がいたことにはすごく驚いたし、「僕らの音楽を聴いてくれている人がいた!」という証拠にもなった。しかもそれが海の向こう側の人なんだもの(笑)。ピュアなファンとして連絡を寄越してくれた彼女は私たちのコミュニティの中でも「すごい人だ」と知られていて、とにかく感動しました。それ以上に歌穂の歌声も素敵だったし、パフォーマーとしても立派で、大好きです。

2019年に開催された「Who is Kaho?」のビジュアル。

2019年に開催された「Who is Kaho?」のビジュアル。

──「歌穂の歌声も素敵」ということですが、動画を拝見して、歌う技術以上に “楽しい!”が伝わってきて、心が動かされました。そこが評価され、海外のアニメ作品や「PAC-MAN」公式テーマソングのレコーディング依頼などにつながったそうですが、ロキーキさんが思う木戸口さんの歌い手としての魅力はどのようなところにありますか?

ロキーキ 僕が歌穂に圧倒されるのは、最初は曲を聴きながら英語の言葉なりを取得していった、そのプロセスもそうなんだけど、スキルというよりはストーリーテラーとして、役者として成長したところ。歌穂は想像力が豊かで、歌っている曲の“中身”とコネクションを持つのが得意なんです。役柄として歌っているんだけど、そこにはエゴがなくて、純粋に歌っている内容とつながることができていると感じさせる。生でパフォーマンスを観たときは興奮したけど、彼女がどれくらいお客さんとエネルギーを交わしているのかというのも感じることができて、舞台をすべて主導できる力を持っているなと思いました。

木戸口 いや、照れます(笑)。

左から堂本麻夏プロデューサー、木戸口歌穂、「Who is Kaho?」にゲスト出演したアマンダ・フリン、ロブ・ロキーキ。

左から堂本麻夏プロデューサー、木戸口歌穂、「Who is Kaho?」にゲスト出演したアマンダ・フリン、ロブ・ロキーキ。

──木戸口さんは歌唱の中で“演じる”ことを意識していますか?

木戸口 演技というか、歌っているとうれしい気持ちが先行して、自分が幸せになるんです。普段の生活では自分を表現することが得意ではないんですが、メロディを聴いて生まれた感情や、自分の中で動く何かを、歌いながら“表に出せた”ような不思議な感覚になることがあります。あとから歌詞の内容とメロディから感じ取れる感情を照らし合わせると、「そらこう感じるわな」って思うこともあるんですけど(笑)。それが正解かはわからないけど、自分なりの感じ方を歌に乗せているつもりです。

2022年9月13日更新