高級感あふれる空間演出とホスピタリティで貴族の世界の住人に|城田優がイマーシブ・フォート東京「真夜中の晩餐会」を体験

同時多発的に起こるドラマティックな展開、城田優が招かれた「真夜中の晩餐会」

俳優としてミュージカルや映像作品に出演するほか、「ファントム」(2019年、2023年)、「カーテンズ」(2022年)といったミュージカル作品では主演に加えて演出も手がけるなど、多岐にわたって活躍するアーティスト・城田優が、「真夜中の晩餐会」を体験。自身の演出作で、観客の“没入感”を大切にした作品づくりに励んできた城田は、イマーシブ・フォート東京の作品群でも“最高峰”とされる「真夜中の晩餐会」をどう体験し、その世界に何を見たのか。

イマーシブの世界は招待状の文面から始まっていた

レッドカーペットが敷き詰められたイマーシブ・フォート東京の館内を奥へと進み、象徴的な大広場を抜けたところに、「真夜中の晩餐会」の入り口はある。ベルベットの重厚なドレープカーテンをめくって中に入ると、奥にはバーカウンターがあり、そこで観客は、今宵開かれる19世紀フランス貴族の晩餐会の招待状を受け取る。

本作では、開演30分前までの入場が推奨されていて、15分前にもなると、ほとんどの観客が受付を終え、期待に満ちた表情で開幕を待っていた。客層は二十代、三十代の女性が多いが、中には若いカップルや五十代くらいの夫婦らしき男女の姿も。ドレスコードはないものの、ワンピースやジャケットなど、皆作品を意識してか、少しドレスアップしたファッションで、約2時間の別世界への旅を存分に楽しもうとしている。

城田は、バーカウンターの端で瞳をらんらんとさせながら周囲を見渡していた。聞けば、「謎解きやマダミス(マーダーミステリー)が好きでよく参加する」のだとか。「どんな体験になるのか想像がつかない」と、招待状の文面をじっくりと読みながら、少年のような顔つきで開演を待った。

「真夜中の晩餐会」では、晩餐会で婚約を発表するソフィの学友や、晩餐会の主催者であるジルベール家当主・ローランのチェス仲間だった女性など、観客は招待状に書かれた人物として晩餐会に出席する。だが、自分が何者であるかを他人に明かすのはNG。会話を重ね、行動を共にすることで相手を知っていく、一期一会の晩餐会をリアルに立ち上げる演出が、すでに始まっていた。

完璧なまでに作り込まれた世界観に“没入”する

仄暗い森の小径を抜けた先には、石造りの屋敷の中庭がある。真夜中にジルベール邸に集まった観客は、そこで不穏な出来事を目撃するのだが、高身長の城田は、ほかの観客が見えやすいようにスッと場の中心を離れ、集団の後ろから、まるで舞台を俯瞰する演出家のように、静かに事の起こりを見守っていた。

観客が登場人物たちと初めて密に会話をするのは、邸宅内でのシーン。調度品に囲まれた高級感あふれる屋敷の中で、メイドに客人としてもてなされ、「屋敷までの道中はどうだったか」「お久しぶり」など、気軽な会話に役として応じれば、本当にその世界の住人になれたような気がした。

マリオンという旅慣れた貴族の男性として個室でくつろいでいた城田は、まもなく婚約を発表するソフィから「別に想い人がいる」と打ち明けられると、「アレま!」と素直に驚いた様子で、道ならぬ恋にどうアドバイスをしたものかと、腕組みをしながら真剣に悩み、イマーシブな世界を楽しみ始める。そんな城田の姿からも、イマーシブな空間においては参加者の想像力や瞬発力が、作品を練り上げるものの一部となる、ひいては物語を構成する一員になれることが伝わってきた。

晩餐会が行われる広間には豪華なテーブルセットが設えられた長テーブルが置かれ、シャンデリアや壁面を埋める絵画、写真がきらびやかな雰囲気を醸し出していた。シャンパングラスを片手に乾杯を終えたあと、主催者ローランや貴族のパトロンなど、さまざまな人物があいさつに訪れる。と同時に、“愛”をテーマにしたコース料理が次々とテーブルを埋めていく。2匹の蝶をあしらった鯛のカルパッチョは鮮やかな色彩で食欲をそそり、牛肉のローストにはコクのあるマデラソースが注がれた。デザートのチョコレートムースは甘く、シックなテクスチャーで、添えられたレースのチュイルが若い男女の門出を祝福するような華やかさを演出した。観客が食事を楽しんでいる間にも、ソフィが歌を披露したり、観客がお祝いのスピーチを述べたりと晩餐会は進行する。その流れで、観客の1人が大勢の前で即興でスピーチを読み上げると、城田は「Whoo!」と会場に響き渡るような声量で称賛を贈った。それがきっかけになったのか、貴族たちと会話を重ねたからなのか、城田は、一層貴族らしく振る舞い始めた。晩餐会のダンスでは、舞台の1シーンかのような身のこなしで女性をエスコートし、邸宅内ではドレス姿の観客の服装を褒め、廊下ですれ違えば自ら声をかける。貴族という別世界の雰囲気に臆することなく、役として生きる順応力はさすが。しかしそれは城田だけでなく、一般の参加者も同様で、作り込まれた世界観と空間演出、キャストの温かなホスピタリティにより、誰もが憧れの貴族としての物語に没入していた。

だが、幸福で華やかな晩餐会は、唐突に終わりを告げる。会場にあふれた光は闇へと変わり、観客はドラマティックな展開へ引き込まれ……この先はぜひ、自身の目で確かめてみてほしい。

城田優が「真夜中の晩餐会」を振り返る

小さな謎が1つずつ解けていく快感

──イマーシブ・フォート東京で“最高峰”とされる「真夜中の晩餐会」を体験していただきました。どのような時間でしたか?

城田優 小さな謎が1つずつ解けていくような快感がずっと続きましたね。特に、前半は想像したり、考えたりする時間が圧倒的に多かったのですが、次第に“どこを観るか”という自分の選択によって物語が分岐していく面白さに変わり、自分の物語を追いかけることができる。これは、劇場で舞台やミュージカルを観るときには体験できない感覚でした。物語の核となるエピソードも、ベールに包まれた神秘的なもので惹かれましたし、サイドストーリーも含め、一度体験しただけではすべてを把握しきれない層の厚さがあって、何度も体験してみたくなるような作品でした。

──城田さんは、ご自身の作品にイマーシブを取り入れていらっしゃいますが、イマーシブシアターの面白みをどのようなところに感じていますか。

城田 足を踏み入れた瞬間から劇場を出る瞬間まで、“自分が違う世界に来た”ということをどれだけ思い込めるかだと思っています。作品ごとに、開演前の会場の客電(客席の明かり)を変えたり、場面転換であってもそうとは見せないようなシームレスな演出に力を入れたり、アナウンスを工夫したり……それらを重ねることで、観客にある種の“錯覚”を起こさせる。それを、実際に身体や五感を使って楽しめるのが体験型演劇・イマーシブシアターの魅力なんじゃないかと思います。ニューヨークやロンドンでは劇場をまるっと作品の世界観にしてしまうこともありますが、日本ではなかなか難しい現在、イマーシブ・フォート東京で上演されている作品では、まさにそれが行われている。新感覚のエンタテインメントの形や、いかに没入感を作るかという部分でとても勉強になりました。

──「真夜中の晩餐会」ではキャストとの密なコミュニケーションも楽しむことができます。その点はいかがでしたか?

城田 ジルベール家の屋敷の中で、ある女性にブラシで髪をとかしてもらったんです。そのときはまだ彼女が誰であるかもわからない状態で、急な展開に「えっ何事!?」と戸惑ったんですが(笑)、そのシーンが物語に“入っていった”ことを実感した瞬間でもあって。キャストとのコンタクトによって自分の立場や役割が腹に落ち、登場人物としてその世界になじんでいくことができました。また、晩餐会の広間で女性の観客が、台本もなしに見事なスピーチをされていたんですが、その方が役になりきって自然に振る舞う様子に感動して、余計に“没入したい”と触発された部分もあります。観客の皆さんが真っすぐに楽しまれていた姿に、協働という意味でも刺激を受けました。

皆、アンユージュアルで特別な体験を求めている

──演出面ではどのようなことを感じましたか?

城田 先ほど言った、“いかに没入感を作るか”というところで、世界観の作り上げ方が本当に素晴らしかったと思います。例えば、当たり前のことかもしれませんが、キャストが役としての自覚を持って誰もいないエリアに入るまで演技をし続けていることや、細部にこだわった装飾、晩餐会での重厚感のあるカトラリー、プロ並みのサーブ……それらは、僕がエンタテインメントを作るうえで最も大事だと考えている、“現実から引き離してくれる力”を十分に物語るような演出でした。ただ、貴族の世界観を完璧なまでに楽しめるからこそ、一方で、天井が抜けていることで芝居に影響が出てしまったり、位置によって会話が聞こえにくくなってしまうといった建物の機構上の影響が、少なからず発生する場面もあって。どのような演出であれば解決できるのかと、おこがましくもクリエイターの視点で考えながら、観ている時間もありました。とはいえ、誰しもアンユージュアルで特別な体験がしたくて、趣味に没頭したり、芸術に触れたりする中で、広い空間で、劇世界の生きた人間と言葉を交わし、自らもその一部になる体験ができるのは、とても素晴らしい時間だったと思います。

憧れの別世界で、自ら主役を見つける楽しみ

──ここで、「真夜中の晩餐会」のクリエイティブディレクターの興山友恵さんにご同席いただき、作品の背景を伺えればと思います。興山さんは、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンや西武園ゆうえんちでイマーシブシアターの作品をヒットさせ、株式会社刀に参画してからはイマーシブ・フォート東京で多彩な演劇体験を生み出しています。何を核に「真夜中の晩餐会」を創作されたのか、背景を教えていただけますか。

興山友恵 弊社ではまず、人気を集めるイマーシブシアターの傾向を市場調査で分析し、価格帯を含め、集客見込みを想定したうえで新作の制作に取りかかるのですが、「真夜中の晩餐会」では“プレミアムな価格設定”が1つの条件でした。イマーシブ・フォート東京にはすでに「江戸花魁奇譚」という、体験時間70分でチケット代が1万4800円(税込)の作品があったので、それを超えるラグジュアリーでボリューム感のあるイマーシブ体験を考えたときに、キャストとインタラクションを取るだけでなく、生活の一部でもある“食事”を取り入れて、物理的にもぜいたくに感じていただけるライブエンタテインメントをご提供したいと考えました。加えて“洋物”と“貴族”という要素によって、誰もが一度は憧れるような作品世界にゲストの皆さんをお招きできるのではないかと。また、華やかな世界に、対照的な暗さや儚さ、非現実的な世界観を織り交ぜられたら、満足度の高い作品として成立するのではないかと思いました。

城田 本当に、プレミアムなイマーシブ体験でした。屋敷の個室での体験を含め、役の設定やルートによって出会う人物や耳にすることが毎回違うので、全体像を想像しながら頭の中でパズルを組み立てていくという面白さがありますし、現実では起こり得ない状況に自分が入ってドキドキする、ワクワクするという体験としても、非常にスケールが大きいものでした。広大な敷地を使って大勢が動き回る物語を設計するときに、どこに軸を置いたのですか?

興山 難しいところですが、主軸となるストーリーは存在しつつ、物語の分岐は冒頭からたくさんあるので、主人公らしき人物とゲスト全員が触れ合えるかと言えば、それは至難の業です。そのため、主役だと感じる人物をゲスト自ら作ってもらいたいと考えました。ジルベール邸で濃密な会話を交わした人物が、実は昔からの友人だった、という設定のゲストには、その友人の物語を最後まで観たいと思わせるように演出したかったんです。ただし、エンディングは主軸のストーリーでドカンとした結末が必要になる。そこで、体験中はわからなくても、帰り道に頭の中で、分岐したピースを拾い集めて「こうだったのかな」と想像が膨らむような設計を目指しました。物理的にすべてを追うことは難しくても、楽しみ方を自分で探しながら、自由散策の時間には思いっきり追いかけてもらう。すべてルート化して誰かに引っ張っていってもらうことは簡単ですが、そうすると決まった物語、決まった結末にしか出会えないので、“自由度の高さ”も念頭に置いて作りました。

城田 自由散策では、同時多発的にストーリーが進んでいるんだろうと想像しつつ、時間が気になって同じフロアで起こっているほかの出来事を探したりしましたが、どのタイミングでどこへ向かうかという判断も重要になるのかなと思います。だからこそ、自分だけのスペシャルな体験ができる瞬間もあるんだろうなと思いますが……僕にはこんなに壮大な演出はできないです。

興山 いえ、私も本当に大変でした(笑)。

城田 また何よりも素晴らしいなと感じたのは、目の前で参加されていた女性が涙を流していたことです。それが、「真夜中の晩餐会」というイマーシブシアターが導き出した答えであり、“すべて”だと感じました。

興山 ありがとうございます。

──劇場で観劇することに慣れている観客に、お二人はイマーシブシアターをどのようにアピールしたいですか?

興山 イマーシブ・フォート東京の開業をはじめ、イマーシブシアターの認知は高まってきているとは思いますが、日本ではまだ、“作品を体験しながら没入していく”という観劇のスタイルが浸透したとは言えません。でも、人生は一度きり! ぜひ違う形を恐れずに試していただきたいです。また、身構えてしまう方のために「真夜中の晩餐会」ではさまざまな工夫が凝らされていますし、置いてあるもの1つとっても、こだわって世界観を作り上げていますので、ぜひ好奇心を持って足をお運びください。

城田 存在しない世界を作り上げる役者たちの姿を観て、泣いたり笑ったりして心を動かすという意味では、イマーシブシアターは舞台の延長線上にあり、でも客席で感じることよりも濃厚な体験ができる。ミュージカルや演劇が好きで、別世界に没入したくて劇場に通っている僕たちが求めているものを何倍にもして返してもらえる空間です。ぜひ体験してください。

プロフィール

城田優(シロタユウ)

1985年、東京都生まれ。2003年に俳優デビュー以降、テレビドラマ、映画、舞台、音楽など幅広いジャンルで活躍。近年の主な出演作に、テレビドラマ「エンジェルフライト」「いきなり婚」、連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」(語り手)、映画「コンフィデンスマンJP 英雄編」など。クリエイターとしても活躍の場を広げ、主演したミュージカル「ファントム」(2019年、2023年)とミュージカル「カーテンズ」(2022年)、メインパフォーマーを務めたbillboard classics×SNOOPY「Magical Christmas Night 2024」では演出も手がけた。エンターテインメントショー「TOKYO~the city of music and love~」で初の海外進出を果たした。2025年5月から7月にかけてミュージカル「ダンス オブ ヴァンパイア」にW主演。8月にサントリーホール オルガン・フェスティバル「オルガン・ステージリーディング『モーツァルト!』」で監修・朗読を担当。2026年の「PRETTY WOMAN The Musical」では日本版上演台本・訳詞を担い、出演もする。音楽では、中森明菜トリビュートアルバム「明響」に「少女A」で参加。MVで披露した妖艶なビジュアルが話題になった。

興山友恵(オキヤマトモエ)

クリエイティブディレクター。アメリカ・ロサンゼルスのカリフォルニア州立大学でエンタテインメントを学んだあと、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(以下USJ)のプロデューサーを経て株式会社刀に入社。USJでは「ホテル・アルバートⅡ」(2019年)製作総指揮を務めた。2021年にリニューアルを行った西武園ゆうえんちでの「没入型ドラマティック・レストラン 豪華列車はミステリーを乗せて」(2023年~)や、イマーシブ・フォート東京での「江戸花魁奇譚」(2023年~)をはじめ複数演目の制作を担い、2024年にはイギリスのメディア・blooloopにてImmersive Influencer list for 2024に選出された。