松田正隆×長島確「フェスティバル/トーキョー18」|演劇は今、抵抗できているか

今回はいわきや南相馬へ

──「福島」は今年で3年目、シリーズ最終年となります。戯曲も公開されていますが、福島の描かれ方や作家の捉え方に3年間での変化を感じることはありますか?

松田正隆

松田 最初の年は福島市内に限定してリサーチが始まったんですよ。福島市って海側ではないですがそれなりに影響を受けていると言うか、被災した方も福島市内にけっこういて。昨年は、福島のどこでリサーチしてもいいということにしたら、郡山とか会津も入り込んできて、大阪まで出てきたりして、よくわからなくなった。今年は代表の僕が差配して、もうちょっと海側、いわきとか南相馬を行ったり来たりしながら、富岡町とかを取材したりして書いた人が多かったですね。

──戯曲をすべて拝読したのですが、演劇的な戯曲ではない映画のシナリオのようなものや本当にラフスケッチ的なテキストも多く、頭の中で街の情景が浮かび上がってくる感覚がありました。

松田 そうですね、場所が立ち上がってくるようなものもあるかもしれませんね。

──若い作家も多く参加されています。

松田 僕からするとみんな若いですけど(笑)、でも今、大学で教えているので、そこで出会っていいなと思った人や東京に拠点を移すときからマレビトに参加しているメンバーたちがプロジェクトメンバーになってくれているのはいいなと思ってます。そうやって続けていく中で、例えば演出部のメンバーがマレビトのスタイルみたいなものを踏襲して、でもそれがマレビトよりずっと洗練されてて、全然違うものになってるのを僕がもう一度観るのは、けっこう面白いことだなと思ってるんですよね。

東京が生産するものとは

──「福島を上演する」は複数の戯曲を通して福島にフォーカスする作品ですが、「フェスティバル/トーキョー」も複数の作品から東京に焦点を当てるという点で、構造が似ています。最後にお二人が今、東京という場所をどのように見ていらっしゃるか、伺わせてください。

左から松田正隆、長島確。

長島 東京は今、すごく厳しい場所だと思います。作り手にとっても住んでいる人にとっても……いいところもいっぱいありますが、その一方でものすごいストレスもあり、異常な情報の速度、密度、量で大変な場所です。また今、日本やアジア、世界の中で東京がどういう場所なのかも考えるいいタイミングじゃないかなと。それを抜きにして「『フェスティバル/トーキョー』は今までこうだったから」とただ新たなラインナップを入れ替えるだけでは、もはや足りないのではないかと思います。東京に対してもフェスティバルに対しても、受け継ぐべきものは受け継ぎながら、再定義することが大事かなと思っています。

松田 僕が2012年に東京に来てから、ずっと安倍政権なんですよね。これがあと3年続く。政治的な意味、生活環境という意味でも、またマスメディアの中でもハラスメント的なものがどんどん出てきていて、長島さんが言うようにとてもストレスフルになっている。攻撃、抑圧がどんどんかかっていて、どう自分のアイデンティティを保っていけばいいか?ということを考えるわけなんですけど、同時に演劇がどういう立ち位置で作品を作っていくのかは考えなきゃいけないことだと思うんですよね。さらにそういった状況に対して、演劇が対抗し得るのか。1つの集合体や劇場の中で、人と人が小さな有機的な場所を作るのに演劇はいい媒体だと思うんですけど、それを思考停止したまま反復したところで仕方がない。この日常生活の隅々まで抑圧的な状況はおよんでいて、どうしたらいいんだろうってことは考えるわけです。

長島 そうですね。

松田 だから、「東京」をテーマにした上演を考えています。長崎、福島と来て次にやらないといけないのは、「東京を上演する」じゃないかなと。東京は、日々生きているだけ、生存するだけでも今、大変なわけです。殺人的な満員電車に乗ってしんどい思いをしながら会社に行き、会社に着いて、その疲労を抱えたまま働かなきゃいけない。それで1日が終わってしまう。しかもそのルーティーンには必ずアクシデントがあって、例えば電車が遅れたり、それによって仕事が遅れたりと悪化の雪だるまにすぐなってしまう。そういった東京の状況に対して、演劇が、マレビトの会の表現が、どう抵抗できているのかはわからない。わからないからこそ、東京という場所と時間についての戯曲を書こうかなと。

長島 東京でできることはあるはずで、東京が消費の地という認識になっているのはもったいないと思うんです。東京は巨大なマーケットであらゆるものが集まって消化され消費される場だという認識は正しいけれど、では東京で生産されるもの、創造されるものはないのか。東京のローカリティとか生活実感について考え直すと面白いと思うし、東京のストレスや興奮にパフォーミングアーツはどこかで接続、応答し得るはずで、その意味でも東京から何かのパフォーマンスを生み出すということができればと思います。

──今回の「福島を上演する」は、今年の「フェスティバル/トーキョー」のラインナップの中で、東京のアーティストが生み出し、劇場で上演される、唯一の演劇作品となります。長島さんはどのような期待を感じていらっしゃいますか?

長島 「フェスティバル/トーキョー」に限らないことですが、ここ何年も演劇が劇場から外へ出て行こうとする動きがあります。そのチャレンジ、トライは絶対に面白いと思いますし、そこで生まれてくる演劇については成功、失敗も含めて、やったほうがいい、積極的にどんどんやるべきと思っています。と同時に、劇場をどう使うのか、どう捉え直すかも大事だと改めて思い始めました。劇場には便利さやポジティブな意味での制約、制限があって、このプロジェクトでは、街での上演にもトライし続けてきたマレビトの会が、劇場を“再発見”することが大事なポイントだと思います。なので、松田さんにはぜひとも劇場を使いきって、劇場ならではの面白さを見せつけてほしいと思っています。

左から松田正隆、長島確。

「フェスティバル/トーキョー18」そのほかのラインナップ

アジアシリーズ vol.5 トランス・フィールド「MI(X)G」
アジアシリーズ vol.5 トランス・フィールド「MI(X)G」

2018年10月13日(土)・14日(日)
東京都 南池袋公園

コンセプト・演出

ピチェ・クランチェン

振付・出演

イーウェイ・ティエン、サン・ピッタヤー・ペーフアン、ジェット・レン、ジェド・アミハン、ジャニュアリー・ロー、鈴木奈菜

出演

アシュリング・クック、あゆ子、石川大貴、小野彩加、小山衣美、甲斐美奈寿、貝ヶ石奈美、木皮成、小松詩乃、小山柚香、ピーター・ゴライトリー、佐々木芙優、佐々木健、芝池夕貴、鈴木春香、千葉りか子、堤頌子、内藤治水、後藤かおり、Kanami Nakabayashi、福岡まな実、本城祐哉、みなかわまゆむ、横山真依

アジアシリーズ vol.5 トランス・フィールド ショプノ・ドル「30世紀」
アジアシリーズ vol.5 トランス・フィールド ショプノ・ドル「30世紀」

2018年11月3日(土・祝)・4日(日)
東京都 東京芸術劇場 シアターウエスト

脚色・演出

ジャヒド・リポン

原作

バドル・ショルカル

出演

ジャヒド・リポン、ジュエナ・ショブノム、フォズレ・ロッビ・シュコルノ、アブドゥル・ハリム・シクダル、アブドゥル・シャマド・ブイヤン、モハマド・シャカワト・ホセン、モハマド・メヘディ・ハサン、ジュレカ・アクタル、ジェブン・ネサ、アラウッディン・オプ、オニンド・オントリッカ、ニショルゴ・ショブノム

アジアシリーズ vol.5「境界を越えて~アジアシリーズのこれまでとこれから~」
アジアシリーズ vol.5「境界を越えて~アジアシリーズのこれまでとこれから~」

2018年11月8日(木)~11日(日)
東京都 東京芸術劇場 シアターイースト

アジアシリーズ vol.5「ボンプン・イン・トーキョー」
アジアシリーズ vol.5「ボンプン・イン・トーキョー」

2018年11月10日(土)・11日(日)
東京都 BUoY

キュレーション

ローモールピッチ・リシー

出演

スモールワールド スモールバンド、ソバンナ プム・アーツ・アソシエーション、ソピア・チャムローン、ティン・トン、D-MAN

※「フィールド:プノンペン」が11月10・11日に東京・BUoYにて開催。
まちなかパフォーマンスシリーズ「A Poet: We See a Rainbow」©Eiki Mori  Courtesy of KEN NAKAHASHI
まちなかパフォーマンスシリーズ「A Poet: We See a Rainbow」

2018年10月20日(土)
東京都 ジュンク堂書店 池袋本店 9階ギャラリースペース

2018年10月21日(日)
東京都 南池袋公園 サクラテラス

2018年10月22日(月)
東京都 東京芸術劇場 劇場前広場、東京芸術劇場 ロワー広場

作・演出・出演

森栄喜

まちなかパフォーマンスシリーズ「ラジオ太平洋」
まちなかパフォーマンスシリーズ「ラジオ太平洋」

2018年10月27日(土)・28日(日)、11月10日(土)・11日(日)
東京都 東京さくらトラム(都電荒川線)車内

作・演出・出演

福田毅

まちなかパフォーマンスシリーズ L PACK.「定吉と金兵衛」
まちなかパフォーマンスシリーズ L PACK.「定吉と金兵衛」

2018年10月31日(水)~11月3日(土・祝)
東京都 豊島区立目白庭園 赤鳥庵

原案

落語「茶の湯」より

作・演出・出演

L PACK.

まちなかパフォーマンスシリーズ「テラ」
まちなかパフォーマンスシリーズ「テラ」

2018年11月14日(水)~17日(土)
東京都 西巣鴨 西方寺

原案

三好十郎「水仙と木魚」ほか

作・演出

坂田ゆかり

出演

稲継美保

音楽

田中教順

マレビトの会「福島を上演する」©Keiko Sasaoka
マレビトの会「福島を上演する」

2018年10月25日(木)~28日(日)
東京都 東京芸術劇場 シアターイースト

アイダミツル、神谷圭介、草野なつか、島崇、高橋知由、松田正隆、三宅一平、山田咲

演出

関田育子、寺内七瀬、松尾元、松田正隆、三宅一平、山田咲

出演

アイダミツル、生実慧、石渡愛、加藤幹人、上村梓、桐澤千晶、酒井和哉、佐藤小実季、島崇、田中夢、西山真来、三間旭浩、山科圭太、弓井茉那、吉澤慎吾(※「吉」の字は土に口が正式表記)、米倉若葉

ナシーム・スレイマンプール×ブッシュシアター「NASSIM」
ナシーム・スレイマンプール×ブッシュシアター「NASSIM」

2018年11月9日(金)~11日(日)
東京都 あうるすぽっと

作・演出

ナシーム・スレイマンプール

出演

塙宣之(9日)、丸尾丸一郎(10日)、ドミニク・チェン(11日14:00開演回)、森山未來(11日18:00開演回)

ドキュントメント「Changes」
ドキュントメント「Changes」

2018年11月13日(火)・14日(水)
東京都 あうるすぽっと

監督・撮影・編集

山本卓卓

ディレクターズ・ラウンジ
ディレクターズ・ラウンジ

東京都 東京芸術劇場 アトリエイースト

「ディレクター / ディレクションのこれから」

2018年10月25日(木)16:00 吉開菜央

2018年10月27日(土)16:00 ハラサオリ

2018年10月28日(日)16:00 相模友士郎

2018年10月29日(月)19:00 マグダ・シュペフト(※逐次通訳あり)

2018年11月08日(木)19:00 額田大志

「背景? 前景?」

2018年11月09日(金)17:00 ダリウス・コシニスキ

シンポジウム「フェスティバル・アップデート」
シンポジウム「フェスティバル・アップデート」
「いま」のお祭りを考える

2018年10月16日(火)19:00
東京都 東京芸術劇場 シンフォニースペース
登壇者:福住廉、港千尋、森真理子

生活圏 / 創作圏としての東京

2018年11月18日(日)13:00
東京都 あうるすぽっと ホワイエ

「 」のなかの東京

2018年11月18日(日)16:00
東京都 あうるすぽっと ホワイエ

F/Tステーション

2018年10月23日(火)~11月11日(日)
東京都 東京芸術劇場 アトリエイースト

ディスカバリー・プログラム
ダイアローグ・ネクスト

2018年11月2日(金)~4日(日)、9日(金)・10(土)、12日(月)、17日(土)、25日(日)
※「対話」を軸にした全8回のプログラム

マレビトの会を訪ねる会

2018年10月5日(金)19:00~20:30

ミーツF/T バングラデシュを読み解く「パフォーミングアーツから見るベンガル文化」

2018年11月1(木)18:30~
登壇者:丹羽京子

ミーツF/T バングラデシュを読み解く「現在のバングラデシュ演劇:継続する伝統とモダニズム」

2018年11月2日(金)18:30~
登壇者:ジャヒド・リポン(※ベンガル語・日本語逐次通訳あり)

ミーツF/T バングラデシュを読み解く「都市に生きるアート―バングラデシュ、ダッカの町から」

2018年11月3日(土・祝)14:00~
登壇者:五十嵐理奈

「フェスティバル/トーキョー18」
「映画作品タイトル」

同時代の舞台作品の魅力を多角的に紹介し、舞台芸術の新たな可能性を追求する舞台芸術祭。2009年のスタート以来、11回目の開催となる今回は、18年10月13日から11月18日に東京・東京芸術劇場、あうるすぽっと、南池袋公園ほかにて37日間にわたり開催される。

マレビトの会「福島を上演する」
マレビトの会「福島を上演する」

2018年10月25日(木)~28日(日)
東京都 東京芸術劇場 シアターイースト

作:アイダミツル、神谷圭介、草野なつか、島崇、高橋知由、松田正隆、三宅一平、山田咲

演出:関田育子、寺内七瀬、松尾元、松田正隆、三宅一平、山田咲

出演:アイダミツル、生実慧、石渡愛、加藤幹人、上村梓、桐澤千晶、酒井和哉、佐藤小実季、島崇、田中夢、西山真来、三間旭浩、山科圭太、弓井茉那、吉澤慎吾(※「吉」の字は土に口が正式表記)、米倉若葉

松田正隆(マツダマサタカ)
1962年長崎県出身。マレビトの会代表。立命館大学在学中に演劇活動を始め、90年に京都で劇団「時空劇場」を結成。97年の解散まで全作品の作・演出を手がける。96年に「海と日傘」で岸田國士戯曲賞、97年に「月の岬」で読売演劇大賞作品賞、98年に「夏の砂の上」で読売文学賞を受賞。2003年より拠点を京都に移し、演劇の可能性を模索する集団・マレビトの会を結成。12年に再び拠点を東京に移した。主な作品に「cryptograph」「声紋都市—父への手紙」、写真家・笹岡啓子との共同作品「PARK CITY」、「HIROSHIMA-HAPCHEON:二つの都市をめぐる展覧会」「アンティゴネーへの旅の記録とその上演」など。また13年から16年に「長崎を上演する」、16年から「福島を上演する」と、それぞれ3年がかりのプロジェクトを実施している。
長島確(ナガシマカク)
1969年東京生まれ。立教大学文学部フランス文学科卒。同大学院在学中、サミュエル・ベケットの後期散文作品を研究・翻訳する傍ら、字幕オペレーター、上演台本の翻訳者として演劇に関わる。その後、日本におけるドラマトゥルクの草分けとして、さまざまな演出家や振付家の作品に参加。近年はアートプロジェクトにも積極的に関わる。参加した主な劇場作品に「アトミック・サバイバー」(阿部初美演出、TIF2007)、「4.48 サイコシス」(飴屋法水演出、F/T09秋)、オペラ「フィガロの結婚」(菅尾友演出、日生オペラ2012)、「効率学のススメ」(新国立劇場、ジョン・マグラー演出)、演劇集団 円「DOUBLE TOMORROW」(ファビアン・プリオヴィル演出)ほか。主な劇場外での作品・プロジェクトに「アトレウス家」シリーズ、「長島確のつくりかた研究所」(共に東京アートポイント計画)、「ザ・ワールド」(大橋可也&ダンサーズ)、「←(やじるし)」(さいたまトリエンナーレ2016)など。訳書にベケット「いざ最悪の方へ」、「新訳ベケット戯曲全集」(監修・共訳)。東京藝術大学音楽環境創造科特別招聘教授。中野成樹+フランケンズのメンバーでもある。2018年度よりF/Tディレクター。