カンパニー・グランデに集う120名のメンバーより、ここでは小野寺伸二、瀬口章一、長谷川幸子、神野勇咲、松井香乃、清水良憲の6名に参加してもらい、参加の経緯やワーク・イン・プログレス公演への思いを聞いた。
きっかけはそれぞれ、応募への思い
──皆さんの応募のきっかけを教えてください。
長谷川幸子 私は、プロということではないのですがずっとダンスをやっていて、以前から近藤さんのレッスンに通っていました。その流れでカンパニー・グランデのことを知り、ちょうど子供2人が成人したタイミングでもあったので、「やらなきゃ」と思って応募しました。
清水良憲 僕はお芝居やパントマイムを主軸に活動していたのですが、一昨年ぐらいに喉を壊して声が出なくなってしまい、精神的にもしんどい時期がありました。その頃カンパニー・グランデのメンバー募集のことを知り、年齢や障がい、経験値など関係なく、さまざまな属性の人たちと創作するということに惹かれて、カンパニー・グランデに参加することで復帰のきっかけにもなり得るんじゃないかと思い、応募しました。
小野寺伸二 私は、実はいわゆるパフォーミングアーツというものにまったく縁がなかったんですけど、縁がなかったからこそ、そろそろこういうものをのぞいてみたいな、と思い、なんとなくの気持ちで応募しました。
一同 おおっ!(笑)
小野寺 ただ、彩の国さいたま芸術劇場でやられていた近藤さんのワークショップに参加したり、認知症を理解するためのオンライン型老人ホーム「The Home」に参加したことがあったりはして、表現って面白いな、とちょっと感じていたので。
松井香乃 私は役者をやっていまして、今26歳なんですけど、同世代の役者はみんなギラギラしているというか、オーディションに通ったとか落ちたとか、そんな会話ばかりなんです。もちろん私もより良い表現者になりたいし、売れたいという気持ちはあるけれど、もともと楽しくて表現を始めたのにな……とすごくもったいない気持ちがしていたとき、カンパニー・グランデのメンバー募集を知って。募集要項を見ると、どんなオーディションやワークショップの募集要項にも書かれていないようなことがたくさん書いてあって(笑)、「これは!」と思い、夜中のテンションで応募書類を書きました。そうしたら思いのほか熱い思いが詰まった文章になりまして(笑)、今に至ります。
瀬口章一 カンパニー・グランデ自体は、実は募集が始まった頃からSNSか何かで見て、知ってはいました。自分は8年ぐらい前までバンドをやっていたのですが、楽器や歌ではなく、パフォーマーとして盛り上げ役をやっていたんです。でも家族ができたり、子供ができたりと家庭環境が変わっていく中で、表現活動はもう諦めようと思っていて。でもたまたま昨年、コンドルズの彩の国さいたま芸術劇場での公演を観て、「こんな自由な大人っていいな!」と思い、その公演の折込で、カンパニー・グランデのメンバー募集チラシを見つけて、その日がちょうど締切で!
一同 おおー!
瀬口 とりあえず応募してみようと思って、松井さん同様、夜中に熱い思いで応募書類を書いてみたら、思いのほかあふれ出るものがあり(笑)、その思いが伝わったのか、メンバーに選んでいただけました。
神野勇咲 応募のきっかけは……家が徒歩圏内でして(笑)、それこそ、町内会の掲示板でメンバー募集の告知を見かけたんです。またコンドルズの公演を拝見していたこともあり、まずは申し込んでみようかなと。それと、以前障がいのある方の劇団にスタッフとして参加した経験もあったので、最初は正直、ギラギラした気持ちで(笑)、「いいもん作っちゃおうじゃないの!」くらいの気持ちで臨んだんですけど、ワークが進んでいくうちにその野心がいい意味で萎んでいくことになりました(笑)。
スタジオワークは“発見”の連続
──6月から11月まで、講師の方それぞれによるスタジオワークが行われました。数人のグループに分かれ、毎回異なる講師が、それぞれの手法で音や身体を発見したり、重力や言葉について考えたりするワークを展開し、12月にはその成果を全員でシェアする場が、彩の国さいたま芸術劇場の大ホールにて設けられました。スタジオワークからシェアの場まで、皆さんにはどんな半年間でしたか?
瀬口 とにかくもう、大変だったとか苦労したっていうことよりも、今まで使ってこなかった思考回路を使って「失敗してもいいや」「とにかくやってみよう」「出てきたものが自分なんだから!」という思いでやり続けた感じがします。
長谷川 12月は、私は「もぐる」チームで、音楽の担当だったんですよ。
(編集注:12月は、ワーク全体のテーマである「花はなぜ美しいのか」を軸に、目黒と森によるチーム、武とDJみそしるとMCごはんによるチーム、島崎と中納によるチーム、内橋と川口によるチーム、今井と川村によるチームが順々に、ダンスや音楽、言葉や影絵などさまざまな要素を取り入れた15分程度のピースを披露した。なおメンバーは講師名ではなくキーワードのみで参加チームを決めたので、ワーク内容が事前にはわからなかった)
しかも楽器は持ち寄ったゴミ箱などで、まったく初めましての人と即興でセッションしたんですけど、セッションの仕方もわからなくて。そうしたら初日前日のワークで内橋さんから「想像力を持つこと、表現力を強くすること」とダメ出しされ(笑)、でもそれは、今のワークや日常生活でも生きています。
松井 よくわかります。私はこれまで準備して準備して、それ通りに本番をやる、というやり方だったんですが、カンパニー・グランデではやってきたことをそれ通りにやることを誰も求めていないというか(笑)。本当に“今を楽しむ、今に集中する”ということや、みんなで関わり合うことを大事にしている気がします。なので3月のワーク・イン・プログレスも、正直まだどうなるのかさっぱりわからないのですが(笑)、そのことにもすごくワクワクしていて、全貌が見えないことを楽しんでいる感じですね。
神野 自分は12月はトラックメイク、ラップ作りをやったんですけど、初日が「お花のお面を作りましょう」というワークで(笑)。発表当日も、自分の順番じゃないのに音楽が流れると自然に身体が動き始めちゃう人がいたり、ラップだと言っているのに「朗読でいかせていただきます」という人がいたり(笑)、「こんなのありなんだ!」という連続で。なので先ほど、最初は「いいもん作ってやろうじゃないの」くらいの気持ちだった、と言いましたが、皆さんが自然にやっていることを自然に受け入れている関係がすごく素敵だなと思って、自分も自然体で楽しもうと、肩の力を抜いたところがあります。
清水 僕は、おそらく全部のワークに参加させてただいたんですけど、毎回やったことないことをさせてもらって、使ったことがない、見たこともないおもちゃを与えられて、遊ぶような気持ちでした。そしてワークを通じて感じたのは、相手の人はもちろんなんですけど、自分自身も信頼することが大事、ということなのかなと。自信がないまま相手に合わせようとか、合わせてもらおうとか、そういう気持ちでいるとどんどん崩れてしまうものがあるのですが、信頼の気持ちがあると、ワークを一緒にやっている人の人間性や好みが伝わってくることもあり、毎回豊かな時間が流れていたと感じます。
小野寺 皆さんのアーティスティックな良い話を聞いた後で言うのもなんですが(笑)、最初にお話しした通り私は経験がないですし野心もないので(笑)、経験者の皆さんの中に入れていただいて遊んでいるような気持ち、というのが正直なところです。そもそも、表現に接するような機会もない人生だったので、12月、私は武さんの音楽のグループだったんですけど、最初は小さな音の目立たない楽器を選んだんです。なのに発表当日、それまでドラムを叩いていた人が違う楽器になって、「小野寺さんドラムやってください」と言われて(笑)。本当にびっくりして、どうしようかと思ったんですけど、なんとかやりきりました。
一同 あははは!
近藤さんの“変わらなさ”に感じる憧れ
──カンパニー・グランデを率い、ワーク・イン・プログレス公演の総合演出を担う近藤良平さんに対しては、皆さんはどんな印象をお持ちですか?
小野寺 銀座や新宿を1日中歩いたとしても、なかなか会えない人なんじゃないかな(笑)。人と違うオーラを発している感じがするし、清潔感がありつつ、味わい深さもある人だなと思っています。
神野 信頼できる方だと思います。近藤さんを信頼して参加しているアーティストさんもいらっしゃいますし、我々参加者としても、近藤さんがやるなら絶対面白くなるだろうという信頼感がある。そういった信頼感があるからこそ、みんなが当たり前のようにこの場で表現し、当たり前のようにお互いを受け入れ合えているのではないかと思います。
瀬口 近藤さんは誰に対しても対等な方。世間から見たら、ちょっと雲の上の存在にも思える人が、実際に会うと「こんなに近いんだ!」という接し方をしてくださって、そういう人っているようでいないと思います。僕は昨年の秋、「東京芸術祭 2024」の1プログラムとして上演されたコンドルズ 野外パフォーマンス「Let's Turn The Table」に子供と一緒に市民ダンサーとして参加したんですけど、そのときも近藤さんは誰かれ構わず声をかけながら踊っていて、そういうことができる大人って単純に素敵だなと思いますし、だから僕にとって「大好きな人」です。
松井 国民の“近所のおっちゃん”って感じです(笑)。私がすごくよく覚えているのは、12月に、近藤さんがマイクを持ってしゃべってはいるんだけれども、マイクを持っても全然普段と変わらなかったところ。マイクを持つとたいてい誰でもちょっと姿勢が良くなったり、声が変わったりするものだけれど、近藤さんはそのまんまだったんですよね。そういうところを見ても、近藤さんはめっちゃカッコいい大人だなって思います。
清水 もちろん近藤さんはすごいんですけど、すごく見せない……というのともまた違って、すべてが自然なんです。たとえば祭りのときに“なんか妙に目立ってるおじちゃん”みたいな、いつの間にか現れてどこかに行ってしまう感じがする。そんな近藤さんの佇まいに、憧れがありますね。
長谷川 私が一番最初に良平さんを知ったのは2001年くらいで、今以上に近藤さんがバリバリ踊っているときでした。近藤さんはダンスをするというより、息をするみたいに舞い、ジャンプして、どうしたら高く飛べるかを本能で知っているようなすごい人だと思いますし、コミュニケーションをするようにダンスをしていく方だと思います。またワークショップに参加していて感じるのは、本当に身体に興味がある人だなということで、その人の身体のどこにウィークポイントがあるのかをすぐに見抜いて、みんなが面白く楽しめるにはどうしたらいいか、ワークショップの中でどんどんやることを変えていくんです。その後、いろいろな賞を獲られたり、芸術監督になられたりと肩書きが増えていく中で、それでも近藤さんのスタンスが変わらないのはすごく素敵だなと思います。
ワーク・イン・プログレス公演に向けての思い
──まもなくワーク・イン・プログレス公演の初日が幕を開けます。どんな気持ちで臨みたいですか?
神野 12月はみそさんのトラックメイクチームで参加して、しゃべりメインだったので、今度は身体に視点を向けようと思い、今回は目黒さんのジャグリングチームに参加しています。身体を動かすのが得意っていうわけでは決してないのですが(笑)、ちょっと新しい自分を見てみたいなという気持ちもあって。
瀬口 僕は前回も今回も目黒さんのチームで、それはスケジュールで決めた部分もありますが、僕自身目黒さんのワークをもう1回やってみたいという思いがありました。目黒さんが作ろうとしているもの、表現ってものすごく自由で、基本的に何も決めごとがないんです。ただワーク・イン・プログレスではある程度何か、形を作ろうとしているのかなという感じがしたので、今回はその部分も楽しみたいと思っています。それと目黒さんのワークに参加してから普段の生活でもバランスに意識するようになって、今日も劇場まで来る電車で、重心がどこにあるのかを考えながら吊り革にだけ触れて立つことを意識していました(笑)。
一同 ええーっ!(笑)
松井 私も今回、目黒さんのチームに参加しているんですけど、「立ってるのも偉いぞ、私」っていう気持ちになってきています(笑)、日常のふとした動作を、1つずつ自分のアクションとして捉えられるようになってきた気がする……というのが今の段階で、でもそれは自分の中では大きな変化です。そして、目黒さんと近藤さんがとにかくすごい楽しそうなんですよ。「これをやってみましょう」と言われてよくわからないことがあっても、目黒さんと近藤さんがすごく楽しそうだから、多分めっちゃ楽しいことなんだろうなと思ってやっています。毎回「楽しいことあるよ、おいで」と言われている感じで(笑)、ワクワクしながら稽古に参加しています。
小野寺 私が目黒さんのチームを選んだのは、稽古スケジュールという部分が大きかったんですけれど、でもどの方のワークも初体験なので、今やっている稽古がこれからどうなっていくのか、私のような未経験者も含めて、幅広い出演者たちからどういうものができていくのか楽しみです。……あと本当はやっぱり、自分がやっていることを外側から見てみたいんですね(笑)。
一同 あははは!
清水 僕もスケジュール的な部分が大きかったんですけど、今回島崎さんのチームに参加しています。12月のワークでは、“花”“とどける”をテーマに、落ちている花を拾う、というシーンの稽古をやり、僕は落ちている花を1箇所に集めて、最後にバーンと宙に放り投げるという動きをやったんです。そうしたらその動きが採用されました(笑)。そのシーンも含め、稽古中にメンバーから自然と生まれた動きを島崎さんが“振り”として落とし込んだりと、島崎さんのチームは比較的“振り”が多いので、メンバーはほかのチーム以上に緊張感があるかもしれません。でも自由な“あそび”のシーンもあるので、緊張感と自由さの両方を楽しみたいと思います。
長谷川 私も(島崎)麻美さんのチームに参加していますが、(中納)良恵さんの「あなたを」という曲で花束を使ってダンスするシーンがあって、その稽古を今日久々にやったら、麻美さんが「この曲、本当にいいよね」としみじみ言っていて、麻美さんの感性が素敵だなあと、私、涙が出そうになって。今回のテーマにちなんで、というわけではないですが、私の中でも今、感受性の花が開きつつあります(笑)。