“もう1つの現実”を見せるのが使命
──“暗黒の宝塚”と評され、愛されてきた月蝕歌劇団ですが、皆さんが思う劇団の魅力について教えてください。
白永 月蝕歌劇団は“弱きを助け”な部分があって、例えば持病があったり、人付き合いが苦手な人も受け入れるし、舞台の上でしかうまくしゃべれないとか、やっと呼吸ができますというような人を助けるようなところがあるんです。高取もフリースクールのニュースを見て「月蝕歌劇団はある意味フリースクールだよな」と言っていました。
山田 高取さんは“シェルター”とも表現していたよね。いじめに遭った人や、家庭に問題がある人もいたりするけど、誰でも逃げ込んでこられて、安心していられる場所にしたいと。寺山修司が家出人の少年少女を集めて演劇をやっていたことも影響しているのかなと思います。
白永 家庭や学校、職場でつらくても月蝕には居場所があると思えるのは、私自身もそうだったので、そういう部分はこれからも継承していきたいです。
大島 高取さんってできないことをさせないんです。自由に役者がやっているように一瞬感じるんですが、役者がどんなにのびのびやっていても、できあがった舞台を観ると月蝕歌劇団の舞台でしかないんですよね。そこに高取戯曲のマジックがあるんだと思います。その戯曲にのっとって白永が演出をしていくとき、絶対同じものにはならないけど、ちゃんと月蝕歌劇団の舞台にはなるんだろうなと。それがどういう風景になるのかも楽しみです。
里見 本番中、高取さんは客席から懐中電灯を当てたり、ビデオを回していてちょっと光ったりするので、どこにいるかわかるんですね。だいたいどの作品でも、セリフを言っているときに一瞬高取さんがスッと入ってくるような感覚に陥ることがあって、高取さん自身の言葉としてセリフを言っているような気になって、なぜか涙がこぼれてきたり。芝居をしているときは高取さんに見られているというか、亡くなってからもいつも一緒にやっている感覚があります。
新井 私はいちファンとして月蝕を観劇することも多いのですが、観終わってすぐ立てないんです。目の当たりにしていたものが生々しくて、優しさも禍々しさもあり、ものすごいものを観たという感覚に陥ってしまう。そういうところもひっくるめて大好きです。
夢乃 私にとって月蝕は役者として生きていく道を大きく変えてくれた劇団です。初めて月蝕さんに出させていただいたときに、舞台って1人でできるものじゃないって知ったんです。いろいろな人の力があって1つの舞台が完成するんだということを学びました。5年ほど役者をお休みしていましたが「復帰は月蝕がいい」とずっと思っていたんです。
白永 うれしいですね。
一ノ瀬 月蝕歌劇団には、女の子がセーラー服を着て、シーザーの楽曲に乗せてろうそくを持って踊るというような、ほかでは味わえない世界観があります。私はその月蝕のカラーが好きで、今でも根底の部分は変わらないと思っているので、この先も好きでい続けるんだろうなと思います。
山田 月蝕の作品は、華やいでいながらアングラっぽい見かけではありますが、高取戯曲の本質はロマンチシズムにあると思っています。よく時空を飛び超えて過去を変える展開があるのですが、例えば、僕の好きな「新撰組in1944─ナチス少年合唱団─」では、新撰組の土方歳三が実は生きていて、彼が新政府を作っていくという物語で。架空の歴史をないまぜにしてあり得たかもしれない歴史を描くのが高取英の演劇が目指すものの1つだったと思います。
白永 良い意味で荒唐無稽というのが月蝕らしさだなと思いますね。なんだかわからないけど「ハッ!」って言っただけで、時空を超えちゃうし、それで物語を成立させてしまう。高取が雑誌のインタビューで「現実に疲れている人にはリアリティなんていらないんですよ」と言っていたのが印象に残っていて、私も自分のことを“現実ぶっ壊し屋さん”だと思っています。ある種「現実を忘れて、夢の世界を見たい」という方々が劇場に足を運んでくださると思うので、やはり“もう1つの現実”を見せるのが私たちの使命なのかなと。
たくさんの人の思いが詰まった「白夜月蝕の少女航海紀」
──数多くある高取さんの戯曲から、一時活動休止公演には「白夜月蝕の少女航海紀」が選ばれました。本作ではとある喫茶店を舞台に、時を忘れて恋人を待ち続ける少女・じゅんをはじめ、さまざまな人物たちの思いが交錯する“もう1つのこの国の近未来”が描かれます。
白永 「白夜月蝕~」は、高取が大学時代に結成した白夜劇場で書いた初めての戯曲で、“原点を忘れない”という意味を込めて選びました。月蝕では一番再演されている作品で思い入れも深く、たくさんの人の思いが詰まっています。この作品は劇団に入りたての子たちの育成公演のような側面もあったのですが、今回はベテラン勢と若手をミックスして一部Wキャストで披露します。ヒロインのじゅん役にはマイティー(新井)と夢乃というフレッシュなお二人が大抜擢されました。
新井 「白夜月蝕~」は、切ないけど、希望に満ちあふれている作品で、白永さんが活動休止公演に選んだ理由がわかります。胸がキュンとなるお話なので、老若男女問わず観ていただきたいです。
夢乃 ヒロインのじゅんちゃんは私と正反対の性格で、怖いもの知らずな子なので、演じ切れるようがんばりたいです。自分にはないところを出すのって難しいんですが、そこが役者のやりがいでもあるので、じゅんちゃんと一緒に人生を歩んでいるので毎日が楽しくなって。だからこの作品に関わらせていただけて、私の人生はもう変わり始めてるんだなと思っています。大事な作品です。
里見 どの役も役者が光るような作品なんです。1つひとつの役が魅力的で、同じ役でも違う役者が演じることで全然違ったものになります。私は今回演じるジョーという役の深いところにある“叫び”を稽古しながら探しています。ジョーのセリフを口にしていると、自分が忘れてしまった何かを鼓舞されるような気持ちになるんです。その感覚をどこまでお客様と共有できるかを大切にやっていきたいなと思います。
大島 「白夜月蝕~」は私にとっても思い入れが深い作品で、大切すぎてこの作品についてあまり言いたくないというか、自分の妄想が仕上がってしまっているので、あまり語らないようにしています。再演されるたびに、さまざまな役を演じてきましたが、まち子は一番最初にいただいた役なので、原点に帰るような気持ちです。
白永 私が今回演じるリルは、夢と激動の物語の“見届け人”だと思っています。作品全体を見ている演出家の自分とも共鳴する役どころなので、責任を持って演じたいですね。
山田 「白夜月蝕~」は詩劇として“高取ロマン”がちりばめられている作品です。高取さんの詩人としての言葉の選び方をお客さんにも感じてほしいですね。
月蝕歌劇団、復活の日に向けて
──今回はアーカイブ配信もあるので、劇場に足を運べない方も気軽に作品に触れられそうですね。最後に、月蝕歌劇団のこれから先の未来、そして活動再開の日に向けての思いを教えてください。
夢乃 白永さんから活動休止と聞いたときは「もしかしたら終わってしまうのではないか」と怖くなりましたが、お稽古をしていく中で、月蝕の未来に向けて、お客さんに訴えかけるような白永さんの演出もあって、「きっと大丈夫だ」と思いました。未来の月蝕歌劇団にバトンをつなげられる作品にしたいです。
新井 私はどちらかというとファン目線で月蝕を見ています。ファンっていつまでも待っていられるものだし、休止中、白永さんにはよく寝て、よく食べて、よく遊んでほしい(笑)。たくさんのことを吸収して、また新たな月蝕の道を突き詰めてほしいなと、応援しています。
里見 高取さんの戯曲は月蝕歌劇団以外でも上演されていますが、じゃあ月蝕歌劇団で高取戯曲を上演するというのはどういうことなのか?ということを考えていきたいですね。私は劇団員ではないですが、休止期間にただお休みするのではなく、何をするのかが問われるのかなと思います。月蝕の先輩方とお話ししたり、まだまだ時間を共にしたいと思っていますので、休む気は全然ないです!(笑)
一同 (笑)。
大島 私は劇団員時代から不良劇団員で、すぐ公演を休んではほかの劇団に客演していました。それを許していただけていたのが月蝕の優しさであり、懐の深さで。これからも私はずっと、月蝕にとって都合の良い女で、月蝕も私にとって都合の良い劇団さんでいてください、という気持ちです(笑)。何年か先、おばあちゃんになっても、「ちょっとおばあちゃん役がほしいんで、出て!」と言われたら全然出ますので(笑)。
一ノ瀬 私はOGとして、ときどきゲスト出演はしていましたが、ほとんど外から見守っている立場でした。実は“月蝕友の会”というOGの会があって、ときどき集まっては、それこそ「白夜月蝕~」のセリフを読み合わせたりしてるんですよ。今はみんな働いていたり、結婚して離れてしまっていますが、いまだに月蝕が大好きで、関わりたい気持ちがあるんですよね。今後、準備期間にも何か手伝えることがあったら言ってください。
白永 頼もしいです。
山田 OGのみんなにとっても、月蝕はいつまでもホームなんですね。
一ノ瀬 そうですね。
山田 休止期間はあるにしても、白永さんが引き継いでやっていくと宣言されている以上は、期待しています! できれば僕もまた出演させていただいて……(笑)。
白永 5役経験されたというのをきっちり覚えておきますので!(笑) 皆さんのお言葉を聞いて改めて、これからも楽しく続けていきたいなという思いです。我々が楽しくやっているからこそ、帰ってきたくなるようなホームになれると思うので。また、お客様にとっても楽園のような場所を作りたいですね。可愛い女の子がいっぱい出てきて、時空も飛び超えちゃうし、良い意味で予想を裏切っていく。そんな奇想天外な舞台作品を継承していきたいです。それを飛び道具的にやるのではなく、高取戯曲の抒情的な部分とわんぱくさのバランスを取りながら。今回のプレ演出と休止を経て豊かな土壌を作り、来たるべき月蝕歌劇団復活の日に向けて修行して参りたいと思います。
プロフィール
白永歩美(シラナガアユミ)
東京都生まれ。2003年より月蝕歌劇団に子役として入団。劇団公演を中心に、舞台、映像、ラジオ番組に多数出演。父である高取英のあとを継ぎ、2018年12月に月蝕歌劇団2代目代表に就任した。
白永歩美 (@shirokuaruku) | Twitter
里見瑤子(サトミヨウコ)
長野県生まれ。映画を中心にさまざまな映像作品、舞台に出演。2017年の「盲人書簡─上海篇─」で月蝕歌劇団に初出演以降、同劇団の作品に数多く出演している。
里見瑤子 (@satomi201053) | Twitter
新井舞衣(アライマイ)
埼玉県生まれ。俳優・司会・モデルとして活動。2018年の「女神ワルキューレ海底行─聖ミカエラ学園漂流記シリーズ原点─」で月蝕歌劇団に初出演した。
夢乃菜摘(ユメノナツミ)
神奈川県生まれ。舞台を中心に俳優・声優・モデルとして活動。2013年の「盲人書簡─上海篇─」で月蝕歌劇団に初出演した。
夢乃菜摘 (@yumeno_natsumi) | Twitter
大島朋恵(オオシマトモエ)
栃木県生まれ。2004年に月蝕歌劇団、虚飾集団廻天百眼に入団。以降、舞台を中心にクラブイベントや映像作品に出演。2012年に独りユニットR*A(現りくろあれ)を立ち上げ、RiqrhoAre00名義で音楽活動も行っている。
ooshimatomoe (@tomomochi) | Twitter
一ノ瀬めぐみ(イチノセメグミ)
東京都生まれ。1995年にVシネマ「聖ミカエラ学園漂流記 実写版」で主演を務め、同年「ドグラ・マグラ」で月蝕歌劇団の舞台に出演。以降、劇団員として「不思議の國のアリス」「聖ミカエラ学園漂流記」「家畜人ヤプー」「女神ワルキューレ海底行」などに出演した。
一ノ瀬 めぐみ (@Ichinose_Meg) | Twitter
山田勝仁(ヤマダカツヒト)
青森県生まれ。演劇ジャーナリスト。1980年から2015年まで「日刊ゲンダイ」編集局勤務。現在「日刊ゲンダイDIGITAL」で演劇コラム「演劇えんま帳」を連載中。国際演劇評論家協会会員。著書に「寺山修司に愛された女優 演劇実験室◎天井棧敷の名華・新高けい子伝」がある。
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劇団ゆかりの10人が語る月蝕歌劇団