それぞれが思う「劇団とは何か?」
──座談会後半では、「十二人の怒れる男」にちなんで“6人の怒らない男”をテーマに、普段ゴツプロ!の皆さんがどのようにディスカッションを重ねているのか、いくつかのテーマについて議論していただこうと思います。まず最初に「“劇団”とは何か?」というテーマで、皆さんにとっての劇団の定義を伺えますか?
浜谷 僕はシンプルに“家”。ここがあるから外に出られる、帰る場所。
泉 1人では無理なことが、集まることによって達成できる場所。常々一緒に気持ちを共有しているからこそ達成できるものがあって、そこがプロデュース公演とは違うと思います。
塚原 自分たちの世界観を作ってそれを世の中に提示していく場所。ドラマにせよ映画にせよ、客演でほかの舞台に出るにせよ、それは人が作ったものの中に参加するという感じだけど、劇団では自分たちで一から作り、提示していくので。
泉 劇団の大きさによってもまた全然違うかもしれませんね。大きくなると、自分が作りたい世界観を作るというより、“この世界観が好きだからこの劇団に入る”と関わり方もあるでしょうし。
佐藤 僕はゴツプロ!以外にも劇団をやっていて……。
塚原 一番個人主義なのに、3つも劇団やってるんですよね(笑)。
一同 あははは!
佐藤 劇団ってユニットや企画ものと何が違うんだろうって考えると、共同責任だなと思うんです。劇団である以上、たとえ主宰や座長がいたとしても、良いも悪いもみんなの責任だというところが大きいかなって。それが力になったり、向上していく原動力になるというところが劇団の強さだなと思います……って、良いこと言っちゃいました(笑)。
44 僕個人としては、劇団より、法人化ということが大きかった。僕もプロデュース公演を自分でやっていたことがあるんですけど、プロデュース公演は最終的には自分の責任。でもゴツプロ!は合同会社なので、そういう形を取った以上、この家をちゃんと維持しないといけないという責任がそれぞれに発生してくるわけで、その点がプロデュース公演やユニットのように「やって終わり」というわけではないなと。だから最初に浜ちゃん(浜谷)が言ったように、家族になるような感じがします。
佐藤 劇団は継続することが前提ですからね。「次に何をやるか」を考えるのは、劇団だからだよね。
塚原 ただ、ゴツプロ!旗揚げ公演のときは、実は続けようとは思っていなかったんですよ。まずは1回やってみようという感じで、そこからどんどん話が盛り上がって、「続けるなら本多劇場でやりたい」「海外にも行きたい」「それなら法人化しようか」というふうに進んできた。そしてゴツプロ!合同会社の中から、アビさんが青春の会、浜谷さんがゴツプロ!演劇部を立ち上げたり、知束が作・演出を手がけたり、聡さんがアクティングコーチをやるようになったり、44さんがアプリの開発を始めたり……毎年ちょっとずつ変化が起きていて、「会社ってこういうことなんだな」って僕たち自身が思わされているというか。
44 立ち上げた年齢も大きいですよね。僕はゴツプロ!立ち上げ時に四十代中盤で、みんなもそれぞれ小劇場で長年活動してきた人たちだったから、勢いで舞台がやりたいと思っている集団とは少し違う。ある程度守るべきもの、守らなきゃいけないものを抱えているぶん、「次の5年、10年をどう生きていく?」という、人生を絡めた話し合いを重ねてきた。また自分たちがやりたい芝居を追求しつつ、僕らより上の世代から教わったことを次の世代にどう橋渡ししていくか、ということも考えていきたいなって。
塚原 今回の「十二人の怒れる男」のメンバーはそういう思いもあって。先輩たちと我々と若い世代を意識してキャスティングしました。勝也さんや亨さんとお話しさせていただくと、新劇やアングラがどういう歴史を辿ってきたかがリアルに聞ける。それを、僕らを挟んで三津谷くんや関口アナンにも聞いてもらいたいなと思ったんです。
ゴツプロ!メンバーになる必須条件とは?
──次のテーマは「ゴツプロ!にもう1人メンバーを入れるとしたら、どんな人が良いですか?」です。
塚原 この話題は、普段なかなか上がらないですよね。
佐藤 パッと思い浮かぶのは、関口アナン。
塚原 ゴツプロ!との付き合いが長くて、でも僕らとちょっと違う空気感を持っていますよね。
佐藤 しかも熱いっていう。
──熱さが大事なんですね(笑)。
一同 大事です!
泉 熱さがないと、ついてこられないと思うんですよね。
44 その点、広報担当スタッフの存在は大きい。本当にがっつり一緒にやってくれるし、能力も高いし、思いもちゃんと共有できているから。
塚原 確かにすごく大きいですね。制作の遠藤いづみちゃんも、僕らの意見がちょっとぶつかってギクシャクしたときに、スッと場を和らげてくれるところがあるんです。
佐藤 “熱さ”と“和らげてくれる”という部分は、もし今後メンバーを増やすとしたら、割とマストな条件になってくるかもしれませんね。
泉 でも僕的には、このバランスが好きなので、このメンバーでどこまで行けるかがんばってみたいというところがあるんです。
佐藤 うん、それもわからないでもない(笑)。
塚原 役者ではなく、例えば映像クリエイターとか照明さんなど、我々にない能力を持った人が集まってくれたらうれしいなとは思うんですけどね。
44 確かに、演出家にとってやりやすいスタッフさんと仕事する楽しみもありつつ、新しい出会いを欲している部分もあるなあ。
浜谷 演劇のことは僕らでも考えられるから、もっと全然違う角度でゴツプロ!を面白がってくれるような人と出会えたら面白いですね。
塚原 実際、今もいろいろなアイデアをくれる人が周りにいて、さらにそういう出会いが増えると良いですよね。
まだ途中、これからがさらに楽しみ
──最後のテーマは“今後”について。俳優は定年がない職業ですが、皆さんは今後のご自分の俳優人生を、どのように思い描いていらっしゃいますか?
渡邊 ジジイになっても、ゴツプロ!で年1回は公演をやりたいなあと……それは旗揚げ当初から思っています。
泉 よく言っていますね(笑)。
渡邊 80歳になっても90歳になっても舞台に立って、最後は一人芝居になるかもしれない……みたいな(笑)。でも年1回公演を続けていくと、ゴツプロ!で52回公演を迎えるのは(年齢的に)難しいんだなってこの間実感したんです。だからあまり先を意識せず、死ぬ前まで舞台に向かい続けようと思っています。……(全員に)引退って、イメージしたことある?
44 俺はあくまで本番を迎えるまでの過程が好きなので、役者としての欲は希薄で。だから年1回ゴツプロ!の舞台に立てることは楽しみだけど、役者としての引退については昔から毎回、感じています。
佐藤 そうなんだ? 僕は、例えば山本亨さんとか佐藤正宏さんのような六十代前後の俳優さんや、さらに上の小林勝也さんのような俳優さんに出会うと、どんな年齢でも自分がやりたいことをやれる役者は実際にいるんだなと感じて勇気をもらえますね。それこそ二十代で亨さんの芝居を観て雲の上のように感じていた人と今回共演できるなんて、「長いこと俳優を続けてきて良かったなあ」と思いますし、これをさらに続けていくともっともっと楽しいことが起こりそうだなと。だから年を取ったら取ったで、また新しい面白さが出てくるんじゃないかなっていうワクワクのほうが強いです。
塚原 そうだよね。今ようやく、自分たちが作りたいものが作れるようになってきた実感がある。
佐藤 僕は、まだ到達点ではなく途中という感じがしています。さらにこの上がある気がするんですよ。
浜谷 僕は、役者以外の仕事をするのがまったく想像つかないので、役者をこのまま続けるか、浜辺で寝て暮らすかのどっちかしか思いつかないですね。
佐藤・塚原 “浜辺で寝て暮らす”?(笑)
浜谷 別に海が好きってわけじゃないんですけど(笑)、「ああ、もう役者に向いてないかもな」と思うことはあって、何もやらずに寝転びたくなる反面、「でもまだみんなと一緒にいたいな」って思うんですね。ただ僕は今50歳で、あと10回公演したらもう60歳になるし、大助は「自分は早死にする」って言うし……。
塚原 って、台湾の占い師に言われたので。
一同 あははは!
泉 年齢と共に、装っていたものが少しずつ落ちていって楽になっていく感じは良いですよね。そうするとまた芝居にも違う魅力が出てくるんじゃないかな。それぞれ今すごく楽しそうに活動してるなと思うし、そのうち変なこだわりもなくなって、新たな境地が見えてくると思うんですよ。大助ともこの間話したんですけど「60歳になって、何にも気にしないでただ舞台に立って『幸せだな』って思えたら良いよね」って。「今はまだがんばってしまうけど、もっと楽に立てたら良いな」と。
浜谷 僕も「50歳になったら楽に立ちたい」って思ってたけど、今のところ全然……(笑)。
一同 あははは!
泉 だから歳を重ねることは、怖くはないですよね。むしろどうなっていくのかワクワクする。
佐藤 僕も昔に比べて当然、死は近付いているんだけど、それも芝居でやるうえのエッセンスとして加わってくるなって思うんですよ。人から見たら、「いくつになっても何にも変わらねえな」って思われてしまうかもしれませんけど(笑)。
塚原 僕は、目の前のことに取り組みながら、「次はこんなことをやってみたい」ってひらめきがあるうちは、まだまだ続けられるなと思っていて。実際、駅前劇場でゴツプロ!を始めたときは見えなかった景色が、今は見えるようになってきました。これから自分たちはどうなっていくんだろうと想像したり、1つずつやりたいことを実現していったら、どんな役者になれるのかなあと思ったり、そういうことが楽しみで仕方ないんですよね。
──皆さんのお話を伺っていて、それぞれ少しずつ違う目線を持ちつつも、それを共有し合うことで1つの太い方向性が立ち上がっていくのがゴツプロ!なんだな、と感じました。そんな皆さんが、「十二人の怒れる男」をどう立ち上げていくのか非常に楽しみです。
プロフィール
ゴツプロ!
2015年に塚原大助を主宰に結成。2016年に「最高のおもてなし!」で旗揚げ。2018年、第3回公演「三の糸」は東京・大阪、および初の海外となる台湾・台北で公演を行った。
塚原大助(ツカハラダイスケ)
1976年生まれ。ゴツプロ!主宰。2015年にゴツプロ!を旗揚げ。舞台や映画で幅広く活動。こまつ座「人間合格」(作:井上ひさし、演出:鵜山仁)、小松台東“east”公演「東京」(作・演出:松本哲也)、映画「ソワレ」(外山文治監督)等。
浜谷康幸(ハマヤヤスユキ)
1972年生まれ。ゴツプロ!メンバー。俳優として映画、舞台で活動する傍ら、近年は演出も手がける。「続・まるは食堂」(作・演出:佃典彦)、「莫逆の犬」(作:田村孝裕、演出:寺十吾)などに出演。
浜谷康幸 (@hamayayasuyuki) | Twitter
佐藤正和(サトウマサカズ)
1970年生まれ。ブラボーカンパニー、ゴツプロ!メンバー。青春の会、下北沢桃太郎プロジェクトではプロデュースも手がける。ドラマ「勇者ヨシヒコ」シリーズ、WOWOWハリウッド共同制作オリジナルドラマ「TOKYO VICE」などに出演。
佐藤正和(ブラボーカンパニー/ゴツプロ!/青春の会/下北沢桃太郎プロジェクト) (@sato_masakazu) | Twitter
佐藤 正和 (@satomasakazu_bravo_52) | Instagram
泉知束(イズミトモチカ)
1976年生まれ。演劇ユニットTeam Chica主宰、ゴツプロ!メンバー。TBS「就活タイムカプセル」、テレビ東京「駐在刑事Season3」など、俳優として活動する一方で、舞台や映像作品の作・演出も手がける。
泉 知束 (@tomochicaizumi) | Instagram
渡邊聡(ワタナベタダシ)
1970年生まれ。ゴツプロ!メンバー。俳優として活動する傍ら、国際免許を持つアレクサンダーテクニークを用いた俳優のアクティングコーチ、歌手、トップアスリートのレッスンも行っている。イギリス映画「People Just Do Nothing: Big In Japan」、WOWOWハリウッド共同制作オリジナルドラマ「TOKYO VICE」などに出演。
渡邊聡 tad.w (@cap_tad) | Twitter
44北川(ヨシキタガワ)
1971年生まれ。ゴツプロ!メンバー。Mcompany vol.2 今井雅之七回忌追悼公演「My Way」、プリエールプロデュース「あぶくの流儀」などに出演。