困ったらお客様センター

──でも、デビュー当初は歌詞よりもサウンドのほうにフォーカスが当たることが多かったじゃないですか？ 「アレンジ、サウンドメイキングまですべて自分でこなすマルチクリエイター」っていう。

実際、サウンドのほうに力を入れてた部分はあったと思います。歌詞が大事っていうのは自分の中でも明確だったんですけど、それを乗っける音を作ることに関しては、まだ技術が追い付いてなかったと思うんですね。その差を詰めることが課題だったというか。サウンドやアレンジに関しては、1から自分で始めたところもありますからね。最初の頃は知識も全然足りなかったし、周りの人に口で説明することもできなくて。

──アレンジやサウンドメイクって、完全に独学ですか？

まあ「この機材がいいよ」とか「これを使えばこういうことができる」っていうのを教えてもらうことはありましたけど。そこから先は誰も手伝ってくれないから（笑）、自分でやるしかなくて。あとはお客様センターですね。

──機材を作ってるメーカーに問い合わせてたんですか？

そうそう（笑）。「こういうふうに編集したいんだけど、どうしたらいいんですか？」って。最近、そういう問い合わせって全部メールじゃないですか。電話番号がどこにも載ってなくて困るんですよね。

──リアルな話だなあ（笑）。徹底的にDIYなんですね。

今振り返ってみると自分でやっておいてよかったなと思います。Myspaceにアップしてたデモテープをきっかけに今のスタッフと知り合ったんですけど——ずっと同じスタッフと一緒にやってるので——そのときから「自分で作れるようになったほうがいい」って言われてたんですよ。私としては「アレンジは各楽器の人にやってもらったほうがいい」って思ってたし、最初はどうしたらいいかさっぱりわからなかったんですけどね（笑）。

1つひとつ丁寧に作ってきた感覚

──今回のベスト盤ではジャケットのイラストを手がけています。アートワークにもずっと携わってますよね。

インディーズの頃はほかにやってくれる人もいないから、自分たちでやるしかないっていう感じだったんですけど（笑）。音の話と同じで、そういう経験もすごく役に立ってるんですよ。デザイナーの方と一緒に作るときもどれくらい大変かがわかるし、「ここはもっと詰め寄ってもいいな」っていうやり取りもできるので。決まりごともあるじゃないですか、バーコードを付けなくちゃいけないとか（笑）。ここ数年は機材もすごく発達したし、便利になりましたけどね。最初の頃ってめちゃくちゃ時間がかかってた記憶があるんですけど、今は編集も加工も簡単なので。そういう意味では、これからやれることの幅は広がるのかなって思ってますね。

──1つひとつの作品に対して、「しっかり自分の世界観を表現できた」という手応えもありますか？

うん、それはすごくあります。どの作品に対しても、作っていたときの記憶がちゃんとあるし。楽曲だけじゃなくて、ジャケットや映像も「丁寧に作ってきた」っていう感覚があるので。あとね、自分が予想できないようなことも実際にやってみると「こういうこともできるんだな」って思うことがけっこうあったんですよ、この6年間。例えばコラボレーションにしても（たむらぱんはこれまでDr.Kyon、HALFBY、Shing02、SNUFF、斎藤ネコといったアーテイストとコラボを経験）、自分にとって大事な人を選ばせてもらったと思うし。それもいいことだったというか、必要なことだったんだなって。

──こうやって振り返ってみるといいことばっかりじゃないですか、たむらぱんさん。

過去の記憶って、だいたいいいことしか残らないですからね（笑）。思い出は美化されるんですよ、きっと。今回のベスト盤にしても、自分の中ではすごくキラキラしたイメージなんです。この感じのまま老後までいってほしい（笑）。