ナタリー PowerPush - たむらぱん
「京騒戯画」監督と語らう表現論
アニメ「京騒戯画」の監督・松本理恵と、この作品の主題歌「ココ」を手がけたたむらぱんの対談が実現! 「ココ」の制作プロセス、作品づくりに対するスタンスから、たむらぱんのニューアルバム「love and pain」のテーマまで。同世代の女性クリエイターである2人のトークは“アニメと音楽”というジャンルを超え、エンタテインメントの本質に迫る興味深い内容となった。
取材・文 / 森朋之 撮影 / 佐藤類
「本当に伝えたいことは、世の中では陰の部分にあたるもの」
──まずは「ココ」の制作について聞かせてください。最初の打ち合わせではどんな話をしてたんですか?
たむらぱん 打ち合わせって、7月中旬くらいですよね?
松本 そうですね。ちょうど(「京騒戯画」の)1話目のコンテを描いていた時期だったので。私、初めての方にお会いするときはすごく緊張してしまうので、顔を硬直させてましたけど……。
たむらぱん そうだったかも(笑)。私も事前に「0話」にあたるものを観させてもらってたんですけど、打ち合わせの場でも監督からストーリーとかテーマを話していただいて。
松本 「イケメンの坊主が出てきて……」って言ったら、「あ、保護者の役割をしている人ですよね」って返してくれて。ちゃんと把握してくれていることにすごく感動したんですよね。隅っこでこそこそ作ってるアニメなのに、ありがたいなと。
たむらぱん いえいえ(笑)。あとはオープニングの映像のイメージだったり、「曲調は速い感じで」ということだったり。でも、そのあとは作品そのものというより、表現の仕方みたいな話をしてましたね。
松本 キャラの設定がどうこうという話はあんまりしてなくて、わりと人生哲学的なことですよね。私はめちゃくちゃ緊張してたので、熱にうなされるようにバーッと話してしまったんですけど。
たむらぱん そのときに印象深かったのは、「本当に伝えたいことはどちらかというと、寂しいものだったり、世の中では陰の部分にあたるもの。でもそれを最初から出すのではなくて、作品に中和させる」みたいな話だったんですよ。私自身も「露骨じゃないんだけど、伝わってくる」っていうものをエンタテインメントとして表現したいと思ってるので、監督がそういうことを言い出したときは「来た!」って思って。
松本 オープニングテーマは作品の根幹に関わる部分だから、「主人公が女の子で……」みたいなことよりも本質的なことを話したいと思ってたんですよ。でも、そういうことって「話してもいいのかな?」っていうところもあるじゃないですか。
たむらぱん わかります。
松本 わかりづらい話というか、「それを自分の言葉で言って、本当に伝わるのかな?」って。装飾したり、比喩を使って、違う話として言わなくちゃいけないこともあるし。
たむらぱん あまりにもこっちが熱すぎたり、温度感に差が出ちゃうのも寂しいですからね。「なんでわかってくれないの!」って(笑)。
アニメと音楽の醍醐味
──たむらぱんさんと松本監督は、いきなり表現の本質について話し合える雰囲気だった、と。
たむらぱん そのときメモを取ってたんですけど……。(手帳を持ってくる)あ、そうそう、これだ。「平和が前提、崩壊がエンタテインメントになり得る」っていう。平和は当たり前の状態で、ダメな部分をどうやってエンタテインメントにするかということだと思うんですよね、これって。アニメも音楽も、そこが醍醐味なんじゃないかなって。
──“ダメな部分”というのはつまり、ダークだったり、シリアスな事柄ということ?
松本 ハリウッド映画とかもそうですけど、「こんなの現実に起きたらあかんやろ」ということじゃないと作品になりづらいんですよ。「実際に起きたら悲惨だよな」というものをエンタテインメントして提供したいっていう。あのとき「震災のときも作業してた」っていう話もしてましたよね?
たむらぱん はい。
松本 「京騒戯画」はもともと、世界崩壊とか終末論をテーマにした短編として作り始めたんです。でも、その最中に震災が起きてしまって。現実にそういうことが起きて、いろいろと感じることが多かったんですよね。
──作品に対するスタンスを問い直した?
松本 ただ、「不謹慎だからやりません」というのは違うと思ったんですよ。生きてたら、どうしたってつらいことがごまんと出てくるじゃないですか。「それでも生きたほうがいい」と思ってもらえるものを提供したいというか……。使命とまでは思ってないですけどね。好きでやってるだけなんで。
たむらぱん 「どうやって責任取るんだ?」みたいな話になると、エンタテインメントはできないだろうし。もちろんいろいろ考えたり、躊躇することもあるけど、だからって(自分の作品を)変えるというのもおかしな話ですからね。……まあ、そういう話をずっとしてたんですよね、結局(笑)。
──アニメーションを制作する上でスタッフワークは非常に大事だと思うのですが、松本さんはそういう本質論をスタッフの方々にも話すんですか?
松本 「必要なときにはする」っていう感じですけどね。マジメに「こういうことを思ってるんだよ。だから、がんばってくれよ!」みたいなことにはならないです。もちろんスタッフワークは大事なんですけど、ありがたいことに今のスタッフは、私が演出を始めた頃から一緒にやってるメンバーなんですよ。言わなくても汲んでくれる人たちだから、なんとなく「こいつ、こんなこと考えてるんだろうな」ってわかってくれるというか。あとたむらさんも絶対そうだと思うんですけど、ホントに大事なことって作品に込めるじゃないですか。
たむらぱん あーそうですね。言葉で言うと誤解とか語弊が生まれるし、もともと言い方がうまくないから(笑)。
松本 人との関係の中で、直接やり取りするより間接的に受け取ってもらったほうがすんなり伝わる場合もあるし。私はわりとコミュニケーション不全なところがあるので(笑)、何かを介したほうが伝えやすいんですよね。
──それがアニメーションに携わった理由でもある?
松本 どうなんでしょうね。たぶん、農業とかでもいいと思うんですけどね。縁とか運があって、今アニメをやってるっていうことだと思います。
- ニューアルバム「love and pain」/ 2013年12月18日発売 / 日本コロムビア
- 初回限定盤 [CD+DVD] 3675円 / COZP-822~3
- 通常盤 [CD]2940円 / COCP-38339
CD収録曲
- love and pain
- くそったれ
- music video life
- 第2ステージ
- 手が目が
- ココ(album ver.)
- 近くの愛情
- only lonely road
- こんなにたくさん
- やってくる
初回限定盤DVD収録内容
TAMURAPAN ワンマンライブ全国ツアー 2012.11.30 @Shibuya-AX
- ふれる
- ラフ
- ゼロ
- 十人十色
- ぼくの
- でもない
- new world
- ハイガール
- でんわ
- 知らない
- おしごと
- 直球
- ニューシングル「ココ」/ 2013年10月23日発売 / 日本コロムビア
- 初回限定盤 [CD2枚組] 1575円 / COCC-16794~5
- 通常盤 [CD]1050円 / COCC-16793
CD収録曲
- ココ
- 自分を
初回限定盤CD収録内容
京騒戯画特典ラジオCD
- オープニング
- 京騒戯画って?
- たむらぱんをむかえて
- エンディング
ライブ情報
インストアライブ
- 2014年1月12日(日)東京都 タワーレコード新宿店7Fイベントスペース
START 15:00 - 2014年1月18日(土)大阪府 タワーレコード梅田NU茶屋町店6F
START 14:30
※イベント特典:「特典引換券」または「イベント参加券」をお持ちのお客様は、終演後にたむらぱん本人から「love and pain」ポスターをプレゼント!
"love and pain TOUR"
- 2014年2月12日(水)大阪府 大阪BIG CAT
OPEN 18:30 / START 19:30 - 2014年2月13日(木)愛知県 名古屋BOTTOM LINE
OPEN 18:30 / START 19:30 - 2014年2月21日(金)東京都 Zepp Tokyo
OPEN 18:30 / START 19:30
たむらぱん
作詞・作曲・アレンジはもちろん、アートワークまで手がけるマルチアーティスト・田村歩美のソロプロジェクト。2007年からMyspaceにおいて自ら楽曲プロモーションを開始し、日本初の「Myspace発メジャーデビューアーティスト」として、2008年4月に1stアルバム「ブタベスト」をリリースする。また自身の活動に加えて、松平健の「マツケンカレー」や、アイドルグループのbump.y、私立恵比寿中学などへの楽曲提供、さらにロッテ「Fit's」CM曲の歌唱など、多岐にわたる活動でその才能を発揮している。2013年10月にアニメ「京騒戯画」のオープニングテーマとして書き下ろした「ココ」をリリース。12月には6thアルバム「love and pain」を発売する。
松本理恵(まつもとりえ)
1985年生まれ、アニメーション演出・監督。2006年の「ふたりはプリキュア Splash Star」で演出助手としてデビュー。2010年公開の映画「ハートキャッチプリキュア! 花の都でファッションショー…ですか!?」ではシリーズ初の女性監督を務める。現在TOKYO MXテレビ / BS朝日テレビおよびニコニコ動画にて放送中のアニメ「京騒戯画」の監督を担当。