暗闇をやっと断ち切れる日
──11月3日にファイナルを迎えた「sumika Live Tour 2021『花鳥風月』」、おつかれさまでした(参照:sumikaが季節を巡った全国ツアー終幕、1年半を経て実現した有観客のたまアリ公演で見た景色)。振り返って、どんな思いがありますか?
片岡健太(Vo, G) コロナの影響で何カ所かで日程変更があったんですけど、結果的に予定していたすべての会場でライブをすることができました。人数制限はありましたけど、来ていただいた方に面と向かって音楽を届けられる機会をもらえて、ツアーをやりきれたことが一番うれしい気持ちとしてありますね。
荒井智之(Dr, Cho) 本当に「無事終われてよかった」という言葉に尽きると思っています。もちろん毎公演楽しかったんですけど、自分たちではどうしようもない問題があって、「今日もなんとか開催できた」ということの連続だったので。無事に回り切れて本当によかったなと思っています。
小川貴之(Key, Cho) このチームで回り切ることができてよかったなというのが、一番大きいですね。個人的には、この1年半でライブ経験値というものがほぼゼロに戻った感覚があって、自分の中のハードルがすごく高くなってしまったこともあって。毎回恐怖心と戦いながら回ったツアーでもあったんですが、結果的に学ぶものはとても多かったです。
黒田隼之介(G, Cho) 開催できるかどうかを含めて、自分たちでは決められないこともたくさんある中で、「このチームはなんて頼りになるんだろう」ということを改めて思いました。ツアーができなくなったらこの人たちに会えなくなっちゃうのかと思うと、開催できることがすごくうれしいと思いましたし、これを守っていきたいという気持ちになりましたね。
──ファイナルのさいたまスーパーアリーナ公演2DAYSには、どういう思いで臨みましたか?
片岡 さいたまスーパーアリーナという会場は、本来は2020年にアリーナツアー「sumika Arena Tour 2020 -Daily's Lamp-」で立たせていただく予定だったんですが、延期になって。「振替公演を2021年の1月と2月にさいたまスーパーアリーナで5日間やります」と言ったんですけど、それもやっぱりできず。結果的に、2月にさいたまスーパーアリーナを3日間借りて配信でライブをするところに着地して(参照:sumikaがオンラインライブ3DAYS開催、さいたまスーパーアリーナで灯した希望の光)、それがあってからの今回だったんです。会場自体に念みたいなものがこもっていて、2020年から続いていた暗闇をやっと断ち切れる日になるかもしれないということを、ものすごく感じていました。それと、さいたまスーパーアリーナのスタッフの方と話をさせていただいたときに、コロナで会場自体も開催が厳しいはずなのに、僕たちのことを気遣ってくださったり、まるでライブハウスのスタッフさんのような空気感で、アーティストのことを見てくださっているんだなということを強く感じたんですね。観客の方もスタッフチームも含めて、すごく特別なファイナルになりましたし、たぶんもう二度とあの空気感は作れないと思います。
小川 本当に無事みんなでファイナルを迎えられたことがすごく大きかったです。いろいろな不安を抱えながら回っていたツアーだったんですけど、SNSなどを通じてメッセージをくれたり、その場所にいる人だけではなく、みんながこのツアーを応援してくれて、いろんな人たちの気持ちが乗ったファイナルだなということを、ステージに立って思いました。なので、いつものファイナル以上に感慨深さはありましたね。
黒田 最後の最後、桜の花びらを降らす演出をやったんですけど、会場の都合上、ツアーのほかの公演ではできなかったんです。構想自体を長いこと持ち続けて、ようやく降った桜だったんですね。それが落ちてくる中で演奏しているときが、「“花鳥風月”がここにあった!」という気持ちに一番なれた瞬間でした。このツアーをやれて、桜を降らせてよかったなって。あのシーンが一番印象に残っています。
荒井 ファイナルはすべてが印象に残っています。でもやっぱり一番は頭のシーンですかね。さいたまスーパーアリーナ2DAYSだけ、SEも変えたんですよ。もともとあのSEは、開催できなかった「sumika Arena Tour 2020 -Daily's Lamp-」で使う予定で。今年の2月にやった配信ライブのときに流したんですけど、「このツアーで、せめてファイナルだけでもあのSEを使いたいよね」という話になって。最初は幕が閉じていて、SEが流れて、バサッと幕が落ちて、健太がひと言言ってライブが始まる。その一連の流れがすごく美しかったなと思います。あのとき、ステージ上でSEを聴きながら始まりの瞬間を待っていたんですけど、ちょうど僕の真後ろにセットの短冊が下がっていたんです。あれを見上げながら、いろんなことを思い出していて……今回は「花鳥風月」という和名のツアータイトルで、あの短冊のデザインにも日本の優雅さみたいなものが感じられて。それが関係あったのかどうかわからないですけど、ファイナルが終わったときの自分の中の感情は、「やっほー、楽しかった!」という感情ではなく、もっとしみじみと、心の中に静かに重しを乗せるような感覚でした。茶室でお茶を飲んで、「ああ、うまい」と思うような……って、茶室でお茶を飲んだことないですけど(笑)。そういうふうに静かに感動するという感情の味わい方は初めてだったので、すごく印象に残っています。
片岡 奥ゆかしい。
荒井 そう、奥ゆかしさがあったんだよね。さっき隼ちゃんが言ってくれた桜の演出もそうだし、日本人らしい情緒の感じ方みたいなものが、このツアーの中のいろいろなところに隠されていたのかな?と、今改めて感じますね。
世界中のどこよりも、素の感情が出ている場所がライブ
──ライブ収録用のカメラが入っている緊張感はありましたか?
片岡 それはもう、ありますよ(笑)。サービス用のカメラはDAY1に確認していたんですけど、DAY2になった途端にカメラがバーッと増えたので。
黒田 めちゃくちゃ増えましたね(笑)。
片岡 並々ならぬ思いを感じました。「2021年の今、目の前にお客さんがいる状態でライブをすることを記録する」ということの特別感を、WOWOWチームの方々が持っているような気がして。そこにも念みたいなものがこもっていた気がします。いい意味でずっとヒリヒリしていました。
──ツアーファイナルの模様は12月12日(日)にWOWOWでオンエアされます。放送でライブを楽しむ方へ、メッセージをもらえますか?
片岡 音源で楽しんでいただくsumikaと、ライブで観るsumikaの印象の差が激しいとよく人から言われるんですね。ライブでは人としての喜怒哀楽が振れまくっているらしくて、それはやっぱりライブで観てもらわないとわからないことだと思います。世界中のどこよりも、素の感情が出ている場所がライブだと思うので、それを観ていただけたらうれしいなと思います。
──WOWOWではライブ映像に先駆けて、12月5日(日)にsumikaのドキュメンタリー番組「Documentary of sumika 2020-2021 ~僕らの居場所~」も放送されます。
片岡 実は2020年の3月にやった「sumika Arena Tour 2020 -Daily's Lamp-」のリハーサルのときからWOWOWさんにはずっとカメラを回していただいていたので、ライブがやれるのかやれないのかという緊迫感や、その中でも最大限の準備をしようという思いが、全部映像に入っていると思います。1年9カ月の間、追いかけ続けてくれたチームだからこそ撮れた映像になっていると思いますし、メンバーとスタッフの絆も感じてもらえるんじゃないかなと思います。
──コロナ禍のsumikaの活動のドキュメンタリーでもあると。
片岡 そうですね。二度と経験したくないですけど、今思えばあの経験が、これからの音楽制作に生きていくと思うので、その瞬間を一緒に過ごしてくれたクルーがいたことは、僕たちにとってもすごく特別な経験でした。正直、去年だったらこの映像は観れなかったと思いますね。悲しすぎて。でも今なら観れる気がしますし、みんなと一緒に楽しみたいと思います。
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シングル「SOUND VILLAGE」インタビュー