泥臭い曲になればなるほどいい

──そして2曲目が「アンコール」。ピアノと歌で始まる、とても切ないバラードです。

片岡 合宿の最終工程で、最後にアンサンブルで合わせたのがこの曲です。「冬のバラードを作ろう」ということで、やんわりと構成を決めて、「ラララー」ってメロディを付けて。歌詞は虫食い状態だったんですけど、サビの「あまりにも君が あまりにも素直に泣くから」という歌詞はすでにあったり、曲のタイトルも決まっていたりしたんです。それから歌詞のテーマについて合宿でみんなで話しましたね。「なぜ彼女は泣いたのか?」という涙の理由から考えていくことをして、家に持ち帰って歌詞を書きました。

黒田 選曲会議のときから「この曲やりたいな」という気持ちがずっとあって、やれることになったときに、「ギターソロを弾けたらうれしいんですけどいかがですか」と皆さんにお伺いして、「いいよ」と言っていただきました(笑)。歌詞もほぼ完成した中で、いろんなことを考えながらギターソロを作りました。

片岡 ドラマチックで、旅路感のあるソロですね。

黒田隼之介(G, Cho)

黒田 いつになっても消えない恋の中にいるという歌詞だったので、テーマとして、「2人でいるときの幻を、1人で見る。そういうギターソロにしよう」と思いました。和音を使うのも、2本の弦ではなくて1本の弦でハマるようなもので、「この曲の主人公は幻を見ていることに実は気付いているから、悲しさが募るようなフレーズになったらいいな」ということを考えながら作りましたね。

──素晴らしいイマジネーションです。曲の途中でふっと、アコースティックギターと歌だけになるパートもすごく印象的でした。

片岡 あれは、過去にいろいろあった部屋で録りました。その部屋にエアマイクだけ立てて、ギターとボーカルを一気に録ったんです。部屋鳴りというか、あの部屋に行って鳴らせば、鳴るだろうと。

──どんな部屋なんですか?

片岡 まあ、いろいろあった部屋ですね(笑)。普通の家の、自分の部屋なんですけど、僕がたぶん、世界で一番悲しい思いをした部屋です。レコーディングスタジオで録るよりも、音質が悪くても、それがいいだろうと思ったので。

──これ以上突っ込みませんが、その謎はいつか明かされるんですかね。

片岡 いやあ、隠してはいないんですけど、そこはまあお任せします。この話を始めると、たぶん飲み屋3軒ぐらいかけて、朝まで語ることになると思うので(笑)。

──(笑)。まさに男の悲しさや切なさが思いきり出た、素晴らしいバラードだと思います。そして3曲目は、元気いっぱいのギターロックチューン「一閃」。作曲者は小川さんですね。

小川 はい。もともとギターで作った曲で、合宿でも僕がギターを弾いて。今までやったことのない合わせ方をして、曲の原型をイメージしていきました。そういったチャレンジというのも、この楽曲に乗ったのかなと思います。

──慣れないギター作曲を、あえてやってみたかった。

小川 なんというか、“もがく自分”みたいなものをいつまでも持っていたいということもありますし、この曲はそういう、汗水垂らす感覚が合っていると思ったので。泥臭い曲になればなるほどいいなと思っていました。

──“バンド人生賛歌”と言いますか、悔しさや嫉妬をバネにして、バンドとしての憧れや喜びへ向かう思いが赤裸々に歌われていて。いい歌詞だなと思います。作詞は片岡さんですね。

片岡 これはおがりんに「どういう気持ちで作ったの?」とヒアリングをしました。

小川 僕の過去は、憧れより悔しさのほうが糧になっていると思っていて、ほとんどそれなんじゃないかなと思います。今は大きなステージに立たせてもらう機会もいただけますけど、ずっと悔しさを忘れることができていなくて、それをしっかりと曲に残せて本当によかったなと思っています。例えばイントロ、アウトロの雰囲気も、原型のままだと納得いかないものがあったので、ギター侍に登場していただいて、「こういう思いを乗せたいんだ」という話をして。隼ちゃんがそれを全部汲んで、フレーズを作ってくれました。

黒田 昔の自分の悔しさを乗り越えて、それを定期的に思い出して、心燃やして、音楽に取り組んでいきたいという気持ちをおがりんから聞いて。おがりんや片岡さんが歌っている前身バンドの曲もいっぱい聴いて、みたいなこともやりました。イントロの逆再生のギターは、昔の気持ちがよみがえるということをやりたかったんですよ。そこに実は、昔の歌声も入っていたりするんです。

片岡 リバースがかかってるからわかりづらいけどね。

──歌で言うと、片岡さんと小川さんのツインボーカルで、ここまで掛け合いのフレーズが多い曲って、今までなかったんじゃないですか?

小川 なかったですね。最初に片岡さんに提案をいただいたときは、何を言ってるのかよくわかりませんでした(笑)。でも結果的に2人でめちゃくちゃ力を合わせて、競り合ってる感じをレコーディングで出せたので、非常に楽しい時間でしたし、本当に今までにないものになりました。

根源の気持ちと向き合えた

──そして4曲目の「Marry Dance」も作曲は小川さんです。

小川貴之(Key, Cho)

小川 これはもともと、1年半前ぐらいにボイスメモで録っていた曲で。「ミドルテンポ、いい感じ」というタイトルが付いていました(笑)。合宿でみんなで合わせてみて、手応えはあったんですけど、そのあと仕上げるまで時間がかかりました。レコーディング前日に曲が完成するという状態で、みんなには申し訳ないことをしてしまったんですけど、結果的に曲に閉じ込めたいテーマの最適解を見つけられたので、無事完成してよかったなと思う楽曲です。

──最終的に、結婚する友人をテーマにした曲になったんですね。

小川 正確には「こいつが結婚したら、自分はどう思うんだろうな」という、大親友のことを思い浮かべて書いた曲です。本当にその人の過去を、ダメだったこともよかったことも、山あり谷ありの全部の場面を見てきたので、こいつが結婚するならたぶん自分も一緒に感慨深くなったり、ちょっと悲しくなったり、独特な感情になるんじゃないかなと思って。結婚式に行く日の朝、ネクタイを締めながら自分はどういう感覚になるんだろう?というものを、この曲に詰めようと思ったんですね。

──そしてまた、片岡さんはそれをヒアリングして、歌詞に仕上げる役割という。

片岡 テーマを聞いたときに、その親友が誰かを推理したんですよ。それで小川くんに「ちなみに、この人?」と聞いたときに、「そうです」と言ってくれたから「じゃあ書けるわ」と。僕も知っている人で、想像できたから書けたんだと思います。知らない人だったら、もう時間がなかったし、レコーディングが飛ぶなと思ってました(笑)。

小川 片岡さん、実際は「ちなみに、誰?」って聞いたんですよ。

片岡 ああ、そうそう。

小川 名前を言ったら、「じゃあ大丈夫だ」と言ってくれて、心の底からホッとしましたね(笑)。ここで違う人の名前を言っていたら、とんでもないことになっていただろうなと。

片岡 それぐらい、ギリギリのタイム感だったよね。そこに至るまでに歌詞を仮組したんですよ。相手の絵が浮かんでいて、その通りならば、残りの時間で書ききれる。でもそれが根底から覆えされたら、0から1を作る時間はない。これは賭けだと思って、電話したんです。

──それが「ちなみに、誰?」という言葉につながったと。ドラマチックですね。

片岡 そこがバチッ!と合うから、バンドって面白いなと思いましたね。バチっとハマったのも、それこそ合宿に行ってきたからこそ、波長が合っていたんじゃないかなとも思うし、それが制作過程にも生きた曲だなと思います。

──こういうメロウな曲調で、シンプルにそっと支えるような演奏がまたいいんですよね。

荒井智之(Dr, Cho)

荒井 気持ちいいですよね。フィーリンググッド、という感じでやらせてもらいました。

黒田 僕はあまり得意な感じではないので、不安はあったんですけど。周りにも相談しながら、結果的に楽しくできました。

片岡 この曲で全員が抱えていた不安感、ヤバかったよね(笑)。ドラムを録ったときには歌詞ができていないし、ギターを録ったときにもできていない。「最後はどうなるんだ?」と思ってましたけど、それもやっぱり全員のグルーヴが合っていたなという感じがします。

黒田 合宿の最初の時点で、「この曲、いいよね」というところから始まっているので。その強さみたいなものを、ひしひしと感じました。

──合宿をやったことが、曲の完成までにポジティブな影響をもたらしたと。

片岡 これから、困ったら合宿に行けば曲ができるなと思いました(笑)。ただ、とにかく今回よかったのは「やったことのないことをやった」ということで、奇をてらったわけではなく、「楽しい音楽を作りたい、刺激的な音楽を作りたい」という気持ちの根源と向き合って作れたことですね。ここ1、2年のそれどころではなかった空気の中から脱却できて、“音楽を作る”ことにピュアに向き合って作れたので、そこがすごくよかったなと思います。

──今のsumikaにとって新たな一歩になるような、重要なシングルだと思います。そして初回限定盤には、サウンドビレッジでの合宿のドキュメンタリー映像が入ったBlu-rayが付属するんですね。

片岡 そうです。やっぱり過程から観ていただいたほうが、曲に対して思いも乗るんじゃないかと思って、提案させてもらいました。フォトブックも付くので、映像でも写真でも楽しんでもらえると思います。マスターのおいしいごはんもちょこちょこ映っているので、グルメ的な観点でもぜひ楽しんでください(笑)。

──そして年が明けるとライブハウスツアー「sumika Live Tour 2022『花鳥風月』-第二幕-」が始まります。これは、今年のツアーとはまた違ったものになるんですか?

片岡 テーマの根本は変わらないと思いますけど、同じことをやってもしょうがないし、僕たちが飽きずにやることが大事なので、新鮮なスパイスをたくさん入れながら回れたらと思っています。そもそも「花鳥風月」は、1年中の四季折々をともに見ていこうというツアーで。第一幕は5月から11月だったので、1月から4月にかけて第二幕をやることで、5月から4月まで回ったツアーになるんです。1年中を駆け巡る最後のラストスパートになると思いますね。sumikaは歌詞でも、春についての話が多くて。春に始まって春に終わる、そこに自然と乗っていく感情があると思うので、ポジティブなツアーになると思います。

sumika

ツアー情報

sumika Live Tour 2022「花鳥風月」-第二幕-
  • 2022年1月15日(土)宮城県 SENDAI GIGS
  • 2022年1月16日(日)宮城県 SENDAI GIGS
  • 2022年1月25日(火)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)
  • 2022年1月26日(水)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)
  • 2022年2月5日(土)広島県 BLUE LIVE HIROSHIMA
  • 2022年2月6日(日)広島県 BLUE LIVE HIROSHIMA
  • 2022年2月17日(木)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)
  • 2022年2月18日(金)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)
  • 2022年2月21日(月)北海道 Zepp Sapporo
  • 2022年2月22日(火)北海道 Zepp Sapporo
  • 2022年2月28日(月)愛知県 Zepp Nagoya
  • 2022年3月1日(火)愛知県 Zepp Nagoya
  • 2022年3月7日(月)福岡県 Zepp Fukuoka
  • 2022年3月9日(水)大阪府 Zepp Osaka Bayside
  • 2022年3月10日(木)大阪府 Zepp Osaka Bayside
  • 2022年3月14日(月)愛知県 Zepp Nagoya
  • 2022年3月15日(火)愛知県 Zepp Nagoya
  • 2022年3月17日(木)福岡県 Zepp Fukuoka
  • 2022年3月30日(水)大阪府 Zepp Osaka Bayside
  • 2022年3月31日(木)大阪府 Zepp Osaka Bayside
  • 2022年4月11日(月)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)
  • 2022年4月12日(火)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)