三月のパンタシア|7つのキーワードで振り返る“君と私の物語”

三月のパンタシアが6月1日にメジャーデビュー5周年を迎えた。

2016年6月1日にメジャーデビューした三月のパンタシアは、思春期の切ない恋心や憂鬱な気分、もどかしさといった繊細な心の揺れを表現し、リスナーに寄り添いながら独自の世界観を築き上げてきた。2018年からは音楽、小説、イラストを連動させた企画「ガールズブルー」を展開し、その世界をさらに色濃いものにしていき、音楽的にもさまざまなジャンルに果敢に挑戦。2021年5月には初の地上波ドラマタイアップ曲として、テレビ朝日系「あのときキスしておけば」のオープニングテーマ「幸福なわがまま」を配信リリースした。

音楽ナタリーではメジャーデビュー5周年と新曲のリリースを記念して、みあ(Vo)へのインタビューを行った。今回は7つのキーワードを軸に、三月のパンタシアの5年間を振り返っていく。

取材・文 / 中川麻梨花

1.はじまりの速度

──5年前にデビューシングル「はじまりの速度」をリリースした頃の心境は覚えていますか?

そうですね……インディーズ時代は、いろんな人に聴いてもらいたいなという気持ちはありつつ、自分の中に明確な目標がなかったんです。ただ自分の好きな人たちと音楽を作って、それを聴いてもらえたらうれしいなという気持ちで1曲1曲と向き合っていました。でも、「はじまりの速度」という曲でメジャーデビューして、しかもこの曲がアニメ「キズナイーバー」のエンディングテーマになって。そこでこれまで以上に三月のパンタシアの音楽が広がっていく手応えを確かに感じました。自分の曲がテレビで流れたときの感動は今でも覚えているし、そんな中で夢が持てるようになったんですよね。自分の中に野心みたいなものが芽生えて、「もっとこういう曲を三月のパンタシアでやってみたい」とか、「こういう曲を作ったらいろんな人に届くんじゃないか?」と考えるようになりました。

──そもそも、みあさんは小さい頃から歌手になりたいと夢見ていた人ではない?

なかったですね。周りの人たちに「声がいいから、やってみたらいいんじゃない?」と言ってもらって、音楽が好きだからやってみようと決意して歌い始めました。その頃と今では気持ちの持ちようがまったく違いますね。特に今は、自分で歌詞を書いたり小説を書いたりするのがすごく面白いんです。三月のパンタシアを始める前までは、自分で作ったものを発信する経験がなかったので。発信したものに対してSNSで感想をいただいたり、そういう中でどんどんやりたいことが増えて、夢も日に日に大きくなっている感じがします。

──以前インタビューで「もともと自分に自信がなくて、あまり明るい将来を描けていなかったけど、リスナーの方がいてくれるから自分は歌えている」とおっしゃっていましたが(参照:三月のパンタシア「ブルーポップは鳴りやまない」特集)、「はじまりの速度」を改めて聴くと、出だしの「傷つくのがこわい だから見えない空ひたすら否定して あの日の部屋で膝かかえてた僕の窓をほら君が開けたんだ」というフレーズからして、みあさんとファンの方々の物語にも重なる曲なんじゃないかなと思いました。「君が僕にくれた言葉 今 その一つ一つを思いだす 不安があふれ眠れない夜さえ不思議だね 楽になれるんだ」いうところも、みあさんがMCでおっしゃっているファンの方々への気持ちを象徴するようなフレーズかなと。

「はじまりの速度」ジャケット

それはあると思います。この曲は特にライブで歌うたびに気持ちが込み上げてくるんですよね。ファンの方々と長く時間を過ごしていくにつれて、「はじまりの速度」という曲の物語の密度も濃くなっているような実感があります。

──「はじまりの速度」がリリースされたとき、「<一人じゃないよ、私がいるよ>と語りかけるような、聴いてくれる人の背中をふわりと押してあげられるような曲にしたくて、その想いを声にのせました。 不安なとき、心細いときに傍に置いてもらえる曲になるといいな。そうやってみなさんと繋がっていけたら嬉しいです」というコメントをみあさんが出されていて(参照:三月のパンタシア×loundrawが描き出す「はじまりの速度」MV公開)。

いいこと言ってる(笑)。

──言ってます(笑)。まさに三月のパンタシアは人に寄り添いながら、つながりながら歩いてきたプロジェクトかと思うので、こういう曲でデビューしたのも三パシらしいというか、必然的な感じがしますね。

私自身もファンの人の言葉や、ライブで見るお客さんの笑顔に勇気をもらっているんです。私はよくMCなどで“君と私の物語”という言葉を使うんですけど、ファンの方々と一緒にここまで歩いてきたという実感があって。例えば新しい歌詞を書くとき、物語を紡ぐときはいつもそこにファンの皆さんの姿があります。そもそも三月のパンタシアの曲って、自分の中で1人でうずくまっているというよりは、“君”という対象がいる楽曲が多いんですよね。男女の情感とか友情とか、いつも人と人との間にあるものを描いてるなと思います。

2.三月

──三月のパンタシアは、3月という月を“終わりと始まりの季節”と言い表してきましたが、そこにはどのような思い入れがあるんですか?

学生時代、3月には必ず卒業式があって……私には憧れていた先生がいて、その先生が転勤になってしまったり、“さよならの季節”という印象が強かったんです。でもうじうじしていられないし、ここから自分も新しく一歩足を踏み出していかなきゃいけない。そういうふうに3月ってちょっと切ない気持ちや新しい季節への期待、不安、いろんな感情が交錯するので、繊細でドラマティックな季節だなと昔からずっと思っていました。

──ちなみに“三月”という季節が舞台になっている楽曲「三月がずっと続けばいい」は、今年の3月に行われた「ライブで披露してほしい楽曲」の投票企画で1位でしたよね。この結果はみあさん的に予想通りでした?

いや、どの曲が1位になるかは全然予想できていなかったんですけど、“三月”という言葉が入っている「三月がずっと続けばいい」がファンのみんなの中でも大切な曲になっているのがすごくうれしいです。私は、この曲の歌詞が特に大好きなんです。思春期の女の子の乙女心や素直になれない気持ちがすごく的確に書かれていて。「作詞の堀江(晶太)さんはなんでこんなに上手に女の子の気持ちが書けるんだろう?」と思いながら、私はそれから堀江さんのことを“堀江師匠”って勝手に呼んでます(笑)。

──堀江師匠(笑)。三月のパンタシアはとりわけ季節感を大切にしながら楽曲を制作してきましたが、みあさんは昔から四季を意識して日々を過ごしているような人だったんですか?

実はそうでもなくて(笑)。でも春と夏は昔から好きでした。特に夏の終わりの切ない感じが。

──「青春なんていらないわ」(2018年夏にYouTubeで発表された楽曲)の季節ですね。

まさにそうです。あの曲はn-bunaさんに「夏の終わりの曲を作りたいです」と話して書いてもらいました。

──その「青春なんていらないわ」を皮切りに、三月のパンタシアは「ガールズブルー」という、みあさんが書き下ろす小説を軸に楽曲やイラストを作り上げていくプロジェクトを季節単位で行っています。例えば「青春なんていらないわ」は夏、「煙」は冬と、それぞれの楽曲や小説の物語に季節が設定されていて。

最初は夏ならではの面白いことをやりたいというところから始めた企画だったんですけど、冬の物語も書いてみたいと思うようになって、それなら秋と春もあってもいいかなと。この企画を始めてから、ファンの方々も季節に合わせて楽曲を聴いてくれているようなんです。「夏になったらこの曲を聴きたくなる」とか「秋はこの曲だな」とか、そういう聴き方をしてもらえるのはすごくうれしいです。あと、「三月のパンタシアの曲は、聴いていた頃の季節の思い出が浮かぶ」というようなことをSNSに書いてくれている方もいて。みんなの記憶と三月パンタシアの音楽が、季節で結び付いてくれているのはすごく素敵なことだなと思います。

3.物語

──物語性のある歌詞というのはインディーズの頃から一貫していると思うんですが、当初から意識していましたか?

そうですね。“パンタシア=空想”というのがプロジェクトのテーマの1つとしてありましたし、1stワンマンライブの時点で朗読を挟んで物語仕立てのライブにしていました。私はストレートに自分の感情を表現するような楽曲も好きで、リスナーとしてはいっぱい聴くんですけど、三月のパンタシアとしては物語性のある音楽を作っていきたいと初期の頃から思っていました。

──先ほど「自分に自信がなかった」「昔から言いたいことが言えなかった」とおっしゃっていましたが、そういう感情をストレートに音楽に乗せて吐露するような表現にならなかったのはなぜなんでしょうか?

うーん……自分の感情をさらけ出すのが怖かった、というのはあるかもしれません。あと、憧れはあるけど、そういうふうに音楽をやってる自分があんまりイメージできなかった。私、Coccoさんの大ファンなんです。Coccoさんは自分の魂を歌っているようなお方で、私はその表現にいつも涙を流しちゃうんです。でも、好きな服と似合う服が違うのと少し似ているというか……どっちも好きだけど似合うほうを選んだ、という思いはありますね。

──なるほど。

でも、最近はちょっと自分の気持ちをさらけ出せるようになってきたんです。それこそ去年作詞した「ランデヴー」は、ファンの皆さんへの気持ちをつづった曲ですし。あの曲の歌詞を書くとき、なんだか恥ずかしくて、「ここまで書いちゃっていいのかな?」と思う気持ちもあったんです。自分の気持ちを見せるのって、やっぱり照れくささと緊張がありますね。

──物語といっても、三月のパンタシアが描くストーリーは、基本的には日常と地続きになっているものが多いかと思います。魔法が使えたり異世界にいたりというようなファンタジーな設定はなく、あくまでも私たちの世界で起こっていることというか。そのあたりは意識していますか?

そこに関しては、日常を切り取ったような話が好きという、私の好みによるところが大きいかもしれません。昔から青春小説や恋愛小説が好きだったので。「日常の話を書こう」と意識して書いているわけじゃなくて、純粋に自分が読みたい物語を書いている感じですね。

──みあさんが物語を書くにあたって特に意識していることはありますか?

自分が面白いと思えるものを書く、ということですかね。小説を書くときは最初にプロットを作るんですけど、まず自分が読みたいシーンみたいなものを考えて、そこに肉付けしていくという書き方をすることが多いです。これは自己満足と紙一重ではあるんですけど、自分自身がいいと思えないと、やっぱりいい作品にならないので。

──三月のパンタシアとファンの方々の“君と私の物語”は、改めて言葉にするとどういう道のりでしたか?

例えば三月のパンタシアという大きな船があったとして、私がいて、ファンの皆さんやスタッフの方々とみんなで漕いで、いろんな波があってバーンって水を浴びたりしながらも、一緒に紡いできたような物語だったような気がします。もしかしたら、ここからみあがめっちゃグイグイ引っ張っていく可能性もあるかもしれないですけど(笑)、これからもみんなで一緒に物語を紡いでいけたらいいなと思っています。