NONA REEVES|「まだ自分たちの音楽に飽きてない」27年目のノーナが語る、全曲シングル級の新作「Discography」

20代のときにはこんな曲は作れなかった

──今回のアルバムで、西寺さん自身が作家として会心の出来を感じた曲を挙げるとしたら?

西寺 「Hurricane」ですかね。どれも気に入っているけど、あえて挙げるなら「Wake Up!」と「Hurricane」かな。あんまりほかのアーティストがやらないことをやっている曲だと思うし。ドラムがうまくないとできない曲だから(笑)。「さあやろう」って高校生が言っても絶対にできない。僕らが20代のときもこんな曲は作れなかったし、今だからこそできた曲だと思う。もちろん年齢を重ねることで失っていくものもあるけど、その分できるようになることもある。それは冨田さんのアレンジを含めての話ですけど。

──真城めぐみ(ヒックスヴィル)さんをフィーチャーした、マーヴィン・ゲイ&タミー・テレル「Ain't No Mountain High Enough」のカバーも収録されていますが、これはどういう経緯でカバーすることになったんですか?

奥田 特に深い意味はないです(笑)。

小松 中井くんっていう若い現場マネージャーがいて、毎回ライブの曲目まで考えてくれるんですけど、彼がこの曲をカバーしてほしいって提案してくれて。メンバーはみんな「えー」って思いながらも、意外とちゃんとやるんですよ。この曲をやらせるのは、なんか理由があるかもしれないって(笑)。

西寺 「Ain't No Mountain High Enough」っていう選曲は、王道すぎて自分たちでは逆に思い付かないんですよね。まったく思い付きもしないことだから、そこはもうお任せしますって。僕ら3人とも、彼の意見をすごく素直に聞くんですよ(笑)。

奥田 「若い人に提案されたから」という理由で世界的な名曲をカバーしてるって、このインタビューを読む人はどう思うんですかね(笑)。

──(笑)。でも、キャリアを重ねる中でそういう若い人の意見が入ってくるのはいいですよね。

西寺 うん。このカバーが入ったことで、結果的に面白くなったと思いますよ。でも最初は小松に「このカバーが入ることで、ほかの曲がしょぼく聴こえたらどうしよう」って言われたんですよ。ソングライターを目の前にしてイヤなこと言うなと思って(笑)。

奥田 幸い、今のところそういう意見は周りから出てないんで大丈夫です(笑)。

NONA REEVES

まだ自分たちの音楽に飽きてない

──改めて、この「Discography」というアルバムは非常にポップでとっつきやすい作品であると同時に、NONA REEVESの特殊性が浮き彫りになった作品だなと思いましたし、またこれから3人がどんな作品を作っていくのか楽しみになりました。

西寺 自分でも楽しみです。僕らはこれまで1990年代、2000年代、2010年代、2020年代と4つのディケイドにまたがって活動してきましたけど、振り返ってみると2000年代はなかなか厳しかった。シーンの流れから明らかに浮いていたと思うんです。ロックフェス至上主義的な四つ打ちのギターバンドが主流になって、そこにEDMも加わって、みたいな。でも2010年代に入ってから、Daft Punk、Tuxedo、ブルーノ・マーズが大爆発して、レイドバックしたファンクやブギーをやるアーティストが増えたんですよね。それは自分たちにとって追い風になったと思う。その延長にあるのが2020年代なので、コロナ禍という最悪のスタートではあるけど、ここからの10年が楽しみでもあるんですよね。音楽的にはまだまだやれることがあるというか、常に言ってるけど、まだ自分たちの音楽に飽きていないので。

小松 最近よく自分たちで「作品を出した枚数ではサザンを超えた」と言っていて(笑)。

──確かに(笑)。しかしそこもノーナの特徴ですよね。だんだんと外仕事が増えて、解散はしていないものの活動自体は減っていくというバンドが多い中で、ノーナは外仕事も積極的にやりながら、作品もコンスタントに出し続けている。

西寺 駄作でもいいからとにかくメンバーにぶつける、というのは信条としてあります(笑)。曲を作ったら、CDなりカセットなり、ちゃんと形にする。

奥田 そしてライブでやったことない曲がどんどん増えていく(笑)。

小松 でも、ほかのバンドほど頻繁にはライブをやらないというのもあって、年中ずっと一緒にいるわけじゃないし、関係が煮詰まらないというのも大きいかもしれない。毎回新鮮な感覚で制作に入れるんですよね。

西寺 最初に言ったように、僕らは各々が別荘とかホテルに滞在しつつ、「そろそろ実家に帰って制作するか」みたいな感じでやってきたので、その関係性がここまで続いてきた秘訣かもしれないですね。あとは今回プロデュースしてくださった冨田さんをはじめ、真城さんだったり、(村田)シゲだったり、いーちゃん(松井泉)だったり、サポートメンバーの存在も大きいので、そういう人たちに助けられながら、風通しのいい状態で26年間やってこれたと思います。

NONA REEVES
NONA REEVES(ノーナリーヴス)
西寺郷太(Vo)、奥田健介(G)、小松シゲル(Dr)の3人からなる“ポップンソウル”バンド。1995年に結成し、1997年11月に「GOLF ep.」でメジャーデビューを果たす。初期はギターポップ色の強い楽曲を得意としていたが、1999年のメジャー2ndアルバム「Friday Night」を機にディスコソウル的なサウンドを追求し始める。その後も精力的に活動を続け、コンスタントに作品を発表。ポップでカラフルなメロディと洗練されたアレンジによって、国内でほかに類を見ない独自の立ち位置を確立する。西寺は文筆家としても活動し、80'sポップスの解説をはじめとする多くの書籍を執筆。さらにメンバーは3人とも他アーティストのプロデュースや楽曲提供、ライブ参加など多岐にわたって活躍している。2017年3月にメジャーデビュー20周年を記念したベストアルバム「POP'N SOUL 20~The Very Best of NONA REEVES」を発表。2020年6月にレーベル・daydream park recordsを立ち上げ、翌2021年にアルバム「Discography」をリリースする。