唯一無二なポップの祭典「YANO MUSIC FESTIVAL」|矢野博康、堀込泰行、小松シゲル(NONA REEVES)、南波志帆が振り返る「矢野フェス」の歴史

音楽プロデューサー / ドラマーの矢野博康が企画するライブイベントとして2010年にスタートした「矢野フェス」こと「YANO MUSIC FESTIVAL」。バンマスの小松シゲル(NONA REEVES)をはじめとする名うてのミュージシャンがバックを固めるハコバンスタイル、往年の音楽番組を彷彿とさせるユーモアあふれる演出で、矢野と親交の深いアーティストが一堂に会して繰り広げる“ポップの祭典”は、不定期開催ながら音楽シーンの中で強い存在感を放っている。

ナタリーのオンラインイベント「マツリー」内企画として今年1月に配信された初のスタジオ収録版「YANO MUSIC FESTIVAL 2021 ~ヤノフェス 歌うスタジオ~」に続き、9月20日には東京・Zepp Tokyoで「YANO MUSIC FESTIVAL 2021 ~ヤノフェス 歌う王国~」の開催が決定した。今回は堂島孝平、土岐麻子、堀込泰行、NONA REEVES、南波志帆といったレギュラーメンバーに加え、「歌うスタジオ」に引き続き2度目の参加となるBEYOOOOONDS、初参加の星屑スキャット、眉村ちあき、山崎エリイ、X-GUNが出演。さらに“レジェンド枠”として南佳孝が登場する。開催に先立ち、音楽ナタリーでは矢野、堀込、南波、バンマス小松による座談会をセッティング。歴代の「矢野フェス」を振り返り、不思議な中毒性を持つ「矢野フェス」の魅力に迫った。

取材・文 / 臼杵成晃撮影 / 曽我美芽

uP!!!オンラインライブ YANO MUSIC FESTIVAL 2021

配信日時:2021年10月2日(土)20:00~

9月20日(月・祝)にZepp Tokyoで開催される「YANO MUSIC FESTIVAL 2021 ~ヤノフェス 歌う王国~」の模様をuP!!!で配信!

<出演者> 堂島孝平 / 土岐麻子 / 南波志帆 / BEYOOOOONDS / 星屑スキャット / 堀込泰行 / 眉村ちあき / 南佳孝 / NONA REEVES feat. 西寺郷太 & ZEUS / 矢野博康 / and more

矢野フェスの方向性を決定付けた“夜ヒット”メドレー

──最初の「矢野フェス」は2010年2月、1日目は渋谷duo MUSIC EXCHANGE、2日目はShibuya O-EASTと会場を変えての2DAYSでした。

YANO MUSIC FESTIVAL 2010
2010年2月23日(火)東京都 渋谷duo MUSIC EXCHANGE
<出演者> 南波志帆 / 羊毛とおはな / Sunshine Love Steel Orchestra / コトリンゴ / The Granola Boys / 常盤響(DJ)
2010年2月24日(水)Shibuya O-EAST
<出演者> 南波志帆 / 堂島孝平 with 矢野フェスバンド / 馬の骨(堀込泰行) / 土岐麻子 with 矢野フェスバンド / NONA REEVES

レポート

南波志帆 11年前……歴史がすごいですね。

矢野博康 11年前に、たまたま「イベントをやりませんか?」というお話をいただいて、自分がやるならどんなものができるか考えて2日間開催させていただいたところから始まったんですよ。

堀込泰行 1日目がわりと渋好みで、2日目は少しパーティっぽい……のちの矢野フェスにつながるような雰囲気だった。

左から堀込泰行、矢野博康、南波志帆、小松シゲル(NONA REEVES)。

──いわゆるロックフェスとは異なる、ポップス寄りのアーティストで固められていることも「矢野フェス」の特色ですよね。

「YANO MUSIC FESTIVAL 2010」の様子。(撮影:音楽ナタリー編集部)

矢野 2000年前後からロックフェスが盛り上がりを見せ始めたとき、僕らの周りにいたミュージシャンたちにはなぜだかあまり声がかからなかったんですね(笑)。なので、もう少しポップス寄りの音楽を主体にしたイベントにしたいという思いはありました。僕らがやるならどういうことができるだろうかと考えて、1日目は着席でしっとりと聴ける内容で、2日目はO-EASTだから立ってワイワイやる方向で始めてみました。

──「矢野フェス」恒例のマイクリレーは、初回の2日目に初めて行われています。

矢野 古い友人で「矢野フェス」の構成も手伝っていただいてるライターのモリタタダシさんが「絶対に出演者でメドレーをやったほうがいいよ」とアドバイスをくれて、2日目のほうに盛り込んだんです。その大元は2005年にやった「ロンリーボーイ・ロンリーガール」というイベントで「夜のヒットスタジオ」(1968年から1990年にかけて放送されたフジテレビ系音楽番組)のオープニングメドレーを真似てみたら楽しくて、お客さんにもウケたんです。それで「矢野フェス」でもやってみたら、うまくハマった。ハコバンでやること、「夜ヒット」メドレーをやること、あとはほかのイベントでは聞けないようなトークやコラボをやること。2日目のライブで、のちにつながる「矢野フェス」の基本軸ができあがった感じですね。2回目からはそれが少し整理されて……整理されたのか、逆にとっ散らかったのかわからないけど(笑)。

「矢野フェス」のスタンダードを確立した第2回

──翌2011年の「矢野フェス」第2回は、矢野さんが和太鼓を叩くという衝撃の演出からスタートしました(笑)。この回から矢野さんのオープニング演出が恒例化します。

YANO MUSIC FESTIVAL 2011
2011年6月18日(土)東京都 SHIBUYA-AX
<出演者> 南波志帆(オープニングアクト)/ 馬の骨 / 土岐麻子 / 秦基博 / アイドリング!!! / 堂島孝平

オープニングメドレー

  1. Gift ~あなたはマドンナ~ / 矢野博康
  2. 葛飾ラプソディー / 土岐麻子
  3. アイ / 堂島孝平
  4. モテ期のうた / 秦基博
  5. グッデイ・グッバイ / アイドリング!!!
  6. グッデイ・グッバイ / 堀込泰行

レポート

矢野 太鼓を叩いて衣装直しをした(笑)。羽織袴で登場して。

「YANO MUSIC FESTIVAL 2011」で派手なオープニング演出を見せた矢野博康。(撮影:音楽ナタリー編集部)

南波 「ハーッ!」って叫んでましたよね。

小松シゲル(NONA REEVES) そんな早くから形ができあがってたんだっけ。(レポートの写真を見て)いいなあー。

堀込 アイドリング!!!が出たのもこの年?

矢野 そうだね。ここでかなり解釈を広げた感じ(笑)。朝日奈央さんや菊地亜美さんもいたんだね、今思えば。

堀込 メドレーの直前に裏で俺が「緊張するなあ」って言ってたら、「緊張しますよねえ」ってフレンドリーに声をかけてくれた子がいて。あれ、のちにわかったけど菊地亜美さんだった。

小松 いい話だなあ(笑)。

「YANO MUSIC FESTIVAL 2011」で共演した堂島孝平とアイドリング!!!。(撮影:音楽ナタリー編集部)

──メドレーではアイドリング!!!がキリンジの「グッデイ・グッバイ」を歌って、本編トップバッターの泰行さんにマイクリレーしました。そういえば、泰行さんがメドレー明けのトップバッター、南波さんがオープニングアクトおよびアシスタントMCというのも2年目から定着していますね。

矢野 馬の骨(堀込泰行ソロプロジェクト)、土岐麻子、秦基博、堂島孝平……おなじみのメンツですね。ここからスタンダード化したものが多い。コラボもいろいろあったよね。

堀込 秦くんと「エイリアンズ」を歌ったのがこのときか。

──ほかにも堂島さんがアイドリング!!!への提供曲「Like a Shooting Star」を歌ったり、土岐さんが秦さんと「How Beautiful」をデュエットしたり。秦さんはメドレーでアイドリング!!!の「モテ期のうた」も歌っています(笑)。

矢野 実は秦くんはそういう面白いことやるのが好きな人なんですよ。

南波 私はMCなんてそれまでしたことがなかったんですけど、「矢野フェス」で堂島師匠のトーク力に衝撃を受けて、大きな影響を受けました。

矢野 それが南波さんも今ではNHK-FMのパーソナリティだからね。何が起こるかわからない。

南波志帆

南波 私の中の面白要素は「矢野フェス」で育てられたと言っても過言ではないです。いい教育をしていただきました(笑)。

矢野 面白い要素もたくさんあるんだけど、楽しいムードの中でもお客さんには「いい音楽を聴いたな」という余韻をちゃんと残して帰っていただきたいんですよね。その塩梅がけっこう難しいのですが、そこをうまく考えるのが僕の一番大事な仕事だと思ってます。この年の公演は、1回目の手応えを受けてさらに発展させて、点が線になったような感じですね。

点から線、そして太線へ

──2年ぶりとなった3回目の「矢野フェス」には、泰行さん、秦さん、堂島さんというおなじみのメンツに加えて、RHYMESTERとバカリズムさんが初参加と。南波さんはこの時点で「矢野フェス永遠のオープニングアクト」を自称しています。

YANO MUSIC FESTIVAL 2013
2013年9月15日(日)恵比寿ザ・ガーデンホール
<出演者> 南波志帆(オープニングアクト)/ 堀込泰行 / 秦基博 / RHYMESTER / バカリズム / 堂島孝平

オープニングメドレー

  1. ONCE AGAIN / 矢野博康
  2. 鱗 / RHYMESTER
  3. Gift ~あなたはマドンナ~ / 秦基博
  4. カナシミブルー / 土岐麻子×バカリズム
  5. 太陽とヴィーナス / 堂島孝平
  6. 太陽とヴィーナス / 堀込泰行

レポート

小松 点が線になったあと、太線になってる(笑)。バカリズムさんは確か、ゲストで◯◯くんが出てたよね?

南波 事情で名前が出せないから、レポートでは「とある友人」になってますね(笑)。升野さんは前回のアイドリング!!!さんのステージにも乱入してましたよね?

小松 ワニの人形を振り回しながら出てきて。アイドリング!!!の悲鳴がイヤモニ越しに聞こえてくるんだけど、譜面から目を逸らすわけにはいかないから、俺は何が起きてるのかわからなかった(笑)。

矢野 バカリズム升野くんはこの年アーティストとして出てくれて、オリジナル曲を歌ってる。「AVを見た本数は経験人数に入れてもいい」を2回歌いましたね(笑)。

堀込 「もう1曲歌う」と言って、何をやるのかなと思ったら同じ曲で、どんな変化が付くのかと思ったら、何も変化なく終わるっていう(笑)。

「YANO MUSIC FESTIVAL 2013」の様子。(撮影:音楽ナタリー編集部)

──この年はステージが2段になって、チアダンスチームを入れるなど演出も華やかでした。メドレーでも演者が上段ステージから登場したり。

堀込 RHYMESTERの宇多丸さんが、めっちゃキーが高い秦くんの「鱗」を歌いながら出てきたのは覚えてる。

──RHYMESTERは矢野フェスバンドの生演奏でセッションするというレアなスタイルで、矢野さんも3曲にドラムで参加しています。

南波 矢野さんがチアに持ち上げられたのはこの年?

矢野 それは2014年かな。この2013年のチアとの絡みには反省点があって……。

「YANO MUSIC FESTIVAL 2013」のオープニング。(撮影:音楽ナタリー編集部)

小松 何を反省するの(笑)。

矢野 もっとチアの子たちをフィーチャーできたし、自分自身、もっと彼女たちとうまく絡めたような気がしたんだよ(笑)。なので、次の年はチアをお願いした大学の体育館に通って、振付の竹中夏海さんと一緒に猛練習したんですよ。

南波 そんな陰の努力が。

矢野 2014年の「矢野フェス」が一番過酷で。チアもあったし、ハンドベルの練習もあったから。