NONA REEVES|「まだ自分たちの音楽に飽きてない」27年目のノーナが語る、全曲シングル級の新作「Discography」

プロデューサー・冨田謙の存在

──今回のアルバムについて西寺さんは「コロナ禍で自由な移動が出来ない中、アナログの7インチをネットで購入、収集する楽しみに拍車がかかったこともあり、各楽曲すべて『シングル』曲を作るつもりで創作に挑んでみました」とコメントされていますが、それもある意味コロナ禍が作品におよぼした影響の1つですよね。

西寺 そうですね。ライブに行けない分、ネットでフィジカルを買うようになったんですけど、1枚買って聴くたびに自分の中にエキスが注入されるような感覚になったんですよ。中学生のときの感覚みたいにスポンジのように改めて沁みて。買えば買うほどいい曲が作れるようになるんじゃないかって(笑)。

──「各楽曲すべて『シングル』曲を作るつもり」で作ったというのはよくわかります。比較して、前作「未来」(参照:NONA REEVES「未来」特集 |7人のアーティストが考えるノーナの魅力)は「アルバム的な楽曲」が多かったような。

西寺 「未来」はスタートから終わりまでで1本の映画のような、起承転結を意識して作ったアルバムで、それはアルバムというフォーマットに対するレクイエムのような意図があったんです。一方今回は、そういう全体の流れはまったく意識していなくて、最後に「曲順どうしようかな」って少し考えたくらいなので。僕は1曲1曲に集中してたんですが、プロデューサーの冨田謙さんがベタ付きしてくれて、アルバム全体を見てくれたっていうのは大きいと思います。

──冨田さんも含めた4人でバンドのように作っていったと。

西寺 まさにそうですね。

小松 冨田さんがいると、余計なものを入れたくなくなるんですよね。制作初期の段階で、シンセベースだけでやりたいって話が挙がったりして。

奥田 冨田さんとやる場合、生音を入れすぎると逆に情報量が減ることがあるんですよ。普通は逆なのに(笑)。

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BTS「Butter」に凝縮された、アルバムを聴いたときの感覚

──ストリーミングが主流である今の時代において、シングルというものの在り方も変わってきていると思うんですけど、西寺さんはそもそもシングルというものをどのように捉えていますか?

西寺 例えばK-POPのシングル曲って、それ自体が昔の「アルバム」みたいな総合的な要素を持っているのかなって思うんですよ。BTSの「Butter」なんかは、1枚のアルバムにちりばめられた魅力を2分44秒に凝縮したような曲だと思っていて。2分44秒の中に3人のラッパーが短くつなぐラップパートがありますけど、そのスピード感あふれるラップパート自体が通常なら1つの曲として成立していて、その旨みを短くエディットしたような感覚。情報があふれてる時代だからなのか、最近の歌って踊るようなグループの曲には、1枚のアルバムを聴いたときの感覚がダイジェストのように詰め込まれてるなと思います。まあ、リードボーカルが1人というオーソドックスなスタイルの僕らがそういう曲を作っているかというと、そうでもないとは思うんですけど。

──なるほど。ちなみに今作の収録曲は「シングルっぽい曲を作ろう」という意識ですべてイチから作ったんですか?

西寺 全部書き下ろしですね。僕、一緒に舞台などを作らせてもらっている演出家の錦織一清(少年隊)さんから“ストックなし夫”って呼ばれてるくらいストックないんで(笑)。ストックはないけど、すぐ作るみたいな(笑)。だからこのアルバムもイチから作りました。今回は「シングル的な強い曲を作ろう」という明確なテーマもありましたし。

──小松さんは、アルバムのために作られた新曲を聴いてどういった印象を抱きましたか?

小松 インディーズ時代の1stアルバム(1996年12月発売の「SIDECAR」)の頃の感覚を思い出しました。超先祖返りしているというか、初心に返っている感じがするんです。メロディがしっかり立っていて、それだけで成立するような曲が多い印象があって。それが「シングルっぽい」ってことなのかもしれないですけど。

西寺 それは作曲の方法にもよると思うんですよね。初期の頃は僕がMTRで録音していて、その頃はパソコンもちゃんと使えないし、頭の中である程度曲を完成させてからギターで弾いて伝えるしかなかったんですよ。でも途中からそれではダメだと思って、ドラムやベースラインから曲を作り出したり、コード進行を先に作ってメロディをあてはめたりするようになった。それに比べて、今回はキャッチフレーズや、昔みたいにギターを持ってメロディから作った曲が多いんです。「Saturday Lover」なんかは鼻歌だけをメンバーに聴かせて、そこから作っていきましたし(笑)。そういう作り方をした結果、小松が言うようにメロディが立っている曲が増えたのかもしれない。

小松 今回は「1回聴いただけでもう覚えてる!」みたいな曲がバンバン出てきて。それがすごく懐かしい感覚だったんですよ。バンドを始めた頃はそういう曲もけっこうあったんですけど、20年近くなかったなって。その感覚が戻ってきたのは、個人的にすごくいいことだと思いますね。

西寺 だいたいのことは小松がジャッジするんで、彼がそう言うのであればそうなんでしょうね。

──小松さんのジャッジに信頼を置いているんですね。

西寺 変な話、僕らはよくも悪くもキャリアを積んでいるので、厳しく言ってくれる人が周りに少なくなってきたんですよ。そういう意味ではメンバーが一番厳しいと思うし、だからこそ2人に褒められたらうれしいというのはありますね。「Hurricane」とか「Seventeen」は最初から「これはいい」ってストレートに褒めてくれて、結果的にリード曲になったので。

歌謡ディスコに込めた筒美京平へのオマージュ

──今作で言うと「Disco Amigo」にもっとも端的に表れていますが、ノーナは筒美京平イズムを感じる歌謡曲的な要素も特徴の1つと言えますね。

西寺 「Disco Amigo」は去年の9月ぐらいに作り始めたんですけど、ちょうどそのタイミングで筒美京平さんがお亡くなりになったり、僕が作詞・作曲家として編曲家・船山基紀さんとA.B.C-Zの曲「チカラノアリカ」でご一緒したりというのがあって。その影響もあって「Disco Amigo」は筒美京平さんへのオマージュを込めた、2020年代型歌謡ディスコになりましたね。でも、今改めて思うのは、僕は作曲家・筒美京平じゃなくてプロデューサー・筒美京平が好きだったのかな、と。京平さんのすさまじさは、ただメロディとコードを作るだけじゃない。本当にクインシー・ジョーンズとかに近くて、若い才能を見つけて自分の血と混ぜたり、フックアップしたり、完全にプロデューサーなんですよね。僕は古いものと新しいものを合体させた曲や、日本の音楽と海外の音楽を組み合わせたものが好きで、メロディ自体よりもそういう「古今東西のミックスのさせ方」みたいなところに京平さんの影響を受けているかもしれない。

──あと、このアルバムで特徴的だと感じたのが、フェードアウトで終わる曲が今時珍しいくらい多いんですよね。10曲中5曲がフェードアウトで。それは意識してそうなったんですか?

奥田 作るときに意識はしてなかったけど、途中で気付きました(笑)。

西寺 こんなにフェードアウトの曲が多いの、ひさしぶりだよね。

小松 あえて狙ってやったというわけではなくて、フェードアウトが自然だなと感じた曲が多かったんですよ。けっこう短い曲が多いから、そのまま終わるとすごくあっさりした印象になると思って。そしたらフェードアウトばっかりになった(笑)。

奥田 もともとフェードアウトさせるのは好きなんですよ。フェードアウト部分のミックスに2時間かけたりするくらい(笑)。

西寺 いつからか「フェードアウトはダサい」みたいな空気があったけど、最近はまたフェードアウトする曲も増えた気がしますね。Silk Sonicの「Leave the door open」も去り際のフェードアウトがドリーミーで素晴らしいですし。