坂本真綾|「FGO」から生まれた2つの新たな楽曲、そしてコロナ禍に馳せる「旅」への思い

人は生まれたときからどこへでも行ける、
何にでもなれる自由を手にしているんだよ

──そしてシングルの“MAAYA盤”に収められるカップリング曲「いつか旅に出る日」は、ひさびさにご本人作詞作曲の新曲ですね。

自分ではコンスタントに曲作りをしているつもりですが、リリースは「今日だけの音楽」(参照:坂本真綾「今日だけの音楽」インタビュー)から1年ぶりですね。今年の4月に作った曲です。

──自粛期間真っ只中に作ったということですね。今回のシングルに入れることを想定して作ったんですか?

どこに入れるかは厳密には考えてなかったです。いつどこで出すかというより、やっぱりあの時期に作りたかったものを作ったという感じですね。あの時期は皆さんそれぞれの思いを持って曲を作ったと思いますけど、私は自分が聴きたい曲を自分のために作りました。この先どうなるんだろうという不安を抱えた中ではありましたけど……あれはダメこれもダメ、あれは中止これは延期というのが続くとどうしても気持ちは縮こまっていく。でも私は大人だから理由は理解できるし、これが過ぎ去るまでがんばらなきゃとは思うけど、わけもわからず「これは触っちゃダメ」とか「そっち行っちゃダメ」って言われ続けるこんな毎日が、小さな子供たちに将来どんな影響をおよぼしてしまうんだろうって思うんですね。何かを追い求めたり行動したりする気持ちを育てられないんじゃないかなって。

──確かに。何かに憧れたり夢を見たりするという原記憶、夢を見るという概念そのものが歪んでしまうかもしれない。

私自身にとって一番幸福なことは、自分ができることを自分で見つけて信じてあげることだと思うんです。その力を奪われてしまわないかと不安に思ってしまって。人は生まれたときからどこへでも行ける、何にでもなれる自由を手にしているんだよ、という思いを残しておきたかったんです。生まれてくることだけでも奇跡で、偶然の重なりでこんなきれいな星に生まれたのだから、それを余すところなく楽しんで生きてほしい。私は旅が好きなので、行きたいときに行きたい場所へ行けることは非常にありがたいことだったんだなと思い知ると同時に、インターネットだとか配信だとかで遠くからなんでも受け取れる時代だけれど、やっぱり私は自分の目で確かめたいなという思いが募る一方で。配信ライブが観られたりするのはありがたいことだけど、これに慣れすぎず、自分で足を運ぶ体験の喜びを絶対に取り戻したいという思いが強くなりました。今の状況とは無関係に、これからはそういうリアルな体験が重要視されない時代になるのかもしれないけど、この目で見る喜びを知ってほしいなと思いますね。

──旅から生まれた作品も多くある坂本さんとしては、この状況は相当もどかしいですよね。

いつか行こう、いつかやろうというその「いつか」は本当に不確かで、やりたいと思ったときにやらないと世の中なんていつどうなるかわからないんだなと本当に思います。「いつか旅に出る日」の歌詞の中に「城壁」と出てくるのは、一昨年のクロアチアでの一人旅の経験をそのまま書いているんです。本当にきれいな朝日を見て。がんばって写真を撮ったけど、私が肉眼で見た景色にはまったく追いつかないんですよ。それを思ったときに「やっぱ見なきゃダメだ」って。写真のうまい人が撮った風景を見て「ほう」とか思ってる場合じゃない(笑)。それがやっぱり私にとっての人生のご褒美で。それを奪われてたまるか、という気持ちが今はすごくあります。

坂本真綾

この地球に生まれたたった1回のチャンスを逃せない

──25周年はいろいろと予定外のことが多かったかと思いますが、この先のこともすでに準備している?

そうですね。25周年の締めくくりは3月なので、着々、着々と……忙しいです(笑)。

──3月の横浜アリーナ公演については先んじて発表されました(参照:坂本真綾、25周年記念ライブを横浜アリーナで開催)。まあ、満員の横アリとはいかないと思いますが……。

今は考えてもわからないので、できる限りのことをやりたいと思います。いろんなアーティストの皆さん、それぞれ試行錯誤しながらやられていると思うので、みんなで情報を共有し合って、できるだけいい形で進めたらいいなと思いますね。

──このご時世で、自分の人生や活動について改めて考え直す人も多いと思うんです。坂本さんはこの先、25周年を超えたずっと先の未来については現時点でどう考えていますか?

お仕事的な計画はしばらくありますけど……今まで以上に臨機応変に、何かが起きたらそれに順応するだけ、という考えになりましたね。とにかく順応性と瞬発力。「いつか旅に出る日」ができたときも「1日でも早く聴いてもらいたい。これ時差があっちゃダメなやつ」と思って、年内のリリースを決めて、アコースティックツアーでも歌っているんですけど、そういう「今!」と思ったときにできるだけ瞬発力を持って動けるようにしたい。あとは……いつかいつかと言い続けてきたけど、やっぱりもう……真剣に世界一周がしたい。(スタッフに向かって)すみません急に(笑)。半年くらい休みたいなと思って。

──たった今は難しいと言っても、結局は実行に移さない限りは実現しませんからね。

そうなんですよ。旅先でも全然ラジオの収録とかはできるし(笑)、なんならYouTuberになりますよ(笑)。

──(笑)。

できれば40代のうちに行きたいんです。歳を取って「ああ、足が痛い」と言いながらマチュピチュを歩けないじゃん。元気なうちにやらないと。途中で撮影に入ったりしてもらってもいいですし。

──仕事に還元するから行かせてくれと(笑)。旅の経験をつづったエッセイも出るでしょうし、歌詞も生まれるでしょうし。

トルコから帰って作った「ニコラ」(2013年発売のアルバム「シンガーソングライター」収録曲)とか、イタリアで書いた「everywhere」(2010年発売の15周年記念ベストアルバム「everywhere」表題曲)とか、今回の「いつか旅に出る日」もクロアチアの曲だし……ほらね?みたいな(笑)。

──実績があるでしょ?という。

刺激があると創作意欲にもつながるので(笑)。仕事としてはもちろん、せっかくいい体験をしたらみんなとシェアしたいという思いもありますけど、この地球に生まれたたった1回のチャンスを逃せない、という。

──その「たった1回」に対するシリアスさはこの1年でグンと上がりましたよね。

そうですよね。あと、もう1回やりたくないんですよ、人生を。生まれ変わり勘弁!って感じで。1回で終わらせる代わりにちゃんとやるから!みたいな(笑)。その1回の人生を、やっぱり楽しみながらがんばらなくちゃなって思うんです。

公演情報

坂本真綾 25周年記念LIVE
  • 2021年3月20日(土・祝)神奈川県 横浜アリーナ
  • 2021年3月21日(日)神奈川県 横浜アリーナ
坂本真綾