坂本真綾|「FGO」から生まれた2つの新たな楽曲、そしてコロナ禍に馳せる「旅」への思い

かわいいユアネスのレコーディング風景

──「躍動」を手がけたユアネスは折しも先日新作をリリースしていて、音楽ナタリーで行ったインタビューでは近況として坂本さんとの楽曲制作についても触れています(参照:ユアネス「BE ALL LIE」インタビュー)。ユアネスの起用はディレクターの推薦だったとか。

はい。「すごくカッコいいバンドがいる」って教えてくれたんです。それで聴いてみたら、若いんだけどフレッシュなだけではない、知的さや大人っぽさもあって確かにカッコいいなと。それがちょうど「FGO」の曲について考えているところだったので、ほかのアーティストに楽曲提供をしたことがないバンドのようだけど、ダメもとで頼んでみようと連絡を取りました。

──作曲を担当した古閑翔平(G)さんは坂本さんについて「歌声が素晴らしいのはもちろん、作詞家としても圧倒的」とおっしゃってました。

ありがたい。皆さん若いのにすごくしっかりしているし、かわいさも持ち合わせていて(笑)。打ち合わせには4人そろって来てくれて、緊張した様子だったけど、気合いを入れてこの曲に臨んでくれているのがすごく伝わりました。2、3曲上げてくれて、その中から特にゲームの世界観に合うものを選ばせてもらいました。

──「レコーディングはめちゃくちゃ緊張したけど、真綾さんの雰囲気がイメージ通りで。おしとやかで可憐で、ガチガチの僕らを包み込んでくれるような方でした」ともおっしゃってました。

ウソでしょ!? まあ、大人ですから(笑)。デモの段階からかなり作り込んでくれていたので、スタジオで大きく変わるということはなかったです。ギターソロを録ってるときに、古閑さんが「ああー、もう1回!」とか「クッソー!!」とか言ってる姿はかわいかったですね(笑)。普段はいぶし銀なスタジオミュージシャンの方に囲まれていることが私は多いので、「あーっ!!」とか叫びながら録り直してるのはすごく新鮮でした。普段はいない私や、違うレコード会社のディレクターが腕組んで目の前にいるのはさぞ不安だったでしょうけど(笑)。

──若いバンドと組んでいるという先入観も多少はあるかもしれないですが、最近の坂本さんの楽曲の中でもとりわけフレッシュで、いい感じに青い疾走感があるなという印象を受けました。

構成も面白いし、曲自体に魅力があって、自然と「躍動」というタイトルになるくらい躍動感があるんですよね。大きなうねりというよりも、じわじわじわじわと斜面を上がっていって、気が付けばすごく見晴らしのいい場所に連れて行ってくれた、みたいな。ユアネスが歌うのもまたいいだろうなと思って、歌詞を書くときは「FGO」の世界観を意識しつつ、自分でも歌えて、かつ彼らが歌っても違和感のない歌詞にしたいなというイメージは最初からありました。

首脳レベルで関わる「FGO」

──「FGO」のようにまだ完結していない、先の見えない物語で、ここからの展開を考えつつ物語に寄り添った楽曲を書くというのは、すごく難しいことなんじゃないかと思うのですが。

そうですね。でも「FGO」に関しては私、だいぶ先まで知っているんです。奈須さんの中に、先々の物語でこういう音楽が欲しいというイメージがしっかりとおありで……私はこの大掛かりなプロジェクトに首脳レベルで関わっているので(笑)、第2部全体の結末とか、けっこう大事な話まで聞いているんですよ。「物語がこうだから、こういう気分をすくって歌にしてほしい」というやりとりが綿密にあるんです。2部をプレイした人が最後に「躍動」を聴いたとき「ぴったりだったな」と思える曲になっているはずです。

──首脳レベルで把握されているということは、この先物語が続く限りは、坂本さんもこの世界の中で歌い続けるということですよね。

そうですね、ありがたいことに。最初はそこまで続くと思っていなくて漢字2文字シリーズを始めちゃったけど、そろそろどうしようかなと(笑)。でも、アプリゲームってなかなか最終回はないわけで、人気のある限り、制作サイドにやる気のある限りは続いていくと思うので、ここまで関わってきたからには最後まで首脳会議に出続けたいです。例えば私が歌わなくなるにしても、作詞だけでも関わっていたいなと漠然と思っています。

坂本真綾

新しい意味を持って聞こえる音楽

──今回のシングルは2形態あり、“FGO盤”には2018年7月にリリースされた「FGO」第2部主題歌「逆光」のリアレンジ「逆光 -unplugged session-」、“MAAYA盤”には書き下ろしの新曲「いつか旅に出る日」が収められています。「逆光 -unplugged session-」は11月のアコースティックライブ(「坂本真綾 IDS! presents Acoustic Live & Talk 2020」)に合わせたアレンジなんですか?

それもあります。第1部主題歌の「色彩」のアコースティックアレンジもライブで好評だったのでシングルに収録したんですけど(シングル「逆光」のカップリングに収録)、今回もライブでやろうと決めて、先に録っておきました。「FGO」が大好きな皆さんにはカップリングまで楽しめるCDになればという感じで。

──アコースティック編成ではあるんだけど、楽曲が楽曲だけに穏やかではないというか(笑)、カホンとウッドベースが荒々しくガツンとくるアレンジですね。

そうですね。「逆光」はリリースのあと何度も歌ってきている曲なので、すっかり私の中にもなじんでいるし、今もう一度歌い直すのは、ちょうど熟してきたいい時期という感じもあります。アコースティックライブはこの「逆光」のレコーディングメンバーそのままなんですけど、ライブではエレキ楽器も使っていて「全然アンプラグドじゃないじゃん」という曲もあります(笑)。

──アコースティックライブはひさびさに観客を動員してのライブですが、いかがですか?

今年は25周年なのでその記念として、「アチコチ」(今年7月に発売されたアルバム「シングルコレクション+ アチコチ」。参照:坂本真綾「シングルコレクション+ アチコチ」インタビュー)の収録曲を中心にしつつ、さっそく「躍動」も歌ったりしています。世の中がこういうことになってしまって、今歌いたい曲ってなんだろう?というのは自粛期間にもよく考えていて。この時期を経てお客さんの前に立ったとき、どんな曲を歌えば思いを伝えられるのか、お客さんはどういう曲を求めているのかと考えて思い浮かんだ楽曲をメドレーにしてお届けしているんですけど……日常が大きく変わってしまった今、これまで何気なく聴いていた曲の歌詞が沁みたり、新しい意味を持って聞こえたりという変化があると思うんです。皆さんの感受性が敏感になっているときにしっくりくるであろう曲がたくさんあって。それがこのタイミングで届けられることになったのはよかったなと思います。

──やはりこれまでのライブとは勝手が違いますか?

70分という短い時間にしているのも、たくさんの人を長く同じ場所に留めないようにと考えつつ、それでも満足できる長さはいったいどのぐらいだろう?と考えて決めたんです。MCのたびに扉を全開にして換気をするんですけど、歌う前になると「じゃあそろそろ扉を閉めてください」って言わなくちゃいけない(笑)。演出をしっかり考えていくライブとは違うんだけど、それによって少しでも安心して観ることができるのなら、やっぱりできることは全部対応しておきたい。それが時を経て振り返ったときに「あのときのライブは特別だったな」と独特な思い出になるのなら。「あれができない、これができない」と残念に思うよりは「これができない代わりにこんなアイデアが生まれました」とか「今できることはこんなにあります」という、できる部分をみんなに楽しんでもらえたらいいのかなって。