坂本真綾が“マイルドな忙しさ”の中で向き合った「ある魔女が死ぬまで」OP主題歌「Drops」

坂本真綾の新曲「Drops」が4月2日に配信リリースされた。

「Drops」は、余命宣告をされた見習い魔女が1000人分の“うれし涙”を集めて命の種を生み出そうと奮闘するテレビアニメ「ある魔女が死ぬまで」のオープニング主題歌。5月21日にはこの曲を表題曲とした36枚目のCDシングルがリリースされる。シングルには、坂本と岩里祐穂が28年ぶりに共同で作詞したカップリング「Twilight」も収録される。

1996年4月にデビューし、長年精力的に活動してきた坂本だが、最近は私生活も大切にしながら“マイルドな忙しさ”で自身の活動と向き合っているという。音楽ナタリーでは坂本へのインタビューを行い、「Drops」「Twilight」の制作秘話はもちろん、最近涙を流した出来事や、5月のファンクラブ限定ライブなどについて話を聞いた。

取材・文 / 岸野恵加撮影 / 曽我美芽

元気なイメージを求められたのは意外だった

──「ある魔女が死ぬまで」は明るいテイストのファンタジーですが、「どう生きるか、死とどう向き合うか」を改めて考えさせられる作品だと思います。坂本さんは最初に本作に触れた際に、どう感じましたか?

制作に向けての最初のミーティングで「余命宣告をされた見習い魔女が、1000人分の“うれし涙”を集めて命の種を生み出そうと奮闘する」というあらすじを聞いただけで、「すごく観たくなる作品だな」と興味を惹かれました。“余命”や“涙”というキーワードから切ないテイストを想像していたけど、監督からは「オープニングテーマはとにかくはつらつと、元気なイメージでお願いします」と言われたことが意外でしたね。

──主人公のメグ・ラズベリーは“ポジティブおばけ”なキャラクター。「Drops」はまさに彼女を表現したような楽曲だと感じました。

そうですね。「メグの性格に寄り添うような、エネルギッシュな曲を」というオーダーもいただきました。物語を深く知るにつれて、涙や命を簡単に感動として消費しないというか、死があるからこそ生に目が向くような作品だと感じたんです。そこから、聴いていて力が湧いてくるような曲にしたいと考えました。

坂本真綾

──作曲を手がけた清田直人さんとは初タッグです。清田さんはどんな経緯で参加されたのでしょうか?

何人かの作曲家さんに書いていただいた曲の中で、一番イメージに近かったのが清田さんの作品だったんです。おなじみの河野伸さんにアレンジで入ってもらってはいるんですが、基本は清田さんの最初のデモの雰囲気を大事にしながら、河野さんが完成させてくれました。イントロのギターリフももともとあったものですね。レコーディングの日もご都合が合わず、実はいまだに清田さんにはお会いできていなくて。作曲家さんに一度も会わないままリリースを迎えるということはこれまでなかったので、不思議な感じがします(笑)。

──なるほど(笑)。Bメロで合唱のように「Ah Ah」と多くの人の声が入っているのも印象的ですが、そのアイデアも最初からあったものですか?

はい。「Ah Ah」はこの曲で一番フックになっている部分だと思いますし、惹き付けられたパートでした。イントロからAメロまでは静かに展開していくけど、Bメロでパーカッションの音色とともに大勢の声が聞こえてきて、思わず顔を上げたくなるくらい、パッと景色が変わる。そこがすごく気に入っています。

“数えきれないほどの後悔”も受け入れながら

──作詞はデビューの頃から深いお付き合いである岩里祐穂さんです。近年も「un_mute」「体温」などでご一緒されていますが、今回は歌詞をどんなイメージで依頼したんですか?

「アニメの脚本を読んだうえで、感じるままに書いてください」とお任せしたんですが、岩里さんは私を15歳から公私ともに見守ってきてくれた、師匠のような存在で。毎回いただく歌詞には「今の坂本真綾にこんなことを歌わせてみたい」というプロデューサー視点や、今の私から感じたことなど、個人的な視点も含まれているように思います。「Drops」のリリックからは“涙”というキーワード以上に、生命を讃えるような力強さを強く感じました。「涙を流してもいいんだよ」「ボロボロになってもいいんだよ」と許されたうえで、背中を押してもらっているような感覚。まさに聴いた人にうれし涙を流させるような歌になったと思いましたね。

坂本真綾

──「ある魔女が死ぬまで」ではメグとベテラン魔女・ファウストの師弟関係も描かれますが、坂本さんと岩里さんの関係性は、どこか2人に重なる印象も受けます。

確かに、そうかもしれないですね。人生で必要なときに影響を与えてくれるメンターのような存在に出会えることって、すごく大きなことだと思うんです。岩里さんと菅野よう子さんが私に与えた影響は本当に大きくて。「ある魔女が死ぬまで」の物語の中でも、出会いそのものが財産ということが描かれているように思います。

──「Drops」の歌詞の中で、特に心に響いたフレーズはどれでしょうか?

「数えきれないほどの後悔が胸にある」という歌詞は、年齢を重ねてきた今だからこそ胸に刺さりました。いろいろな経験をしてきた人だから書ける言葉だし、私もそれを重みを持って歌えるようになったんだな、と。“後悔”ってネガティブに聞こえるワードで、若い頃は「後悔しないように」と思っていたけど、「後悔が胸にある」と認めることができるのは、いろいろなことを経験してきたから。今の私だからこそ、深く噛み締めながら歌えた気がします。でも全体的には、あまり情熱的になりすぎないように、ある種の冷静さを保って歌うことを意識しました。

──胸が熱くなるようなフレーズが多いですが、逆に冷静に?

はい。メッセージ性が強い曲だからこそ、私が熱くなりすぎるとトゥーマッチになってしまうと思ったんです。しっかりと届けるために、引き算をしていくイメージで歌いましたね。ここ数年は、聴く人に想像する余地を残すことって大事だなと思っていて。自由に受け取れる余白があったほうが長く聴いてもらえる音楽になる気がして、あまり押し付けないことを意識しています。ライブではエモーショナルさが加わるので、また別物になるとは思うんですけど。「Drops」がライブでどんなふうに変化するのかも楽しみですね。

坂本真綾
坂本真綾

坂本真綾の涙の理由

──「Drops」のミュージックビデオは、水色を基調としたさわやかな世界観です。楽器隊を引き連れた明るいムードの歌唱シーンは、これまで坂本さんのMVではあまり見られなかったですよね。

この曲の肝になっているのはパーカッションと大人数のコーラスだと思っていたので、そこをフォーカスしたい、という監督のアイデアに共感しました。ブルーの世界観も監督のインスピレーションです。共演した皆さんは笑顔が弾けていてとても素敵だったんですが、真冬の撮影だったので、現場はすごく寒かったんです。毎回MVの撮影は「畑違いのことをやっている」という感覚が強いので、「早く終われ」と思いながら臨んでいるんですけど(笑)、今回は1人じゃないという心強さはありましたね。

──ちなみに「Drops」にちなんだ質問ですが、坂本さんは最近涙を流しましたか?

歳とともにどんどん涙もろくなっていて、ちょっとしたことですぐ涙腺がゆるみます(笑)。人の話を聞いていて、共感して泣き出してしまうことも。でもうれし涙は……あまり思い当たらないですね。ライブ中に感謝の気持ちが込み上げてきて泣いてしまうことはあるけど、それをうれし涙と言っていいのかな。一番近いのは、一昨年声が出なくなったときに流した涙かもしれません。

坂本真綾

──喉の不調で、2023年6月にツアー「坂本真綾 LIVE TOUR 2023『記憶の図書館』」の大阪、東京公演が延期となったときですね(参照:坂本真綾、今週末のツアー東京公演も延期に)。

はい。ただただ申し訳なくて、どう謝ればいいのか……という思いだったんですけど、チケットをお持ちだったお客さんの反応が想像以上に温かく、優しい言葉をかけてくださって。申し訳なさとありがたさが合わさった涙が流れました。それはうれし涙に近かったかもしれないですね。