でんぱ組.incとはなんだったのか?古川未鈴&もふくちゃんが振り返る16年間の軌跡 (4/4)

グループの危機を乗り越え最高のチームに

──その後も快進撃は続き、2015年にはグループ最大規模となる代々木第一体育館2DAYSのライブを成功させます。

もふく その頃から私があんまり口を出さなくなって、ちょっとメジャー志向みたいな方向になったんじゃないかな。感情をあんまり出さないようにって。

みりん “エモ禁止”って言われてましたね。変わり始めた時期だったとは思います。

──しかしその頃からだんだんとズレ始めたというか、規模が大きくなる一方でメンバー6人の足並みはそろわなくなり、2017年にはライブ活動休止という危機を迎えるわけですよね。

みりん そうですね。2回目の武道館のあと1年間ライブを休むことになって、あのままでんぱ組.incがなくなる可能性もあったかもしれない。みんなそれぞれ考えも違うし、いろいろ難しいこともあるんだなと思いました。

左から古川未鈴、もふくちゃん。

左から古川未鈴、もふくちゃん。

──「もしそういう関係を不仲と呼ぶのなら不仲なのかもしれないですね」というみりんさんの名言を思い出します(参照:新体制でライブ再始動、古川未鈴が胸中語る)。

みりん 私たちは友達じゃなくて、やっぱり一緒に仕事をしていく仲間だったので。まあなかなかひと言では言えない時期だったかなっていうのはありますね。

──もふくちゃんはでんぱ組.incが危機的状況にあることは把握していたんですよね?

もふく あの頃はでんぱ組.incに関わる人が増えすぎたんですよ。お金になるってわかった途端にいろんな人が来て面倒臭くて、それもあって「深いところはもう触らんとこ」みたいになってた(笑)。私ってでんぱ組.incと自分を意外と切り離せるんです、悪い意味じゃなく。だけどあの頃でんぱ組.incに関わってた人たちは、なんていうのかな、みんな熱が強すぎてグループを客観的に見れなくなってたんだと思う。それだとやっぱりうまくいかないんですよね。

──その後は最上もがさんが脱退し、ねもぺろ(根本凪、鹿目凛)の加入で再起動を果たしたのちに夢眠ねむさん、成瀬瑛美さんが卒業。そして2021年には新メンバー5人が加入するなど、グループの形が大きく変わる時期を迎えます。

もふく いろいろあったけど、今いるメンバーは史上最高にパフォーマンスがよくて、今はめちゃくちゃいいライブができてます。10人に増やすときパフォーマンス面でもしっかり見せようとYumiko先生と話して、歌もダンスもちゃんとできるというでんぱ組.incにしては珍しいチーム編成になったんだよね(笑)。キャラクターも持ちつつ、ライブパフォーマンスで思い切ってふざけたり、弾けたり、爆発力のある表現がしっかりできるというチームなので、ライブは間違いなく今が一番いいと思います。特にラストツアー(でんぱ組.incエンディングツアー「宇宙を救うのはきっと、でんぱ組.inc!」)ではどんどん仕上がってよくなってきていて、正直に「今ここで終わってしまうのもったいないな」と思いました。

左から古川未鈴、もふくちゃん。

左から古川未鈴、もふくちゃん。

アイドルやっててよかったな

──でんぱ組.incは制作陣に多彩なクリエイターが参加していたのも印象的です。旬のアーティストだけでなく才能ある若手も数多くフックアップしてきましたよね。

もふく 人に恵まれたのは本当に大きかったよね。いろんなクリエイターの人たちがなんだかんだ面白がってやってくれた。

みりん 「自分がやりたいように料理してもでんぱ組.incの色が残る。それがいいんだ」みたいに言ってもらったのを覚えてます。

もふく アクが残っちゃうんだよね(笑)。ごしごし洗ってもとれないの。

みりん エンディングを発表してから「でんぱ組.incに影響を受けました」と言ってくれるクリエイターやアイドルの人たちがボロボロ出てきてくれて、これまであんまり実感なかったんですけど、こんなにも影響を与えてたなら自分アイドルやっててよかったなって思うんですよ。

古川未鈴

古川未鈴

──でんぱ組.incはアイドル史上、ポップミュージック史上に残る発明ですからね。

みりん でも私たちは何もわからないまま突き進んできただけなんで。アイドルは1人じゃできないし、いろんな人のおかげでやれてるんだなって大人になった今は思います。曲がないと歌えないし振付がないと踊れないし。あとやっぱりもふくちゃんのセンスがすごかった。

もふく でももし自分がプロデュースする相手がSPEEDの4人だったら絶対こうはなってないから(笑)。やっぱりみりんちゃんをはじめとしたメンバーたちがあの泥んこの状態で落ちてたってことが奇跡なんですよね。

「宇宙を救う」本当の意味

みりん そうだ、もふくちゃんにあの話をしてほしい。東大の話!

もふく ああ(笑)、みりんちゃん偏差値いくつだっけ?

みりん 36です。

もふく そうなの、レコーディングのときにその話になって、スタジオにいたエンジニアの若い男の子が「僕は偏差値74でした」って。それ聞いて「2倍じゃん!」つってゲラゲラ笑ってたんだけど、同時に「でもみりんちゃんってすごく頭がいいよな」と思ったんですよ。歌のディレクションしてるとき、みりんちゃんはこっちが言ったことをすぐに理解して直せるんです。「こうしたらいいんじゃない?」「やってみます」「やれました」みたいな話がすごく高いレベルでできて、話してるときに頭悪いって感じたことは1回もない。その頭のよさを今まではアイドル活動だけに使ってきたけど、もしそれを勉強に使ったら一瞬で東大に入れるんじゃないかって思ったんだよね。

みりん レコーディングブースの扉をバッて開けて出てきた瞬間に「みりん、あんた東大目指しな!」って言われたんですよ。

もふく アイドル辞めたらこのまま老け込んじゃうかもしれないし、もしみりんちゃんが突然東大に合格したらみんなひっくり返るでしょ?

みりん 私、東大のこともよく知らないんですけど、もふくちゃんにアドバイスされたことってだいたい私の人生にめっちゃ生きてるから。最近も言われたんです、「アイドル辞めたら人の役に立つことをしろ」って。アイドルって常に主役だし、私は自分のためにしかがんばってこなかったからそんなの考えたこともなくて。そう言われて私は今まで培ってきたこと、何かはわからないけど、それを伝えられるお仕事ができたらいいなみたいなことを初めて思ったんです。

もふく これでみりんちゃんがQuizKnockとかに入ってもめっちゃ面白いよね。「え、中卒だったのに?」「いや、あの子がんばって勉強したのよ」って(笑)。

──でんぱ組.incの活動を通してみりんさん自身も成長したと思いますが、ほかのメンバーも、なんならファンの人たちも含めてでんぱ組.incに出会って変わったという人は少なくないでしょうね。

みりん この前ミキティー本物(二丁目の魁カミングアウト)さんにお会いしたときも「みりん、あんた顔つきが全然変わったね。昔は人殺す目をしてたよ」って言われて(笑)。そういう時期は確かにあったかもしれないけど、うーん、でも今が優しくなったかっていうと……なったのかな? あんま自分のことはわかんないですけど、私もしでんぱ組.incをやってなかったらたぶん今頃もう野垂れ死んでたと思う。「アイドル辞めたら死ぬ」「30歳超えたら死ぬ」って言ってたんで。

もふく なんだろうね、たぶん何も持ってない人でもでんぱ組.incを見てると「がんばれば俺もやれる」「私もできる」みたいな気持ちになるんですよ。

──そうやって周りの人に勇気や希望を届けることが「宇宙を救う」というテーマにつながるのかもしれないですね。

みりん この前出した「BPM285EX」という曲で「宇宙を救うのはこれからもきっと Dempa! to the Future」っていう歌詞があって、レコーディングのときにふと「“宇宙を救う”って結局なんだったんだろう?」と思ったんです。その歌詞を書いたNeko Hackerがでんぱ組.incが好きで音楽を始めたって聞いて「ああ、宇宙を救うってもしかしてこういうことなのかな」と思った。好きなものに参加してひとつ夢を叶えるとか、私も憧れの気持ちがいっぱいあったから、そういう気持ちを作るっていうのがもしかしたら宇宙を救うことなのかなって。そんなことを考えてたら私生まれて初めてレコーディング中に泣いちゃって。これがでんぱ組.incがやってきたことなんだなと思って、そこで初めてちゃんとわかった気がした、最後の最後に。

もふく 私がずっと言ってたのもそれで、やっぱりつながってるんですよ。ここで黒人音楽の宇宙思想が急に入ってくるんだけど(笑)、宇宙っていうのは人の心のことであり、だからまあその「宇宙を救う」って言ってるのはイコール「人の心を救う」ってことなんだよね。そして人の心を救うってことに関して、でんぱ組.incはある一定の成果を収めたわけで「だからそろそろみんな帰還しようか」みたいな。それがでんぱ組.incのエンディングなんです。

みりん じゃあ私が思ってたことは間違ってなかったんだ。

もふく そう、人の心と宇宙はつながってるからね。

左から古川未鈴、もふくちゃん。

左から古川未鈴、もふくちゃん。

公演情報

でんぱ組.inc THE ENDING 「宇宙を救うのはきっと、でんぱ組.inc!」

  • 2025年1月4日(土)千葉県 幕張メッセ 幕張イベントホール
  • 2025年1月5日(日)千葉県 幕張メッセ 幕張イベントホール

プロフィール

でんぱ組.inc(デンパグミインク)

古川未鈴、相沢梨紗、藤咲彩音、鹿目凛、天沢璃人、小鳩りあ、高咲陽菜からなる女性アイドルユニット。萌えキュンソング”と呼ばれるアッパーな楽曲と情感豊かなライブパフォーマンスで国内のみならず海外からも話題を集める。2011年にシングル「Future Diver」をリリース。2014年5月に初の東京・日本武道館公演を行い、2016年12月にはベストアルバム「WWDBEST ~電波良好!~」を発売した。その後もコンスタントに作品を発表しており、2025年1月の千葉・幕張メッセ 幕張イベントホール公演「でんぱ組.inc THE ENDING 『宇宙を救うのはきっと、でんぱ組.inc!』」をもってエンディングを迎える。

2025年1月6日更新