でんぱ組.incが全5曲入りのEP「ONE NATION UNDER THE DEMPA」をリリースした。
本作には玉屋2060%(Wienners)、ARM(IOSYS)、MOSAIC.WAV、桃井はるこ、ヤマモトショウ、畑亜貴、浅野尚志、ギターウルフ、ヒャダイン、フランスのバンド・Tahiti 80といった多彩なアーティストが参加。でんぱ組.incの代名詞とも言える“萌えキュンソング”の領域をさらに拡張している。
バラエティ豊かな作家陣による提供曲を、メンバー8人はどんな気持ちで歌っているのか。「ONE NATION UNDER THE DEMPA」「THE LAST DEMPASTARS」など収録曲全5曲への思いを彼女たちに語ってもらった。
取材・文 / 大山卓也
もふくちゃんがマジでブチギレてる
──「ONE NATION UNDER THE DEMPA」を聴かせてもらいました。前作「でんぱぁかしっくれこーど」のインタビューでは「電波ソングを令和の時代に魔改造した」と言ってましたが、今回その魔改造っぷりに拍車がかかっていますね(参照:でんぱ組.inc「でんぱぁかしっくれこーど」特集│メンバーインタビュー+夢眠ねむ&もふくちゃん全曲解説)。
古川未鈴 確かに(笑)。なんていうんですかね、ここに来て我々が10年以上やってきた“萌えキュンソング”の幅が広がったというか、このEPでより明確になった気がします。でんぱ組.incの新時代始まった!みたいなところはありますね。
──前作に続いて、今回もプロデューサーのもふくちゃん(福嶋麻衣子)がやりたい放題やってる印象です。
小鳩りあ 「古代アキバ伝説」(3月に先行配信された楽曲)を出したとき、もふくさんが「今までほかのアイドルにたくさんマネされてきたけど、今回はでんぱ組.incにしかできないものを作った」みたいにツイートしてて、それがカッコいいなと思ったんです。
古川 マネされるたび、もふくちゃんがマジでブチギレてるんですよ。
──音楽ナタリーの記事でも怒ってました。「あまりにもそのままパクられる」「『出典:でんぱ組.inc』って書いてくれるならいいんですが」って(参照:佐々木敦&南波一海の「聴くなら聞かねば!」 13回目 後編 もふくちゃんとアイドルグループの持続可能性を考える 後世に残すべきポップカルチャーのレガシー)。
藤咲彩音 レコーディングの現場でも怒ってたよね。
相沢梨紗 その記事を読んで「そういうことか」と合点がいったんですよ。このEPを好きな理由はたくさんあるけど、特に好きなのはもふくちゃんが感情的になってるとこなので。
藤咲 わかる!
空野青空 さすが時代を作ってきた女ですよね。確かに今はマネしてなんぼみたいなところがあって、例えばTikTokでわざと振付をマネしてもらって拡散するみたいな。その時代に逆行していくのがでんぱ組.incなんです。個人的には「そっちいくんだ!?」ってちょっとびっくりしましたけど(笑)。
鹿目凛 でもほかのアイドルがでんぱ組.incをマネしても私たちの場所にはたどり着けないし、逆にほかのアイドルがやってることは私たちにはできないし、だからもう違うジャンルとしてやっていくのが正しいんだろうなって。
相沢 でんぱ組.incにしかできなくて私たちがやるから意味がある曲、そういう曲だったら自信を持って歌える。だから今回どの曲も歌ってて楽しいし、大好きな曲ばかりのEPができあがってすごくうれしいです。
この曲に全部詰まってる「ONE NATION UNDER THE DEMPA」
──ここからは収録曲について1曲ずつ伺っていきます。まずEPのコンセプトを表現した「ONE NATION UNDER THE DEMPA」。作詞作曲はおなじみ、Wiennersの玉屋2060%さんです。
藤咲 1曲目からテンションぶちアゲですよね。私、玉屋ヲタクなんでうれしい限りです。
相沢 このEPで言いたいことがこの曲に全部詰まってる。「この星この国この時代に生まれ落ちたすべての者たちへ 発信された記号暗号メッセージ ONE NATION UNDER THE DEMPA」って。
古川 私は玉屋さんがアイドルっぽくない曲を書いてくれたのがうれしい。
藤咲 まんまWiennersだよね。
古川 玉屋さんがこんな曲を書くアイドルはでんぱ組.incだけだぞって(笑)。信頼されてるんだなと思いました。
高咲陽菜 この曲はEPの1曲目だけど、私は映画が終わったあとに流れてくるエンドロールみたいな感じがしたんですよね。この前のツアーの終わりをきれいに飾ってくれて、しかもそこからEPが始まって次の曲に続いてくみたいな? そういう感覚で聴いてました。
鹿目 私は昔から1人で博物館に行ったりして、地球の存在とか人類の歴史のこと、改めて私が今この時代にここにいる意味ってなんだろうってことをよく考えたりするんです。そういう話を人にすると「そ、壮大だね」みたいなリアクションであんまりわかってもらえない。でもこの曲の歌詞はまさに自分が今まで考えてきたこととリンクしてて、私がでんぱ組.incで歌ってる理由はこれなんだ!って自信をもらえた気がします。
藤咲 私は葉っぱ1枚付けて、みんなで焚火を囲んでるイメージかな。
古川 「YATTA!」(はっぱ隊)じゃん、それ(笑)。
──(笑)。でもこのタイトル自体、もふくちゃんが愛するFunkadelic「One Nation Under A Groove」にインスパイアされてるわけで、壮大な歴史やファンキーな原始時代をイメージするのは自然なことだと思います。
空野 つながってるんだね。
相沢 あとこの曲はね、ファンのみんなの声が入ってるのがいい。秋葉原のディアステージにいたお客さんたちの声をそのまま録音して、それが本当にこの曲にぴったりだった。この声がなかったらだいぶ違ってたと思うんです。
“名も無き卵の戦士”の思い「古代アキバ伝説」
──2曲目「古代アキバ伝説」はARM(IOSYS)さんとMOSAIC.WAVの共作です。まさに誰もマネできないしマネしようとも思わない、常軌を逸した曲になりました。
古川 ライブで初披露したときの皆さんの顔が忘れられない。何を見せられてるんだろう?みたいな。
藤咲 史上最強のポカーン顔だったね。
鹿目 あの、最初にこの曲をいただいたときは私、正直けっこうイヤでした……。
古川 それ超覚えてる(笑)。珍しくぺろりんが真剣に怒ってたんですよ。いろいろ思うところがあったみたいで、レッスン場の更衣室で「私、あの曲はふざけてると思います」「今後もこの方向性でいくんですかね?」って。それを言われてびっくりしたのと同時に、言い方悪いけどぺろりんも考えてるんだなと思った(笑)。
鹿目 不安だったんです。もともと秋葉原への思いも私はそれほど強いわけじゃないから、自信を持ってこの曲を歌えるのかな、私の歌で説得力を出せるのかなって。
──この奇天烈な楽曲に自分の素の感情を乗せるのは確かに難しそうです。
相沢 私も相談されたんで「この曲、ぺろりんはツッコミ役だから安心して!」って言いました。私が女帝“コンカフェンティヌス1世”役で、ひなちゃんが賢者“ヌマ・ハマリウス”役。そういう登場人物に「何言ってんだコイツ」と言ってくれる常識人の役が必要なんだよって。
鹿目 うん。私もライブで歌い続けてるうちにこの曲でよかった、正しかったんだと思えるようになりました。
空野 洗脳されてるよ(笑)。
鹿目 しかも今みりんちゃんがお休みのライブではみりんちゃんのパートも歌わせてもらってて。
──みりんさんはなんの役でしたっけ?
古川 “名も無き卵の戦士”かな。
相沢 一番わけわからんやつ(笑)。
鹿目 最初は戸惑ってたけど、だんだん自分の中で解釈できるようになってきたんで、今はみりんちゃんの思いを背負って堂々と卵の戦士をやれてるつもりです。
古川 私はそこまで強い思いでやってないけど……。
相沢 ぺろりんは真剣なのにそういうこと言わないで!(笑)
──でも確かにわけわからん曲ですが、聴いていると謎の感動もあるんですよね。
空野 壮大な物語になってますからね。
古川 私、この現象は2回目だと思ってて、「W.W.D」を初めて歌ったときも最初はみんな笑ってたんですよ。それが“独白ツアー”(「ワールドワイドでんぱツアー2013」)を経て「W.W.D」の見方が変わった。それと近い感覚がこの曲にはあるんです。「ONE NATION UNDER THE DEMPA」ツアーを経て「古代アキバ伝説」がただのネタ曲から“エモネタ曲”になったというか、心が入った感じがする。わけわからんなりに、なんとなく言いたいことわかるかもってぐらいにはなってきたのかなって。
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かわいいだけじゃない電波ソング「イッき♡いっぱつ」