別の人間の曲をカバーするように再録した「斜陽」
──前作「檸檬」を梶井基次郎の小説タイトルから引用しているように、今作にも「吾輩は猫である」「斜陽」といった小説好きのBURNOUT SYNDROMESならではのタイトルが並びます。「斜陽」はもともとあった楽曲のリメイクバージョンだそうですね。
熊谷 はい、「斜陽」は最後の自主制作盤に入っていた曲です。インディーズ最後の曲だし、プロとしてのフィールドで出しても大丈夫だから、改めて皆さんに聴いてもらいたいと思ってたんですよね。
──今回のアルバムに収録しようと思った理由は?
熊谷 アルバムにいろんなベクトルの曲を入れるためです。「ヨロコビノウタ」ではクラシックを取り入れ、「POKER-FACE」は打ち込みで作り、「Melodic Surfers」ではラップに挑戦したように、バリエーションの1つとして“リメイク”を入れたいなって。特に「斜陽」は今の自分には書けない内容だし、言いたいことをできるだけ変えずに丁寧にリメイクしたいなと。作ってから5年が経っていて、ほとんど自分のものではないと思っているので、別の人間の曲をカバーするようなイメージでレコーディングし直ししました。
──丁寧にリメイクした中でも、昔のバージョンと変わった部分は?
熊谷 今の俺からしたら「ここの歌詞、どういう意味なんだろう」と感じる部分があったので、「ここはどう言いたかったんだい?」っていうのを、自分の中で“5年前の自分”と会議して、歌詞を書き直しました。
──この曲はタイトル通り、太宰治の小説「斜陽」をテーマにした曲ですよね。小説では戦地から帰還し、退廃的な生活を送った末に自殺する直治が登場しますが、楽曲の主人公も直治なのかなと思いました。ただ、曲を聴いていくと後半に長い間奏を挟んで「せめて太宰の小説みたいに」という一文が出てきて、一気に現実に引き戻されるような感覚もあって。
熊谷 この曲の前半には「姉さん だめだ 先に逝くよ」という直治の遺書の出だしを使っていて。それを引用してしまうぐらい、自分の世界に浸っているような主人公をイメージしたんです。僕はこの曲がインディーズのときの最高傑作だと思っているんですけど、それは曲の展開と歌詞の内容がマッチしているからで。間奏が開けると同時に歌詞の内容としても夜が明けて、そして「死ねない。」というオチがあるっていうのは、非常に完成度が高いんじゃないかなと。感じていただいた曲の後半で現実に引き戻されるような面白さは、たぶん今出しても成立すると思ったので、そこだけは絶対崩さないようにしました。
──なるほど。
熊谷 それが当時の僕の「この先どんな曲を書けばいいんだろう」っていう悩みとも非常にマッチしていたんです。歌詞にもそういう描写があるのですが、僕の中でもこの曲ができた日に、くだらないプライドが死んだと言うか……プロとして書くことを決意した始まりの歌でもあります。
廣瀬 サウンド面でも今の僕たちには作れないような部分があるなって、レコーディングをしていて改めて感じました。
石川 僕は曲の最後に「黙祷を絶望に」とシャウトするところがあるんですけど、聴き比べると当時録ったテイクのほうがノリがいいっていう(笑)。その頃はVELTPUNCHが好きでシャウトにハマっていたんです。懐かしいな。
エンディングは、25歳の等身大の歌
──そしてアルバムは「Dragonfly」で幕を閉じます。ファンタジックでストーリー性のある楽曲が並ぶ中で、「Dragonfly」には熊谷さんのパーソナルな部分が表れているんじゃないかなと思いました。
熊谷 そうですね。この曲は大きく一歩踏み出してアルバムを作ることに、ものすごくビビってたときに書いた曲で。「ホントにアルバムは完成するんだろうか」と不安な自分を励ますために作ったんです。「人に笑われてもバカにされてもいいから、自分の殻……今まで保持してきた自分のキャラクターを捨てることが大事なんだよ」って自分に言ってて。歌詞にある「僕は僕を極めようと思う」という言葉を胸に、このアルバムを作っていきました。
──最新の熊谷さんの気持ちが表れている曲なんですね。
熊谷 ある意味“25歳の「斜陽」”って感じの等身大の歌なのかなって。一応「FLY HIGH!!」や「ヒカリアレ」(共にテレビアニメ「ハイキュー!!」テーマソング)もパーソナルなことを歌ってるつもりなんですけど、やっぱりシングルということもあって、見栄を張った部分もある。ただ「Dragonfly」はアルバム曲だし、シングルだと地味になりそうだから避けていた、自分を丸裸にするような表現方法をやってみました。
廣瀬 ここまで主人公が熊谷を連想させるような曲は今までなかったので、最初に聴いたときは珍しいと思いました。で、今この話を聞いて納得しました。
──この曲も、アルバム10曲の中で個性を放ってますね。
熊谷 僕の中ではこれが“10本の孔雀の羽”のうち、ど真ん中の羽ですね。この曲はアコースティックギターをサウンドのベースにしているんですが、それがのちのち「花一匁」(テレビアニメ「『銀魂』銀ノ魂篇」エンディングテーマ)に生かされたりとか。そのほかにもこの曲でいろいろ試行錯誤したものがアルバム全体に散らばってます。ミックスの面でも同じで、この曲の音の重ね方をベースにほかの曲も作っていきました。
石川 今回のアルバムは、ホントに「檸檬」を超える作品になったと思いますね。
廣瀬 過去最高傑作だと思います。
熊谷 僕はホントもう、できてよかったっていう気持ちで(笑)。このアルバムを作り上げたことによって、次のアルバムの制作がもっとスムーズに、柔軟にやれるんじゃないかなって。3枚目、次はどういう超え方をするのか、今考えています。
──もう3作目のことが頭にあるんですね。その前に、3月にはツアーが行われます。
廣瀬 ツアーはいつもコンセプトを決めて石川くんがちゃんと作ってくれて。今回も頭から最後の最後までずっと楽しめるようなワンマンライブになると思うので、楽しみにしていてほしいです。
熊谷 とにかく、このアルバムが僕から石川くんへのキラーパスですので。それを彼がどうやってゴールに叩き込んでくれるのか楽しみです。
石川 オーバーヘッドです(笑)。
熊谷 打ち込みだけの「POKER-FACE」などもありますし、「これ、どうやってライブするんだろう」っていうのを想像するだけでもちょっと楽しいアルバムだと思うんです。その答え合わせに来てくれると、もっと楽しいと思います。
- BURNOUT SYNDROMES「孔雀」
- 2018年2月21日発売 / EPICレコードジャパン
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初回限定盤 [CD+DVD]
3500円 / ESCL-4997~8 -
通常盤 [CD]
3000円 / ESCL-4999
- CD収録曲
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- ヨロコビノウタ
- 花一匁
- 若草山スターマイン
- 吾輩は猫である
- Melodic Surfers
- ハイスコアガール
- 君をアンインストールできたなら
- POKER-FACE
- 斜陽
- Dragonfly
- 初回限定盤付属DVD収録内容
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- ミュージックビデオ+メンバーによるMV解説オーディオコメンタリー(副音声)
- 「花一匁」MV+オーディオコメンタリー(副音声)
- 「ハイスコアガール」+オーディオコメンタリー(副音声)
- ライブ映像 (2016.11.25 @SHIBUYA CLUB QUATTRO)
- 「FLY HIGH!!」
- 「ヒカリアレ」
- 「燃えつきRADIOスペシャル ~「孔雀」の取説~」(アルバム「孔雀」収録曲解説映像)
- ミュージックビデオ+メンバーによるMV解説オーディオコメンタリー(副音声)
全国ワンマンツアー2018「孔雀~いざ真剣勝負~」
- 2018年3月3日(土)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
- 2018年3月17日(土)愛知県 ell.FITS ALL
- 2018年3月21日(水・祝)宮城県 SENDAI CLUB JUNK BOX
- 2018年3月23日(金)東京都 渋谷CLUB QUATTRO
- 2018年3月25日(日)福岡県 DRUM SON
- BURNOUT SYNDROMES
(バーンアウトシンドロームズ) - 2005年に結成された熊谷和海(G, Vo)、石川大裕(B, Cho)、廣瀬拓哉(Dr, Cho)による関西在住の3人組ロックバンド。“青春文學ロックバンド”というキャッチコピーを掲げて活動しており、熊谷による日本語の美しさを大切にした文学的なリリックで支持を集める。2010年に開催された音楽コンテスト「閃光ライオット」では準グランプリを獲得。2012年に無料CD「リフレインはもう鳴らない」を全国各地のCDショップやライブハウスなどで1万枚配布する。2014年にはタワーレコード限定シングル「LOSTTIME」、初の全国流通アルバム「世界一美しい世界一美しい世界」をリリースし、2015年5月にいしわたり淳治プロデュースのもと2ndアルバム「文學少女」を発表。2016年3月にはテレビアニメ「ハイキュー!! セカンドシーズン」第2クールのオープニングテーマを表題曲としたシングル「FLY HIGH!!」でEPICレコードジャパンからメジャーデビューを果たした。2018年2月、テレビアニメ「『銀魂』銀ノ魂篇」のエンディングテーマを収録したシングル「花一匁」をリリース。10月にはメジャー2ndフルアルバム「孔雀」を発表する。