Awesome City Club|すれ違えた奇跡、ブレずに成長した軌跡

Awesome City Clubが2ndフルアルバム「Grow apart」をリリースした。

前作「Catch The One」から1年5カ月ぶりのアルバムとなる「Grow apart」は、今年に入って連続リリースされたシングル「アンビバレンス」「ブルージー」「バイタルサイン」でタッグを組んだESME MORIやトオミヨウをはじめ、久保田真悟(Jazzin' park)や永野亮(APOGEE)ら複数のプロデューサー、アレンジャーを迎えて制作した意欲作。全編にわたって打ち込みのリズムを導入したり、曲によっては“オーサム流EDM”とも言えるような攻めたアレンジを構築したりと、これまで提示してきたバンドサウンドからは大きく逸脱したサウンドプロダクションが施されている。

こうした試みについて、前回のインタビューで彼らは「4人になったからこそ可能になった」と話していたが(参照:Awesome City Clubレーベル移籍第1弾シングル「アンビバレンス」インタビュー)、卓越したソングライティング能力がAwesome City Clubの真髄であるという確固たる自信を身に付けたからこそ、ここまで振り切った意欲作を作り上げることができたのだろう。今回のインタビューではメインソングライターであるatagi(Vo, G)とPORIN(Vo)の2人に、新型コロナウイルス感染拡大状況下におけるバンドの近況やアルバム制作についてたっぷりと語ってもらった。

取材・文 / 黒田隆憲 撮影 / Susie

表現をする立場の人間は臆せずメッセージを発し続けることが大事

──今、新型コロナウイルスによって世の中は大変なことになっていますが、皆さんは日々どんなことを考えながら過ごしていますか?

atagi(Vo, G) とにかく、1カ月前と今ではまるで状況が違いますよね。さまざまな問題、障壁がある中、皆さんがそれぞれの立場で柔軟に物事を対処しようとしている。他者を思いやる気持ちを含め、人間の倫理の部分と深く向き合うことが多くて不思議な感覚です。改めて自分には音楽で何ができるのかを毎日考えていますね。まだ答えは出ていませんが。

──状況が刻一刻と変わっているから、今考えていることが1週間後に正しいのかどうかもわからないことがもどかしいですよね。

atagi なので、自分が発信することに対して臆病になってしまいがちなのですが、表現をする立場の人間としては、それでもやはり臆せずメッセージを発し続けることが大事だと思います。

PORIN(Vo)

PORIN(Vo) 私はもう、毎日すごく不安というのが正直な感想です。いろいろ考えなきゃいけないのはわかるんですけど、やっぱり命が一番大事なので。自分の命について、ここまで真剣に考えたことはなかったかも知れないし、すごい時代を生きているなという気持ちでいます。時間がたっぷりあるのに外に出られなくなったので、1人暮らしなこともあり1人で考えることがすごく増えて。人によってはすごくネガティブな方向に行くかも知れないので、自分も気を付けなければいけないなと思っています。それと同時に、ちょっとしたことに感動するようになった気がしていて。当たり前のこと……例えば太陽の光や自然の摂理に感動するんです。ごはんを食べておいしいと感じることもそう。今までは当たり前だったことを幸せと感じるようになりました。

さまざまな“すれ違い”をフィクションに落とし込んで

──そんな中、通算2枚目のフルアルバム「Grow apart」が完成したわけですが、全体のテーマやコンセプトはどのようなものですか?

atagi 今年に入ってシングルを連続リリースしてきたのですが、そのときと同じく「すれ違い」がテーマです。前回のインタビューでもお話しした通り、前作「Catch The One」から1年少しの間はいろんな意味で「人がすれ違っていく=すれ違い」がキーワードだったなと。メンバーの脱退やレーベルの移籍など、ポジティブなこともネガティブなことも含めて“すれ違い”によって起きた出来事がすごく多かったんですよね。なので、そこを主軸としていろんな物語を書くところから曲作りがスタートしました。

──いろんな物語というのは、例えば?

atagi 例えばバンド内ですれ違いが起きたとき、そこから自分たちはどうありたいのかについて歌った曲があるんですけど、それは実体験に基づいていると言えますよね。あるいはもっと抽象的なもの、1人の人間の中にある二律背反をテーマにした曲もあります。ほかにも、自分が思っていることと世間の常識とのすれ違いに対して疑問を投げかけた曲とか本当にさまざまで。いずれにせよ自分が感じたこと、体験したことをモチーフにしつつも、フィクションというフォーマットに落とし込む曲が多かったと思います。演劇の脚本などと一緒で、自分の思っていることを架空の世界の住人に語ってもらうというか。

Awesome City Club

複数のプロデューサーやアレンジャーとの制作で得たもの

──今回はプロデューサー、アレンジャーを複数迎えているのも特徴的ですよね。

atagi 単純に好奇心というか、僕らがカッコいいと思う人たちと一緒にやってみたい気持ちと、それぞれの楽曲に一番相性のよさそうな人、その曲の世界をさらに広げてくれそうな人にお願いしたい気持ちがありました。実際にやってみると、やはりそれぞれの筆遣いがあるし、こんなにも音の違いとなって表れるのかと驚きましたね。

──中でもESME MORIさんは、既発のシングルも含めて5曲をプロデュースしていますし、今作の色を決定付けている要素の1つとも言えますよね。

atagi(Vo, G)

atagi MORIさんはシングル「アンビバレンス」でご一緒させてもらったときの感触がすごくよくて。世代が近いのもありますけど、サウンドに対する価値観というか、美学みたいなものがAwesome City Clubでやりたかったこととすごくマッチしていたんですよね。もちろん、ほかの方たちも特に世代の差みたいなものは感じなかったです。それぞれの方と貴重なやりとりをさせてもらいました。例えば久保田真悟(Jazzin' park)さんは、「but×××」という曲を作っているときに「実は僕こういう曲をずっとやりたくて」とボソっと言ってくださったんですよ。そういう個人的な熱量が入ってくるのを感じ取れたときに、ものすごくうれしかったし、それが実際に形となった楽曲ばかりだと思っています。