Awesome City Clubインタビュー|ドラマ「モダンラブ・東京」主題歌で描く、さまざまな愛の形

2019年にアメリカで製作され、世界中で大きな話題を集めたドラマ「モダン・ラブ ~今日もNYの街角で~」。その日本版となる「モダンラブ・東京~さまざまな愛の形~」が10月21日にAmazon Prime Videoで配信された。忘れかけていた恋心や、息子や母親への愛、国境を越えて芽生える愛など、アニメーション作品も含めさまざまな愛の形を描いたこのドラマの主題歌を歌うのはAwesome City Club。オリジナル版ではゲイリー・クラークが歌う、力強いバラード「Setting Sail」をオーサム流にアレンジし、男女の機微を描いた繊細なラブソングに仕上げている。音楽ナタリーは、ひと足先にドラマを鑑賞したオーサムのメンバー3人にインタビュー。楽曲の制作エピソードやそれぞれの恋愛観、そしてドラマの見どころなどについてたっぷり語ってもらった。

取材・文 / 黒田隆憲

いろんなパターンの“愛”を描いた「モダンラブ・東京」

──今回リリースされた「Setting Sail ~ モダンラブ・東京 ~」は、ドラマ「モダンラブ・東京~さまざまな愛の形~」の主題歌ですが、オリジナル版となる「モダン・ラブ ~今日もNYの街角で~」は観ていましたか?

atagi 観ていました。よく集まる飲み仲間と、配信で観られる最近のドラマの話になったときに「『モダン・ラブ』めちゃくちゃ面白いよね」と意気投合していて。それが1年半くらい前だったかな。みんな性別も年代もバラバラで、それだけ幅広い層に届いているドラマなんだろうなと思っていました。

PORIN 私の周りでも好きな人が多かったですね。ニューヨーク・タイムズに掲載されたコラムをもとにした作品なだけあってリアルなんだけれど、ドラマチックな見せ場もちゃんとあって。バランスがいいうえに誰しもが共感しうる部分がある作品だなと。

モリシー いろんなパターンの“愛”が描かれていて。例えば冷め切った夫婦間のエピソードとか、自分たちの夫婦関係と照らし合わせていろいろ考えさせられましたね。「気を付けなきゃ」って(笑)。エド・シーランがカメオ出演するなどサプライズもちりばめられていて、そういう部分でも楽しめました。

Awesome City Club

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──近日配信予定の「モダンラブ・東京~さまざまな愛の形~」も、すでに皆さんはご覧になっているんですよね。どうでしたか?

PORIN エピソードごとに監督も違うし、キャストも毎回豪華でぜいたくなドラマだなと思いました。私が特に印象に残っているのは、夏帆さんと成田凌さんが出ているエピソード4「冬眠中のボクの妻」です。観終わってからしばらく経つけど、いまだに余韻が残っていて。夏帆さん演じる働く女性の苦悩や、それを支えようとする成田さん演じる男性の優しさ。その関係性に共感を覚えたし、憧れもしましたね。お仕事で嫌なことがあった女性が心に病を負った状態になってしまうことを冬眠に例えているんですけど、それもすごく印象的でした。食事のシーンが素敵に描かれているのも、「かもめ食堂」の荻上直子監督らしいなと。

モリシー 僕はユースケ・サンタマリアさんと永作博美さんが出演しているエピソード5「彼を信じていた13日間」がよかったです。僕らよりももう少し上の世代の話なのですが、実はユースケさん演じる男性に秘密があって……という。あまり話すとネタバレになるのでやめておきますが(笑)、ちょっとほかのエピソードとは異色な感じで、個人的にこういうミステリアスな世界観が好きなんですよね。

PORIN 黒沢清監督らしい、“凪”の感じがこのドラマにもちゃんと出ていて私も好きだった。

atagi 僕はエピソード7「彼が奏でるふたりの調べ」がすごくよかったです。アニメーション作品なのですが、SHEENA & THE ROKKETSさんの「YOU MAY DREAM」が重要なモチーフとして使われているんですよ。この曲がきっかけになって、登場人物の男女の関係が紡がれていくのですが、まずその曲のチョイスが「渋いな!」と。終わり方もすごく絶妙なんですよね。ハッピーエンドと言い切れるほどハッピーじゃない、強いて言えば“グッドエンド”みたいな。その温度感もとても気に入りました。

マッチングアプリと現代のラブストーリーの関係性

──僕も全エピソードのあらすじを先に読んだのですが、出会いのきっかけがマッチングアプリのエピソードがいくつかあって。現代のラブストーリーを描くうえで、切っても切れない重要なモチーフの1つになっているのかなと感じました。

atagi 確かにみんなやっていますよね、マッチングアプリ。僕もこういう仕事をしていなくて顔バレとかがなければ、もしかしたらやっていたかもしれない(笑)。そのくらい当たり前のコミュニケーションツールになってきている気がします。これは別の機会でも話そうと思っていたんですけど、これだけメジャーで当たり前に使われているアプリを、流行り物に敏感じゃなければいけない職業の自分が試せないのは、ちょっと悔しかったりもしますね。

モリシー 自分のお店(東京・永福町のコーヒースタンド「MORISHIMA COFFEE STAND」)に立っていると、常連さんが彼女や彼氏を連れて来ることが何度かあって。「どうやって知り合ったの?」と尋ねると、「マッチングアプリで」という人がすごく増えていますね。本当に普及しているんだろうなと実感することは多い。マッチングアプリで出会って、結婚している人もいますしね。

atagi 自分の顔写真を載せることがルールになっている場合が多いみたいじゃないですか。僕らの世代だとまだそこに抵抗感がある人って多いと思うんですけど、もっと下の世代になるとそこにまったくハードルを感じていなかったりしますよね。人の善意を全面的に信じているというか。

PORIN 私はマッチングアプリでの出会いそのものにはまったく抵抗ないですね。それで恋愛に発展するかどうかは別として、私自身SNSでのやりとりから始まる交流はたくさんありますし、マッチングアプリでの出会いもその延長線上にある気がする。おっしゃるように、今や出会いのきっかけってネットが中心になってきていると思いますね。

PORIN

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──しかも、コロナ禍になってそれがより加速している気がします。

モリシー そうですよね。そもそも人に会う機会があまりにも減っていますから。

正論で人の気持ちは操れない

──それと、アメリカ版でも日本版でも同性愛を描くエピソードが挿入されていて。この傾向も、ここ数年の流れなのかなと思います。

atagi そういうテーマを扱うドラマを観ていて思うのは、「正論で人の気持ちは操れない」ということ。正論では割り切れないからこそみんな悩むわけだし、「正論」「正しいこと」「こうあるべき」みたいな常識や、収まりのいい答えみたいなものは、恋愛のようにものすごくパーソナルな問題が立ち塞がったときには何の手助けにもならないと思うんです。だからこそみんな、わからない答えを求めて暗中模索するんじゃないかなと。「ああでもない、こうでもない」とか、「あれで本当によかったのかな」なんて迷いながら道を選んでいくのがドラマとしてリアルだと思うんですよね。

──そういう部分が、特に同性愛者のラブストーリーでは浮き彫りになりやすいのかもしれないですよね。

atagi “不自由”とかそういうことではなくて、その人たちの答えはその人たちにしかわからないし、そもそも答えのないところでもがいていることもある。そういう世界の広さを感じさせてくれるドラマが多い気がします。それは、例えば夫婦間のいざこざとかもそうですよね。その人たちの立場になってみないと見ることのできない景色ってあると思うし、他人がどうこう言えない世界でもあると思うんです。そこに気付かされるのがドラマの醍醐味なのかなと。

──確かに。

atagi 自分とはまったく違う立場の人に対して、闇雲に「共感する」とか「応援します」なんて言ってしまうのも、それはそれで違和感を覚えるんです。そんなきれい事じゃないし、「これからはそういう時代だよね」みたいな、「白か黒か」「0か100か」の話でもなくて。それは、この作品を観れば伝わるんじゃないかなと僕は思っていますね。

モリシー 夫婦間のいざこざといえば、エピソード2「私が既婚男性と寝て学んだこと」も現代らしいテーマを扱っていると思いました。これもマッチングアプリがモチーフの1つになっていますが、そもそも「“結婚”の定義ってなんだろう?」と考えさせられますね。年齢を重ねていってもずっと仲良しのカップルもいれば、セックスレスで悩んでいるカップルもいる。さっきatagiが言っていたことと、俺が言いたいこともさして変わらないんですけど、人それぞれいろんな事情があるし、こうやってドラマを通して、いろんな立場の人たちが抱える問題を垣間見ることができるのはいいことだよなと思います。

PORIN 個人的にすべてのエピソードを通して感じたのは、登場する女性がみんな人生を主体的に生きているというか、自立していてカッコいいなということです。それは今の時代ならではの描き方だし、今の自分自身にとっても共感できる内容でしたね。しかも、テーマがものすごく等身大というかリアリティがあるんです。本当に些細な悩みや幸せをモチーフにしていて、そこからドラマを発展させているからだと思うんですけど。昔のトレンディドラマのような、非現実的な設定やストーリーとはそこが大きく違うなと思いました。