さまざまな“愛のカタチ”とPORINの熱量について
──「but×××」の歌詞はなんだか意味深ですが、これはどのように浮かんだのですか?
atagi 漠然と「“愛のカタチ”ってなんだろう?」と考えたことがあって。例えば熟年夫婦の罵り合いって、殺伐としているようで一歩引いてみるとそれもまた1つの愛情表現なのかもしれないなとか。そういう、憎まれ口を叩き合う“愛のカタチ”を歌詞にしたら面白いなって(笑)。
──そうだったんですね。「野生の肌ぶつけ合えば 揺れる本能」や「曝け出して愛の秘事」など、どちらかというと激しく求め合っている歌詞にも取れたのですが(笑)。
atagi 確かにそうとも取れますね(笑)。「持て余した疎外感を靴音でかき消して」とかは、満たされないもの、現状に満足いかなくていらだっているような、そういう女性を描きたかったんです。
──さまざまな“愛のカタチ”でいうと、PORINさんが歌詞を書いた「Black and Blue」は、歳の離れた男女の恋愛ソングに聞こえました。
PORIN そうです。女性が自分の成長のために、憧れている男性と過ごすことって多いと思うんですよ。自分よりも成熟した男性への憧れやちょっとした負い目を歌った曲はけっこうあるけど、その逆の目線を書いてみたらどうなるかなと。男性のほうも自分に対するコンプレックスや負い目を感じているんじゃないかって。そこから「いつかきっと君は僕じゃ足りなくなって」というラインを思いつきました。
──「タイムスペース」は、これまでになく官能的な歌詞ですよね。
PORIN 確かにそういう要素もあるんですけど、「この瞬間、一緒にいられる奇跡を考えよう」というメッセージを込めているんです。時計の針は11時から12時の間だけ短針と長針が交わらないんですよ。その瞬間を切り取ったというか、いつ大事な人に会えなくなってしまうのかわからないし、今の状況はまさにそうだと思う。なので、ラブソングだけにとどまっていない気持ちが自分の中ではありますね。歌詞自体は、コロナ禍の状況になるずっと前に書いたものなんですけど。
──それって「Black and Blue」でおっしゃっていた男女の関係性の変化にも通じるかもしれないですね。そうした「瞬間の移ろいやすさ」みたいなことは、PORINさんは普段から考えているのですか?
PORIN めちゃめちゃ考えています。私の実家は日本庭園をやっている会社で、今自分が手がけているyardenというアパレルブランドの名前もそこからきているんですけど、お庭ってすごく刹那的というか。自然の中にあるから同じ瞬間って一度たりともないんですよね。四季があって情緒があって、1秒後にはその表情を変えてしまう。そういうものが自分のルーツの中に強くあって、常に考えているからこういう歌詞が生まれやすいのかなと。
──さっきatagiさんもおっしゃっていましたが、「Okey dokey」や「STREAM」からは、PORINさんのバンドに対する思いが伝わってきます。本当に熱い方なんだな、って。
PORIN あははは(笑)。すぐ熱くなっちゃうんです。今言ったように、すべては刹那的だからこそ、人と人とがこうしてつながることは奇跡だと思っていて。そういう当たり前じゃない刹那を表現したかったんですよね。特にバンドに関しては、atagiさんも言ったように5周年の節目だし、あまり遠回しの表現はしないほうがいいのかなと。素直に、今思っていることをダイレクトに伝えたくてこういう歌詞になりました。自分が歌うとなると、なかなかこんなストレートな歌詞は書けないんですけど、atagiさんが歌ってくれるのであれば素直な歌詞が書ける気がします。
お互いがそれぞれ成長する中ですれ違ったり重なり合ったり
──ところで、今作はコーラスの絡み、掛け合いなどが今まで以上にバラエティ豊かになったと思いました。
atagi そこはある程度意識していました。特に最近、音楽を発信する立場として「あ、こういうことも楽しんでもらえるんだな」という表現方法がたくさん出てきていると思うんですよ。なので僕らもあまり遠慮せずにやりたいことをやった感があって、それがちょっと複雑に聴こえるかもしれないですね。
──前回のインタビューでも「リスナーのリテラシーが上がった」という趣旨のことをおっしゃっていましたよね。そこに対して信頼を寄せているというか。
atagi はい。“キャッチー”の範囲が広がっているというか、リスナーの懐が大きくなっている気がするので、逆に「こんな冒険もしてやろう」みたいな気持ちでいろいろメロディを作っていました。だから、コーラスラインとかもかなり複雑になっていたと思います。
──そういう複雑で重層的なコーラスラインは、今作で描かれるさまざまな愛のカタチ……すれ違ったり、ぶつかり合ったりする様子を表しているとも言えますね。
atagi なるほど、ありがとうございます。今回のタイトル「Grow apart」は、作品のテーマである「すれ違い」を英語で表しているんですけど、そこには“お互いがそれぞれ成長する”みたいな意味を持ち合わせていて。お互いがそれぞれ成長する中で、すれ違ったり重なり合ったりしていくというか。そう思うと「すれ違い」は、一見ネガティブな言葉に聞こえるけどいろんな意味を内包していると思ったんです。すれ違うことによって“もたらされる”ことももちろんたくさんある。「Grow apart」というタイトルには、そんな思いが凝縮されているんですよね。
──それぞれが成長していく過程ですれ違う、その瞬間があっただけ奇跡とも言えますよね。
atagi はい。まさに僕らはその奇跡を積み重ねながら5年間やってきました。それが意味のあるものだったと思えるようになりたいし、そうなっていくべき道がきっとあるはずだと信じて進んでいる。そういう意味でもぴったりのタイトルが付けられたなと思っています。