バンドの枠を取っ払って今までにない挑戦を
──配信シングル「バイタルサイン」も手がけたトオミヨウさんとの作業はどうでしたか?
atagi この曲は最初、王道の歌モノ的なアレンジだったんですよ。それをトオミさんに「ぶち壊しちゃってください」ってお渡ししたんです。どんな方向でも構わないから、トオミさんが思うままに振り切ったアレンジにしてもらえたらうれしいなと。戻ってきたデモを聴いたときはメンバー全員めちゃめちゃ驚きました(笑)。
──前回のインタビューのときにもおっしゃっていましたが、「外部のアレンジャーを付けることは自分のプライドを傷付ける」と考えていた頃からatagiさんの意識も大きく変わりましたね。
atagi 本当にそう思います。ある意味で余裕が出てきたのかなと思うし、それまでは「アレンジやサウンドも自分たちで手がけてこそのAwesome City Clubらしさだ」と思っていたのが、今はメロディとメッセージこそがAwesome City Clubの真髄だと思えるようになってきたというか。
PORIN Awesome City Clubって、マツザカ(タクミ)くんが脱退してからバンドの枠を抜けた気がしていて。今までは「バンドだからバンドっぽいサウンドを鳴らすべき」みたいな決まりごとを、無意識のうちに作っていたと思うんですよね。それを今回は取っ払うことができたし、いろんなアレンジャーさんと曲ごとにタッグを組むことも含め、今までのAwesome City Clubではできないことに挑戦できた気がします。
必死に飛び跳ねるトビウオの姿に自分たちを重ねて
──「新たな挑戦」という意味では、永野亮さん(APOGEE)が手がけた「トビウオ」と「STREAM」がもっとも攻めたアレンジで、それがアルバムの最初と最後に来ているのも象徴的ですよね。
atagi おっしゃる通り「トビウオ」を1曲目に持ってきたのは、自分たちの中でもすごく新鮮で最高のアレンジだと思ったからです。アルバム冒頭曲は決意表明というか、今の自分たちのあり方とかを見せるべき立ち位置の曲だと思うんですよ。「次はAwesome City Club、どんなことをしてくるのかな?」と聴いてくれた人が「え、こんな曲やるんだ!」と驚いてほしいというか。いい意味で聴き手を裏切ることがしたかったんです。「STREAM」を最後に持ってきたのは、PORINの書いた歌詞がAwesome City Clubの「これから」を予感させるというか、未来への広がりを感じさせるもので、アルバムを締めくくるのにふさわしいと思ったからですね。
──自分たちをトビウオに例える発想はどこから出てきたのですか?
atagi さっきの話にも通じるんですけど、バンド結成からの5年間を振り返ってみると「いいことばかりじゃなくてつらいこともいろいろあったな」というのが正直な気持ちで。それでも進まなきゃいけない、この先の未来にも希望を持ちたいと思ったときに、自然と思い浮かんだのがトビウオだったんですよね。トビウオって、ほかの魚と違って水の上を跳ぶことはできるけど、鳥のように空を飛べるわけではないじゃないですか。それでも必死で飛び跳ねる姿が、なんか自分たちっぽいかなって(笑)。
──なるほど。そういうatagiさんの言葉のチョイスが印象的です。「最後の口づけの続きの口づけを」の歌詞には「Metronomy が流れ出して」というラインがあって、Metronomy好きとしては「おお!」と思いました。
atagi よかったです(笑)。ここ、取材でけっこういじってもらえるかなと思ったんですけど、今のところまだ誰も何も言ってくれなくて。
──あははは。
atagi Metronomyって不思議な集団だと思っていて。サウンドの中に温度や湿度をあまり感じさせないというか……そこがすごくクールでいいなと思うし「Metronomyが流れている空間ってどんな雰囲気なんだろう?」と考えたときに、なんか独特の「漂白された雰囲気」を表現できると思ったんですよね。音楽的なことでいうと、ドミナントコード的というか。何かが起こりそうな起承転結の“転”にあたりそうな感じを表現してみました。
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さまざまな“愛のカタチ”とPORINの熱量について