木下理樹が木下理樹らしく、しっかりと音楽をやれるように
──ディレクションでは、どういうことに注意していますか?
木下理樹が木下理樹らしく、しっかりと音楽をやれるように導くことですね。
──今作は声の状態がいいように聞こえますね。これはやっぱり戸高さんのボーカルディレクションの賜物?
それだけではないですけど。作り手みんなに「リッキーの歌をしっかり聞かせたいよね」という思いがあって、けっこうたくさん歌ってもらいました。
──それを木下さんも受け入れるようになった。
そうですね。たぶん受け入れてくれてるとは思います。何回も歌ってもらったり、絶対嫌われるようなやり方をしていますけど。
──そんなに厳しくやってるんですか。
うん。生優しくやってももうどうしようもならないという局面では、包み隠さず、どこがよくなかったかをしっかり言うかな。それですごく機嫌が悪くなるみたいなことはある。でも、自分もそんなの言いたくて言ってるわけじゃないし、怒りたくて怒るわけじゃない。作品をよくするためだからと思って、心を鬼にする。音楽を本気で作るというのは、そういうことじゃないかなと思うので。もう本当に声が全然出てない日は、「これじゃあ今日録れないね」と言いますし。
──当たり前と言えば、当たり前のことだけど。
でも、以前はそういうふうにやってなかった。コンディションが悪い日も、悪いままつるっと録っちゃう。それじゃダメだと思ったから、言うようにしました。そしたら本人の中でもすごく意識が変わってきてる部分もある。
──だからすごく聴きやすくなった。
そうですね。でも、なるべく彼の癖だったり拙さだったり、そういうプリミティブな部分、エモーショナルな部分は生かしたいと思いながらディレクションもしてます。年齢のわりにハイトーンな感じでいまだに歌えているのは彼の努力の賜なのかなと思いますけど。
理屈じゃなく、執着している。木下理樹の世界に
──あのちょっとか細い、高い声の少年的な感じが1つの大きな魅力ですよね。
そう。あの声を保つための努力は並大抵じゃないですよ。年齢的にどうしようもない部分はあるじゃないですか。でもそれを年齢のせいにして、技術を研鑽することをやめてしまったら、ただ終わっていくだけだよということは、はっきり言うようにしてます。「そうなったらもう未来はないと思うし、自分が何者かということをちゃんと受け入れて、何をすべきかを考えてやってくれ。自分たちは全力で支えるし、トレーニングするんだったら俺は付き合うし」ということもずっと言ってます。彼がよくなってくれるためだったらなんでもする、というふうに。それに応えてすごくがんばってくれていると思います。
──よかったじゃないですか。そういうふうに思えるようになったっていうのは。
うん。まあ彼のためだと思うし、それは自分のためにもなるし。ミドルエイジクライシスを抜けたバンドマンが向き合わなきゃいけない現実には、やっぱりちゃんと向き合っていかないと。そこをごまかしてるようなミュージシャンは本当にたくさんいると思うので。だらしないミュージシャンがダメになるのは勝手だけど、俺とやっている以上はそうはさせないよという気持ちはある。
──ああ、木下理樹はいいパートナーに恵まれましたね。
もうなんか、自分も何目線なのかわかんないけども、世話女房みたいな感じです(笑)。たぶんすごくストレスも与えていると思う。今回のレコーディングでもマジで自分が胃潰瘍になるくらい、たくさん言ってる。でも、本人が一番よくわかってると思う。レコーディングを進めていく中で、ちゃんとするしかない場面は絶対あるし、ほかに解決法がないときは、しっかり言うしかない。すごく努力した結果ダメだったみたいな局面もたくさんあるんですけど、「それじゃ足りないんだ、ごめん。もうひと踏ん張りしてくれないか?」って。「これをクリアしなきゃ、もう世間は認めてくれないと思うよ。少なくとも俺たちもいいと思って出せないよ」みたいな状況になったときに、あきらめたくないというところで彼もがんばったし、周りも彼をサポートしました。
──なぜ彼のためにそこまでできるんですか?
僕はすごく執着する人間なので。音楽だったり書籍だったりアートだったり、自分が多感な時期に衝撃を受けたものに執着するんですよ。そういう気質なのかな。
──ART-SCHOOLに関しても。
理屈じゃなく、執着している。木下理樹の世界に。あと、いまだにたくさん、真面目に熱心にART-SCHOOLの音楽に救われている人がいるというのを近年目の当たりにすることが多くて。そういうのを見るとやっぱり裏切れないって思っちゃう。あの日の自分を含めて、彼らの期待に応えたいと。
──そういう思いの中で今回のアルバムを作ることになって、上がってきた曲を聴いてどう思いました?
デモが送られてきた段階で、めっちゃART-SCHOOLっぽいなって思いました。でもちょっとシンプルすぎる部分もあったりしたので、そこに関してはいろいろアイデアを出して、丁寧に一緒に作っていこうかな、みたいな感じでした。メンバーが各々思うART-SCHOOL像みたいなものに吸い込まれていくように、いつのまにかできた作品だと思います。
──戸高さんはART-SCHOOLのほかにもいろいろバンドをやってますが、その中でART-SCHOOLはどういうバンドですか?
全員で木下理樹の得体の知れない魅力みたいなものを尊重しているバンドですかね。助けたいとか、なんとかしてあげたいとか。ほかのところに行くたびに「なぜだろう?」って考えますね。でも、理屈じゃない部分が多いのかな。
──木下理樹とこれだけ長く付き合ってるのは戸高さんだけでしょう。それはやはり木下理樹の魅力ということなんですか?
それもあると思いますね。嫌だなーってなっても、なんかこう、ほっとけないし。でも熱心なART-SCHOOLのファンだったら、みんなそういう気持ちがあるんじゃないかなと思います。自分ももともとファンなので、そういう人たちをがっかりさせたくないなという気持ちと、この人(木下)はもっといいものを作れるはずという、その気持ちだけでやってる。そんなに深い理由なんかないですよ(笑)。
公演情報
ART-SCHOOL 25th ANNIVERSARY TOUR 2025 「1985」
- 2025年7月5日(土)宮城県 enn 2nd
- 2025年7月6日(日)埼玉県 HEAVEN'S ROCK さいたま新都心 VJ-3
- 2025年7月12日(土)岡山県 YEBISU YA PRO
- 2025年7月13日(日)京都府 磔磔
- 2025年9月7日(日)東京都 LIQUIDROOM
- 2025年9月20日(土)愛知県 名古屋CLUB QUATTRO
- 2025年9月21日(日)大阪府 梅田CLUB QUATTRO
- 2025年9月23日(火・祝)福岡県 INSA
- 2025年10月4日(土)北海道 SPiCE
プロフィール
ART-SCHOOL(アートスクール)
2001年に木下理樹(Vo, G)を中心に結成されたギターロックバンド。少年性のある木下のはかない歌声と、唯一無二の退廃的で美しい世界観がリスナーから支持されている。2001年9月にインディーズレーベルからリリースした1stアルバム「SONIC DEAD KIDS」が好評を博し、2002年10月にシングル「DIVA」でメジャーデビューした。2019年春から木下理樹(Vo, G)の療養のため活動を休止。2022年5月に活動再開を発表し、7月にEP「Just Kids .ep」をリリースした。2023年10枚目のフルアルバム「luminous」を発表。2025年10月に東京・Zepp Shinjuku(TOKYO)で結成25周年記念ライブ「Our Beautiful Things」を開催した。5月にミニアルバム「1985」をリリース。7月からアニバーサリーツアー「ART-SCHOOL 25th ANNIVERSARY TOUR 2025 『1985』」を行う。幾度かのメンバーチェンジを繰り返し、現在は木下、戸高賢史(G)、そしてサポートメンバーの中尾憲太郎(B)と藤田勇(Dr / MO'SOME TONEBENDER)、yagihiromi(G / Cruyff)という5人体制で活動している。
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