ナタリー PowerPush - ART-SCHOOL

たった1人に届けるために

ART-SCHOOLが約2年ぶりとなるニューアルバム「YOU」をリリースする。後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)をプロデューサーに迎え、ラッパーの環ROYが参加したリードトラック「革命家は夢を観る」、ゲストボーカルにUCARY THE VALENTINEを招いたタイトル曲「YOU」を含む本作は、木下理樹(Vo, G)が「今までの音楽キャリアのすべてを詰め込んだ」と公言する充実作となった。苦しみの果てに生まれたこのアルバムについて、木下に聞いた。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 堀弥生

「いろんな人の顔色を伺いながら作っても人には届かない」

──7枚目のフルアルバム「YOU」、本当に素晴らしいです。木下さん自身も大きな手応えを感じていると思うのですが。

木下理樹(Vo, G)

手応えというか……。あんまり周りのことを考えずに作りましたね。「いいね」って言ってくれる人が多いので、よかったなって思いますけど。

──「周りのことを考えず」というのは、あくまでも自分たちがやりたいことをやるということですか?

いや、そういう意味ではないですね。いろんな人の顔色を伺いながら作っても、それは人には届かないということです。

──アルバムの制作を始めたときは、どんなイメージを持ってたんですか?

じっくりと曲を作っていこうとは思ってました。最初は大変でしたけどね。去年の3月くらいから曲を作り始めたんですけど、スタッフから「タイアップ用の曲が欲しい」と言われて、曲出し会議みたいなことをずっとやってたんですけど、意見が全然合わなかったんです。曲自体はいっぱい作ってたのに、誰からもOKが出なくて。そのときはかなり悩みましたよね。「レベルを落としてくれ」とまで言われましたから、作ってる曲の。

──レベルを落とすとは?

もっとわかりやすくしてくれということですよね。「おまえが書いてる曲のレベルが高いのはわかってるから、知らない人に届けるためにレベルを下げろ」って。基本的に地獄でしたよ。ホントに地獄のようだった。体重もすごく減って、今も戻ってないですからね。それくらいストレスだったんだな、と。

──つらい状況ですね、確かに。曲のレベルを落とせと言われても、そんなことはできないだろうし。

最初はできると思ったんですよ。つまり「わかったうえで(レベルを下げて)やる」ということですよね。売れてる人は明確に意識してやってると思うんです、それを。だから僕らにもできるかもしれないと思った。The OffspringやFoo Fightersみたいになれるかもって。でも2回目のセッションくらいで「無理だ」って気付いて。それからは曲を出してはNG、出してはNGを繰り返してたから、精神的にもキツかったし肉体的にもしんどくて……。その後、事務所を移って、ボツとされていた曲を見直してみたら、「これは案外いいんじゃないか?」と思ったんですよね。そこからは早かったですけど、そこにいくまでは相当キツかった。トラウマになってると思いますね。

優しく包むようなアルバムを目指して

──アルバムが完成したことで、ダメージが軽減されるということはないんですか?

木下理樹(Vo, G)

なんとなく抜けていってる感じはありますけど、僕らは作り続けなくちゃいけないですからね、どんな形にせよ。そうしないと生きていけないし、たぶん頭がおかしくなってしまうから。作品を作り続けるために、つまり闇に下りていくためには、光を持っていないとダメなんですよ。大事なのは、そのための準備をちゃんとやるっていうことですよね。懐中電灯を持って、危ないときにはすぐに上に登れるようにして。だけど今回はそのまま滑り落ちてしまったんだと思います。もちろん準備はしてたんだけど、自分の予想以上に深かったというか。どこまで行っても出口はなくて、落ちて落ちて落ちて落ちて、その先にあったのが朝の光だったというイメージかな。

──リスナーにとっても“暗闇の中の光”を感じるアルバムだと思います。僕、高校の頃、Joy Divisionだけを聴いてた時期があったんですけど……。

え? 病院には行きました?(笑)

──行ってないです。「YOU」を聴いたとき、その時期のことが少しよみがえってきたんですよね。曲を聴きながら浄化されるというか。

Nothing's Carved In Stoneの(村松)拓ちゃんが同じようなことを、アルバムの特設ページ(参照:ART-SCHOOL NEW ALBUM「YOU」SPECIAL PAGE)で書いてくれてたかな。ギリギリまで行ったからこそ作れたっていう感じですね、今回は。このままだと死ぬというところまで行って……。床みたいなところに横たわってると仮定すると、カーテンから優しい光が入ってきて、「あ、生きていたんだな」と実感できるアルバムじゃないかなって。というか、僕がそれを実感したんですよね。

──木下さん自身の救いにもつながった、と。

僕としては、コクーン、繭のようなアルバムを作りたいと思ってたんですよね。今の子たち、SNSとかLINEでしか会話できないような子たちのことを守って、優しく包むようなアルバムになればいいなって。だから、このアルバムは悲しいんですよ、ホントは。

──「愛されず 育った子供達 / そのあざは美しい」(「Hate Songs」)というフレーズからも、若い世代に向けた思いが伝わってきました。

木下理樹(Vo, G)

僕自身、小さい頃にイヤなことがあったときは部屋に閉じこもって、イヤホンで音楽を聴いてましたからね。そのことでどれだけ助けられたかわからないし、同じことを返したいという気持ちもあって。そのためには、自分たちが大きくなっていかないと……。今までのART-SCHOOLのままで大きくなっていければ、そういう子たちをもっと守れるのかなって思ったりするし。そのためだけに作ってるわけでもないですけどね。もっといろんな感情があるので。

──闇に落ちていく感覚と生への希望が混然一体となっているというか。タナトスとエロスが混ざり合ってる感じも「YOU」の魅力だと思います。

性と死というのは表裏一体で、例えば草野マサムネさんもインタビューで「セックスと死にしか興味がないし、書いてないつもりです」ということを言ってるんですけど、「それはそうだよな」って僕も普通に思いますからね。セックスは三大欲求の1つですけど、もっとも死に近付けるものじゃないかなって。それをあからさまに歌うのではなくて、品よく描けたらなっていう。僕は北野武さんの映画のファンですけど、武さんの映画の暴力シーン、人が死ぬシーンには、同時に光も見えてくるんですよね。それを目指したいんです。

ニューアルバム「YOU」/ 2014年4月9日発売 / Ki/oon Music
ART-SCHOOL「YOU」
初回限定盤 [CD+DVD] 3456円 / KSCL-2890~1
通常盤 [CD] 2916円 / KSCL-2892
収録曲
  1. 革命家は夢を観る
  2. Promised Land
  3. Water
  4. Perfect Days
  5. YOU
  6. HeaVen
  7. Driftwood
  8. Go / On
  9. Miss Violence
  10. RocknRoll Radio
  11. intro~Hate Song
初回限定盤DVD 収録内容
  1. BABY ACID BABY(Music Video)
  2. フローズン・ガール(Music Video)
  3. ART-SCHOOL LIVE at COUNTDOWN JAPAN 13/14
    (BABY ACID BABY / サッドマシーン / 革命家は夢を観る / スカーレット / UNDER MY SKIN / あと10秒で / FADE TO BLACK)
ART-SCHOOL(あーとすくーる)
ART-SCHOOL

2001年に木下理樹(Vo, G)を中心に結成されたギターロックバンド。同年9月にインディーズレーベルからリリースした1stアルバム「SONIC DEAD KIDS」が好評を博す。その後もライブとリリースを重ね、2002年10月にシングル「DIVA」でメジャーデビュー。2003年12月に大山純(G)と日向秀和(B)が脱退し、翌年3月に戸高賢史(G)と宇野剛史(B)が加入する。2007年2月発売のアルバム「Flora」がロングヒットを記録したほか、2008年には初のベスト盤「Ghosts & Angels」をリリース。2009年5月、結成当初からのメンバーであった桜井雄一(Dr)が脱退したため、鈴木浩之(Dr)を新メンバーとして迎えた。2011年12月に宇野と鈴木が脱退し、バンドは木下と戸高の2人体制となる。2012年5月、所属レーベルをKi/oon Musicへ移籍し、8月にアルバム「BABY ACID BABY」を発表する。2013年3月にROVOの益子樹をエンジニアに迎えたミニアルバム「The Alchemist」を、2014年4月にアルバム「YOU」をリリース。