ART-SCHOOLの大事なところは……
──ミニアルバムのタイトル「1985」は、そのオジーを聴いてた小学生の自分ってことなんですか?
うーん、これね、よく聞かれるんですけど、どこから来てるんだろうなあ……。
──自分で付けたタイトルなのに心許ないなあ(笑)。
Primal Screamのボビー・ギレスピーの自伝を読んでたら、帯に「1985 ここからすべて始まった」って書かれていて、それが頭に残ってるのかもしれないです。
──自分がイノセントだった時代という意味合いはありますか? 7歳の頃ですよね。
ああ、そうかも。ただ、イノセントだったけど、常に疎外感を感じていて。そのときですら、すでに生きづらさみたいなものが幼心の中にあった。そういうときに「ロードショー」とか「スクリーン」を図書館で読んで、このキラキラした世界に行けたらいいなあなんて思ってましたね。行けるわけないじゃんという気持ちもありながら。いつもそんなことを考えていました。
──木下さんは生きづらさみたいなものや救われたいという気持ちをずっと抱えながら生きてきて。実際地獄のような思いをした時期や、すごく荒れた時期なんかもあったけど、たぶん今はそれなりに落ち着いてるわけですよね。
そうですね。でも、そのときの記憶は残ってるし。で、なおかつファンの声を聞いてると、今そういう思いをしている人もいる。
──ART-SCHOOLの曲で救われた子がたくさんいて、そういう子たちのために、かつて自分がオジーやNew Orderを聴いて救われたときのような気持ちになってくれれば、という思いがあるんじゃないかと思います。
うん、そうかもしれないです。最近R.E.M.をよく聴いてるんですけど、最初はよさが全然わかんなかったんですよ。でも、最近になってなんか染みるなと思ってきて。自分は空虚で負けてるということを歌ってるような感じがして、そこがいいんですよ。
──負けているというか、勝とうとしていない?
そうかもしれない。何が勝ち負けなのかわかんないけど。
──最初からそういう競争から降りてる者の美学というか。
うん、そういうのがあるんですかね。僕たちも初期の頃は「絶対売れてやるんだ」みたいな気持ちもあったと思うんですよ。
──「Flora」(2007年2月発売のアルバム)とかは、そういう感じで作ったアルバムなんですか?
「Flora」を作ったときは、単純にもうちょっと開かれた世界観でいきたいという思いがありました。それまでがひどく殺伐とした世界観だったので。もちろん「売れたい」とも思ってましたけどね。
──ART-SCHOOLは殺伐としていればしてるほど、お客さんが共感してくれるところがあるような気がします。ご自身としてはどう感じていますか?
たぶん、僕よりもお客さんのほうがART-SCHOOLのことをよくわかってるような気がしていて。確かにART-SCHOOLは殺伐とすればするほど、何かが際立ってくるみたいなところがある。でも、ART-SCHOOLの大事なところって「世の中地獄だよね。でもさ……」というところだと思うんですね。その「でもさ」の部分が、ART-SCHOOLであってほしいんですよ。そういうのをお客さんは僕以上に知っていて曲を聴いてるんじゃないかと思うんですね。
もっともっとできると思っています
──今作でも、例えば「Sad And Beautiful Things」の「こんな痛みが How can you feel it ? 祈りに変わる様に…」「そのままでいいよ 空っぽだっていいよ」とか、「We Are All Broken」の「貴方のその傷を 今 全部飲み干したい」とか、そういう美しくて優しいフレーズは、ファンというか、リスナーに向けて語っているようでもある。木下さんが抱えてる苦しみや疎外感を、一時期のような剥き出しの赤裸々な表現ではなく、透明で美しい言葉と音に結晶化することで、リスナーの心を救うことになる。そういった自分の役割に自覚的になったような、ちゃんとART-SCHOOLというものを自分で引き受けてやっていこうという覚悟みたいなものが感じられました。
そうなのかな。だったらうれしい。そういう成長を感じるということですよね。実体験をそのまま書くと、陰惨すぎたり暗すぎたりするところがあって。あまりにも救いがないものはちょっとなあっていう。昔のART-SCHOOLの歌詞の世界観とか、もう死とセックスしかないんで。それはもう今は無理。ただ、僕の中にはその感覚が残っているし、いつでもよみがえらせることができる。僕は突き抜けて明るいものがあんまり好きじゃなくて。明るいんだけどどこか空虚だとか、満たされているのになんか寂しいとか、そういう矛盾したものを全部ひっくるめた作家になりたいなと思っていますね。
──最近は声もよく出ているし、コンディションも安定していいみたいですね。
復活してからはわりとライブに自覚的になっていて、安定していい状態であることをずっと維持しようとしてます。いいライブをするために。でも、安定してきたのってここ数年なんでね。全然まだ足りてない。もっともっとできると思うので。
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戸高賢史(G)インタビュー