あれを世に出す機会が来た!(白倉)
──「ゼンカイレッド大紹介!」は、テレビシリーズではまだゼンカイジャーが5人そろっていない3月に配信されました。早い時期にもかかわらずメタ的な視点で踏み込んだ内容になっていますよね。
白倉 2月末に撮影して3月に配信したので、内容はわりとギリギリに決まりました。
武部 うちに松浦大悟というAPがいるのですが、彼が親御さんから「なんで中心が赤じゃないんだ」と怒られたそうで、「えー!」と思いまして。
白倉 じゃあそのネタを拾うかあ、と。我々としては、過去作品に対する「ゼンカイジャー」の一番革新的な部分は、「人間1人でほかがキカイ」というメンバー構成のつもりだったんです。でも松浦パパが「赤じゃないのか」と言っていたと聞いて、「視聴者にとってはそちらのほうが重大なのか!」と思い、スピンオフの中核に持ってきてみました。あとは先ほどの経緯もあり、赤いゼンカイザーのデザイン決定稿が一度できているんですよ(笑)。「決定」まで書かれているのに、それを覆してしまっていたので。
武部 ギリまで赤の予定でした(笑)。
白倉 あれを世に出す機会が来た!という感じです。スーツの発注も電話1本ですよ、「あれ作って!」って。
──ゼンカイレッド役は、「烈車戦隊トッキュウジャー」「手裏剣戦隊ニンニンジャー」などに主題歌歌手として携わった伊勢大貴さんですね。取材した際、レッド役を心の底から喜んでいらっしゃいました。
武部 輝かしいレッド役ですもんね。この役は何か由来のある人にやってもらわないと説得力がないよねという話になったんです。彼はこれまでは歌のほうで携わってくれていましたが、役者さんでもあるわけですし。
白倉 それで打診してみたら、意欲もおありだし、スケジュールも運よく押さえられまして。たまたま体も鍛えていたそうで、ちょうどいいじゃないか!と。
──ファンにとってもご本人にとっても、誰もが幸せなキャスティングだなと思いました。
武部 ギリギリのスケジュールで進めていて、オファーも直前になってしまったんですが、出ていただけて本当によかったです。変身過程もすごくかっこよかったですね。今回、人ジュランたち(※ジュランたちキカイノイドが人間になった姿)も出ましたが、皆さん面白がって演じていただいて、こちらもぴったりのキャスティングができたと思います。
未来志向のある現場にしなければ(白倉)
──では今後のテレビシリーズを楽しみにしているファンの方々へ、注目してほしいポイントを伝えるとしたらいかがでしょうか。
武部 私は香村さんとご一緒するのは初めてなのですが、物語の“縦糸”を大切にして書いてくださっています。それぞれの抱えている過去がちょっとずつ垣間見えて、楽しいストーリーにも毎回3行くらいシリアスな要素がある。今後もそれが積み重なっていくので、楽しみにしていてほしいです。
白倉 以下同文です。
武部 いやいや、紹介すべきもっと面白いものが出てくるじゃないですか!(笑) 「ゼンカイジャー」は技術的にもかなり新しいことをやっているんです。ちびロボ(カッタナーとリッキー)は撮影現場で人形使いさんにパペットを動かしてもらいつつ、シーンによってはその場でCG用のコントローラーをいじってもらうL合(LIVE合成)という技術を使っている。今後、さらにこの中に動くものが入る予定なんです! 一体どうなる!?
白倉 うん……まだ着地してないからね(笑)。
一同 (笑)
白倉 スーパー戦隊はあえて言うなら“大いなるマンネリズム”。でもそれは現場にとってよくないと思うんです。要は「去年やったことをまた今年もやります」という、発展性のない制作現場に思えてしまう。
武部 もちろん現場の熱量はすごいですし、手を抜くなんてことはまったくないんですけれど。
白倉 そうなんです、レベルはすごく高いんですが。でも例えば若いスタッフが入ってきたとき、一昨年やったことと去年やったことが変わらない、あるいはコロナ禍で今年はそれすらできないとなると、同じことを繰り返すばかりか先細ってしまいますよね。このままスーパー戦隊の現場を続けていても先行きが明るくないのであれば、一通りのノウハウを学んだら別の現場に出ていってしまうし、この現場がただの通過点にしかならない。だからこちらは、未来志向のある現場、新しい挑戦のできる現場にしていかなければならないと思っているんです。そうすればいつかは、東映はおろか、世界で誰もやっていなかったことに手が届くかもしれない。そんな期待が常にある状況を作りたかったんです。
武部 平成仮面ライダーの初期はまさにそうでしたよね。「仮面ライダーアギトPROJECT G4」のときに初めての全編HD/24P撮影の映画に挑戦したり。「ゼンカイジャー」でも似たところがあって、新しいことにタイトなスケジュールで挑んでいく(笑)。合成チームから「半年あればできますが……え、2カ月後ですか!?」と言われましたよ。
白倉 なんで半年後じゃ駄目かっていうと、半年後はもっとその先に進んでないといけないんですよ。我々はこの仕事をもう20年ほどやっていますが、当時30歳そこそこだったプロデューサーや監督陣、スタッフたちが、ベテランとともに熱気を持って立ち上げたのが平成仮面ライダーだと思っています。残念ながらもう若くはなく、ベテランの域に差し掛かっている我々の使命としては、若いスタッフをどう刺激し、引き上げ、背中を押していくかということ。若い方々の熱気が作品を力強くしていくものですから。
武部 白倉に「今新しいことをやらないと、戦隊は死ぬ」と怒られましたから。
白倉 「ゼンカイジャー」は第45弾の記念作品として、長い長いシリーズの延長線上にありますが、こちらとしては“現場にいるスタッフが今生み出しているもの”が大事だと思っています。スーパー戦隊らしいことをやるつもりですが、表現方法や作り方まで必ずしも伝統にのっとっている必要はない。若いスタッフには、ここから新しいシリーズを作り上げていくつもりでやっていってほしいと思っています。