プロデューサー白倉伸一郎&武部直美が「機界戦隊ゼンカイジャー」で“打倒仮面ライダー”狙う!?スピンオフ誕生秘話も

スーパー戦隊シリーズ第45作「機界戦隊ゼンカイジャー」が、テレビ朝日系で毎週日曜午前9時30分から放送中。TELASA(テラサ)ではオリジナル作品「機界戦隊ゼンカイジャー スピンオフ ゼンカイレッド大紹介!」が配信されている。

スーパー戦隊の“常識”をくつがえす、人間ヒーロー1人+ロボ4人というチーム構成でファンに衝撃を与えた「ゼンカイジャー」。テレビシリーズおよびスピンオフの反響を受け、映画ナタリーではプロデューサーの白倉伸一郎と武部直美にインタビューを実施した。これまで「仮面ライダー電王」「仮面ライダーディケイド」「仮面ライダージオウ」といった話題作を仕掛けてきた2人は、どんな狙いを持って本作を作り上げたのか? スピンオフの誕生秘話や、ゼンカイザーが“白いヒーロー”になった理由も語ってもらった。終盤には、未来志向の現場を目指しているという白倉が、若手スタッフに懸ける期待についても明かしてくれた。

取材・文 / 浅見みなほ 撮影 / ツダヒロキ

「機界戦隊ゼンカイジャー スピンオフ ゼンカイレッド大紹介!」はTELASAで配信中

仮面ライダーの鼻を明かしてやりたい(白倉)

──スーパー戦隊シリーズ第45作として「機界戦隊ゼンカイジャー」の企画が発表された際、お二人がプロデューサーを務めることも大きな話題となりました。企画立ち上げ時の共通認識として、作品の軸はどんな部分に置いていたのでしょうか?

白倉伸一郎 立ち上げは2020年の3月頃です。アニバーサリーイヤーだから自分たちがやることになったという流れももちろんあるのですが、仮面ライダーシリーズに対してスーパー戦隊シリーズが大きく水をあけられている状況をなんとかしたいという狙いがありました。そして仮面ライダーの裾野がここまで広がってしまったことの片棒を担いできた僕らには、その責任があるんじゃないかと(笑)。

武部直美 (笑)

白倉伸一郎

白倉 共通認識としては「打倒仮面ライダー」じゃないですけど、仮面ライダーの鼻を明かしてやりたいという思いはありました。仮面ライダーとスーパー戦隊は兄弟番組ではありますが、似て非なるもの。作り方も受け入れられ方もまったく違うんです。仮面ライダーは毎年新しいことをやるのに対して、スーパー戦隊はよくも悪くも毎年大きくは変わらず、お色直しを重ねている。キャストや設定こそ違うけれど、基本的に「◯◯戦隊」の◯◯の部分を取り替えているだけだと受け取られているんです。とにかくその認識を変えたかった。戦隊を「観なくてもいい番組」という印象から解き放つため、発明や工夫に富んだ作品を作りたかったんです。

武部 観なくても「だいたいこうなんでしょう」とわかった気になる番組だと思われていたかもしれない、ということですね。私は実は、担当になると言われたときのことをあまり覚えていないんです。撮影所でしたかね? 確か、ほかの何かと一緒に伝えられた気がします。「ジオウディケイド」か「電王」か「ロボコン」か……。(※それぞれ「RIDER TIME 仮面ライダージオウ VS ディケイド/7人のジオウ!」「RIDER TIME 仮面ライダーディケイド VS ジオウ/ディケイド館のデス・ゲーム」「仮面ライダー電王 プリティ電王とうじょう!」「がんばれいわ!!ロボコン ウララ~!恋する汁なしタンタンメン!!の巻」のこと)

白倉 「これとそれとあれとこれをやるよ!」って(笑)。

武部 そうそう(笑)。平成ライダーの初期は、まず前年を否定することから始まっていたので、ベルトの出方やライダーの数も全然違うんです。でもスーパー戦隊は「6人目の戦士はいつ出す?」というように、本当にお色直し。だからこそ今回は変えるんだ!という意識がありました。

「ディケイド」「ジオウ」のノウハウが使えない(白倉)

──劇中ではゼンカイジャーが、歴代スーパー戦隊の特徴を捉えたセンタイギアを使って戦います。過去作品の扱い方に違いはありますが、お二人が過去に手がけたアニバーサリー作品「仮面ライダーディケイド」「仮面ライダージオウ」のノウハウが生かされている部分はあるのでしょうか。

「機界戦隊ゼンカイジャー」

白倉 ノウハウが使えないというところからスタートしています。過去を否定してから作り始める仮面ライダーは、デザインもバラバラでそれぞれ特徴があるんですよね。仮面ライダー響鬼のように一見ヘンテコなものも出てくるし。だからオリジナルキャストが出る出ないにかかわらず、キャラクターだけでも違いがわかる。でもスーパー戦隊は正直区別が付きにくい。

武部 「ジオウ」のアナザーライダーのように、過去のスーパー戦隊で鎧を作ろうとしても「どれがモチーフ?」となってしまう。

白倉 同じモチーフの戦隊がいくつもあるので、バッと並ぶと余計に区別が付きにくい。仮面ライダーのように“レジェンド”を使った盛り上げ方が難しい中、過去作を観ていない人にどうやって「この戦隊はどんなヒーローなのか」を伝えたらいいのか考えました。最終的に今の“技アイテム化”のような形になったわけです。

武部 ギリギリまで、実体として歴代ヒーローを召喚する流れでしたよね。

「機界戦隊ゼンカイジャー」

──第6話から登場した敵・ステイシーザーは、歴代ヒーローやロボを召喚して戦いますね。

武部 はい、召喚設定は敵側に行きましたね。土壇場で、やっぱりヒーロー側は本人が戦わなきゃいけないんじゃないかという話になり。

白倉 例えばキラメイジャーを召喚したとして、キラメイジャーが活躍してしまうとゼンカイジャー自身は活躍できなくなってしまう。どうしたら主役ががんばるスタイルにできるのか?と。ゴーカイチェンジ方式でもいいんですが、「海賊戦隊ゴーカイジャー」のやり方をはたで観ていて、ものすごく大変そうだったんです。プロデューサーの宇都宮孝明のこだわりもあって、もともと男用だった衣装を女性用に作り変えたりしていて。だから現場に残っているスーツが、女性用になっちゃっているものもあるわけです。それをもう一度作り直す作業を考えると、気が遠くなる(笑)。

世古口凌演じるステイシー。

──ステイシー / ステイシーザーという役は、オーディションで世古口凌さんに出会ったことから「彼に演じてもらえる役を」といって生まれたと伺いました。

武部 早い段階から、ギア合戦にしたいという話は出ていたんです。敵側が同じギアを使うかどうかは別として。あとは人間キャラが少ない作品なので、駒木根葵汰くんと榊原郁恵さん以外にも誰かを!と(笑)。演技でも刺激し合えるような人がいたほうがいいんじゃないかなと思って、早くから人間キャラの敵については話していましたよね。

※榊原郁恵の榊は木に神が正式表記

白倉 世古口くんは不思議な雰囲気を持っているんですよね。野心と言うのかもしれません。それこそ「ヒプマイ」(舞台「『ヒプノシスマイク-Division Rap Battle-』Rule the Stage」シリーズ)で人気を博しながらも、そこに安住するつもりのない人だったので惹かれました。