Netflix映画「パレード」監督・藤井道人インタビュー | 「喪失を抱えた人の添え木になることはできる」正解のない“死後の世界”を描く (2/2)

音楽担当・野田洋次郎は“裏の監督”

──撮影や、作品の演出面などについてもお聞きしたいです。現場で見ていて印象的だったシーンと、完成した今好きなシーンはありますか?

フィルムで撮影した、(劇中劇である)沖縄のシーンがクランクインだったんです。映画は沖縄、宮城・仙台、東京で撮ってるんですけど、この沖縄パートは“戦”って感じでしたね。1970年の学生運動なので機動隊とかもいて、時代設定も含めてどうなるんだろうと思いましたが、よく撮れたなと。何度もぐっときちゃうのは、(リリー演じる)マイケルと(坂口扮する)アキラの最後のやり取りです。僕と行実良(プロデューサー)はモニタを観ながら泣いてました。あそこは本当にマイケルだった。あの人たちだけが通じ合う世界になっていればいいなという思いで観てしまいますね。

Netflix映画「パレード」より、マイケル役のリリー・フランキー。

Netflix映画「パレード」より、マイケル役のリリー・フランキー。

──設定としては死後の世界というファンタジックな面もありつつ、心情や背景・空間はリアルに感じられました。そのバランスを両立するためにキャスト・スタッフ間で共有していたことはあるんですか?

荒唐無稽なテーマに見えるんですけど、どのキャスト・スタッフも喪失は経験していて、おばあちゃんを思い浮かべる人もいれば、大事な人を亡くされた方もいる。その喪失に対してみんなで寄り添いたい、こういう世界だったらいいなと考え、(死後の世界を描くには)正解がないからこそ、みんなの思い思いのパレードを作ろうっていう意識でした。ロケ地は、もともと海岸を予定していたんですけど、たまたまキャンプ場とかもあるようなコテージを見つけたんですよね。(2022年11月の撮影に向けて)夏ぐらいから2カ月以上掛けて地ならし・草刈りしました。

──音楽は、「余命10年」(2022年)でもタッグを組んだ野田洋次郎さんが担当されています。本作でも依頼しようと思ったのはなぜでしょうか。

野田さんは僕の1歳上で、共有してきた価値観も近い。なおかつ野田さんの音楽は非常にシネマティックなんですよ。彼も役者をやっているからこそ絶対に芝居を邪魔しないし、作品の世界観に対してサジェスチョンしたり、音としての演出をつけてくれる。「余命10年」との相性がよかったんですが、「パレード」の世界にもすごくぴったりだなと思って、脚本を読んでもらい、やっていただけることになりました。

藤井道人

藤井道人

──主題歌「なみしぐさ」のもととなる楽曲は、クランクイン前にはできていたとおっしゃっていました。

そうですね。脚本を読んだインスピレーションであの曲ができるって天才ですよね(笑)。「余命10年」のときもそうだったんですけど、僕ら制作陣が曲に対して寄り添っていくので、(方向性が)ぶれないっていうか、道が1本になっていくんです。そういう意味では、裏の監督は野田さんで、野田さんが作ってくれた音楽の世界観に僕らも導かれるように“パレード”していった感じです。

──そのお守りのような主題歌は、藤井監督にはどんなふうに響いたのでしょうか。

いろんな言葉で死者の悲しみに触れようとするけど触れない感じだったので、野田さんにとってはこれが死や喪失との折り合いのつけ方なのかなと考えました。野田さんは震災に関する音楽もたくさん手がけていることもあって、絶妙な感情の表現が見事だなって思いました。

Netflix映画「パレード」より、左から美奈子役の長澤まさみ、アキラ役の坂口健太郎。

Netflix映画「パレード」より、左から美奈子役の長澤まさみ、アキラ役の坂口健太郎。

喪失を抱えた人たちの添え木になることはできる

──今回Netflix映画として配信されますが、Netflixの制作環境をどのように捉えていますか?

Netflixシリーズ「野武士のグルメ」(2017年)やドラマ「100万円の女たち」(2017年)など、まだ日本のマーケットで地位が確立されていない時期から仕事をしていますが、その頃からNetflixのクリエイティブの仕方はブレなくて。自分にとって兄貴というか、(河村の)次の親分だと思って尊敬しているNetflixの坂本(和隆)さんは、事情や都合で動かないんです。いいものはいい、悪いものは悪い、やらないものはやらない。クリエイターにはエモーショナルに接してくれて、スタッフにはすごくロジカルに対応されるんですけど、この融合が今一番必要なことだと思うんです。あと、彼がいつも言っていて僕も同意するのは「絶対にヒットさせなきゃいけない」。ヒットさせなかったら業界が縮小していくだけなんですよね。だから、映像業界全体にがんばってほしいっていうマインドの持ち主なんです。そういう考え方に共鳴しているからこそ、自分もしっかり世界でヒットする作品を作れる人間になりたいなと思っています。

──最後に、この作品がどんな人に届いてほしいですか?

喪失は誰しも経験していて、それに対する我々としての1つの向き合い方をプレゼンテーションしているような作品です。この映画で何かが変わることはないかもしれないけど、喪失を抱えた人たちに「1人じゃないんだよ」と伝える添え木になることはできる。僕がこの映画を作ったことで救われたように、観てくださった人たちに同じ思いが届けばいいなと思っています。

藤井道人

藤井道人

プロフィール

藤井道人(フジイミチヒト)

1986年生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業。大学卒業後、2010年に映像集団・BABEL LABELを設立した。2014年の「オー!ファーザー」で商業映画監督デビューし、「青の帰り道」「デイアンドナイト」「新聞記者」「宇宙でいちばんあかるい屋根」「ヤクザと家族 The Family」「余命10年」「ヴィレッジ」「最後まで行く」「攻殻機動隊 SAC_2045 最後の人間」などを手がける。2024年5月にはシュー・グァンハンと清原果耶が共演する「青春18×2 君へと続く道」が公開。