映画「パレード」が、Netflixで世界独占配信されている。
「余命10年」「ヤクザと家族 The Family」「新聞記者」などで知られる藤井道人が手がけた本作は、旅立ってしまった人の目線で、遺された人への思いを描く壮大な愛の物語。未練を残してこの世を去った主人公・美奈子は、月に一度死者たちが集い、それぞれの会いたかった人を探す“パレード”に参加する中で、少しずつ悲しみと向き合っていく。キャストには長澤まさみ、坂口健太郎、横浜流星、森七菜、田中哲司、寺島しのぶ、リリー・フランキーらが名を連ねた。
特集第2弾では、長澤とリリーの対談をセッティング。共演経験の多い2人の信頼関係と“ちょうどいい距離感”、対話を重ねて映画の世界観を作り上げた撮影時のエピソード、長澤が約20年越しに仕事をともにした藤井との作品作りについて話を聞いた。
取材・文 / 脇菜々香撮影 / ツダヒロキ
長澤まさみ:ヘアメイク / Minako Suzuki(GLASSLOFT)スタイリング / Kayo Yoshida
リリー・フランキー:ヘアメイク / Aki Kudo
Netflix映画「パレード」予告編公開中
藤井道人監督は「一目置かれていた先輩だった」(長澤)
──本作で、長澤さんは元報道記者でシングルマザーの美奈子役、リリーさんは元映画プロデューサー・マイケル役を演じています。それぞれオファーを受けた際、どんな感想を抱きましたか?
長澤まさみ 死後の世界という今までに演じたことのない設定だったので興味深かったです。実生活で母親になったことはないですけど、年齢的にも母親を演じることが増えてきて、親と子供の関係性はいつも気になるテーマではあったので、面白そうだなと思いました。
──リリーさんはいかがですか?
リリー・フランキー この10年、20年で人との死別を繰り返して、“歳をとるっていうのはこういうことなんだな”とすごく思って。そのつらさと向き合うことに関するひとつのファンタジーというか、この映画をやることで自分自身が救われる部分もあると思いました。僕の役は、本作の企画をされたプロデューサー・河村光庸さんの面影やエピソードが注入されていて、作品自体が彼に対するレクイエムでもある。今まで僕は映画の中で人をたくさん殺したりもしましたけど……。
長澤 ははは。確かに(笑)。
リリー それとは全然違う死生観っていうんですかね。そういう意味では、今いろいろな不幸で誰かと別れないといけない人たちにとってすごく必要な映画だなと思います。
──長澤さんは藤井監督の作品に参加するのは初めてだったと思いますが、どんな監督でしたか?
リリー (長澤は)藤井監督とは中学の先輩後輩ですからね。
長澤 (当時の藤井のことは)そんなに知らないけど、藤井先輩が歩いて来ると道が開くのを見たことはあります。
リリー イケてる先輩だったんですよ(笑)。
長澤 中学2年生で上京して転入した中学が一緒だったんですけど、すごく剣道が強くて頭がよくて、一目置かれていた先輩だったんです。
──そんな先輩と約20年越しに仕事するのは感慨深いですね。
長澤 当時は挨拶したことあったかな?という程度だったんですけど、同学年の友達から「先輩が映画監督をやっているらしい」とずいぶん前から聞いていました。いつか一緒に仕事できたらいいねって周りが言っていたので、この話が来たときは「みんなをびっくりさせられるかも、しめしめ」と思って(笑)。でも案外みんな普通に受け入れてくれたので、サプライズにはならなかったです。
リリーさんが言った言葉がセリフになったんですよね(長澤)
──藤井監督の作品の現場にはどんな印象を受けましたか?
長澤 撮影中は、映画が最終的にどういう形になるのか確実に見えているわけではなくて、撮りながら少しずつ変化していく現場の進め方をしていたのが印象的でした。すごくフレキシブルな感じというか。
リリー 正解がないことをやっていますからね。(死後の世界に比べて)まだ宇宙のほうがわかってることが多いじゃないですか。
長澤 そうそう。みんなで探り合って考えながら作って撮り重ねていきました。「この世界のルールってこうなのかな」「時間の流れはどうなんだろう」っていう話をしましたよね。
リリー これって矛盾しているんじゃないかな?って思うこともあったんだけど、そもそも何もわかってない世界のことで矛盾を考えること自体、意味がないんじゃないのか?とか。
──劇中には、田中哲司さん演じる元銀行員・田中の「矛盾を考えることがそもそも矛盾なんですよ」というセリフもありました。
長澤 あれは確か、リリーさんが言った言葉がセリフになったんですよね?
リリー そうなんでしょうね。何が起きているのか説明するシーンって意外と蛇足だから、そこは端折っていいなと思う。こういう現実と非現実を同時に描く作品が増えているのは、世の中に必要とされているタイミングなのかなと。
長澤 そうやって、みんなの疑問やそのときに感じるものを汲み取って形にしていく撮影スタイルだった気がします。
──映画の中で何度かある“パレード”(※)のシーンが幻想的で印象に残っているのですが、撮影はどのように行ったんですか?
※編集部注:劇中で描かれる、未練を残してこの世を去った死者たちが月に一度集うイベント。街中を歩き、みんなでそれぞれの会いたかった人を探す
長澤 エキストラさんは大変だったと思いますね。何が大変って、撮影は寒い時期だったんですけど、亡くなったタイミングはそれぞれ違う設定だから、みんな季節感のない格好をしていて。夏の人もいれば冬の人も、雪山仕様の人も。
リリー そう。防寒ができる衣装を着ている人に対しては「ラッキーだな、お前」と思って見てました(笑)。
長澤 夜の撮影は過酷ではあったんですけど、(寺島)しのぶさんから聞いていた通り、藤井監督は「この人のためならがんばる!」と思わせる人たらしなところがあって、スタッフもエキストラさんもとにかくメロメロになってしまうんです。優しい言葉で皆さんを包み込む、そのケアが手厚くて、エキストラさんもきっちり皆さん来てくれました。
リリー エキストラさんが次の日も来たのは監督の手柄なのか横浜流星の手柄なのかわからない部分があるけど(笑)。あのパレードのシーンって夜中だし大変なんだけど、やってるほうはハッピーな気分になってるんですよね。お祭りみたいな、不思議な多幸感があるっていうか。
──それはあのシーンが持つ目的ゆえに、ということですか?
リリー (美奈子やマイケルたちの拠点である)遊園地に5、6人でいるよりも、生きている感じがあるっていうか。あとは、シーン自体がとてもきれいですから。
長澤 愛のある現場だということをより感じたシーンでした。