映画「パレード」が、Netflixで世界独占配信されている。
「余命10年」「ヤクザと家族 The Family」「新聞記者」などで知られる藤井道人が手がけた本作は、旅立ってしまった人の目線で、遺された人への思いを描く壮大な愛の物語。主人公は、未練を残してこの世を去った元報道記者の美奈子だ。彼女は、月に一度死者たちが集い、それぞれの会いたかった人を探す“パレード”に参加する中で、少しずつ悲しみと向き合っていく。長澤まさみ、坂口健太郎、横浜流星、森七菜、リリー・フランキーらがキャストに名を連ねた。
特集第1弾では、監督・脚本を担当した藤井にインタビューを実施。“私映画”と語る本作を執筆したきっかけや、信頼するキャスト陣との関係性、Netflixの制作環境について話を聞いた。なお特集第2弾では美奈子役の長澤と元映画プロデューサー・マイケル役のリリー、第3弾では音楽・主題歌を担当した野田洋次郎のインタビューを掲載する。
取材・文 / 脇菜々香撮影 / 間庭裕基
Netflix映画「パレード」予告編公開中
折り合いをつけるためにこの映画がすごく必要だった
──死者の目線で描かれた、作品の優しい世界観に救われました。本作は「新聞記者」(2019年)や「ヴィレッジ」(2023年)でもタッグを組んだ故・河村光庸さんの企画で、藤井監督は脚本も手がけています。どこから書き始めたのか、起点になったシーンがあるのかお聞きしたいです。
シーン1からですね。主人公は長澤(まさみ)さんに当て書きしたいなと思っていて、彼(河村)とのたくさんの記憶を思い出していたときに生まれたキャラクター。オリジナルで群像劇を書くこと自体、「青の帰り道」(2018年)以来ですごく久しぶりでしたね。
──いつもシーン1から書き進めるんですか?
いつもです。どこかのシーンから広げることはなくて、「書こう」って決めてから“この景色で何が起きるだろう”っていうのをつらつらと書いていくので、最後までどうなるのかわからないんですよ。その一筆書きで完成ではないんですけど、自分が今考えていることを120分でどう描くか、みたいな感覚ですね。
──完成して世界配信が始まった今、どんなお気持ちですか?
いつもより緊張します。普段は「こういうものを作ってほしい」と言われて、“どうホームランを打つか”ということを考える仕事が多い。誰にも頼まれずに書いた脚本を提出して「これがやりたいです」っていう経験はけっこう久しぶりでした。自分の作品群の中でも特殊なんですけど、これって“私映画”の類いだと思うんです。(河村プロデューサーが亡くなった)このタイミングじゃなかったらやらなかっただろうなと思っています。
──藤井監督は完成披露試写会の際、河村さんの訃報を受けた2日後に熱海に行き、3日間こもって書き上げたと明かされていました。それは衝動的なものだったんですか? または自分がやらねば、という責任感からだったのでしょうか。
折り合いのつけ方がわからなかったんですよね。それだけ自分や周りのいろんな人にとって、彼はすごい存在だった。「なんで死んでんだよ」ってだんだん腹が立ってくるぐらい。僕にとっては折り合いをつけるためにこの映画がすごく必要だったし、初稿を読んだ段階でNetflixさんがこれをやりたいと言ってくれたのは恵まれた環境だなと思い、感謝しています。
長澤まさみは「“自分が映画を背負うんだ”っていう覚悟がすごく強い俳優」
──キャストの話も伺いたいんですが、今回初めて仕事をともにした主演の長澤さんは、どういう俳優でしたか?
“自分が映画を背負うんだ”っていう覚悟がすごく強い俳優さんだなと思いました。これまでもいろんな作品で主演されてきたからこそ、自分ががんばらなきゃっていう思いを人一倍持っているんだと思います。
──具体的にはどういう行動を見て、その覚悟を感じたんでしょうか。
僕の「こうしたいんです」という演出などの希望をしっかり受け止めながらも、守らないといけない美奈子というキャラクターのラインをちゃんと守るところです。あとは、スタッフにもすごく気さくに声を掛ける方で、スタッフワークも主演の仕事だと思っているところですかね。そういった姿を見て、10代の頃から素晴らしい映画にたくさん出演してきた理由がわかりました。
──森七菜さんとも、一緒に仕事されるのは初めてでしたよね。
初めてです。動物のような方でした。天才……という言葉は押し付けがましいんですけど、演技をするために生まれてきたような天然のすごさがあります。自由に演じてもらっても、脚本の読み方がすごいのか解像度が高いというか……まるで本当にこのキャラクターが飛び出てきたんじゃないかと思うこともある。かと言って、相手の芝居が変わったら柔軟に返すし、生き物としてすごいなって思いましたね。
──カメラが回っていないときの印象的なエピソードはありますか?
僕自身、現場では「おはよー!」みたいな(積極的に話しかける)タイプではないので、俳優と監督っていう立場ではいたんですけど、急にヤドカリを手に乗せて見せに来てくださったことはありました(笑)。
──目が離せない魅力がありますね。坂口健太郎さん、横浜流星さん、田中哲司さん、寺島しのぶさん、リリー・フランキーさんなど、今まで作品を一緒に作ってきた俳優陣も出演されていました。この作品を通して違った一面が見えた方はいますか?
リリーさんですかね。彼はバイプレイヤーとしていろんな側面を見せてくださる人で、映画愛にあふれた方。今回の現場では、全スタッフに電熱ベストを差し入れしてくれたり、人が気付かないところまで見ている温かい人だなと知りました。本当に義理人情に厚くて優しい、九州男児って感じです。
──藤井監督作品常連の横浜さんは、脚本を書く監督を隣で見守っていたそうですね。
今でこそ人前で話せるようになりましたけど、(河村の訃報を受けた)当時はひどく落ち込んでしまって。東京から姿を消して熱海に逃げ込んだときに、「大丈夫か? 1人になるとよくないから」と付いて来てくれたんです。その恩もあり俳優の中で一番最初に初稿を読んでもらったら「俺も出るよ!」と。河村さんの最後の作品が僕と流星の映画(「ヴィレッジ」)なので、その思い入れもあるんだろうなと思いますが、本当にうれしかったですね。彼とはきっと、どちらかがあっちの世界に行ってしまうまで、兄弟のような関係でいるんだろうなって思います。
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音楽担当・野田洋次郎は“裏の監督”