人間の欲望渦巻くファンタジーホラー「ショコラの魔法」岡田結実×森脇智延インタビュー 葛藤の中で開いた新しい世界とは|オリジナルチョコを作ったパティシエ鎧塚俊彦への思いも

シリーズ累計発行部数100万部を突破したみづほ梨乃の少女マンガを実写化した「ショコラの魔法」が、6月18日に全国公開される。本作は魔女ショコラティエ・哀川ショコラが作るチョコをめぐって起こる事件と、その謎に迫ろうと奔走する女子高生・飯田直の姿を描くファンタジーホラー。

このたび映画ナタリーでは“ゲスト主演”として直を演じた岡田結実と、監督の森脇智延の対談をセッティングした。岡田は森脇からもらったアドバイス、主演の山口真帆をはじめとするキャストとの現場エピソードを語る。一方森脇は、本作に“魔法”をかけたパティシエ鎧塚俊彦が手がけたチョコレートへの思いを明かしてくれた。

取材・文 / 杉嶋未来 撮影 / 須田卓馬

監督からいただいた言葉で心を入れ替えた(岡田)

──本作「ショコラの魔法」は小学館の雑誌ちゃおに掲載され、アニメ化も果たしたマンガが原作です。まず映画化のオファーを受けたときの印象を教えてください。

森脇智延

森脇智延 お話をいただいたとき、まず一番に思ったのが、哀川ショコラのビジュアルをどう作り上げれば、彼女を実際に存在させられるのかということです。さらに原作は少女マンガですが、ただかわいいだけ、恋愛要素があるだけというわけではないので、作中に描かれた人間の持つ欲望や嫉妬などの奥深い部分とどう向き合うかが重要でした。大人にとっても大きなテーマとなるような人間の深い感情をどう切り取るのか、さらにその中で実写化したショコラをどう存在させるか、というところでバランスを考えました。

岡田結実 ショコラを山口真帆さんが演じられて、私はその相手役をさせていただくことになり光栄でしたが、今回の役である飯田直は、私の中で挑戦になるなと思いました。学園ものはコメディでは経験があったんですが、ナチュラルな女の子を演じたことはありませんでした。なので、どこまで「ショコラの魔法」の世界観に入ればいいのか、どこまで自然な人間として演じればいいのか、撮影前も撮影中もずっと悩んでいました。

──なるほど。監督とは演技プランについてお話しされましたか?

岡田結実

岡田 監督との台本読み合わせのとき、試しにアニメっぽい声でやってみたら、監督に「違う」って言われました。「監督、私もわかってるんです。でも今はイメージがつかめていなくて、この声しか出ません」って話した記憶があります。このとき少し方向性が見えてよかったです。生々しく、怖いときはものすごく怖がって、深い部分はとことん深くと。少女マンガらしい部分だけをやりたいわけではないと監督がおっしゃっていて、撮影前にお会いできてよかったなと思いました。

──監督は岡田さんが感じていた葛藤に気付いていらっしゃいましたか。

森脇 ものすごく伝わってきました。演じるうえで考えることは大事ですし、素敵なことだと思います。でも「そんなに深く考えすぎなくていいよ」って声を掛けました。直はまっすぐで前向きで、猪突猛進のイメージ。僕が普段見ている結実ちゃんもまさにそんなイメージでした。台本を途中まで作っている段階で結実ちゃんとお会いして、その感覚で台本を作り上げたものの、撮影で会ったとき、本人はポジティブ全開というよりも考え込んでしまう部分があったので、あれ?って(笑)。撮影中、「大丈夫だよ、大丈夫だよ」ってよく声を掛けていましたね。

岡田結実演じる飯田直。

岡田 監督がすごいメンタルケアをしてくださってました(笑)。その時期の私は「演技ってなんだろう」とわからなくなっていたんですよね。違う現場でこてんぱんにされていたんです。そのまま「ショコラの魔法」の現場に入ったので、自信がないままでした。直の根本的な部分は私にすごく似ているなと感じていたけれど、役と自分を切り離さないといけないという思考回路に陥っていました。どれだけ自分の中に役が入るのか感じたまま演じたらいいのに、切り離さなきゃ、切り離さなきゃって強く思ってしまっていて、そうしたらどんどん直がわからなくなってきてしまいました。岡田結実が出てしまっているという葛藤と、直はどこに行っちゃったんだっていう葛藤がすごくあって。でも、監督は「そんなに考えなくて大丈夫だよ」っておっしゃってくださったんです。共演の中島健くんに「結実ちゃんを笑わせろ」ってコミュニケーションをうながして、現場を盛り上げてくださいました。おんぶに抱っこで、すごくありがたかったですが、すべてを出してしまってなんだか恥ずかしいですね。あの時期、本当になんだったんだろう。

森脇 役者さんがみんな通る道なんじゃないかな。僕はいろんなドラマを演出させてもらっているけど、そういう役者さんはたくさんいらっしゃいます。「寝ずに考えたんです」と言いながらも、もやもやを抱えたまま現場に入っていて、それが変に出てしまったり。どこかで割り切らないといけないんですよね。「これでいいんだよ」っていう。それは僕たち周りの人間が伝えてあげないといけないなって思います。

「ショコラの魔法」撮影現場の様子。左から森脇智延、岡田結実。

岡田 「心配だ心配だ、ってずっと言い続けている人は演技がうまくならないよ」って監督に言われたんです。「大丈夫だ、って自分を信じて、振り切ってやったほうが伸びるよ」と。確かに、現場で自信がなさそうな人に付いて行きたいなと思う人はいないなと思いました。その夜から心を入れ替えて、心機一転現場に立つことができました。本作はストーリー展開的に2部に分かれていると思っているんですが、後半のお芝居や心構えは自分の中で大きく変わったと感じています。監督からいただいた言葉もあって、後半は「とにかくやるぞ!」という気持ちになれました。中島くんに乗っかる感じで、そこはまさに役の性格と一緒でした。相棒にちゃんと乗っかって、1人では突っ走らない。劇中直が言われることを、私自身もちゃんとやろうって思いました。後半は撮影に慣れたことにもあって、純粋にこの作品の怖い世界観に思い切り浸れたと思います。

森脇 でも、結実ちゃんが葛藤している姿を見せてくれてよかったと思っています。一生懸命でまっすぐな人なんだ、という人間性が伝わってきましたし、誰もがそういう人にはちゃんと向き合って、導いていきたい、助けてあげたいという気持ちになりますから。

結実ちゃんに乗じて、僕も山口さんを「まほほん」と(森脇)

──この作品は岡田さんにとって大きな転機になったんですね。先ほど中島健さんのお話も出ましたが、共演の皆さんとの印象的なエピソードを伺いたいです。

岡田 桜田ひよりちゃんと中島くんは比較的一緒にいる時間が長かったですね。中島くんがボケてくれて、それに私とひよりちゃんがツッコむという関係だったんですけど、撮影が始まるとそれぞれの役にみんな入っていて、オンとオフの差が激しかったです(笑)。ひよりちゃんは怖いシーンの前でもすごい笑っているけど、撮影が始まるとグッと表情が変わるので役者だなあと思いました。まほほん(山口)と一緒のシーンは、撮影終了間近の2日ぐらいしかなかったんです。まほほんと同じ事務所の畑芽育ちゃんとは共演したことがあって、「山口さんってどんな人?」って聞いたら、「楽しい人だよ!」と言っていたので、初日からいきなり「まほほん」って呼んでしまいました。2人とも美容が大好きなので、撮影の合間に「お薦めのボディクリームある?」って聞いたり、最終日はすごくハードだったんですけど、一緒にふざけあったりして。もっと撮影期間が重なったらよかったですね。まほほんもたくさん話してくれたし、ふざけてくれたし、楽しかったです!

森脇 山口さんが演じるショコラのシーンはみんなとは別で撮っていました。生徒みんなとのシーンは結実ちゃんが言う通り2日しかなくて、僕が盛り上げて仲を取り持とうかと思っていたんです。ショコラはショコラの世界観があって、生徒のみんなと仲良くという役でもないので、休憩のときなどは僕が間に入って話をつなげようかなと考えていたんですが、全然そんな必要はなかったですね。結実ちゃんがまほほんって呼んでいるので、僕もそこに乗っかってまほほんって呼んだりしてました(笑)。そうやって1つのチームになっていて、クライマックスはすごく見応えがあるシーンになったと思います。

岡田 クライマックスのシーンではみんなとの一体感を感じましたし、本当にいい現場でしたよね。怖いシーンを撮影していても、みんなでがやがやとおしゃべりしたりして。監督が常に盛り上げてくださって、いい雰囲気でした。私はどちらかと言うと、ショコラと仲がいいわけではないけど、いい距離感を保っている役だったので、唯一私だけはまほほんに話しかけてもいいのかなと思っていたんです。

新しい世界が開いたような感覚です(岡田)

──では監督にお聞きします。本作における演出のポイントはなんでしょうか?

森脇 ホラーはよく演出させてもらっていますが、間が大事だなと感じています。例えば、直が何か物を見たとき、すぐに言葉を発さずに間を作ることで、お客さんは「何を見たんだろう」って考えますよね。余地を与えてあげるんです。チョコレートを食べるときも、噛み締めてちゃんと味わっているさまを、お客さんがどう感じるのか。そういう間を大事にしたいといつも思っています。ただ、演じ手からすると、間を作るのはけっこう怖いと思うんです。できたらすぐ次の行動にいきたいという気持ちはあるかもしれないんですが、ちょっと我慢してもらって間を作ることで、観客の皆さんにいろいろなことが伝わるのかなと考えて演出しました。

──岡田さんは、監督から演出を受けていかがでしたか?

岡田結実

岡田 ホラーは初めてだったんですが、たくさん勉強させていただきました。例えば階段を上るシーンでも、普通に上がるのではなく、のぞく瞬間の画も欲しいって監督に言われたんです。それもがっつりではなくて、ちょっとだけのぞく感じでと。「流れではなくて、間を大事にしながらのぞくと、意味合いが変わるよ」とアドバイスいただいて、なるほどと。自分で最初にやってみたものと、監督の演出を受けてやってみたお芝居では全然意味合いが変わっていたんですよね。言葉がなくても、動きや目線、しぐさでこんなに変わるんだなって新しい世界が開いたような感覚です。

──監督がホラーを数多く手がけてきたからこそのアドバイスですね。今回、原作者のみづほ梨乃先生からのオーダーはあったんでしょうか。

森脇 先生からは特になく、お任せしていただいた感じです。撮影現場に来てくださり、映画化をとても喜ばれていたようでよかったです。

岡田 まほほんの姿を見て「原作通り」っておっしゃってましたよね。先生が原作を描くうえで、まほほんのことも思い浮かんだとも話されていて、それはすごい!と思いました。