「TENET テネット」特集|人類未体験の“時間の逆行”をいち早く体感!幾原邦彦、伊藤智彦、かっぴー、こざき亜衣、三部けい、篠原健太、中村佑介、幸村誠、和久井健のコメント到着 /  クリストファー・ノーランのインタビューも

クリストファー・ノーラン インタビュー

映画に何ができて、どこへ連れて行ってくれるか、その可能性を感じてもらいたい

──「フォロウィング」「メメント」から「TENET テネット」に至るまでずっと、時間の構造についてこだわってきていますが、これほどまで惹かれる理由は?

時間とは常に付き合って生きてきたから、映画を描くうえでのテーマとしてやはり興味を掻き立てられるんだ。そして長年映画作りをしてきた中で、「映画を観る」というプロセスとその構造や、映画の中の時間の流れについてあれこれ考えてきた。そうすることで、私たちが生活の中で感じる時間と、映画館の中で映画を観ながら感じる時間との対比や関係性を掘り下げる物語作りが面白そうだと昔から思っていたんだ。「メメント」含め、私の作品を初期から追っている人は、本作を観たら私が今までに探索してきた数々のアイデアの極みのように感じてくれると思うよ。

「TENET テネット」

──では、本作の構想のきっかけは? いつ、どんなことが引き金となりましたか?

構想自体は数十年前から考えていたものもあるんだ。例えば、「メメント」で壁に撃ち込まれた銃弾が逆流して銃口に引き戻される場面があるんだけど、あのときはメタファーとして描写した。だけど、今作ではそれを物理的な現実として描いているんだ。そのように考えるようになったのは、6、7年前のこと。「こんな奇妙なコンセプトを、スパイ映画にしてみたらどうなるんだろう」って思ったのがきっかけだ。

──数あるジャンルの中から、スパイ映画を選んだ理由は?

子供の頃から好きだったからだね(笑)。「007」シリーズで言うと、映画館で最初に観たのが「007/私を愛したスパイ」。これは今でもお気に入りの1つでね。最近子供に見せたのだけど、7歳のときに自分が父親に連れられて映画館へ行ったときのことを思い出したよ。あのとき、僕はスクリーンにものすごい可能性を感じた。映画を観るということは、スクリーンを飛び越え、世界のどこへでも行けて、素晴らしい光景を目にすることなのだと知ったんだ。また車が潜水艦になるなど、ファンタジックな要素も楽しかった。スパイ映画にはそうやって人々を興奮させる要素が詰まってる。僕はキャリアの大半を、あのときの感覚を呼び覚ますこと、そして観客に提供することに費やしてきた。映画に何ができて、どこへ連れて行ってくれるか、その可能性を感じてもらいたい。そう思ったから、スパイ映画に取り組むことにしたんだ。

「TENET テネット」

──7年前から構想を練っていたとのことですが、これだけ時間が掛かった理由は?

僕がスパイ映画を手がけるにあたって、これまでそのジャンルで描かれてきたことをそのままやるのは退屈すぎる。時間のコンセプトを加えてスパイ映画にひねりを付ける、と思い付いたことが、時間を費やす必要があった最大の理由だ。だって、時間のコンセプトを説明しながら、世界中を駆け巡り、最高のアクションも盛り込んだスパイの物語を展開させるのは、めちゃくちゃ大変な作業だったから。

──インドやイタリアなど、世界7カ国で撮影を行っていますが、特に印象深い場所は?

冒頭のオペラハウスのシーンを撮ったエストニア、空撮は史上初というところもあったインドのムンバイ、昔から気になっていたイタリア・アマルフィのラヴェッロ、空港のシーンのカリフォルニアのビクタービルなど。今までのハリウッド映画では使われていない場所で撮影できたのは非常によかった。どこもロケハンや僕の経験で選んだところで、何年も計画をしていた場所ばかりなんだ。

──撮影のためのIMAXカメラも、本作のためにカスタマイズしたそうですね。

撮影監督のホイテ・ヴァン・ホイテマとはこれで3作目になるけど、彼のアイデアのおかげで撮影はどんどん面白い方向に進めていけたよ。例えば、会話シーンのアップを撮影するにしても、通常のIMAXカメラでは音がうるさいし、そもそも逆行する時間の映像をチェックするための工夫が必要だったね。しかもIMAXカメラでの逆回転撮影は前例がなく、カメラ自体を調整し直し、クローズアップ用の新しいレンズも開発した。IMAXはもっとも解像度が高く、フィルムどころか映像フォーマットとして、今まで開発された中でもっとも没入感のある映像体験を作れるものだ。より多くの情報がネガに焼き付けられるから、観客はより映像に入り込むことができ、通常のカメラで撮影した映像体験とはスリルがまったく違うからね。

IMAXカメラのファインダーをのぞくクリストファー・ノーラン。

──最後に“逆行する時間”をどうやって撮影したか、ヒントをいただけますか。

いくつかの方法がある。1つはカメラを通常通り回して、逆再生。もう1つはカメラの回転を逆転させて、役者には普通に演技してもらう。そしてもう1つは、カメラの回転を逆転させたうえで、役者も逆行の演技をする。シーンごとに強調したい部分が違うため、これらを使い分けて撮影しているんだ。

クリストファー・ノーラン
1970年7月30日生まれ、イギリス出身の映画監督。1998年に「フォロウィング」でデビューして以降、「メメント」「インソムニア」「プレステージ」など話題作を立て続けに発表した。クリスチャン・ベールがバットマンを演じた「ダークナイト」トリロジーは世界的な大ヒットを記録。監督作「インセプション」は第83回アカデミー賞で撮影賞など4部門、「インターステラー」は第87回アカデミー賞で視覚効果賞、「ダンケルク」は第90回アカデミー賞で編集賞など3部門を受賞している。