もちぎが語る「性の劇薬」|すけべがすごいだけじゃない、BL好きのゲイ作家が見た快楽のその先 描き下ろしマンガも!

もちぎインタビュー すけべがすごいだけじゃない「性の劇薬」の魅力

BL映画デビュー

──映画は、水田ゆきさんによる同名マンガを原作にしています。作品自体はご存知でしたか?

映画のポスタービジュアルには、水田ゆき描き下ろしのイラストがあしらわれた。

あたいが基本的に老け専ゲイなことがあって見逃していましたね(笑)。

──今回お引き受けいただけた理由を教えてください。

以前からBLコミックの実写化に興味がありました。「性の劇薬」はテーマや役者さんの雰囲気に特に強く惹かれ、この機会だしBL映画デビューしようかという気になったんです。

──著書では、お姉さまの影響でBLを読み始めたと書かれてますよね。

出会いは、姉が家に置いていった少量のBLです。それは少年マンガのキャラクターの2次創作商業アンソロジーでした。その前から自分にはゲイの自覚があったので、ラッキーと思って読んでました。

──なぜBLにハマっていったんでしょうか。

もちぎ

当時は周りにゲイ業界に慣れ親しむゲイがいなかったですし、ゲイビデオなども買ったりできなかったんです。だからBLは自分の中でマンガで済ませられる仮想現実のようなものでした。

──ゲイの人はあまりBLを読まれないということも聞きます。

例えばゲイ風俗のようなゲイ業界には、BLの簡略化されたすけべシーンや、ファンタジー的な恋愛要素を好き好んで読む人は少なくて。でもまあ、それも一理あるのかなと思ったりしました。

──なるほど。

それもあってか、自分としては細部がしっかり凝られて現実感のある作品が好みです。あとは老け専ゲイなので年配モノが好き(笑)。

──映画「性の劇薬」の率直な感想は?

「性の劇薬」

映像作品として、芸術的な面も、またエンタテインメントとしても面白い。作中の人間の不幸な境遇を考えれば、そう思うのは不謹慎かもしれませんが、とにかくいい作品だと感じました。

──どんな方にお薦めですか?

あたいのような細部へのこだわりを感じたいBL好きならば、なおさらお薦めできます。ちょっとした生活感というか、人間らしさをキャラクターから感じるので。わりとファンタジーが許せないゲイでも目をつむれる程度の必要性があるファンタジーというか。設定にも余すところがないので、BL好きやゲイにかかわらず、映画好きや話題のものが好きな人でも観やすいと思います。

すけべパワーの強さ

──ルポマンガの中では「すけべがすごいだけじゃ無い」と書かれています。まずは、もちぎさんが注目した本作の「すけべがすごいところ」を教えてください。

音や構図によって直接的に行為を映すポルノ作品に引けを取らない、ある種さらに淫靡さを増すような“すけべパワー”を感じました。

「性の劇薬」

──すけべパワーをもう少し具体的に言うと……?

ゲイビデオとかだと、すけべにストーリーや葛藤が少なく、画面の変化も体位とカメラ位置を変えるだけのものが多いんです。「性の劇薬」は音による緩急や、濡れ具合や射精間近の様子でわかる興奮度の変化、あえて映さないことで強調する隠匿された異常なすけべシチュエーション、観客の想像力をたくましくさせる術に長けてて強いなって思いました。映画にパワーがあります。すけべシーン全般にこだわりを強く感じました。

──観る側も本当に刺激されますよね。では逆に「すけべ以外のすごいところ」はどうでしょうか。

北代高士演じる余田龍二。

人物にしっかりとした含みやバックグラウンドがあり、それが徐々に明らかになっていくからこそ、ポルノ的なキャラクターから実体のある生き物に変わる。つまりこの映画のテーマである「性から生」への移ろいを感じました。

──命を捨てようとした男に監禁や調教を通して「生」を植え付けていく部分ですね。

それを感じさせてくれたのは脚本や演出だけでなく、俳優さんの実力もだなあと思います。(渡邊将演じる)桂木は、ゲイよりも男の沼にハマった目を見せてくれてました。ただのすけべ映画ではない、と知らしめてくれるポイントです。

渡邊将演じる桂木誠が見せた“男の沼にハマった目”。

──まさに、すけべがすごいだけじゃない“劇薬”でした。

ゲイビデオのタイトルは、モデルさんやシチュエーションを前面に押し出して、すけべなネーミングに仕上げることが多いんです。でも「性の劇薬」は、少し違ってほのめかすようなタイトルで好きです。終わったあとに、このタイトルしかないなと思えるような作品でした。少しでも興味があるなら観て損はないと思います。映像作品としてのクオリティも高いですし、このテーマからここまで王道に話を仕上げるのかという驚き。あたいとしては鑑賞後に語れる作品だと思います。

──ありがとうございます! 最後に、個人的にもちぎさんの自画像についてお聞きしたく。3つこぶのイラストは、どのように生まれたんでしょうか……?

特にこだわりはないです……。もちぎが描いたルポだとわかりやすくするためにやりました(笑)。

──あっ、そうだったんですね。

自分的にもTwitterでたくさん活動する以上、「あ、このキャラクター見たことある」とわかりやすく感じてもらうためにこのデザインにしています。この頭3つは戦略的デザインです。決して人より煩悩が多いからとか、そういったわけではありません(笑)。

もちぎ