バッドランドに着陸した瞬間から死にゲーすぎる(アナイス)
──「プレデター:バッドランド」では、デクが環境に順応しながら自分の戦い方を見つけていく、サバイバル的な面白さもありました。このバッドランドという舞台設定の魅力について、もう少し聞かせてください。
アナイス まず、バッドランドのクリーチャーたち、殺意が高すぎませんか?(笑) 序盤でヤウージャの星における弱肉強食が描かれますけど、バッドランドに移ってからはそれがさらにスケールアップして、惑星全体が捕食関係で動いている。そういう映し方が面白かったし、あの生命体たちの生態系にも興味が湧きました。「いったいどうなってるの?」って(笑)。クリーチャーデザインや動きがとても魅力的で、もっと掘り下げてほしいと思うほどでした。
高橋 “爆発する草”には思わず爆笑してしまいました。攻撃的な生物ばかりの星とはいえ、まさか草が爆発するとは思いませんでした。しかし、言ってみればバカバカしいそんな設定も、物語の中でちゃんと機能していたのがよかったです。設定だけにとどまらずにしっかり回収している。
村山 バッドランドの食物連鎖って、どうなってるんでしょうね。
高橋 植物も動物も危険すぎる(笑)。
村山 「ライオン・キング」みたいに食物連鎖を超越して仲良くなるわけじゃない。「プレデター:バッドランド」では問答無用で凶暴な生き物たちが食い合っている。でも、そういう厳しさが逆に安心感を生むというか、「ここはずっと戦いながら生きていく世界なんだな」と納得できました。
アナイス バッドランドに着陸した瞬間からハードモードでしたしね(笑)。「ゲームのステージ1にしては死にゲーすぎる」って思いました。タイトルの出方もゲームっぽいし、ラスボスが何度も蘇生して弱点を突かないと倒せない感じとか、全体的にゲーム的なテンションがありました。でもデクって、もともといた星でもずっとハードモードで生きていた子じゃないですか。だから、実はバッドランドでもあまり状況は変わってないのかも。そう考えると、彼がそこで成長していくのを観て「よかったね」って素直に思えるんですよね。
──デクとティアのコンビも、バディものが好きな人にはたまらないバランスだと思います。この2人についてはどう観ましたか?
アナイス 人間とロボットという対比が定番ですけど、今回はプレデターとアンドロイドという存在同士。その関係性を描くうえで、“どちらに体温があるのか”がどんどんあいまいになっていくのが面白かったです。プレデターは未知の生命体なのに、この映画を通してどこか私たち人間側の存在として見えてくる。一方でティアは陽気でおしゃべりで人間っぽいけど、実はどこか冷めていて計算高い。そんな2人が互いに欠けた感情を補い合っていて、まさに理想的なバディでした。そういえば序盤で、ティアがヴァルチャー(獲物)をめった刺しにするシーンがありますが、あそこで「あ、戦闘力はめっちゃ高いんだな」と思いました(笑)。
村山 アクションスターとしてのエル・ファニングを見られる日が来るとは思わなかった。生きてるといいことあるもんですね(笑)。彼女は演技もうまいけど、作品の中での役割をきっちり果たすタイプ。おしゃべりなアンドロイドって、ディズニーアニメでエディ・マーフィが声を当ててそうなキャラじゃないですか(笑)。それをエル・ファニングがやって、ちゃんと観客に好感を抱かせる。強いですよね。デクのビジュアルデザインも親しみやすかった。
アナイス 顔、かわいかったですよね。
村山 そうそう(笑)。あと「やっぱりプレデターは瞬きしないのかな」と思っていたら、後半けっこうしてた。まぶたなんてないと思っていたけど、だんだん感情豊かな表情になっていくのがよかった。
ついにプレデターをヒーローとして描いた(高橋)
──予備知識が十分でなくても、バトルアクションとしてもドラマとしても満足度の高い作品でした。初めて「プレデター」シリーズに触れる人にとっては、どんな作品になると思いますか?
村山 初めて観る人でもまったく問題ないですよね。むしろ、これで「プレデター」シリーズって面白いんだ!と思ってシリーズをさかのぼると、「あれ、なんか雰囲気違うな?」ってなるかもしれません(笑)。
高橋 普通は人間が主人公で、プレデターは敵ですからね。その前提が今回はひっくり返されているわけで。
アナイス むしろ詳しくない人のほうが、すんなり楽しめるかもしれませんね。
村山 「ワイルド・スピード」シリーズぐらいの大転換ですよ(笑)。今後どうするんだろうって心配になるくらい。「プレデター:ザ・プレイ」の時点で「この手があるんだ!」と感じましたけど、今回はその“手”すら使わない。もはやホラーですらないですからね。
高橋 「プレデター:ザ・プレイ」「プレデター:最凶頂上決戦」と立て続けに手がけてきたダン・トラクテンバーグ監督が、ついに“プレデターを中心に据えて、ヒーローとして描く”という扉を開いてしまったと。人間の視点はもはや必要なくなってしまった(笑)。
村山 この続きを描くなら“プレデター界”そのものが描かれていくと思うんですが、今回は生活の細部までは踏み込まなかったですよね。岩場みたいなところに住んでるけど、ベッドどうしてるの?とか(笑)。そういう生活描写まで掘っていけば、プレデターたちの社会像がもっと見えてくるはず。次はそのあたりも観てみたいです。
アナイス 序盤でお兄ちゃんがデクに「直しておいたぞ」と武器を手渡すシーンがあるんですけど、あれも印象的でした。これまでの「プレデター」作品で彼らが壊れたものを“修理する”シーンがあまりなかった気がして、新鮮でした。そこに彼らの生活も垣間見えました。
高橋 部族的な戦闘民族ではあるけれど、高度なテクノロジーもある、というのは「スター・トレック」のクリンゴン星人や「ジョン・カーター」の火星人とか、フィクションではわりと定番だったりもします。プレデターの文明感もそういう系譜の上にあるんだと思います。
村山 今回の映画でそういう生活のディテールにも目が向くようになったけど、過去シリーズではあまり描かれなかった部分ですよね。この作品をきっかけに過去作を観たら、むしろ驚くと思います。その体験ができるのはちょっとうらやましいです。
プレデターは思ったよりいいやつ(村山)
──皆さんの好きな「プレデター」作品も教えていただきたいです!
村山 冒頭でも少し話しましたが、自分の場合、「エイリアンVSプレデター」が決定打でしたね。それまでも「プレデター2」などで「ただのモンスターじゃないんだな」とは感じていたんですけど、「エイリアンVSプレデター」を観たときに「プレデターって好きになれる存在なんだ」と気付いた。あれで完全に印象が変わりました。
アナイス 最初に観たのはシュワちゃん(アーノルド・シュワルツェネッガー)主演の「プレデター」です。何度観ても完成度が高くて、大人になってからも面白い映画だなと思います。「エイリアンVSプレデター」も「エイリアン」と「プレデター」両方を知っていたから、純粋にお祭り映画として楽しめましたし、大好きな作品です!
高橋 僕はリアルタイム世代なわけですが、思い入れが深いのは「プレデター2」だったりします。ラストで、プレデターの宇宙船内部にハンティング・トロフィーとしてエイリアンの頭骨が飾られていたのにも驚きましたが、今回は「インディペンデンス・デイ」の宇宙人の頭蓋骨のようなものが映っていました。ということは、「エイリアンVSプレデター」ならぬ「プレデターVSインディペンデンス・デイ(の宇宙人)」が実現するかも?
村山 「プレデター2」って、バイオレントな刑事ものっぽさもありますよね。犯罪組織VS警察の部分もめちゃくちゃ面白い。でも当時は、1作目のジャングルから都会に舞台が変わって戸惑った人も多かったんじゃないかな。
高橋 「2」の舞台のロサンゼルスは“コンクリートのジャングル”ってことなんでしょうね。で、バットマンやスパイダーマンのように、大都会のビルの屋上にプレデターがすっくと立って、背景の暗雲を稲妻が切り裂く。コミック・ヒーローとしてのプレデター像をはっきり映画で打ち出した瞬間だったと思います。
アナイス 1作目にはそんなヒーロー的な要素は全然なかったですもんね。
高橋 1作目はもう、シュワルツェネッガーとのタイマン勝負の映画ですからね。プレデターも透明になって、ほとんど映らない。最後の最後にやっと素顔を見せるくらい。
村山 そうそう。で、高笑いするんですよね。あれで「宇宙人が笑うんだ!?」ってすごい衝撃でした。今回の「バッドランド」でも、デクのお父さんがよく笑うじゃないですか。遺伝子を感じました。ああ、やっぱり伝統ある種族なんだなって(笑)。
──改めて伺いますが、プレデターの魅力はどんなところにあると思われますか?
村山 やっぱり「思ったよりいいやつ」なんですよね(笑)。最初は気持ち悪いモンスターだと思うかもしれないけど、実際はちょっと違う。彼らなりの誇りとか、筋が通っている感じがあるんです。
高橋 確かに“誇り高き戦士”というのが一番しっくり来るように思います。個体によってそれほど誇り高くないやつもいたような気もするけれど(笑)。今回のデクは使用する武器が刀メインだったので、いつものハイテク武器使いのプレデターよりも、さらにサムライっぽさが強調されていたようにも思います。
村山 あと、これは魅力というより驚きなんですけど……このシリーズってずっと“後付け”で世界が広がってきたじゃないですか。そのたびに「え、そうだったの!?」って発見が更新されていく面白さもある。今回は「意外と兄弟思いなの!?」という新たな驚きがありました(笑)。
アナイス わかります。あ、私、プレデターのこと全然わかってなかったんだなって思いました(笑)。
村山 今回の我々は、まるで突然“ほんやくコンニャク”を手に入れたみたいな感覚ですよね。今までプレデターの中にがんばって人間っぽさを見出していたのに、思っていた以上にわかり合えそうだったというか。
アナイス そういうところが「プレデター」シリーズの面白さですよね。アクションにも哲学があるというか。どう倒すかじゃなくて、どう戦うかに誇りがある。だから観客も、彼らを単なるモンスターとしてじゃなく、リスペクトの対象として見ることができるんだと思います。
村山 改めて考えると、最初に高橋さんが言っていた通り、もし今回も人間が出ていたら、たぶん全然違う映画になっていたでしょうね。
アナイス そうですよね。
高橋 「人間ドラマ」ではない「プレデターのドラマ」なのが新鮮でよかったです。


