PFF特集 沖田修一×内山拓也|見出すのは希望か諦念か、映画界の登竜門をかつての審査員と挑戦者が振り返る

基本はやっぱりオリジナルがやりたい(沖田)

内山 1つ沖田さんに聞きたかったことがあって。沖田さんってわりとオリジナルと原作ものを交互に撮られていると思うんですけど、あれって意識されていますか?

沖田 うん。どっちも楽しいからどっちもやりたくなるんだけど、頻度としては原作もののほうが話が多い。でもオリジナルもやっぱやりたい欲は絶対あって、隙あらばやるという(笑)。

内山 僕はどういう形で自分の人生歩んでいけばいいんだろうってずっと考えてるんですけど、お話をいただいたうえで膨らませていく映画と、オリジナルでやりたいものとどっちもあるじゃないですか。もちろん昔は選ぶ機会すらなかったんですけど、今は原作ものの話が来る機会が増えたんですね。

沖田 めっちゃあるんじゃない?

内山 めっちゃあるかはわからないですけど、ちょっとはあります(笑)。それをどういう案配でやっていったらいいのか。例えば、2021年にオリジナルじゃない話をいただけたとするじゃないですか。そうすると、開発とかスパンを考えたら公開されるのってもう今年ではないじゃないですか。

沖田 1回やるって言うと長い付き合いになっちゃうからね。

左から内山拓也、沖田修一。

内山 今、その原作ものをどうやろうか悩んでいて、原作を解体して脚本にして撮影してって考えると、たぶん最短でも2022年にしか僕の映画は公開されないなって思って。

沖田 脚本は自分で?

内山 書きます。

沖田 そういう人は(時間が)掛かるんですよ(笑)。

内山 (沖田さんも)書きますよね?

沖田 書きますね!(笑) 俺は2009年に「南極料理人」が公開されて、そのあと、けっこう仕事の話が来たんだよね。だけど何をやっていいかわからなくて、「キツツキと雨」まで3年か4年くらい、何もやらないまま脚本だけ書いてたんです。

内山 へえー。

沖田 原作ものの話もあったんだけどピンと来なかったから「すいません」みたいなこと言って断ってたら「何様だ!」みたいな感じになりましたけど(笑)。でも、基本はやっぱりオリジナルがやりたいじゃないですか。

内山 はい。

沖田 でもやっていくうちに、魅力的な原作の企画も来るわけですよ。そうしたときって本当にどうしたらいいんだろうね?(笑)

内山 気持ちとしては1年に1本、世に出したいんです。僕も基本的には自分で脚本を書きたい人なんですけど、1年に1本出したい人間からすると限界があるのかなとも思うんです。

沖田 誰かと一緒に書いたら? 先に「こういうことがやりたいんだけど」って伝えておいて。「横道世之介」は3稿目くらいまで違う人が書いて、それを受け取ってガーっと自分で書き出していくっていうスタイルだった。

内山 ああー。

沖田 でもそのときの脚本家は昔から知ってる人間で、プロみたいな感覚でやる仕事じゃなかったからできたのかもしれないです。

内山 まだ初稿の段階ですが、昨年、信頼する脚本家と1つの題材に向かい書き上げる経験をしました。まだそのようなパートナーとして書いていくという経験値が少なくて、これからその形も模索して自分なりの幅として確立していきたいとは思っています。

悩むより身を任せていくほうが気持ちいいかもしれない(沖田)

──とはいえ「佐々木、イン、マイマイン」は共同脚本ですよね。

内山 そうですね。でも「佐々木」の場合はちょっと特殊すぎたので……。

沖田 もう1人は誰?

内山 佐々木役の細川岳です。

沖田 ああ、そっか! 演じてる本人が脚本を書いてると現場で食い違ったりしない?

内山 食い違うってことはなかったですね。最終的な決定権はすべて僕にありました。でも彼と書くのは楽しかったです。あと、原作ものっていろんな種類があるじゃないですか。小説、マンガ、ノンフィクション。形のないようなものを原作と呼ぶときもあるし。なんかコツみたいなものありますか?

沖田修一(奥)

沖田 俺はプロデューサーの佐々木史朗さんからよく「原作ものも結局は自分の色が出て自分の映画になるんです、あんまりこだわんないでやったほうがいいですよ」って言われて、ああそうだなって思ってやってたんだよね。どんなに原作通りにやろうとしても、たぶん癖が出て自分の映画になっちゃう。だから悩むより身を任せていくほうが気持ちいいかもしれない。

内山 なるほど。僕はいつも「これ2時間にどうやって収めるの?」って苦しむんです。

沖田 映画は2時間だけど、原作は本ごとに太さが全然違うっていう難しさはあるよね。「横道世之介」もすっごい太い本だった。1年の話だって書いてあって、映画は120分だから1カ月に10分しかない(笑)。

──結果、2時間よりずっと長い映画になりましたね(笑)。

沖田 あれは2時間半になるってプロデューサーが腹くくってたんです。でも結局2時間40分になりましたね。

誰かにやられたくないものは
自分がやったほうがいい(内山)

内山 僕、そもそも脚本が長くなってしまうことも多くて。

沖田 脚本は何回も書き直す?

内山拓也(奥)

内山 何回も何回も書き直します! 書き直さないですか?

沖田 書き直します!(笑)

内山 「佐々木」でいうと、スタッフに渡したのはたぶん20か30稿なんですけど、パソコンの「佐々木」のフォルダには実は130稿くらいある。

沖田 それじゃあもう1年に1本は無理だよ!(笑)

内山 でも絶対やりたいって思ったものはもちろんですけど、誰かにやられたくないものは自分がやったほうがいい、という線引きはあります。

沖田 内山さんは、芯はもうあると思うんですよね。反骨精神だったり、これが面白いんだっていう核がある。それが僕の場合は、長く撮っていくうちに軸が変わっていくことに付いて行けなくなったりしていて。でも「佐々木、イン、マイマイン」を観ると、本当に引き戻されるというか、「そうそうそう」って教えてもらうような気持ちになった。

PFFある限りは希望を抱いています(沖田)

──教えてもらうっていうのは、映画作りの初心みたいなものをですか?

沖田 なんだろう。僕自身もよくわからなかったんですけど。でも「なんかこういう気持ちで映画作ってたいんだよなあ」って観ながら思いました。

内山 すごくうれしいです。

沖田 でも、それがなかなかできないんだろうなと先輩としては思うんだけど、内山さんには核があるからきっと大丈夫だろうなって思いました。

──最後になりますが、今後のPFFに期待することなどあれば。

内山 U-18割(18歳以下の監督を対象とする応募料金の割引)はすごくいいですよね。映画って作ることもそうですけど、映画自体が夢みたいなもので。特にPFFアワードってその権化みたいなところがある。映画祭もいろんな状況があって変化していくじゃないですか。でもPFFだけはずっと今のままでいてくれってすごく思っていて。でないといつか僕たちは観る場所やお見せできる場所をなくしちゃうって思うので。でも一方では、あきらめさせる場所でもいてほしいというか。M-1(グランプリ)みたいなことなんですけど、そんな機能も残酷に持っていると思います。

──夢を追う人を実力で淘汰していくシステムでもあると。

内山 僕自身もずっとそうだと思いますが、映画をずっと追い続けるということはとても険しい道のりです。目標であり、自覚する場所でもあるといいますか。

沖田 僕は、映画を作りたい人がいて、ちゃんと作品を作ってPFFに応募してくることが続いている、それって「映画はこれからもまだまだできる」ってことなんだと思ってるんです。今はYouTubeとか、いくらでも人様に見せる機会がある中で、PFFはちゃんと作品を作っていこうという人たちの場ですよね。内山さんも言ってましたけど、映画に夢を持って応募してくる人がいる以上、まだ映画はあるなって思える。僕もPFFある限りは希望を抱いています。まだ大丈夫だなって思いますね。

※記事初出時、本文の人名に誤りがありました。お詫びして訂正します。


2021年2月25日更新