スタッフインタビュー
堤幸彦(監督)
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紀伊宗之(宣伝戦略担当)
──「渋谷 ドリカム シアター」の企画を聞いたときはどう感じられましたか?
堤幸彦 もちろんびっくりしました。テントで映画を観るというのは、昔はそこそこあったんですが、この時代にそんな企画が来るのか、と。しかも配信全盛期で、テレビの視聴率の形とか映画の興行という概念すらも大きく変化している中で、ゲリラ的なアプローチというか攻撃的な意思というか、のろしというか……正直大好きですね(笑)。みんなと同じことをやったって面白くもないですし、みんなと同じことをやりたくないからこの映画を作っているのであって、このようなアバンギャルドな形でアウトプットしていただけるっていうのは光栄だなと思います。
──テント上映への思いはありますか?
堤 「ツィゴイネルワイゼン」と「どついたるねん」が最初のテント上映ですよね。で、話題になって広がっていくという……。まさに現代で言えば「侍タイムスリッパー」のような形だと思うんですけれども、単館あるいはテントという不思議な形も含め、非常に強いインパクトを持っている作品を単独で上映して、それを観たいという人たちがわちゃわちゃ集まってきて全国的な話題になっていく、というのはこれまで何度か経験をしていることなんですが、素晴らしいですよね。
──映画「Page30」を観て、紀伊さんが「渋谷 ドリカム シアター」という企画を立ち上げた経緯を教えてください。
紀伊宗之 「Page30」にはヨーロッパやヌーヴェルヴァーグの匂いがするような気がしました。僕らの時代はそういうものがかっこよかったんですよね。僕は1970年生まれなので、気になる人を口説くのに「シネコンに行くやつはダサい」と思っていたし、東京で言うとシネマライズに行くとか、ル・シネマに行くとか、そうやって「映画を観に行こうよ」っていうのがかっこよかった時代を生きてきたんです。じゃあどうやってこの作品を世に出すのか、と考えたときに、映画って先払いなんですよね。同じタイミングでやっている50本ぐらいの映画の中から、全作品のあらすじを見て「これにしよう!」って決める。そんな状況だとなかなかこの作品を観てもらうチャンスも来ないんじゃないかというのがありました。
──なるほど。
紀伊 映画の興行は絶対論ではなくて相対論でもあるから、(作品の)出し方を考えなきゃいけない。でも、映画の配給会社は横並びで「いつ情報解禁しますか」という出し方で考える。全部フォーマットが一緒ですし、やっぱり映画がどんどんシュリンクしていってしまう。形を変えてどういうふうに作品を観てもらうのか、どういうふうに作品を届けるのかということから考えないといけないなと思いました。「とにかく映画館をブッキングしたらええねん!」と考えるのって、どこか映画を粗末にしているのではないかと思いますし、映画は自由で魂がありますよね。シンプルで強いものをどういう形で見せるのが一番いいのかと考えた結果、「渋谷 ドリカム シアター」を作って上映するということを思い付きました。
堤 素晴らしい。素晴らしいですね。
──本作のテーマについて、堤さんは「この業界で生きてきてずっと気になっていた『売れることと売れないこと』や、映画・演劇・ドラマのジャンルや境遇でカテゴライズされる寂しさや強がり、むなしさ」とコメントされていますが、この4人にオファーされた理由を教えてください。
堤 林田麻里さんは本当に古くからの付き合いです。まさに小劇場における手練れで、劇団TRASHMASTERSにおける彼女の存在感は本当にすごい。ちゃんと1回映画でなんとか一緒にやりたいと思っていました。今まで映画で彼女をブッキングしても芯を食うところにはなかなか持っていけなかったんですが、この作品には彼女の持つリーダー格としての体質が必要でした。そして広山詞葉さんはプロデューサーとしても意欲的な方でしたね。彼女が出ている作品を何作も撮っているので、彼女のいい部分を僕自身は知っているつもりです。
──そうだったんですね。
堤 逆に、唐田えりかさんは今回初めてご一緒しました。女優としての“生き様”と役としての“生き様”がどこかでリンクしていて、とてもミステリアスな印象でした。例えば大昔で言えば加賀まりこさんとか、周囲がまったくコントロールできないんだろうなっていう人がいっぱいいたと思うんだけど、どこかそんなテイストを出してくれるのではないかと思いました。唐田さん自身はもちろんコントロールできる方ですが、やはりできあがってくるものは予想できない破裂の仕方をする人でした。さらにその上を行くのが、全然読めないMAAKIIIさん(笑)。でも彼女がいることによって、ほかの3人の緊張度が半端なくなったんです。みんなステージの外ではすごく仲良くされて、LINEグループも作っていたりするんだけど、“目線の刃”を感じる瞬間も多くありました。
──「ドリカムシアター」を訪れる方々にどんなことを感じてほしいですか? また、今後どういう場所になってほしいと思っていますか?
堤 いろいろな人に来てもらいたいですが、本来エンタテインメントは、ある種の参加性というか、参加する責任感みたいなものを強制するものだと思います。芝居を観に行ったらそれなりの心のお土産をもらわないと「う~ん」ってなるわけで、そのために映画や舞台が作られる。そのもっとも原初的な形がある場所なので、僕はとてもいいことだと思います。また、一歩進んだところで、こんなヘンテコなことしてる人たちがいるんだなっていうのも監督としては強く打ち出したいところ。そういう思いが伝わる場所ですね。
──理想的なシアター像はありますか?
堤 シモキタ - エキマエ - シネマ「K2」や池袋シネマ・ロサ、シネマ・ジャック&ベティなどは、来た人たちが連帯感を持ったり共鳴していることがよくわかる映画館ですよね。さらに「ドリカムシアター」にはおまけとして演劇があったり、詩の朗読があったり、食事ができたりお酒を飲めたり。渋谷だから駅からすぐ歩いて行けますし、そういうフリースペースみたいなものがちゃんとあるのが時代を超えたエンタメのあるべき形だなと思いますし、絶対にテレビや配信や映画館では味わえないものになるんじゃないかと思います。
紀伊 今は子供が遊ぶ場所を大人が作っているんですよね。僕や堤監督が若い頃って、若者が遊び場を作って、そこに大人が遊びに来るという、若者がトレンドを作っていく時代でした。でも今は大人がトレンドの入り口を作ったりしている。すごく不健全だなと思っているんです。僕は昔、広島にいたんですけど、広島大学のキャンパスがなくなった途端に広島の街が面白くなくなっていった。だから渋谷の若者たちが「こういうのが面白いんだよ」「おっさんにはわからないだろ」っていうような、そんな熱さが出る場所になるといいなと思っています。
プロフィール
堤幸彦(ツツミユキヒコ)
1955年11月3日生まれ、愛知県出身。1995年放送のドラマ「金田一少年の事件簿」で注目を集め、「ケイゾク」「池袋ウエストゲートパーク」や「TRICK」シリーズ、「SPEC」シリーズ、映画「20世紀少年」3部作といった話題作の監督・演出を手がけた。近年の作品に「ファーストラヴ」「truth ~姦しき弔いの果て~」「夏目アラタの結婚」「私にふさわしいホテル」「STEP OUT にーにーのニライカナイ」など。ユキヒコツツミとして手がけた「THE KILLER GOLDFISH」の公開を5月2日に控える。
紀伊宗之(キイムネユキ)
1970年1月8日生まれ、兵庫県出身。東映映画興行入社後、劇場勤務を経て株式会社ティ・ジョイへ出向し、シネコンチェーンの立ち上げに従事。国内初のライブビューイングビジネスを立ち上げ、「ゲキシネ」の事業化に関わる。その後東映に異動し、プロデューサーとして「リップヴァンウィンクルの花嫁」「孤狼の血」「犬鳴村」「初恋」「シン・エヴァンゲリオン劇場版」「キリエのうた」「リボルバー・リリー」「シン・仮面ライダー」などを手がけた。2023年4月に東映を退職。同年にK2 Picturesを創業した。