映画ナタリー PowerPush - ナタリー×Netflix
“観たい人だけ観ればいい”Netflixに松尾スズキが感じる可能性
世界最大級のオンラインストリーミングサービス「Netflix」が2015年9月、ついに日本でのサービスを開始した。ラナ&アンディ・ウォシャウスキー姉弟が監督を務める「Sense8」などのオリジナル作品に加えて、映画やドラマ、ドキュメンタリーなど数多のコンテンツがそろっている。「テラスハウス」新シリーズや、2016年に映像化を予定しているピース・又吉原作の「火花」など、世界に発信される日本独自のコンテンツにも注目だ。
日本でのサービス開始を記念して、映画ナタリーとお笑いナタリー、コミックナタリーでそれぞれNetflixの特集を展開する。第2弾となる映画ナタリーでは、大人計画の主宰であり、作家、演出家、俳優、映画監督などさまざまな顔を持つ松尾スズキが登場。「デアデビル」「ベター・コール・ソウル」といったNetflixオリジナルドラマの感想や、作り手として感じることなどを語ってもらった。
取材・文 / 黛木綿子 撮影 / 笹森健一
「火花」がNetflixで映像化されるって聞いて驚いた
──松尾さんはもともと、映像配信サービスになじみはありましたか?
いくつか利用したことはありますね。映画とかドラマとか、あとはまあ、AVを……(笑)。
──お笑いナタリーのほうに出ていただいた水道橋博士もまったく同じことをおっしゃってました(笑)。そんな中で、Netflixが日本に上陸することはご存知でしたか?
知らなかったです。でも又吉くん(ピース)の「火花」がNetflixで映像化されるって聞いて、「どういうこと?」と思って調べてみたんですよね。「映画でしょ」って思ってたから驚いて。そっちのほうが儲かるのかな?とか(笑)。でも今は映画やテレビよりも、動画配信のほうがやりたいことができるんだろうなとは思いました。視聴率とかと関係なく、観たい人が観られればいいっていうことで言うと。
──実際に利用されてみていかがでしたか? 主に何でご覧になったんでしょうか?
テレビです。うちのテレビは60型なんだけど、すっごくキレイに見える! 画質に関してはちょっと心配だったんだけど、意外ときれいに観られて、動画配信ってここまで来てるんだなと感心しました。
ギリギリのラインを狙ったアクションがリアル
デアデビル
──今日はNetflixのオリジナルドラマを観た感想をお伺いできればと思います。まずは「デアデビル」ですが、松尾さんは普段アメコミ系の作品はご覧になるんですか?
「バットマン」とか、ああいうダークヒーローものは好きですね。「キック・アス」とか。
──どちらも自警団ものというか、普通の人間が正義のためにがんばる話ですよね。「デアデビル」にも通ずるところがあります。
アメリカ人ってああいう話好きですよね。僕も、日本でダークヒーローものをやろうと思って、昔「hon・nin」っていう雑誌で「トラウマンボーイ」っていう小説を書いていた。あれはまだヒーローになる前に終わっちゃったんですけど、そのときに参考になるかなと思って「デアデビル」も観たんです。
──ベン・アフレック主演の劇場版ですね。じゃあもともと、どんな話かは知っていたと。
うん。でも相当前に観たから、主人公の目が見えないってことも忘れてた(笑)。
──一番基本的な設定を(笑)。では新鮮な気持ちでご覧になってみていかがでしたか?
最初のシーンで日本のドラマにはまずないような、惨劇が起こるじゃないですか。子供の目に有害な薬品がかかってワーッてなって。あれは衝撃でした。そこからすぐ大人になった彼が出てきてっていう展開がわかりやすいし、引き込み方がうまいなと。まだ最初のほうしか観れてないんですけど、謎が複数同時進行していて脚本の練り込みがすごい。映像のきれいさ、照明の作り込みにも「凝ってるなあ」と感心して見入っちゃいました。
──確かに、昼は弁護士で夜に戦うヒーローなので、格闘シーンは光の使い方が印象的です。
世界観の作り込みもすごく映画っぽいから、1人のヒーローが素手で殴り込んでいって敵をひたすら倒していく話でも、わりとずっと観ていられる。主人公も最初は普段着で戦ってるし。あれは、どこかでカッチリとしたヒーローのスーツになるわけでしょ?
──シーズン1の終盤でスーツに身を包むまでは、今日の松尾さんのようなニット帽をかぶって戦います。でも格好は地味ですが、アクションシーンは地上波のドラマと比べるとかなりハードですよね。
あんまり華麗なアクションだとダンスを見てるみたいで怖くないんだけど、そうは見えないギリギリのラインを狙ってやってるなって。僕も映画を撮っているときに感じるけど、アクションシーンってリアルに見せるのが難しいんですよ。本当に殴るわけにはいかないから。
──役者さん自身の目は見えているとしても、目を隠した状態でのアクションはかなりハードルが高そうです。
「座頭市」も聴覚とか雰囲気とかで敵の動きを察知するわけですよね。僕はそういう欠落したヒーローものが好きなんですよ。隻眼隻腕の「丹下左膳」とか。だからもっと先まで観たら、主人公のトラウマみたいなものが見えてくるんだろうなっていう楽しみもあります。
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松尾スズキ(マツオスズキ)
1962年12月15日生まれ。福岡県出身。1988年に大人計画を旗揚げし、1997年「ファンキー!~宇宙は見える所までしかない~」で第41回岸田國士戯曲賞を受賞。2004年に「恋の門」で長編監督デビュー後、2008年には「東京タワー オカンとボクと、時々、オトン」で日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。NHK連続テレビ小説「あまちゃん」ほか俳優としての出演作も多く、小説「クワイエットルームにようこそ」「老人賭博」で芥川賞にノミネートされるなど作家としても活躍している。監督作「ジヌよさらば~かむろば村へ~」のBlu-ray / DVDが発売中。10月28日にNHK BSプレミアムで放送されるドラマ「ガッタン ガッタン それでもゴー」に出演。
2015年10月9日更新