椋雄と容莉枝さんの8年間は確かなもの
──ここからはネタバレを気にせずお話しください! 先ほど椋雄から寂しさや切なさを感じたとおっしゃっていましたが、そういった感情はどこから来ているのでしょう。
椋雄は8年前に亡くなった(津村)容莉枝さんの一人息子。その正体であるホノカゲは、人の姿を写して放浪していく妖なんですよね。やっとその土地になじめても、去らなければならないときが来る。去れば、そこにいた人たちは自分のことを忘れてしまう。きっとホノカゲは自分のことを覚えてくれている存在、必要としてくれる存在にずっと出会えなかったんでしょうね。映画の中でも言ってましたが、だからこそ“母”であった容莉枝さんとの8年間は確かなもので大切な日々だったんだろうなと。
──本作のポスターには「優しく、哀しい、嘘をついた」というキャッチコピーが添えられています。妖祓いの名取周一に「容莉枝を欺いている」と指摘される場面がありますが、椋雄はこの8年間で彼女のもとを去ろうと思ったことはなかったんですかね。
1歩踏み出したり、そこを去ったり、自分が何かしないと状況が変わらないことってあると思います。だからきっと彼も(容莉枝のもとを去ることを)考えなくもなかったと思う。いつでも去ることができたわけだし。でもそうしなかったのは、そばにいたいと思える人に出会えたっていうことだったんでしょうね。
──高良さんも同じような切なさを抱いた経験はありますか?
いつもですよ。僕も1つの現場を終えてみんなと家族のようになれたなと思っても、またすぐにバイバイって。その繰り返しです、俳優は。どんなに素敵な現場を踏んでも毎回さよならをしていくので。本当に熱い日々を過ごしていたはずなのに、次の現場を重ねていくと、だんだんその記憶も薄れていっちゃう。だけどあのとき1つの作品に向かってみんなでがんばったことは消えないし、作品としても残っていて。なんというか、そういう切なさはあります。
──確かに役者の皆さんは出会いと別れの繰り返しですね。
椋雄と容莉枝さんだって、記憶はなくなってしまっても一緒に過ごした時間は消えない。そんなところがいい話だなと思ったし、いい役をいただけたなと思いながら演じました。
呼吸がしやすい場所が自分の居場所
──容莉枝さんとの出会いは、椋雄にとって自分の居場所を見つけたということにつながっていきます。
僕も10代や20代前半の頃はそんなことばっかり考えていました。「自分の居場所はこんなところじゃない」とか「この仕事を選んだことは間違いだった」とか、あと「自分の住む街は東京じゃない!」って(笑)。
──今はどうですか?
今はどんな状況でも「ここが僕の居場所だ」と言えますし、そういうことをあまり考えなくなりました。若い頃は自分探しの旅とかしちゃうじゃないですか。今だったらもう、いやいやいや!って(笑)。だってここでしかないのに。だから自分がいるその場所にちゃんといることができたらいいなと、今は思えます。
──自然体でいられることが大切、ということでしょうか。
自分の居場所って?ということを考えていたときは、呼吸がしやすい場所がそれなんだとなんとなく思っていました。息がしやすい場所。だからきっと椋雄も、容莉枝さんと一緒にいた時間はすごく楽に呼吸できていたんじゃないかな。
──高良さんが劇中で印象に残ったのはどのシーンでしたか?
自分は出ていないのですが、夏目と結城(大輔)くんが滝に行くシーンは作品の肝となるところの1つだと思います。岩に流れる水の一筋一筋が人の出会いや別れであって、命でもあると。滝守の妖が「人間の世界は危うくてもろいものなんだ」と話すのを聞いて、じゃあ自分はどうすべきなんだろう?と考えさせられました。
──夏目と結城の関係性においても変化が生じた場面でしたね。
はい。どの作品も1回目と2回目では感じ方が変わりますよね。きっともう一度観たら、最初は気付かなかったものが見えてくる。だから「面白かったからまた観たい」と思ってくれた人は、自分の心を整理してから2回目を観ていただけたらと思います。
僕の原点は熊本
──「夏目友人帳」は熊本県人吉市を参考に描かれていますが、この劇場版をきっかけに現地を訪れるファンが増えるのではないでしょうか。高良さんは以前「熊本に興味を持ってもらうことが熊本の未来につながっていく」と話していましたが、熊本だったら絶対ここ!というオススメの場所を教えてもらえませんか?
熊本はやっぱり自然ですね。だから人吉も本当に素晴らしいところです。熊本って人間が手を付けてないところがちゃんと残っているんです。今だからこそ素晴らしいし、守らなきゃいけないと思います。人吉はもちろんいいところですけど、僕は(熊本)市内(出身)だったのでちょっと遠いんですよ。
──高良さんが熊本にいた頃に身近だった場所でオススメはありますか?
阿蘇とかいいですよね。阿蘇はめちゃくちゃいいところだと思います。大自然ですし、火山もありますし。地球を感じられるじゃないですか。阿蘇山のカルデラは世界最大級なんですよ。ものすごいパワーがあるんです。そういうのを感じていただけるところ。
──高良さんの郷土愛が伝わってきました。
地元びいきとかじゃなくて、本当に熊本はいいところなんですよねえ。学生時代はここから出ないだろうなと思っていたし、東京に出てきたらより熊本が好きになりました。僕は転校が多かったんですけど、熊本愛が強いし、今も強い。でも上京して12年になるので、1つの土地に一番長くいるのって僕にとっては今や東京なんです。だから東京も好き。でも僕の原点は熊本かな。特別です。
いつもの食い意地が災いし、“妖の木の実”を食べたせいでニャンコ先生が3体に分裂。ということは、かわいさも3倍に!? ……そんなことは言っていられず、“トリプルニャンコ先生”たちを抱えて必死に走り回る夏目だった。
夏目の秘密を知る友人・田沼要の活躍ぶりも見逃せない。これまで同様、夏目のために奔走する田沼。夏目が危険に立ち向かおうとするときは無理に止めず「無茶するなよ」と送り出す。一方、ニャンコ先生ラブな多軌透は思いもよらぬ目に……!
夏目組・犬の会のメンツも、あの手この手でニャンコ先生をもとに戻そうと奮闘する。祓い人・名取周一は鋭い一言で夏目をギクッとさせる場面も。夏目と名取の命懸けの連携プレイはお見事!
- 「劇場版 夏目友人帳 ~うつせみに結ぶ~」
- 2018年9月29日(土)全国公開
- ストーリー
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小さい頃から妖(あやかし)を目に映すことができた夏目貴志は、亡き祖母レイコから“友人帳”を継いで以来、自称用心棒・ニャンコ先生とともに妖たちに名を返すため忙しい毎日を送っていた。ある日、夏目は昔の同級生・結城大輔と偶然再会したことで妖にまつわる苦い記憶を思い出す。さらに名前を返した妖の記憶に出てきた女性・津村容莉枝と知り合い、彼女の一人息子・椋雄とも交流するように。しかし彼女たちの住む町には謎の妖が潜んでいるようだった。その調査の帰り、ニャンコ先生の体についてきた“妖の種”が、夏目が居候する藤原家の庭先で、一夜のうちに木となって実をつける。その実を食べたニャンコ先生の体にある異変が起きてしまう。
- スタッフ
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原作:緑川ゆき「夏目友人帳」(白泉社・月刊LaLaにて連載中)
総監督:大森貴弘
監督:伊藤秀樹
脚本:村井さだゆき
アニメーション制作:朱夏
主題歌:Uru「remember」
- キャスト
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夏目貴志:神谷浩史
ニャンコ先生 / 斑:井上和彦
夏目レイコ:小林沙苗
結城大輔:村瀬歩
田沼要:堀江一眞
多軌透:佐藤利奈
西村悟:木村良平
北本篤史:菅沼久義
笹田純:沢城みゆき
名取周一:石田彰
もんもんぼう:小峠英二(バイきんぐ)
六本腕:西村瑞樹(バイきんぐ)
津村容莉枝:島本須美
津村椋雄:高良健吾
©緑川ゆき・白泉社/夏目友人帳プロジェクト
- 高良健吾(コウラケンゴ)
- 1987年11月12日、熊本県出身。2005年にテレビドラマ「ごくせん」で俳優デビューし、翌年「ハリヨの夏」で映画デビューを飾る。以来多くの作品で活躍し、主な主演・出演作は「蛇にピアス」「ソラニン」「ケンタとジュンとカヨちゃんの国」「白夜行」「軽蔑」「横道世之介」「きみはいい子」「シン・ゴジラ」「月と雷」「万引き家族」など、ドラマでは連続テレビ小説「べっぴんさん」、大河ドラマ「花燃ゆ」、フジテレビの“月9”枠「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」など多数。行定勲が熊本出身の役者を集めて制作した「うつくしいひと」「うつくしいひと サバ?」「いっちょんすかん」にも参加している。10月13日公開作「止められるか、俺たちを」に俳優の吉澤健役で出演。主演を務める中島貞夫監督作「多十郎殉愛記」が2019年春公開となる。