いい人だけど残念…でもスゴい!?安田顕×李闘士男の対談&コラムで「私はいったい、何と闘っているのか」を紐解く

安田顕が主演、李闘士男が監督を担った映画「私はいったい、何と闘っているのか」が12月17日より全国公開されている。

つぶやきシローの同名小説をもとにした本作の主人公は、地元密着型スーパーマーケットの万年主任・伊澤春男。劇中では彼の愛する家族とのかけがえのない生活、店長昇格への闘いの果てに待っていた予想外な結末が描かれる。一見平凡だが、脳内では妄想が日々炸裂している春男を安田が演じた。

このたび映画ナタリーでは本作の魅力を解説するコラムに加え、安田と李のインタビューを掲載。「家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。」以来のタッグを組んだ2人は、春男という人間の面白さや、小池栄子らキャスト陣との日々を語る。そして明らかになった“3年越しの復讐”とは。

文 / 折田千鶴子(コラム)文・構成 / 田尻和花(インタビュー)

主人公の“ちっちゃさ”に思わず共感?
「なにたた」の魅力を解説

1. 安田顕演じる主人公の絶妙な“残念さ”に思わずクスッ

何と言っても最大の魅力は、安田顕扮する主人公、伊澤春男のダメで憎めない“いい人”キャラだろう。「いるいる、こういう人!」と誰もが笑いながらツッコミたくなる、絶妙な“残念さ”。仕事は出来るし上からも下からも頼られているのに、野心や上昇志向がなさそうで便利に使われちゃう万年係長的な人。でもその実、脳内では次期店長になりたくてジタバタ、自意識と懊悩の渦の中でドタバタ格闘している、そんな“ちっちゃさ”に噴き出してしまう。しかも良かれと思ってやることが、全部裏目に出てしまうトホホ人生(笑)。それでも表面は穏やかな笑みを湛えつつ、脳内は見栄や嫉妬で爆発しそうになっている“同時進行形の二面性”を、安田顕が見事に体現。完全な呆れまでギリギリ近づけつつコロリと笑いに転がし、愛すべき春男という人間に仕立てた。

「私はいったい、何と闘っているのか」より、安田顕演じる伊澤春男。

「私はいったい、何と闘っているのか」より、安田顕演じる伊澤春男。

2. スーパーを舞台に繰り広げられる人間関係、垣間見える裏側

町の庶民的なスーパー・ウメヤで繰り広げられる人間関係や業務内容、客に巻き込まれての“スーパーあるある”も、身近な存在だけに妙に楽しい。春男の本音や欲望を見透かしていそうな、ファーストサマーウイカ扮するクールな店員との微妙な会話や関係もたまらない。そして遂に店長に!?と期待がむくむく、顔がニヤけそうな春男を待ち受ける、スーパーの本社の昇進システム。庶民が集まる、特にお年寄りの客が多いスーパーだからこそ起きるトラブル、それに端を発するドラマなど、普段は知ることができないスーパーの裏側を覗き見られるのも興味津々!

左から安田顕演じる伊澤春男、ファーストサマーウイカ演じる高井さん。

左から安田顕演じる伊澤春男、ファーストサマーウイカ演じる高井さん。

3. 最高の父親じゃないか…深い家族愛にほっこり

何をやっても決まらず失敗する夫・父親に、文句を言いつつ明るく支える妻、けなしつつも大好き感をたっぷりに出す3人の子供たち。単純に理想的な仲良し家族に見えるが、実は過去にワケありというのが、本作の一筋縄ではいかないところ! さらにそこに長女の結婚話が浮上するという、父親としては最も動揺しかねない事態を絡めて、春男という人間の小ささと大きさ、愛の深さを見せつけるのが上手い! 終盤は予想外に、“春男、最高の父親じゃないか”と思わず感動させられる。それにしても、長女が連れて来たカレに対してライバル心剥き出しに色々仕掛けていく、春男のみみっちさが……これまた最高! 人間なんて所詮そんなもの。春男の小ささに内心、共感しながら、実はスゴイじゃんと尊敬の念を覚える人も多いハズだ。

「私はいったい、何と闘っているのか」

「私はいったい、何と闘っているのか」

安田顕×李闘士男 インタビュー

伊澤春男はスーパーマンか、どこにでもいる男か

「家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。」に続き、2度目のタッグを組んだ安田顕と李闘士男。李は脚本の段階で「チラチラと安田さんの顔が浮かんでいた」そう。

安田顕 この世界、「またお会いしましょう」って社交辞令みたいなところもあるんですが、みんな本当にそう思ってはいます。でもスケジュールやタイミングで実現しないことのほうが圧倒的に多いので、今回また僕を呼んでくれて本当にうれしかったですね。

李闘士男 当て書きではなかったですが、途中から僕の中で「(伊澤)春男は安田さんだよな」となっていって。これが安田さんの代表作になったらいいなという思いはありました。

安田 最初に脚本を読んだとき、監督に「この人はスーパーマンすぎる。こんなにいい人はいないんじゃないですか?」と投げさせてもらったんです。そうしたら監督から「安田さん、そうじゃない。春男みたいな人は世の中にたくさんいるはず」と。それって要するに、春男のように心の中では文句や不満はありながらも押し殺している人。確かにいっぱいいるかもしれないと思いましたし、そういった人の面白さもすごく感じました。演じる側としては、モノローグですべてを処理していくということは実はとても難しいことなんじゃないかとも思い、逆にチャレンジしてみたいと考えたんです。

「私はいったい、何と闘っているのか」

「私はいったい、何と闘っているのか」

 男って“ええ格好しい”のところがあるんですよ。それが正しいかはわからないけど、突っ張らないとあかんときが。女性からしたら「バカだなー」となるかもしれませんが、そういう意味でも春男みたいな男はたくさんいると思ったんです。

入念な現場リハーサルと、3年越しの復讐

春男と家族のシーンではテンポのいい会話劇が楽しめる。春男の娘・小梅が恋人を紹介するシークエンスでは、キャストの動線確認なども含め入念なリハーサルが行われた。

 難しかったですね。このセリフはここで言わないといけない、この場所まで行かないといけないと全部細かく決めていったので、あれだけの広さが絶対に必要だった。セリフの距離感や、立ち位置まできっちり立ち稽古をしたし、あそこはほんまに全部真面目にやりましたよ(笑)。コメディ監督の威信を懸けて撮りました! “泣き笑い”って映画でしかできないことだと僕は思っているんですよね。ことさらお客様を笑わそうとは思っていないんですよ。ただ春男というキャラを楽しみながら、だんだん共感が深くなっていけばいいなと。いかに登場人物に感情移入してもらえるようにするかが、監督の仕事だと思っています。

安田 一見ふざけて見えるけど、実はこれいろいろ考えている作品なんだよっていう。粋だなあ。僕が言うのもなんですが、あのシーンは本当にお見事でした。

 春男がブランデーを飲むシーンでは、安田さんに「これがないと始まらないんじゃないですか?」と自前のナポレオンを渡して。このあとにほかのお仕事がないことをちゃんと確認してですけどね(笑)。

「私はいったい、何と闘っているのか」

「私はいったい、何と闘っているのか」

安田 実は「家に帰ると妻が必ず死んだふりをしています。」の撮影最終日の居酒屋のシーンで、僕から「本当のお酒を飲んでいいですか?」と監督に聞いてOKをもらい、リアルに酔っぱらってしまったんです。あとから編集がつながらなくて大変だったみたいで……。だから今回は監督からの3年越しの復讐ですね(笑)。