堤さんが試写をご覧になる日はずっとドキドキ(髙橋)
──本作は、堤幸彦さんの作品に多く携わられてきた髙橋洋人さんの映画監督デビュー作です。堤さんは映画をご覧になっていかがでした?
堤幸彦 堂々と闘っている髙橋監督の姿勢に胸を打たれました。職業柄、「自分がこの脚本をもらって撮るとしたらどうするかな」と考えながら観てしまうのですが、私だったら妙なギャグを入れたりシュールな映像を入れたり、余計なことをしてしまうだろうなと。でもタイトル通りにドキドキできる作品になっていたし、ストレートな道筋をきちんと選択して真正面から切り込んでいったのは素晴らしい。一番正統な弟分で、長いこと私の現場に密着して一番そのセンスを知っているにもかかわらず、あえてそちらの方向を選ばないことに感動しました。私みたいに余計なことはしないほうがいいんですよ。
髙橋洋人 そんなことないです!(笑) 堤さんが試写をご覧になる日はずっとドキドキしていました。
──「キャストの情報や、髙橋監督が撮ったということも途中から忘れるくらいのめり込んだ」ともお話されていたそうですね。作り手にとってはうれしい感想なのでは?
髙橋 うれしい限りです。撮影現場には堤さんといつもご一緒されている堤組のスタッフもいらっしゃったので「少し遊びを入れたいね」と言いながらも、やっちゃいけない!と思いながら進めていました。
堤 正解です。時間が掛かるしね。
──(笑)。堤さんの現場で得た学びが生きた瞬間はあったのでしょうか。
髙橋 無意識にやっていたのは“完コピ”ですね。堤さんが原作ものを撮るときは完コピをしていたという刷り込みがあったので、僕もそれを前提にしていました。メインのお二人もマンガから出てきたような方ですし、原作に出てくる小道具やキャラクターが着ていたTシャツもお願いして作っていただきました。
すごい役者に成長する第一歩(堤)
──主演の浮所飛貴さんについても聞かせてください。ジャニーズJr.の1人としてかなり注目されている存在ではありますが、初めての映画で主演を務めるのは大抜擢だと感じました。実写化の企画自体は4年前から動いていたそうですね。
髙橋 僕自身も初めての映画の監督で、お話をいただけただけでもうれしかったのですが、まさか主演がジャニーズの方だとは思いませんでした。しかもまだデビューされていないジャニーズJr.の方だという情報をいただいて「そんな大事な作品の監督が僕でいいんですか?」という気持ちがありましたが、気が引き締まりました。
──浮所さんが主演を務めることについては、どんな期待を込めていましたか。
髙橋 お芝居の経験が少ないとは聞いていましたが、ジャニーズの皆さんは人前で何かをすることに長けている印象だったので不安はありませんでした。浮所くんは最初から台本を持たずにやっていましたし、この映画にちゃんとハマる存在になってくれるだろうと期待していました。
堤 (ジャニーズの皆さんは)勘がいいんだよね。演技が初めてと言われると「じゃあこっちも大目に見ようかな」と思ってしまいがちだけどとんでもない。ジャニーズはずーっと例外なく、みんなすごいですよ。
──なるほど。堤さんにとって浮所さんはどのような俳優に映りましたか?
堤 まずは同じ愛知県出身ということに共感を抱きます(笑)。ジャニーズの中にもいろいろなタイプがいますが、彼は確実に正統派。かっこいいけど放っておけない男の子という役どころをきちんと表現していたし、見ていてたまらない気持ちになりますね。この映画をステップにしていろんなチャンスを得ると、すごい役者に成長していくと思う。これまで「金田一少年の事件簿」の堂本剛くんとか「ピカ☆ンチ」の嵐とかいろんな方々と現場を経験させてもらいましたが、キラキラ光りながら堂々としたものになっていく第一歩を、この作品で改めて見られて感動しました。
髙橋 よかったです……。こんなに面と向かって褒められることはなかなかないです。
堤 いやあ、いいものはいいですよ。
──今回の映画は胸キュンシーンが大事な要素の1つですね。どれもとても丁寧に描かれていて、皆さんが本気で胸キュンに向き合っている印象がありました。堤さんは「忘れていたものを思い出した」とおっしゃっていたと聞きましたが、キュンとした場面についても伺いたいです。
堤 林間学校の炊事場で延々と芝居をするところですね。ほかのところではみんなが元気に動いているけど、あの場所は“2人だけの世界”みたいな独特な雰囲気があって。つかさが有馬の家のチャイムを鳴らして応答なく、外から呼んでも反応なく、大声で叫び続けてガラス戸を開けさせるシーンもよかった。私だったらあそこは、最初からガラスに石投げて割っちゃう(笑)。
髙橋 勉強になります!
堤 でもあれがいいんだよね。ストレートな胸キュンをやろうとしても照れくさくなってできない! (髙橋は)立派だと思う。
髙橋 堤さんが挙げてくださった、つかさが有馬くんの家の前で「やっぱり有馬のことが好き!」と叫ぶところは、つかさの思いが突っ走るこの映画を象徴するシーンなので個人的にも思い入れがあります。
ジャニーズの伝統は浮所くんにも受け継がれていた(髙橋)
──先ほどのお話にもありましたが、堤さんはジャニーズの方と作品をともにする機会が多いですね。現場でご一緒された際に、ジャニーズの魅力を感じた点はありますか?
堤 礼儀正しさと仕事に対する姿勢は立派ですね。みんなすごく真面目で、忙しいはずなのに台本をすべて覚えて準備をしてきます。私が仕事をしたジャニーズの方はみんなそうでしたから、これは代々の伝統だと思うんです。アイドルとして忙しい日々も送っているだろうし、ジャニーズJr.だと電車で来たり普通の市民としても生活している。アイドル、市民感覚、俳優としての真面目さを兼ね備えているのは稀有なことだと感じます。
髙橋 その伝統は浮所くんにも受け継がれていましたね。そういえば僕が学生時代に研修で来たオフィスクレッシェンド(制作プロダクション)での最初の現場が、堤さんが監督した「新・俺たちの旅 Ver.1999」だったんです。
堤 そんなに古いの!?
髙橋 Coming Century(V6の森田剛、三宅健、岡田准一)を砂丘で撮影する現場の手伝いに行きました。そのあとジャニーズの方がたくさん出演された「演技者。」という番組でメイキングを担当して、お芝居や合間の様子を見ることができましたが、皆さん本当に真剣でした。ジャニーズの伝統がちゃんと継承されて、真面目に成長されていっているんだなと思いますね。
──ちなみに、浮所さんと組むならこんな作品をやってみたいという監督視点での思いはありますか?
堤 ぜひ彼の力を借りて、名古屋の面白いところを発信したいですね。例えば、名古屋って結婚式と葬式は本当にちゃんとしているんですよ。若くして結婚を決意したけれど、彼は尾張、相手は三河。近いようで流儀がまったく違う“国”なんです。親同士も反発し合う中、なんとかして結婚式を行おうとするものの、その日におじいちゃんが亡くなってしまい……。葬式もまた流儀が違うから、そんな状況でドタバタする彼を見たい。もう1つは、コメダ珈琲の間だけ瞬間移動できる男。
髙橋 (笑)。名古屋もの、観たいです! 浮所くんはひたすら明るくて好青年だから正反対の役柄も見てみたいですね。